【コラム】日米の大学教育における起業家教育(アントレプレナーシップ)について(その3)

前回までのコラムでは、日米の大学における起業家(アントレプレナーシップ)教育の事例をご紹介してきました。
私自身、現在は東北被災地において起業家育成のプロジェクトに関わっており、若き挑戦者たちと話をする機会が多々ありますが、この「起業家精神」を身に着けることこそが、グローバルどころかまさにこれからの実社会を生き抜いていく上で欠かせないマインドセットであると実感しています。

実際のところ、起業家の輩出、「アントレプレナーシップ」を培わせるための取り組みは増々活性化されているようです。

経済産業省では、新規産業の創出、ベンチャー企業の創業・成長促進のための施策として、この起業家教育にも力を入れています。2009年5月には、「大学・大学院起業家教育推進ネットワーク」(*1)を設立し、起業家教育に既に携わっている大学関係者、自らの企業経験を次世代に伝えたい起業家たちを結びつけたネットワークを構築し、起業家教育の活性化を支援しています。

さらに文部科学省は、2014年より、「グローバルアントレプレナー育成促進事業(Enhancing Development of Global Entrepreneur Program)」(通称EDGEプログラム)と呼ばれる、大学等の研究開発成果を基にしたベンチャーの創業や、既存企業における新事業の創出を主導する人材の育成し、イノベーション創出を図るためのプログラムを展開しています。さらに2017年度からは、「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT:Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT generation)」と名前を変え、アントレプレナー教育やPBL型の教育手法を活用した、受講者が将来の産業構造の変革を起こす意欲を持つようになる、より実践的な内容を重視したプログラムを支援していくとしています。

ちなみに若年層に目を向けると、日本政策金融公庫では、2013年より、高校生向けのビジネスプラン・グランプリというコンテストを開催しています。その開催主旨は、「活力ある日本を創り、地域を活性化するためには、次世代を担う若者の力が必要です。実社会で求められる「自ら考え、行動する力」を養うことのできる起業教育を推進することを目的とする」となっています。(*3) このコンテストの意義深い点は、「ビジネスプランの作成」という行動を通じ、まさに起業家教育の根幹である「自ら考え、行動する力」を養い、さらにはアウトプットの機会が与えられるという点ではないでしょうか。コンテストでの勝ち負けは関係なく、日本の将来を担う高校生たちにはこのような場に積極的にチャレンジしていってほしいと強く願っています。

これまで全3回の掲載を通じて、起業家教育に関するテーマでお話してまいりました。大学はもちろん、行政や民間企業に至るまで、次世代育成に向けた「起業家教育」がいかに重要視されているかが十分にご理解いただけたかと思います。

これまで上げた事例が示すとおり、不確実性の高い現代社会では、そこを生き抜いていくための「起業家教育」が果たすべき役割は益々高まっていくことは明白です。起業家精神とは、未知の新しいことに果敢にチャレンジしていく姿勢そのものなわけですから。

最後に皆さんに、スタンフォード大学MBAの卒業生である、Phillip H. Knight(ナイキ創始者)の言葉を送って締めくくりたいと思います。これは、スタンフォードのキャンパス内にある庭石に掘り込まれている名言です。

“There comes a time in every life when the past recedes and the future opens. It’s that moment when you turn to face the unknown. Some will turn back to what they already know. Some will walk straight ahead into uncertainty. I can’t tell you which one is right. But I can tell you which one is more fun.”
-Phil Knight

既存の知識に頼ってやるもよし、不確実でも新たなことにチャレンジしていくもよし。でも言えることは、どちらがより楽しいかということだ、とは、アントレプレナーシップを語る上で、何とも胸に刺さる名言だと思いませんか!?

(*1) 大学・大学院起業家教育推進ネットワーク http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/edu.html
(*2) グローバルアントレプレナー育成促進事業 http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/edge/1346947.htm
(*3) 高校生ビジネスプラン・グランプリ https://www.jfc.go.jp/n/grandprix/