石川裕伊登のWilliam and Mary留学レポート

◇ 2018年5月 卒業

いよいよ5月号になりました…
この留学レポートも14年8月から始まって、これで通算45本目になります。4年間を振り返ると長かったような、あっという間のような…ただ、とても充実した時間をこのウィリアム・アンド・メアリー大学で過ごすことができたと強く感じています。
この5月号では、卒業式に関連したイベントを紹介した後、4年間の留学生活を振り返りたいと思います。


○卒業

a. 卒業規定
卒業するには、もちろん規定があります。
まずは履修単位数の要件です。合計で120単位とっている必要があります。また、高校時代のAPやIB、交換留学などで単位を持ち込む人も多いですが、最低でも60単位をウィリアム・アンド・メアリー大学でとっている必要があります。専攻以外の分野で72単位とっていることも条件です。
多くの学生が一番気にするのは、それぞれが選んだ専攻の要件を満たすべく授業を履修しているかどうか。副専攻（Minor）がある場合は、その要件を満たしていることも当然必要です。
そして、1年の時に紹介したようにリベラルアーツ教育を重視しているウィリアム・アンド・メアリー大学にはGeneral Education Requirements（GER）というものがあります。どの専攻だとしても外国語、自然科学、社会科学、歴史、哲学、芸術など幅広い分野から一つずつ、4年間で計画的に科目を取っていく必要があります。このカリキュラムは改定され、僕たちの学年が最後になるのですが、現在も似たようななシステムになっています。
上記の要件に年次に関するものは含まれていません。つまり、この卒業規定さえ満たしていればいつでも卒業できることになります。実際、3年間や3年半で卒業したり、逆に5年間にする場合もあったりと、それぞれが自分の計画のもと自由に大学生活をデザインすることができるわけです。

b. 卒業生対象のイベント
4年生になると、卒業に関するイベントが多く行われます。
まず、秋学期にはClass Ringの販売が行われました。これは、大学の卒業を記念した指輪のことで、すでに3年次から販売を開始し、4年の4月くらいまで事実上販売し続けていました。アメリカではメジャーな文化で、高校の卒業でも作るそうです。ウィリアム・アンド・メアリー大学の場合、大学の紋章や卒業年度（自分の場合はClass of 2018）、学位（BA, BS, BBAなど）が刻印されます。男女問わず普段からつけている人も多く見かけます。
また、Senior Portraitの撮影も行われます。これは、Yearbookとよばれる卒業アルバムに掲載されます。ウィリアム・アンド・メアリー大学のものは、The Colonial Echoというタイトルで、1899年から出版され続けています。卒業アルバムとは異なり、卒業生のみを対象としているのではなく、1年間の大学全体を写真でまとめているため、学生全員の様子を紹介しています。自分も高校の時に学校でYearbookの編集チームを立ち上げ、アメリカ式のものを作ったりしました。ちなみに、このSenior PortraitはYearbookのためだけではなく、ガウンや角帽を身に着けた写真を撮ってもらって卒業写真として購入することもできます。
春学期には、大学のキャンパスストアでGrad Fairというものも開催されました。卒業式で着なければならないRegaliaと呼ばれる正装であるガウンやフード、角帽などのセットを始め、Class RingやAnnouncementという卒業報告のためのレターセット、学位記を入れる額縁など様々な卒業に関連するグッズが売られていました。

c. Blowout
4月27日、いよいよ大学生活最後の授業日でした。毎学期の授業最終日のことをBlowoutと呼び、普段はまじめな学生もはっちゃける一日です。
卒業生にとって最後のBlowoutは特別で、全米最古の校舎であり大学の象徴であるWren Buildingの鐘を一人一人鳴らすことができる日なのです。そのため、Blowoutの日は一日中鐘の音がキャンパス中に鳴り響きます。
卒論のディフェンスの後、1年の時のルームメイトと一緒に鐘を鳴らすべくWren Buildingに行ったのですが、一人一人写真を撮ったりしながら順番で鳴らしていくので、結構並びます。あちこちに職員がたっていて、列を整理していました。
実際の鐘を鳴らすためのロープは建物の2階にあって、鐘を見ることはできません。音を鳴らすのも結構難しくて一所懸命とにかくロープを引っ張る感じです。鐘自体を見ることはできないので、あまり鳴らしている実感はありませんが、卒業生の伝統を経験し、いよいよ卒業するんだと感じた瞬間でした。

d. Commencement Weekend
卒業式は5月12日、13日の週末に行われるため、この週末はCommencement Weekendと呼ばれています。
期末試験が4月30日から5月9日にかけて行われ、教授は5月11日には卒業生の成績を確定させなければいけないので、かなり大変だと思います。大学によっては卒業式が期末試験から離れている場合もあるようで、例えば交換留学していた英国のセント・アンドリューズ大学は1か月以上後に卒業式が行われるそうです。
卒業式はたいてい家族総出で出席するので、木曜日や金曜日にはぞくぞくと大学に家族がやってきます。在校生が試験を終えて帰ったことで少しひっそりし始めていたキャンパスが、卒業生の家族が到着し始めたことで、再びにぎやかになってきました。自分自身も、卒業式に出席する両親を車で迎えるべく、木曜日にノーフォーク空港まで行ってきました。
卒業式の前日の11日夜には、Candlelight Ceremonyが行われました。卒業生がガウンと角帽を身につけ、Wren Buildingの前に集まります。学生代表や大学の総長であるロバート・ゲーツ元国防長官のスピーチがあり、イベントの最後には一人一人に配られたろうそくに火をともしました。翌日の卒業式に向けて学生一同が気持ちを一つにするセレモニーでした。

いよいよ卒業式は12日の朝から始まります。まずは、朝8時20分にWren Buildingに集合し、Senior Walkを始めます。Wren Buildingを通り抜け、キャンパスを練り歩きながらそれぞれ思い出を振り返ります。途中、Crim Dellという池にかかる橋を渡るのですが、この橋も大学のシンボルの一つで、在学中は渡れないという言い伝えがあって、このSenior Walk中に渡ることで正式に卒業することがキャンパスからも認められるというような伝統があります。
続けて9時から学部、大学院（含むロースクール、ビジネススクール等のプロフェッショナルスクール）を合わせた全学全体の卒業式が行われました。卒業生数千人に加え、家族総出で出席しているため、合計数万人が晴天の下フットボールスタジアムに集まる大規模なものです。昨年までは巨大な体育館で行われていたのですが、今年からより収容人数の多い屋外スタジアムに変更されました。学長、総長、バージニア州選出の連邦上院議員などのスピーチや表彰、名誉学位の授与などが行われ、2時間にわたって荘厳な雰囲気の中で式典が続きました。

土曜の午後や日曜日にかけては、専攻ごとの卒業式も行われます。こちらは、50近い専攻と修士課程、博士課程ごとにそれぞれ式典が行われるので、一人一人が壇上に上がるような式典になります。
国際関係学専攻の式典は、グローバルスタディーズ専攻と合同で土曜日の午後に行われました。ちなみに、多くの専攻の式典が日曜日に行われる中で土曜日に行われるのは稀です。以前少し紹介したと思うのですが、多くの専攻には教授とクラスが属する学科（department）が紐づいているのに対して、国際関係学はprogramであり、教授も政治学科、経済学科、社会学科、歴史学科などの学科に属しています。こうして国際関係学が複数の分野を横断的に扱う学問であることを強調したウィリアム・アンド・メアリー大学の姿勢が表れています。つまり、国際関係学を担当している教授が、自分の学科の卒業式と両方出席できるように、日にちをずらして開催しているわけです。
式典ではそれぞれの専攻のプログラム・ディレクター（いわゆる学科長）のスピーチから始まり、同窓生からのスピーチ、そして最後に一人一人に対して専攻の修了証が手渡されました。ちなみに、学年が1500人なのですが、国際関係学専攻は90人弱なので人気で人数の多い専攻の一つです。

大学のルールとして、学位記（Diploma）は日曜日にならないと受け取ることができません。そのため、土曜日に式典が行われる専攻に関しては、日曜日にDiploma Pickupという時間があるのでそこで受け取る形になります。ウィリアム・アンド・メアリー大学の場合、学位記はすべてラテン語で書かれています。学部の場合、学位はBachelor of Arts, Bachelor of Science, Bachelor of Business Administrationの3種類で、それぞれガウンの上に着けるフードの色が違ったりもします（BAは白、BSは黄色、BBAは黄土色）。
学位記には、そのほかにGPAによってLatin Honorsというのが記されています。4年間の累積GPAで3.50-3.64の場合はcum laude、3.65-3.79はmagna cum laude、3.80以上はsumma cum laudeとなります。学位記に記される以外にも、今後履歴書を書くときなど学歴のところに一緒に書く場合もあったりして、どれくらいのGPAで卒業したのか具体的な数字を書かなくても分かる仕組みになっています。ちなみに、4年生の1年間頑張った結果、僕もsumma cum laudeで卒業することができました。

日曜日の午後になると、各々の専攻の卒業式も終わり、徐々にキャンパスから人が減ってきます。家族ずれの学生も大荷物を車に乗せて、そのまま日曜日の午後に実家へと戻る場合が多いようです。最終的には月曜日の朝、寮の部屋を必ず空けるのがルールになっていて、これでウィリアム・アンド・メアリー大学のAcademic Year of 2017-2018が正式に幕を下ろすわけです。
僕自身も月曜日の朝、ウィリアムズバーグを離れ、シカゴで一泊した後に16日水曜日に日本に帰国しました。


○4年間の留学生活を振り返って

ここで、ウィリアム・アンド・メアリー大学を卒業した今、進学前に思い描いていたイメージと比べながらこの4年間を振り返ってみたいと思います。

改めてアメリカの大学、さらにウィリアム・アンド・メアリー大学に進学した理由を振り返ってみると、まずは世界中の「知」と「人」が集まるアメリカで学んでみたいという思いがありました。実際、バージニア州のみならず全米、世界中から集まる学生たちと、授業や寮、課外活動を通してともに過ごす中でいろいろな価値観を学ぶことができました。
また、中高のIB（国際バカロレア）時代から感じていたことですが、「英語」で学ぶことで得られる情報が格段に広がります。国際関係学や海洋学という、日本にとどまらない分野を学ぶ際に、世界中から最先端の情報に触れ、刺激を受けることがとにかく多かったように感じます。さらに、古典的作品や論文を原典で読むことで直に息づかいを感じることができるのも有意義でした。

他にも、国際関係学と海洋学という前代未聞の組み合わせを、専門的に突き詰められるリベラルアーツ教育の環境の中で、4年間学びたいというのも、進学した理由の大きな一つでした。今までこの留学レポートで何度も紹介してきたように、非常に充実した学びができました。大量に論文を読み、アカデミアやワシントンDCで活躍していた教授陣や将来のアメリカを担っていく学生から刺激を受ける日々はとても貴重だったと思います。また、海洋学でもフィールドワークや大学院の授業を通して専門的な学びを経験することができました。最終的には、卒論を通して自分なりにこの組み合わせに対して答えを出せたかなと思います。

この4年間の留学生活は、初めての長期にわたる海外生活であり、最初はわからないことだらけで孤軍奮闘する場面も多くありました。しかし、「素直に助けを求める」ことを意識して積極的に行動した結果、温かいウィリアム・アンド・メアリー大学の人たちに助けられ、たくさんのチャンスを得ることができました。
国際関係学と海洋学を両方最後までやり遂げられたことも、交換留学でスコットランドへ行けたことも、教授と二人三脚で卒論に取り組めたことも、積極的にコミュニケーションをとり、多くの人に助けられたからだと思います。
また、アメリカ人の友人とともに国際交流に関する学生団体を設立し、学内の20団体をまとめてイベントを運営できたのも人とのつながりの結果です。何気ない普段の両生活も多様なメンバーとの共同生活の中でも楽しい思い出がたくさんできました。アメリカでのコミュニケーションの取り方やリーダーシップの発揮の仕方など、4年間どっぷり過ごしたからこそ感じられる「アメリカで生きる勝手」が少しずつわかったような感じもしています。

こうした幅広い経験が積めたのも大学の持つリベラルアーツ教育の真髄だと思っています。温かい人たちと、田園的でアメリカの歴史が詰まったレンガ造りの校舎に囲まれたキャンパスを離れるのはとても名残惜しいです…
しかし、4年間ここで時間を過ごして、ウィリアム・アンド・メアリー大学の魅力を十分に全身で感じることができたかなとも思っています。

これからは、この4年間の経験をしっかりと活かし、社会人として生活していきたいです。
リベラルアーツの精神を忘れないためにも、多様な視点を大切にしながら常に新たな学びを求めていきたいです。
そのためにも、何事も真摯に誠実に取り組んでいきたいと思います！


○おわりに

4年間にわたるウィリアム・アンド・メアリー大学での学生生活とともに、この留学レポートの執筆もいよいよ卒業となりました。
時折更新が滞ってしまうこともありましたが、毎月毎月継続的に書き続け、最終的にはようやくやりとげるごとができて本当に良かったと思います。

みなさまにウィリアム・アンド・メアリー大学での生活や魅力をお伝えすべく書いてきましたが、それと同時に、自分にとっても留学生活を毎月振り返るとても大事な機会となっていました。
昔から「記録」することを大切にしてきた分、何気なく一日を過ごすわけにはいかない留学期間中、漠然と経験したこと、感じたことを、しっかりと言語化して書き残しておくことは貴重でした。いま昔の記事を読み返してみるとちょっと恥ずかしかったりしますが、当時考えていたことが思い起こされ、この留学レポートの重要性を感じます。
こうした機会をいただくことができたことに、改めて感謝したいと思います。
実は、留学中の日々の記録をつけるべく個人的にもブログを書いていました。
https://ameblo.jp/william-mary2018japan/
ぜひそちらもあわせてご覧ください。


最後になりますが、ここまで読んでくださっていたみなさまにも、この場を借りて感謝申し上げます！
アゴスでのイベント等で、「読んでます！」とおっしゃってくださる方も多く、執筆の力になりました。

僕自身は、6月から東京の金融機関で勤務予定です。
今後も、ぜひ機会があればウィリアム・アンド・メアリー大学の魅力をお伝えしていきたいと思います。加えて、ウィリアム・アンド・メアリー大学を目指す高校生が出てきてくれることを祈っています！！


今まで大変ありがとうございました！！
では！

◇ 2018年4月 集大成としての卒論

4月号です！
今月号では、Honors Thesisの最終ステップについて紹介した後、前回告知したとおり執筆を通して感じたこと、学んだことを中心に書いていきたいと思います。


○Oral Examination

4月中旬に最後の手直しをした後、卒論を提出しました。提出先は卒論のCommitteeと呼ばれる3人の教授です。このCommitteeのメンバーは、卒論を1年間担当してくれていたアドバイザーの担当教授の他に、研究テーマに関連した教授に秋学期の時点でお願いします。うち、一人は必ず違う学科の教授にお願いしなければいけません。
たとえば自分の場合、アドバイザーは国際政治経済学を専門とする政治学科の教授で、Committeeメンバーは安全保障を専門とする政治学科の教授と文化史を専門とする歴史学科の教授にお願いしました。2人とも2年生の時に履修したクラスを担当していた教授なので、知り合いで気軽に相談できる教授を選ぶようにしました。

提出後はCommitteeメンバーに論文を読んでもらう時間を2週間取り、Oral Examinationを行います。この口述試験は、3人の教授の前で卒論の内容を説明し、自分の研究内容に説得力があると「守る」ための試験なので、Defenseとも呼ばれている最後の関門です。
まず、15分ほどで研究内容の概要をプレゼンテーション形式で改めて紹介します。研究テーマを選んだきっかけ、先行研究の「穴」、自分の研究の意義などに焦点を当てることで、この論文の価値をアピールする形です。
それが終わると、質疑応答の時間が45分ほど続きます。3人の教授が一人ずつ順番に質問をして、しっかり自分の言葉で答えられるか・ディフェンスができているかを見られているわけです。研究の論理構成や、データ収集・分析が納得できる形で行われていたのか、などについて質問されました。

例えば、先月号で紹介したように、自分の研究内容は、シーパワー指数を用いた海賊の活動量の地域差を説明する定量的なパートと、歴史的な事例研究を通して活動量の時間差を説明する定性的なパートに明確に分かれているので、そこの連続性について指摘される場面がありました。確かにこの論文の中心的な主題である「海洋ガバナンスを確立する能力の有無」によってどちらも説明がつくように論理構成されているのですが、それぞれの研究で十分独立した内容になっているので実質は論文を2本書いているような形になっていました。ただ、「海賊」という安全保障上の問題の本質に迫るには、地域間・時代間の差、どちらも一貫した論理で説明している論文はかなり有意義なものだったと思います。教授もむしろ論文2本分書いた気概を認める意味での指摘でした。
あとはHegemonyという概念の解釈について、「攻められる」というよりディスカッションが起こりました。国際政治の歴史を振り返る上で、古代ローマやスペイン、英国、アメリカなど典型的な「覇権国家（Hegemon）」が確立された「状態」をHegemonyと呼ぶわけですが、歴史上では複数の国家が連合して共通の「敵」を圧倒し覇権を確立した状態が誕生したこともありました。そういった場合、はたしてHegemonyと呼べるのかどうか呼べないとしたらなんと表現すればいいのか、などに関して自分の意見が求められました。

全体的に振り返ると、このDefenseは「守る」というより教授とディスカッションをして新たなアプローチや視点を生み出すブレインストーミングみたいでした。
一番興味深かったのは、新たな仮説が生まれたシーンです。1995年から2015年までの間の海賊件数の増減について説明した際に、マラッカ海峡における発生件数がアジア通貨危機後に増えたこと、また世界全体の件数がリーマンショックから始まる金融危機後に増えたことを挙げました。そこに安全保障を専門にする教授がすごいくいついてくれて、話が盛り上がりました。
実際、多くの先行研究では「ビジネス」として海賊をとらえていて、ほかに合法的な雇用がなく、且つターゲットが多く存在する（貿易が活発である）場合に海賊を選択するという理論が多く見られます。それを歴史に応用すると、過去に経済危機が起こった際に該当地域で海賊が見られるのか研究するのもとても面白そうです。このように論文の内容を責められるというより、新たな発想がいろいろ生まれる時間でもありました。

こうして1時間に及ぶ口述試験の結果、3人の教授からHonors Thesis認定の署名をもらい、晴れて正式に論文がHonors Thesisとして承認されました。
この署名の写しを大学の研究活動を監督する部署に提出し、卒論執筆活動の完了です。
また、5月の第一週の間には大学図書館にPDFファイルを提出して、大学論文アーカイブに掲載してもらいます。数週間の手続きを経ると、正式に大学の論文として大学ページ上に発表されます。
（ちなみに、こちらに掲載されています：https://scholarworks.wm.edu/honorstheses/1161/）

すべてペーパーレスで進むので、論文を印刷して提出するという、物理的なステップはありません。そのため、長い1年間の卒論との戦いの終わりを示す明白な瞬間があったわけではないのですが、図書館内にある印刷所で個人的に（お金を払って）製本してもらったので、それを眺めると長かった道のりを思い起こします…


○Honors Thesis執筆を通して

1年間にわたる執筆活動を経験して、やはり大変だった分得るものは多かったかなと思うし、挑戦してよかったと本当に思います。

a. 表現力
まずは、23,000語の論文を書き続ける作業を通して、アカデミックな文章で内容を表現する力は格段に上がったと感じています。今までのようにライティング課題がでたら数日間でエッセーを書き上げるという短期的、突発的なものではなく、継続的に論文を書き続けることで文章をよりよく書くことが習慣になってきた部分があります。
単純な意味では、英語の文章力・文法も上がったと思います。実際に文章の上手い論文の表現を参考にしたり、アメリカ人の友達に文法をチェックしてもらったりして、量をこなすうちに上達してきた感があります。
ただ、それ以上に論文を書いてよかったなと思うのは、論理を構築する力が向上したという点です。まず第一に論理ががっちりと一貫性を持って論文が進んでいく必要があります。そのうえで、一つ一つ丁寧に論理を積み重ねていくことで、突飛な文章もなくゆっくり丁寧に読者を導く工夫が必要でした。それをするには、文章を書き始める前の準備段階でしっかりと構成を考えて、論理のフローを確認したうえで文章を起こすことを意識しました。
実際2年生のころに教授からよく「2つのことを同時にするな」と言われていました。というのも、文章を書くときに、文章を考えるだけでなく内容構成も同時に考えると注力すべき点がばらけて、いい文章が書けないからです。まず徹底的にアウトラインを作って構成を考え、丁寧な論理構築の説明ができる計画を完成させたうえで、タイプするときはそれに沿ってただただ文章を起こすことに集中する方が、ずっと良いというのがその教授の教えだったのです。

論文執筆で一番意識していたのは、常に各段落の最初の文であるトピックセンテンスを有効に使うことです。このトピックセンテンスでしっかりその段落の一番大事な主張を明示して、以降の文章で詳説することで、読んでいてわかりやすい文章を書くことを意識しました。
中高のIB時代から意識していたものの、大学に入ってから特に結論を最初に提示することの重要性を徹底的に叩き込まれてきたと思います。日本語だとあまり冒頭からいきなりドカンと主題をぶつけることはあまり主流ではありませんが、英語では冒頭にこの段落（もしくは章）の存在意義を読者にわかってもらうためにもはっきりと結論を示すことが大事です。逆に自分がリーディングをする際もほとんどの英語の文献がそういう構造を持っているので、時間がない時やななめ読みでいい時は各段落の最初の文だけ読んだりしていました。
その一方で、日本語以上に丁寧に一つ一つの論理をたどることが良しとされているのが英語の文献です。そのため、教科書とかだと日本語の3倍くらいの分量で丁寧に一歩一歩説明している気がします。担当教授にも秋の段階ではよくこれを指摘されました。「言わなくても分かるだろう」ではなく、慎重に論理をたどることでわかりやすく論理的に整理された論文を書くことができるわけです。

もう一つ論文の表現に関連したことで意識していたのは、いかに単純明快なものを作れるか、という点です。この点については以前紹介したことがあると思うのですが、研究の構造（仮説：独立変数と従属変数の関係性）や、Narrativeの構造など、すべてに当てはまるポイントだと思います。自分が立てた複雑な理論も余計な要素を取り除き、いかに単純明快なものへと昇華させられるのかというのは、この論文の根本的な課題であり、最も工夫して文章にすべき箇所です。また、事例研究として海賊の歴史について分析した部分では、詳しい歴史的事実を紹介しつつも大きな流れとして海洋ガバナンスとの関係性をできるだけ単純明快に説明することに注力しました。

そういった意味で、論文を執筆する際に表現方法を意識するのは、読者を思いやることなのかなと思います。いかにわかりやすく内容を伝えるか、このことを常に意識する中で、文章力・表現力を向上させることができたと感じています。

b. 教授とのかかわり
1年間、卒論担当の教授から様々なアドバイスをもらいながら書くことになるので、ある意味二人三脚で卒論に取り組む形になります。毎週アポを取ってミーティングをすることで、普通に授業を取っているだけでは実現できないレベルで教授と密接なかかわりを持つことができました。
毎週のミーティングでは、客観的なフィードバックやアドバイスをもらうことで研究の内容に磨きをかけることができます。秋学期の研究構成を考える時点では、自分が考えている計画が妥当かどうか、仮説が理にかなっているかどうかなどに対してフィードバックをもらい、また関連する文献やデータベースなどの面で大いにサポートしてもらいました。まずは、自分の考えている仮説をしっかり口頭で教授に説明して納得してもらえない限り、文章にしても意義のある論文にならないわけで、最初のステップとして教授とのミーティングは自分の考えに磨きをかけるとても大事な過程でした。
そして、それぞれの章で意識すべきポイントや表現の仕方などのアドバイスをもらいながら執筆を始めました。実際に論文を書き始めてからは各章ごとに書き上げたら読んでもらってフィードバックをもらうという流れを作って、文章の流れや説明がおかしいところなど、論理の「穴」を指摘してもらいながら推敲をつづけました。

ミーティングを行う際は、単純に卒論の話をするだけでなく、いろんな話をする機会もありました。教授は毎年国際政治経済学の授業を教えていますが（僕も昨年履修しました）、特に専門となるのは安全保障・国家戦略と貿易や経済の関連で、TPPやRCEPに関する本を書いていたり、最近では日米が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」や中国の「一帯一路」に焦点を当てた研究をしたりと、個人的に興味のある分野だったので教授からいろいろ話を聞かせてもらっていました。また、今後もインフラなどでこういう分野に携わっていきたいと思っているので、論文などをいろいろ紹介してもらっています。
また、5月の卒業式の前日には両親も大学に来ていたこともあって、教授が大学周辺の観光スポットを案内してくれました。教授も丸1日時間を取ってくださり、ゆっくりいろんな話が聞けたのも貴重な経験でした。1年間を通して教授にお世話になったことで、こうした密接な関係を築くことができたのだと感じています。こうした経験も、卒論をやったからこそ得たものです。


○おわりに：卒論＝4年間の総まとめ

卒論は本当の意味で4年間学んできたことを総動員させて行う活動でした。この大学で得た知識、スキル、人脈、すべてを活かしながら取り組むことで、自分自身のウィリアム・アンド・メアリー大学での学びを再確認するとても有意義な時間となりました。 知識面で言えば、この論文で使ったフレームワークの多くは1-3年生で学んだことであり、その時の授業のリーディングをいろいろ引っ張り出して参考文献にしたりもしました。また、3月号で触れたように、歴史や政治思想の授業で鍛えられた考え方を使って理論を構築し、文章を書いたりもしました。
スキル面では、上で触れたように文章を書く力は今までの授業で鍛えられてきたものの賜物です。また、海洋生物学の授業でひたすら使ったエクセルも、シーパワー指数を計算する際に再びひたすら使い、より要領よく使いこなせるようになったと思います。
人脈も同様です。Committeeメンバーの教授3人は以前教わった教授でたくさん相談に乗ってもらいました。それ以外の教授のところに行って意見をもらったりもしました。また、卒論を以前取り組んだ先輩や取り組んでいる同級生に話を聞いたりもしました。
こうして振り返ってみると、4年間の積み重ねによってはじめて形になったのがこの卒論なのだと改めて感じます。そうした意味でも、単純に学んだだけでなく、学んだことを応用して何か形に残すことができたのは非常に良かったです。

Honors Thesisは卒業するにあたって必須ではありません。やらねばいけないことの膨大さに気づき、なんでやることにしてしまったのか…と途方に暮れ、ほかの選択肢をうらやんだりすることが何度もありましたが、この挑戦を乗り越えた今、結果的にやることにして本当に良かったと感じています。
もう少し計画性を持ってやればよかったなど、方法に関する後悔はありますが、内容的には個人的に満足するものができたと思っているので、それだけで十分です。それに加えて、今月号で振り返ったようにこの執筆活動を通して得たことがたくさんあったのは、うれしい限りです。学生の最後に、アカデミアらしい研究する機会を得られたことをとてもありがたく思っています。

以上、Honors Thesis執筆を通して感じたこと、考えたことを振り返りました！
＊文中でも紹介しましたが、実際の論文はこちらで確認いただけます：https://scholarworks.wm.edu/honorstheses/1161/

5月号では「卒業」について書いていきたいと思います。

◇ 2018年3月 卒論執筆記録

3月号です！
2月号に引き続き、5月の更新となってしまい申し訳ありません…

Honors Thesis（卒論）は、4年生の1年間を振り返る際、一番大事な要素です。
むしろ、この1年間自分の頭の中に常に引っかかっていたもので、いろいろひらめいた！と一気に盛り上がったり、ただただ不安でどこから手を付けていいのかと呆然としたり、一喜一憂していたというか、振り回されていたというか…
今となってはいい思い出です…

昨年の11月号では、卒論に関して、夏休みからの構想の変化や今後の見通しなどを紹介しました。
今月号では、そこから最終的にどのような形でまとまったのかについて、話していきたいと思います。

ちなみに卒論のテーマについておさらいしておくと、海賊の活動量に地域差と時代差があることに着目し、国家に充実した海洋ガバナンス（統治）を確立する能力があるかどうかによってその差が生まれるという仮説のもと、研究を進めました。


○作業記録：1月―2月上旬

夏休み中にトピックを変えたこともあって、秋学期では主に研究の構成を考えることがメインで、実際の執筆やリサーチをぐいぐい進めるところまで行けませんでした。
10月までは、先行研究をまとめるために、「なぜ海賊が発生するのか」に関する論文を読み漁り、サマリーを書きました。これも、今までにどのような研究が行われていて、自分の論文がその議論にどのような形で貢献できるのかをまとめるLiterature Reviewとして卒論の一つの章になります。

既存の研究内容をしっかり理解した後は、自分がどういう「理論」を使って研究するか（どう差別化を図るか）が大事になってきます。ということで、冬休み前からは自分の理論を構築する段階に入りました。
まず、地域差に関しては現代の海賊について考えていきます。つまり、なぜインドネシアやソマリアにはたくさんの海賊事件が存在するのに、なぜほかの国では発生しないのかという問いです。
これに対して、僕は国家の海洋ガバナンスを確立する力（シーパワー・海上権力）の有無にかかっているというのが仮説なので、それに至る考えを論理的に説明します。
まず、「ガバナンス」とは何なのか？という政治理論的な部分から始まって、一つ一つ構築していきます。ガバナンスとは「統治のプロセス」のことです。つまり、（今回の場合）国家が海賊行動を戒める政策を立案し実行する仕組みが整っていればガバナンスが存在するということです。ガバナンス自体はプロセスつまり仕組みのことなので、国家にそうしたガバナンスを構築する「能力・素質（Capability）」があるのかどうかがこの研究において注目される部分になります。
こうした理論的なことを考えるのは、2月号で紹介したように概念を分解化し、丁寧に要素を取り出し考える作業が必要になります。そういった意味で、政治思想を学んだことは大いに活かされました。
シーパワーに関しては海軍・海洋戦略の重要な概念の一つなので、多くの文献が存在します。そうした文献を手掛かりに、国家のシーパワーを数値化するために必要な要素を整理した結果、地理的特徴、政府の統治機構、軍事力、経済力の様々なデータを総合して、独自の指標「シーパワー指数」を作りました。

もう一つのフォーカスが、なぜ特定の時代に海賊が繁栄するのかという点です。そうした時代間の差に関しては、国家レベルではなく国家間システムの中で考える必要があるので、国際関係学の理論が大いに活躍しました。実際、冬休みの間に1,2年生の時にとった授業のリーディングを引っ張り出し、使えそうな理論をいろいろ探してみました。
結果的に当てはめた理論は「覇権安定理論（Hegemonic Stability Theory）」です。つまり「覇権国（Hegemon）」が存在する場合、国際秩序は安定し紛争が起こりにくいという理論です。この理論を応用して、単独もしくは複数の国家がある海域に対して十分な海洋ガバナンスを構築する意欲と能力があれば海賊は消滅するという理論を作りました。つまり「意欲」も大事になってくるので、覇権国が他の問題に気を取られて忙しい場合（内陸部での反乱や国際紛争、経済危機）は海賊が発生しやすくなります。
こちらは、過去の海賊の歴史を使った事例研究になるので、定量的な分析ではなく歴史学の研究のような形になりました。
こうして、理論と実際の研究で行う方法論に関しての章を2月の前半で書き上げることができました。

正直1月の段階では漠然と「4月の中旬までに書き上げる」という意識しかなかったのですが、アドバイザーである卒論の担当教授と話している中で、3月の中旬には一度初稿を書き上げる目標を立てました。ところが、1月末から逆算すると8週間くらいしかなくて、毎週どんどん書いていかないと終わらないことに気づき、急に締め切りが現実味を帯びてきました。
今まで先のこととしか見ていなかった締め切りを、ちゃんと現実的に見直すと毎週のノルマを設定する必要があり、結構焦りました…でも、そのぶんやるべきことが明確になったこともあってスイッチが入った感じになりました。やっぱり逆算は大事です…


○作業記録：2月中旬―3月末

こうして自分の研究の理論が固まったところで、（ようやく）実際の実証作業が始まります。
地域差の部分では、まず数値化したシーパワー指数（各国のシーパワーを0から100にしています）に対して、121か国で1995年から2015年までに発生した5000件以上の海賊事件を紐づけて、グラフにしました。これによって、国家の統治能力と海賊件数の関係性を一目で見ることができます。
先行研究を振り返った結果、指数値が中央付近（50前後）の国家が一番海賊に狙われやすい、という仮説が立ちました。海賊は結局乗っ取った船や積み荷を闇市場で売らなければ利益にならないので、市場や運搬手段など「それなり」のインフラが必要になります。つまり、海賊が「ビジネス」として成り立つには「そこそこ」統治能力のある国家であることが必要な訳です。実際、グラフにしてみると発生件数の多い国の多くが指数の中位に位置する国（インドネシア、マレーシア、バングラデシュ、ブラジル、インド、フィリピン、ベトナムなど）でした。
その例外がソマリアやナイジェリアといった国です。これらの国で行われる海賊行為は他の地域のものと違って単純に身代金を取るスタイルが主流なため、例外的なものと考えられます。そして、もう一つポイントなのが、どんなシーパワー指数でも海賊が一切発生していない国があることです。そのため、単純にグラフが「逆U字」であるわけではありません。その辺が、今後の改善点になっていくと思います。
また、自分は統計分析に強くないので、回帰分析などは行っていません。そのためこの研究は単純にグラフにしただけ（Descriptive Statistics）で、正式な推測統計（Inferential Statistics）ではありません。ただ、121か国のシーパワーを指数化した例は今までに聞いたことがない上、海賊の発生件数との関係を可視化しただけでもとても意義のあることだと思います。

結果的に論文の分量の半分近くを占めたのが、時代差を分析した事例研究です。古代ローマやバイキング、カリブの海賊、近代地中海のイスラム海賊、倭寇などの歴史的事例を使って、いかに当時の覇権勢力（Hegemonic Power / Leading Powers）の衰退と確立が海賊の繁栄と消滅に影響を与えていたのか分析しました。
それぞれの時代の国際関係を詳説し、覇権の確立までの道のりとその過程でどのように海賊を掃討していくのか調べていくと、古代ローマから倭寇まで一貫した傾向が見られます。ただ、その中でも古代ローマのような単独覇者の場合と近代地中海のようにヨーロッパ諸国が力を合わせてイスラム海賊を消滅させる場合とではかなりプロセスの違いがあることも分かりました。
また、倭寇の場合は東アジア諸国がそれなりの外交関係を構築し対処にあたっていたものの（朝貢貿易など）、結果的に海賊を撲滅させるのはそれぞれの国の中で覇者が現れた場合（日本の場合は南北朝内乱を終わらせた足利義満や天下統一をした豊臣秀吉）であって、東アジアの海域全体を圧倒する覇者が現れた場合ではないという、「第三」の傾向が見られました。
やはり論文の中で、歴史的な流れを説明しながら覇権国家と海賊の関係性を描いていくのですが、そのなかでどれだけ論理的で一貫したNarrativeが構築できるかというのはとても大事なポイントです。ただただ出来事を並べていくだけでは理論の証明にはならないので、自分なりの軸を確立させてそれをもとに歴史を語る必要性を感じました。また、無数の歴史的事実の中から自分なりに大事な（Narrativeに一貫性を持たせられる）出来事を取捨選択し、流れを作っていくことも大事です。そうすることで、歴史の書き方もかなり楽になるし読み手にとってもわかりやすさが全然違う気がします。

こうした覇権国家と海賊の関係性や歴史上の海賊の事例から普遍性を見つけ出して理論を構築している例は今までほとんどなかったので、そういった意味でも、今回のテーマはかなり挑戦的であり、海賊に関する議論の中でも大きなプラスになる研究になったと思います。

こうして、3月末で無事にメインの証明の部分は完成させることができました。
先に触れたように、本来は3月中旬の完成を目標としていたのですが、やはり計画通りに行くことは難しく、押してしまいました…


○作業記録：4月上旬―中旬

（3月号ですが、構成上ここに書いてしまいます…）
メインが書き終わった後も、10月に書いていたLiterature Reviewの部分を大幅に書き直す作業が残っていました。論理的な一貫性がうまく作れていなかったり、あとは論文をたくさん紹介するのがこの章の目的なので、そのつなぎがうまくできていなかったりして、ほかの章との整合性が取れていませんでした。
そのため、もう一度自分なりに海賊の発生原因をまとめて、その流れに沿って先行研究を紹介することで、自分の理論が先行研究の延長線上に存在すること、先行研究でカバーできていなかった部分を研究していることを明確に示せるように意識しました。
結果、かなり流れのすっきりした章にすることができたと思います。

そこまでできたら後はConclusionである結章の執筆と、論文の冒頭に持ってくる摘要や謝辞で終わりです。この辺を4月の第2週に書き終えて、形を整えることができました。
結章は数ページにわたってこの論文で構築した理論や明らかになった事実などをもう一度整理しなおして、まとめとする章です。また、この研究の持つ意味や今後の可能性などについても触れていきます。その際、本来研究テーマとするはずだった北極海についても簡単に触れました。以前の号で書いたように北極海が解けてマラッカ海峡やソマリア沖、スエズ運河を通らないルートが実用化された場合、従来の航路を通る船の数が減ることで、海賊にとってもターゲットが減って結果的に海賊活動が経済的に利益を生まなくなる可能性があります。そうすると、世界全体の海賊発生件数が減ることもあり得ると思います。ただその一方で、北極海を通る船の数が増えるとシベリア沖などで海賊行為が起こる可能性もあります。それを防ぐには、この論文のメインテーマであった「海洋ガバナンス」をしっかり北極海でも構築することが不可欠であるといえます。
そういった形で、自分の論文が焦点当てていた考え方である「海洋ガバナンスを確立する能力」が、今後の海賊対策も含めた海洋安全保障政策全体を考えていくうえで大事なフレームワークになるのではと思っています。

最終的に、4月13日にすべて手直しをして担当教授とほか2人のThesis Committeeメンバーの教授へ提出することができました。最終的には90ページ、脚注も含めて23,000単語ほどの論文の完成です。


1年間をかけた大きな挑戦でしたが、何とか乗り越えることができてとてもほっとしています。
特に春学期は常に卒論のことを考えていて、毎日何かしら卒論の作業をしていたので、4月中旬で提出してしまった後は、なんだか心に大きな穴が開いてしまったような感覚さえありました。
本当に終えることができるのか、と常に不安でいっぱいでしたが、非常にいい経験ができたと思っています。
4月号ではそんな1年間の執筆生活の中で感じたことや学んだことなどを中心に振り返っていきたいと思います。

◇ 2018年2月 知識のインプットとアウトプット

長らく更新できずに申し訳ありませんでした…
すでに5月になり、期末試験週間に突入しています。
卒論も無事に終わり、ひと段落したので、これから続々と更新していければと思っています！

まず2月号では、今履修している授業を通して考えたことを書いてみたいと思います。
今学期に取っているGOVT305 Contemporary Political TheoryとHIST331 Modern Japanese Historyでは、多くのリーディングを通したインプットだけでなく、授業中のディスカッションや、エッセー課題など自分なりの解釈を求められ、アウトプットする機会が多くありました。
普段の学期では、リーディングが多くインプットする知識自体は多いのですが、エッセーも各クラス学期につき1､2本にとどまるので、なんだかんだ言ってそんなにアウトプットする機会が多くありません。
そんな中で、今学期はいつも以上にアウトプットする機会が多くありました。
そうしたインプットにとどまらない学びの流れで、より主体的にこうした「知識」と向き合うことができたと感じています。
また、そうした訓練は卒論にも大いに活かされました（卒論に関しては3月号以降で紹介します）。


○現代政治思想：概念を極限まで分解して筆者の考え方に迫る

1月号で紹介したように、現代政治思想のクラスでは、19世紀後半のトクヴィルから始まって、2000年代までの思想に関する文献をたくさん読むことで政治理論を学んでいきます。
自由、デモクラシー、道徳、労働、権力、正義、差別、植民地支配というような、近代政治思想が主に考えていた「国家と人民の関係性」にとどまらない幅広い問題に対応するために生まれた現代政治思想はどれも難しいものばかりですが、今の複雑な世の中を少しずつほぐしながら考える枠組みを与えてくれているような気がします。
このような「政治思想」のクラスは、徹底的に概念を要素に分解して、どういう意味なのか、どうあるべきなのか、というのを深く深く考えていく作業がメインになります。こうした流れは、社会科学的な政治学や国際関係学とは使う脳みそというかアプローチ方法が全く違うので、多様な考え方を養うとてもいい経験になりました。

このクラスは内容をインプットするだけではなく、学んだ知識をもとに積極的にとにかくアウトプットをしていく機会が多くあります。
毎回の授業は、Opening Reflectionと呼ばれる課題から始まります。
これは、リーディング課題として読んできた文献に関する質問2つに自分なりに答えを出して、改めて自分の理解や疑問点を確認する時間です。質問は、What does Tocqueville mean by the phrase “equality of conditions”? というような、思想の中心となる概念に関するものが多く、それを理解することが授業での学習の一番基礎になります。質問への答えはオンライン（Google Form）で教授に提出するので、これが授業に出席した証拠にもなります。
その回答が締め切られた後、Discussion Questionというものをそれぞれ発表します。これは毎日持ち回りで、リーディングに関する質問を考えてくるのですが、単純に疑問点を挙げるのではなく、みんなでディスカッションできるようなものを考えてこなければいけないので、現代社会や他の著者と比較したり、矛盾点を挙げたりするような質問が求められます。学期を通して3回順番が回ってきました。
こうしたものが授業の冒頭にルーティーンとして入ったあと、教授のリードの元ディスカッションが進められていきます。
ただ、話し合いといっても単純に感想や意見を言い合っていくわけではなく、まずは著者の考えや理論をじっくり振り返り、文献の意図や理論に登場する概念をしっかり学んでいきます。その際、教授からすべて伝達されるだけではなく、学生がどんどん答えていくことで、事前準備もしっかりしていこうというインセンティブになるわけです。
また、2人の対照的な主張を持つ著者の文献を読んできた場合（例えばキング牧師とマルコムX）は、クラスを半分に分けて、著者の主張をディベート形式で比較することもありました。この際、その場でどちらの意見を説明するか決められるので、ちゃんと両方の内容を理解しておかないと授業に参加できなくなってしまいます。
こうしたアウトプットをする機会をたくさん作ることによって、ちゃんとリーディングを流し読みしないで一つ一つ自分なりに理解できるような仕組みを作っているのだと思います。

このクラスはエッセー課題も多く、学期を通して4本書きました。
2本はPolitical Autobiographyといって、自分のアイデンティティの中に政治がどのように入っているかを考えながら、この学期で学んだ理論がどのように影響を与えたかも振り返りながら書くものでした。アメリカ人にとっては政党がアイデンティティの一つであるという話をよく聞きます。そのため、こうした課題は書きやすいのかなと思います。ただ理論を学んで終わり、ではなく実際に自分の世界観にどのように応用できるのか、という深いところまで掘り進めるのは知識と主体的にかかわる上でとても重要だと思いました。
他の2本はArgumentative Essayといって、与えられた論題に対して文献をじっくり洗いながら著者の主張を整理する課題です。例えば、僕が2本目で選んだのは、
Based on your reading of Marx’s “Economic and Philosophical Manuscripts of 1844,” explain and critically evaluate his thesis that under capitalism, the estrangement of labor entails the estrangement of human beings from their species-life and species-being. Your reconstruction, analysis, and criticism of Marx’s reasoning should be focused, specific, and based on evidence drawn from the text.
で、マルクスの『経済学・哲学草稿』の中の考え方を分析する課題でした。
「労働」とは何なのか、人間は「本来」どういう目的で労働をするべきなのか、なぜ「理想的」な労働から現実の労働は乖離してしまったのか、そういったマルクスの提示した概念を自分なりに咀嚼し、再構築することが求められる訳です。
こういうのは混とんとした政治的なものを色んな概念として抽出して、どんどん純度を上げていくと見えてくるもので、例えば「労働」って何なんだろう、「自然」とは何なんだろう、といった要素を逆算するかのように考えていく訓練になりました。
そうして一度バラバラに分解したものを、もう一度著者の目的と照らし合わせて、一貫性を持たせられるように論理を再構築していくのがエッセーの目的です。
こうした作業を通して、自分でも概念に対する答えを少しずつ導き出す力を養っていくことができたのかなと思います。

そういった意味で、本当にそれぞれの政治思想を理解するには自分で主体的に文献や概念と「関わり」を持つことなのかな、と思います。ディスカッションやエッセーという形でアウトプットをする機会が多かったことで、この授業ではそれが実現できました。
セント・アンドリューズ大学でのInternational Political Theoryの授業では、こうした政治思想と関わることが初めてで、かなり苦労しました。政治思想には政治思想なりのかかわり方というかマナーみたいなのがあって、それは経験を通してでないとわからないものなのかなと思ったりして、あらためて、今回の授業で割とすんなり取り組めたのはそういう経験があったからだと感じました。
「概念」を根本から振り返り理解することは、国際関係学の理論を構築する際は必ず必要となる部分です。そういった意味で、こうした政治思想を学ぶ経験は卒論で自分の理論を作り上げていく際に大いに活かされました。


○日本史：切り口を設定して歴史的事実の流れを整える

日本史の授業も同様で、大量のリーディングを通したインプットだけではなく、クラス内でのディスカッションやエッセー課題を通して、多くのアウトプットの機会がありました。特に、日本人としてディスカッションでしっかり貢献することを求められていたと思うので、より丁寧にインプットすることも意識していました。

歴史のライティングは、やっぱり国際関係学の他のクラスで書くエッセーとは割と違うのかなと感じていて、自分なりの切り口をきめたら、それを一貫して論理的に説明できるように歴史の流れを作って文章を書いていく力が必要だと思います。
日本史のクラスでは、学期を通して3つのShort Paperがありました。これは、4ページほどの短めなものなのですが、「徳川幕府の安定化をもたらしたものは何か」「1890年代の英字新聞を読んでその時代背景（条約改正）がどのように影響を与えているか」「なぜアメリカは投下を正当化しているのか」といった論題で、歴史学的なエッセーの書き方を身に着ける練習という位置づけでした。

そして、最後の学期末には総まとめのTerm Paperとして10-12ページのエッセーを書きます。これは、学期を通して学んだ日本史の内容（1600年以降）ならなんでも可ということで、自分で興味のあるトピックを選ぶことができます。
僕は Taisei Hokan and Tokugawa Yoshinobu’s Ambitionsと題し、徳川慶喜が大政奉還後も日本政治の中心にいたいという意欲について考えました。もともと、慶喜が将軍職を降りた後にどんな統治機構を考えていたのかとても興味があったので、文久・慶応の改革から始まり、大政奉還後の計画を記した一次資料（西周の『議題草案』など）を調べて書きました。
学生生活最後のエッセー課題ということで結構気合が入ってしまい、リサーチにすごい時間がかかってしまいました…西周の文献は慶応三年に幕臣として慶喜に提出したものなので、国会図書館のアーカイブを調べて、候文で書かれたものを使うのですが、だいたい意味が分かっても細かい部分を考えるためにちょっと候文の読み方を勉強して、あれよあれよとリサーチ範囲がどんどん広がってしまった感じです。

基本的に歴史のエッセーは、レポートのように単純に出来事を羅列して事実を「報告」するだけでは不十分です。議論を巻き起こすために、自分なりの解釈を打ち立ててその主張が論理的に成り立つことを証明するために、歴史上の出来事を使って説明するというイメージです。
今回のエッセーだと、いかに慶喜の「野望」が随所に現れているのかを、当時の幕末政治と絡めて書くので、実際の慶喜の行動や政策などを根拠として紹介しつつも、そういった情報の1ピース1ピースを理論を串としてつなげてまとまりのあるものにしていきます。
また、歴史にはたくさんの出来事が起こっていて、ただそれを列挙するだけではつながりもなく、大きな流れを紹介することはできません。そのため、自分なりのNarrativeを確立させてその流れに乗せて説明を考えると説得力のある歴史になります。例えば、幕末史を「公議政体論」の発展の歴史というNarrativeのもと、そこに焦点を当てて説明を作ると、大政奉還がその歴史の「終着点」という位置づけで話を進めることができます。こういった作業が大事になってくるんだと思います。

ただ逆に言えば、多くの歴史がこのように筆者の主張を軸としたNarrativeによって構築されているということも認識しなければいけなのかなと思います。だからこそ、歴史に「中立」は存在するのか、もしくはそもそも中立であるべきなのか、考えていく必要があります。リーディングで歴史に関する論文を読む際も、筆者の主張をしっかりつかんで、立場を考えながら読むことで、鵜呑みにすることを防げると思います。
ディスカッションやエッセー執筆など、自らが歴史を「語る」立場に立つことで、歴史がどのようにできているのか実感として得ることができるのもいい経験でした。


政治思想と歴史、それぞれまったく違うアプローチ方法がありました。
どちらも自分がもともと大学でメインに使っていた方法とは異なるものです。
ただ、そうしたそれぞれの学問分野に存在するアプローチ方法というか「作法」みたいなものを知るには、アウトプットの機会が欠かせません。インプットからアウトプットへの流れを通して、主体的に学問に携わる機会を多く持つことができて、学期を通して学んでいることを自分自身の糧として着実に取り込んでいけた実感があります。
また、幅広い学問に触れられるリベラルアーツだからこそ、こうした各分野独自の作法を知ることができた気がします。自分に合ったものを探しつつ、つねに柔軟な姿勢も忘れずに、様々なフレームワークを使い分けながら、世の中を考える力を身につけられた気がします。

そうした幅広い経験を統合させて4年間の学びの成果を示すのが卒論の執筆です。
3月号と4月号では執筆活動の記録やそこから得たものを振り返っておきたいと思います。

◇ 2018年1月 最終学期！

更新が遅くなり、申し訳ありません…
いよいよ最終学期が始まっています。
卒論も追いこみの時期に入っていて、とても忙しい毎日です。
ということで、今回は短めに今学期の授業を紹介していきたいと思います。

○授業紹介

a. GOVT305 Contemporary Political Theory
現代政治理論のクラスです。
3年の秋学期にセント・アンドリューズ大学で国際政治理論を学び、その時にホッブスやルソーといった近代政治思想を勉強したので、ほかの時代の政治思想も学んでみたいと思っていました。
19世紀のトクヴィルから始まって、ミル、マルクス、ニーチェ、フーコー、アーレント、ロールズなどの著作を読んで、「権力」や「政体」、「所属」などのテーマに焦点を当てて学んでいきます。
クラスのサイズは40人弱で、ディスカッションが重視されています。毎回の授業に向けて課せられるリーディング（原典を20-30ページほど）をもとに、その解釈や論理の賛否などに関して教授のリードのもとで幅広く議論をしていきます。リーディングの分量自体はそんなに多くないのですが、哲学的な内容が多く、自分なりに咀嚼したうえで授業に臨まないと授業中に発言できないので、しっかり時間をかけていつも準備しています。
政治思想は、普段学んでいる国際関係学とは世界を分析する視点が全く異なり、「世界がこうであるべき」という規範的な議論をしていくもので、人間社会や政治の根本を論理的に振り返る機会を与えてくれます。そういった意味で、社会科学の範疇で「なぜ」を問うアプローチをする国際関係学とこのような政治思想の両方を学ぶことでバランスの取れた考え方ができるようになれればと思っています。

b. HIST331 Modern Japanese History
日本史のクラスで、江戸時代以降の400年余りの日本の歴史を学んでいきます。
今までアメリカの大学に来て、いろいろなクラスで多くのことを学んできました。ただ、純粋に学んだ「知識」だけで考えると日本の大学に通ったり、本を読んだりすることで同じものを得ることができます。じゃあ日本で絶対に勉強できないことは何なのか、というと「日本の外から見る・学ぶ日本」だと思います。そんなことを考えて、この日本史のクラスを取ることにしました。
また、西洋の歴史とは根本的に構造が違う日本史は、日本の外で英語で説明してイメージしてもらうのが非常に難しいトピックでもあります。このクラスを取ることによって、英語で説明できるようになるだけでなく、相手にとって実感の伴う形で自国の歴史を多面的・多角的に説明できるようになりたいと思っています。
80分のクラスは前半のディスカッションと後半のレクチャーに分かれていて、教科書や論文だけでなく、英訳された一次資料も読み、それをもとに議論をしていきます。文献を通して事実を学ぶだけでなく、歴史の切り込み方や解釈が果たして妥当なのかどうか、というところまで話し合いながら理解を深めていきます。
やはり、多くの学生の注目が太平洋戦争にあるのはいろいろな議論の中から感じられて、江戸時代や明治について学ぶ時もどのようにして日本が構造的に、文化的にあの戦争につながっていったのかを意識していることが多いように感じます。もちろん歴史はつながりのあるものですが、ちょっと意識しすぎかなーと思ってしまう解釈もあったりします…
様々な視点から近代の日本について考えることができるのでとてもいい経験になりそうです！

c. ECON476 International Finance and Open Economy Macroeconomics
国際金融と開放経済のマクロ経済学を学んでいます。
このクラスは、先学期履修したECON475 International Trade Theoryと同様、国際関係学専攻の必修科目で、ECON475がミクロ経済学の理論を使って国際経済を見ていくものに対して、今回はマクロ経済学の理論を使って国際経済を見ていくクラスになります。
主に、為替や金利、物価などがそれぞれどのように影響を及ぼしながら経済が動いているのかという理論を学期の前半で学び、後半は世界の金融体制の変遷などを学んでいく予定です。今まで、中級マクロ理論や国際政治経済学でも学んできたトピックですが、改めて国際マクロ経済学を体系的に学んでいく学期になりそうです。
セント・アンドリューズ大学に留学していた1学期間を除いて、今まで4年間の合計7学期間で唯一毎学期履修していたのが経済のクラスです（ECON101, ECON102, ECON303, ECON304, ECON307, ECON475, ECON476）。政治学のクラスですら毎学期とっていたわけではないので驚きです。
一般的に国際関係学は国際政治と同義に使われることが多く、政治学のイメージが強いですが、ウィリアム・アンド・メアリー大学の国際関係学専攻が政治だけでなく経済も重視していることがわかります。

d. INRL496 Honors in International Relations
先学期同様、Honors Thesis（卒論）は3単位のクラスとして履修登録されます。
今学期は毎週のセミナーは今のところないのですが、学期の後半になると最終チェックという形で、一人一人の研究内容を簡単にプレゼンして、そのロジックの構築がうまくできているか、みんなで考えてみる時間を毎週30分間設けるそうです。
学校の規則として、4月の中旬までには必ず最終稿を完成させ、Committeeと呼ばれる3人の教授（担当アドバイザー1人＋教授2人）に読んでもらう時間を作ります。4月下旬から5月の頭にかけてCommitteeの3人の教授に対してOral Examinationという口述発表をします。これはディフェンスとも呼ばれていて、ここで最終的に論文の妥当性がチェックされ、卒論として認めてもらえるかが決まる流れになります。
とりあえずまずはいったん全部書き終えて、教授たちからフィードバックをもらって推敲する時間を取らなければいけないので、ちょうど3月前半までが一つの山場となっています。ということで、卒論の内容、近況などについては今後落ち着いたらまたアップデートしていきたいと思っています。


以上、短めですが1月号としたいと思います！
現代政治理論と日本史のクラスは、ディスカッションやエッセー課題などが多く、リーディングを通してインプットしたものを自分なりに解釈してアウトプットする機会がたくさんあります。そういった場面で考えたことなどもいろいろあるので、次回以降のレポートで紹介していければと思っています！

◇ 2017年12月 リベラルアーツからの応用力

12月号です！
ついに最後の秋学期も終わり、日本に帰ってきています。
次に期末試験を終えて日本に帰ってくるときは、卒業後のいわゆる本帰国ということになるので、この4年間の学生生活があっという間だったという気持ちと共に、少し寂しい思いがあります。
この冬休みは、学生の間で1か月間ゆっくりできる最後の機会になるので、卒業後の準備をしつつも、ちゃんとまずは卒業できるように卒論の作業も続けていきたいと思っています。

さて、今までは専攻である国際関係学に関して重点的に触れてきましたが、今月号では久しぶりに副専攻（Minor）である海洋学のクラスを通して考えたことについて書いていきたいと思います。また、そこから転じて大学教育の中でよく強調される「応用力・実践力」に関しても振り返りたいと思います。

○海洋酸性化セミナー

17年9月号の授業紹介で触れたように、今学期はMSCI398 Ocean Acidificationという少人数セミナーを履修していました。週1コマ80分で1単位のクラス、学生の数も12人くらいと小規模です。今まで海洋物理学と海洋生物学を学んできたので、海洋化学の知識も身につけるべくこの海洋酸性化に関するセミナーを履修することにした、という話もその時にしました。海洋学のカリキュラムでは1単位のセミナーが毎学期2〜3ずつ開講されています。過去には魚類、極地生態学、漁業マネジメント、海洋データ分析など、通常の3単位（海洋物理、化学、地質学、生物、水産など）のクラスでは深く掘り下げることのできない分野について、週1コマで気軽に学ぶことができるとても便利なシステムです。
このクラスでは、学期の前半に海洋酸性化の化学的なメカニズムを学んだあと、中盤から後半にかけては世界各地（チェサピーク湾、南極海、米西海岸、グレートバリアリーフなど）の海洋学的な特性が海洋酸性化にどのように影響しているか、海洋酸性化が生態系にどのように影響しているのかなどを、毎週課題として読んできた論文1，2本をもとにディスカッションをしてきました。
論文を読んで分析をしたうえで話し合うので、海洋酸性化のメカニズムがどのように説明されているか、研究対象は何なのか、建てられているロジックは理にかなっているかなど、ただただ論文の主張を鵜呑みにするのではなく、自分たちの知識を使って批判的に考えていくことに焦点が当てられていました。

○研究所の見学

授業は海洋酸性化に関する知識を習得することにとどまらず、そうした知識を応用していくことに焦点が当てられています。一つは、教室での論文分析やディスカッションから発展して、ウィリアム・アンド・メアリー大学の海洋大学院であるVirginia Institute of Marine Science (VIMS)を訪れ、実際に行われている研究施設を見学する機会です。このセミナー自体がVIMSのPhD生が担当しているので、本人の研究テーマをはじめ他のPhD生の研究内容についても知ることができました。
VIMSでは幅広い研究が行われていますが、海洋酸性化についても様々な側面から現状把握、今後の予測などに貢献すべく研究がなされています。セミナーを担当するPhD生は、海洋酸性化が及ぼす殻を持つ動物プランクトン（有殻翼足目）への影響に関する研究を行っているので、現在までの進捗や研究設備などを教えてくれました。他のPhD生は、海洋酸性化（海水中のCO2の増加、pHの低下）によって魚にどのような影響が出るのか、種によってどれくらい影響に差があるのか、といった研究をしているので、魚の入った大きな水槽をそれぞれ違うコンディションにしてデータ収集を行っています。もう一人は、バージニア州、メリーランド州、デラウェア州にまたがるチェサピーク湾の全域で海水のサンプリングを行い、海洋酸性化と富栄養化やそれに伴う無酸素状態、塩分濃度、温度などとの関連性を調べています。
ちなみにウィリアム・アンド・メアリー大学が現在は州立ということで（1693年当時は王立、独立後私立になり1906年に州立になりました）、VIMSでは行われた研究をベースとして、バージニア州政府に対して水産業に関するアドバイザリングも行っています。特に、チェサピーク湾の水産業はカキやカニなどとても有名な水産物に支えられているので、VIMSが果たしている役割は非常に大きいです。
このように大学附属の研究所を訪れることで、論文を通して学んだ内容を単に情報として身につけるだけでなく実際に行われた研究の内容として体で感じ取ることは非常に有意義でした。特に、この分野で研究をしている院生や教授から生の声として、自身が行っている研究、その背景にある想いや苦労など、熱い気持ちをじかに受け止めることができるのはとても貴重です。こうしたことに触れられるのも教えている側と学んでいる側との距離が近いことのいい点だと思います。
また、大学で海洋学副専攻を選んでいる学生の多くは大学院に進学して研究の道に進みます。そうすると、実際に研究所を見学したりPhD生から話を聞いたりすることはより重要なことになります。学部生の間にどんな活動をしていたのか、どんな研究の機会があるのか、そういったキャリアの話を身近に聞くことによって具体的な将来のイメージがつかめるのだと思います。

○政策提言

もう一つただ学ぶだけでなくそこから発展させた応用として、海洋酸性化に対応するための政策についても学んでいきました。そして11月に大きな課題として、各自で地域を一つ選び、その地域の海洋酸性化の現状や今行われている研究などを触れたうえで、政府が行っている政策や必要な施策などをまとめる、Policy Paperを書きました。
ちなみに自分は日本のサンゴ礁を選び、日本政府や沖縄県をはじめとした自治体がどのような政策を行っているのか調べたのですが、サンゴ礁は特に地球温暖化対策などでも注目されていることから結構調べやすかったです。海洋酸性化のモニタリングなども気象庁や環境賞をはじめとした機関が長期的に行っているようです。また、海洋生物に対する酸性化の影響も日本の色々な研究機関で研究されていて、積極的に英語で論文が発表されていました。
さらに、ペーパーを書いた後に3分間で概要を説明するElevator Pitchというスピーチも課題の一環として行いました。名前の由来は、エレベーターに乗っているような短時間に、例えば今回の課題の場合だと研究者が政治化に対して海洋酸性化の深刻さや今後取るべき政策などを簡潔に訴える、というところから来ています。エレベーターのなか、というのが由来なので口頭だけで相手に内容を印象付けるような工夫が必要です。
こうしたPolicy Paperというのは、よく政治学のクラスで課題として出ることが多いのですが（たいていPolicy Memo、政策提言という言い方をします）、まさか海洋学のクラスでも書くことになるとは思いませんでした。海洋酸性化というのは地球温暖化と同様に人間の産業活動によって増加した大気中のCO2濃度が原因であるため、海洋学に関する他の分野よりもさらに経済社会と密接に結びついています。そうしたことから、往々にして「科学」の領域にとどまってしまう海洋学という学問においても、研究が実社会とつながっていることを強く意識する必要性を伝えようとしているのかなと思いました。
さらに、Elevator Pitchという課題を通して、短時間でかつ効率的にメッセージを効果的に伝える力を求めています。これもエッセーなどライティング課題の少ない理系科目ではなかなか測られることの少ない力です。しかし、海洋酸性化という研究分野と実社会とのリンクを大切にするうえで、コミュニケーション力を鍛えるのも非常大事です。セミナー担当のPhD生がこのクラスのカリキュラムを設計していることから、自らの経験を通して必要だと感じた演習を多く取り入れているのだと思います。

○応用力：リベラルアーツで終わらない大学の教育

リベラルアーツ教育は一般的に様々な分野に触れ、学問にどっぷり浸かることで「知」を追求していくマインドセットや幅広い視点を持って物事を考えていく力などを養うことを目的としていると言われています。ただ知識を得るだけでなく、自分の力で分析をして問題を解決していく力を育てる、ということを考えると比較的漠然とした力が重視されています。その一方で、そんな力とは対をなすような「応用力」や「実践力」が大学教育の中で求められていることも事実です。
実際、大学で経営学やコンピューターサイエンスなどの分野が人気を集め、データ分析や政策研究など在学中の経験がそのまま就職の際にアピールできるようなものに多くの学生が興味を持って取り組んでいます。やはり卒業後を考えるとリベラルアーツ教育が行われているとはいえ、「実学」といえるようなすぐに活かせるような実践力を鍛えることが学生側のニーズとして存在し、大学側も積極的に提供しようとしています。
このように、本来のリベラルアーツ教育スタイルのイメージとして存在していた「実社会から離れ、学生間や教授とのやり取りを通して学問を究めていく」というようなものは見られなくなってきているのかもしれません。その一方で、「学んだことを他に活かす」という応用力は変わっていません。今回海洋酸性化のセミナーを通して紹介したように、ただ論文を読んで海洋酸性化のメカニズムや各地域の現状を学ぶだけでなく、そうした情報を活かして実社会とつながりを築く訓練が多く行われています。化学や生物学に限らず、経済や政治など全く異なる分野の考え方もあわせて政策を考える必要があります。これは、元来リベラルアーツ教育で大切にされてきたように、一つの物事をいろんな視点から見ることで新たな発見が生まれるということと一緒です。そう考えると、リベラルアーツの精神は持ちつつも純粋な解釈にとどまらず、より最近のニーズに合わせた形で大学の教育内容が変化してきたのでしょう。
Honors Thesisも実際に研究者になったつもりで学術論文を書くという訓練なので、卒業後にアカデミアに進む学生にとっては実践力が身につく経験として特に重要視されることの一つです。そんなことを考えていると、純粋なリベラルアーツの学びばかりを考えていた1、2年生のころから卒業が迫りつつある今の時期への変化を強く感じました。

以上で12月号とし、2017年最後の留学レポートとさせていただきたいと思います。
では！

◇ 2017年11月 Honors Thesis近況報告

11月号です！
すっかりウィリアムズバーグも冬になり、気温が一桁のことも多くなってきています。
また、今学期の授業もいよいよ終わりを迎え、12月の2週目からは期末試験が始まります。

そこで、今月号は今学期を通して続けてきた、Honors Thesis、卒業論文に関しての近況報告としたいと思います。

○トピック：「北極海」から「海賊」へ

まず、Honors Thesisとは今まで何度か紹介してきたように国際関係学専攻の卒業要件として課されているCapstone Experienceの一つで、その中でも本格的に論文執筆を行っていく選択肢です（Capstone Experienceの詳細に関しては17年3月号を参照してください）。通常アメリカの大学の場合1学期単位で授業が変わっていく中で、Honors Thesisの場合は1年間を通して研究論文を書き上げていきます。研究トピックは自分で設定し、アドバイザーの教授からの助けも借りながら卒業までの間にリサーチや研究を行って世の中に発表されているような学術論文と同じ形式の論文にまとめていきます。

その研究トピックですが、夏休みの間リサーチを続けて色々考えた結果、当初予定していたものから変更することにしました。3月、4月号で紹介した際には、「北極海」の国際関係に関する研究を行っていきたい、と紹介したのですが最終的には「海賊」について書くことにしました。
北極海は地球温暖化によって海氷が減少して船の航行が可能になると地政学的に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。そうした地政学的な変化の展望を調べていきたかったのですが、今までこのレポートでも紹介してきたように、あくまで国際関係学が属する社会学の研究の場合はすでに起こったことを従属変数（DV）としてそれが「なぜ」起こったのか調べるのが通常です（先月号でもそんな話をしました）。今後の予測は社会科学の研究というより政策研究になってしまい、Honors Thesisとしては不適合ということで、より分かりやすい研究デザインにする方法を考えてきました。4月号で紹介したように、北極海などの海域に関する「ガバナンス」に着目して、その違いが通商パターンにどう影響を与えているのか調べることで研究トピックとして成立したものの、ガバナンスや通商パターンをどう定量的、そして定性的に分析するのかという面で困難に直面していました。

こうしたことをずっと夏の間考えていて、現在起こっている海に関する国際政治的な事象にどんなものがあるのか、考えていた時に思いついたのが「海賊」です。最初に海賊について考えるようになったのは、17年8月号で紹介した「海洋安全保障シンポジウム」です。この時に、海賊問題がその海域の「海洋ガバナンス」の質を反映する従属変数として非常に有効であると感じました。そして、北極海に関する論文の一つに今後北極海の通航量が増えるとシベリア沿岸などに海賊が発生する可能性があると指摘されていたことを思いだし、現在の海賊と海洋ガバナンスの関係性について考えることで今後の北極海の海洋安全保障にも活かせるのではないか、というモチベーションで海賊問題に関して調べ始めることにしました。

○カリブ海では終わらない海賊問題

「海賊」というと、いわゆる髑髏マークの海賊旗（Jolly Roger）を掲げ、カリブ海を荒らす船乗りというイメージが非常に強く、なかなか現代の問題という感覚はないかと思います。それでも数年前に大きく世界的に注目されていたソマリア沖の海賊やマラッカ海峡の海賊など現在でも毎年200件以上の海賊事件が発生しています。こうした事件は海運の要衝となるポイントで起こることが多く、海賊問題は国際安全保障上、そして国際経済上、非常に重要な問題の一つでもあります。また、海賊に関してはInternational Maritime Bureau（IMB、国際海事局）が過去23年間に121か国でそれぞれ海賊事件が何件ずつ起こっているのかという統計を公開していてデータが豊富です。これをもとにして、現代の海賊と海洋ガバナンスの関係性について分析していく形になります。

○卒論の研究構成

海賊について研究する際、2つの「なぜ」が存在します。一つ目は「なぜ特定の地域に海賊が集中するのか」という地域間の差です。二つ目は「なぜ特定の時代に海賊が集中するのか」という時代間の差です。どちらも「海洋ガバナンス」の質によって海賊の発生量が決まるというのが自分のテーマになっています。

一つ目の「なぜ」に関しては多くの先行研究が存在します。論文の多くは個人レベルで見ているものと国家レベルで見ているものに分けられ、それぞれがお互いに影響しあっているというのが多くの論文の主張するところです。まず、一般的な犯罪と同じように海賊行為に至るには、個人レベルでの「機会費用」の選択が行われていると仮定できます。普通の仕事をするのと海賊などの犯罪、どちらの方がより収入を得ることができるのか、という選択です。海賊の場合、捕まったりするリスクはコストとして収入から差し引かれ、海賊以外の選択肢として存在する漁業や農業などでの収入の変動も判断に含まれます。そうした利益換算によって見込まれる利益が海賊のほうが多かった場合、人々は海賊になるという理論です。日本やアメリカなどの国で「普通」に生活をしている場合は、合法的な手段で収入を得られる手段がたくさんあるため、あえて海賊になろうと考えることはほとんど無いと思います。その一方で、ソマリアの漁師にとっては魚が獲れない以上、持っている船を使って海賊行為から収入を得るという選択肢が身近に存在すると考えられるわけです。
それに加えて、国家のガバナンス（統治）能力が大きく影響しているというのが国家レベルでの考え方です。警察能力が高ければ捕まるリスクが高くなり、海賊行為によって得られる利益が低くなり、海賊が起こりにくくなります。ただ、今までの論文では地上におけるガバナンスの質を世界銀行が発行するWorld Governance Indicatorなどの指標によって検証しているものが多く、国家が領海や周辺の海域に対してガバナンスを発揮する能力が勘案されている例はありませんでした。
そこで自分の研究では、「シーパワー（海上権力）」という海上戦略の考え方を応用して、領土を越えた国家の海洋ガバナンスの質を数値化して検証していきます。このシーパワーがいわゆる独立変数になり、IMBの海賊統計が従属変数になります。ちなみに、仮説としては単純な比例ではなく、「そこそこの」シーパワーのある国が一番海賊にとってのスイートスポットになると考えています。ソマリアは「失敗国家」とも言われ、現在無政府状態に近いと言われているので、ちょっと例外ですが（海賊の形態も他の地域とは違います）、それ以外で言うとインドネシア、バングラデシュ、インド、ナイジェリア、マレーシアといった国で海賊の発生件数が特に多いです。これは、海賊というある意味「ビジネス」を行うためには、ある程度のインフラが整備されていてビジネス環境が整っている必要があるからだと考えられます。このように、一つ目の「なぜ」は主にデータを使った定量分析になります。

二つ目の「なぜ」は、歴史を紐解きながら考えていこうと思っています。なぜある時期に海賊が増えて、別の時期に減るのかは、それぞれの時代に関しては歴史学の範疇で分析されていることは多いのですが、複数のケースを合わせた普遍的な分析はあまりされてきませんでした。そのため、先行研究が少なく研究のフレームワークを作るのもかなり難しいのですが、現状の仮説では国家間（特に大国）が覇権争いをしているときや、覇権を握っていた大国の力が衰える時に海賊や地域紛争、テロなどが増え、国際協調が進み国家が集中的に地域の安定化に乗り出す際に海賊が掃討されるという形を考えています。
一つ目の「なぜ」の部分では、一国家の海洋ガバナンスについてみますが、このセクションでは国際的な海洋ガバナンスを見ていきます。理論として、国際社会が他の問題に「忙しい」時に、海賊や地域紛争、テロが増えるという考え方も存在します。ローマ時代の地中海海賊から倭寇、カリブの海賊など今までの歴史の中で海賊が繁栄した5〜7のケースを選び、その成長と消滅の裏に国際海洋ガバナンスがどういう形で存在していたのか調べながら分析していきたいと思います。こちらはいわゆる事例研究という形で定性分析になります。

こうした二つの「なぜ」に答える研究を通して、最終的には北極海で今後海賊が発生する可能性はあるのかどうか北極海周辺の国家のシーパワーや国際的な海洋ガバナンスから考えてみたいとも思っています。

○まとめ：新たな価値を生み出す研究

夏から今学期にかけて、Honors Thesisの研究テーマをいろいろ調べ、構成を考える中で、改めて「何かを作りだすこととは」みたいなのを考えていました。
研究は今までの教育とは違って、自分で新しいことを発見して小さくても世の中の「知」に貢献していくことが求められています。そのため、芸術などと同じように創作活動でもあります。その際に大事なこともやっぱり芸術と同じなのかなと思いました。
いきなり突拍子もない例ですが、独創的な絵で有名なピカソも最初からあのような絵を描いていたわけではなく、やっぱり初めはデッサンや模写を通して既存のスタイルを基礎として学んだといいます。それと同じように、今までの各号でも紹介してきたように研究や論文にも既存のフレームワークやマナーみたいなものがあって、それに則って研究を行うのが基本です。
作品の読み手が内容を正確に受け取ってくれるように、相手にわかるような手順で研究をして、相手が展開を想像できるように論文を書いていく。それは一体どういう形なのか、それをするには自分の研究をどういうセットアップにしたらいいのか、今学期の前半はそんなことをずっと考えていました。
また、画家が美術史を学ぶような感覚で、発表された論文から過去の研究を学ぶことによってその研究分野に関する知識が増えるだけではなく、その分野の「穴」が分かってきます。それが見つけられると自分の研究がその穴をどのように埋め、分野に貢献できるのか考えることができます。この意識によって新たな価値を生み出す研究になるのだと感じています。

夏から海賊について調べ、たくさんの論文を読む中で、もともと興味のあったシーパワーがその現状の研究に足りない点を補えるのではないか、というひらめきがありました。そこから、アドバイザーの教授と自分の研究イメージを揉んで定量分析ができる形にし、また国際的な海洋ガバナンスについても見ることで時間軸から海賊問題を分析できることも分かりました。こうしたある意味「創作活動」は今学期の大部分を占めていたといってもいいと思います。通常の授業プラスαの活動であり、一気に進展するときと停滞する時期があったりしましたが、自分の4年の秋学期の中心に常にあったのがこのHonors Thesisでした。

実際の執筆活動に関しても、（本当はもっとハイペースでやらなければいけなかったのですが）少しずつ進めています。また、データ分析の進み方によっては今立ててある仮説や研究の構成が徐々に変わってくることも多いにあり得ると思います。
今後もちょくちょくこちらの留学レポートで紹介しつつ、自分にとっても活動の振り返りの時間としていきたいと思っています！
では！

◇ 2017年10月 4年間の大学生活

10月号です！
10月も終わりに近づき、ウィリアムズバーグもいよいよ秋が深まりつつあります。
気温も20度前後まで落ち着き、キャンパスも紅葉で全体的に黄色くなってきました。

さて、今月号では大学生活4年目を迎えた今だから感じることをまとめてみました。

○国際関係学という学問について

今までも、自分が専攻とする国際関係学という学問について何度か考えてきましたが、今回は卒論に取り組む際に考えた、国際関係学についてまとめてみたいと思います。

学問を自然科学（Natural Science）、社会科学（Social Science）、人文学（Humanities）という3分野に大きく分ける場合、国際関係学は政治学、経済学と共に社会科学に入ります。
つまり、「科学」である以上、いわゆる理科である自然科学と同じように因果関係を解き明かしていきます。ある現象に対して、まず何が起こったのか（What Happened）、そしてなぜ起こったのか（Why）について研究するわけです。その中でも、なぜ起こったのか、その因果関係（Causation）を見つけ、その関係性が特殊なものではなく、より広く他の状況にも適用される場合、それが普遍的な「理論」になります。これに関して、小学校での理科の実験も国際関係学の研究も同じです。

研究を考える際に重要なのが、まず現象がすでに起こっていることです。この現象が因果関係の従属変数（Dependent Variable, 以下DV）と呼ばれる部分になります。そして、その現象（DV）を引き起こした要素というのが、独立変数（Independent Variables, 以下IVs）になります。つまり、研究をデザインするときに最初にするのは、「DVの原因はこのIVsである」という仮説を立てることです。
そして研究において行うのは、実際に統計や事例研究を通してIVsがどれだけDVを引き起こしているか検証することになります。この時点で、複数の事例から重要な要素を抜き取って因果関係を調べているので、どんな事例でも同じ要素がそろっていれば同じ結果が得られるという、普遍性を持った「理論」が生み出されるわけです。

そうなると、国と国のやり取りについて学んでいく国際関係学の場合、過去・現在に国際社会で起こった現象がなぜ起こったのか検証することになるので、ある意味研究対象は「歴史」の中にあるということになります。
実際、授業で過去の戦争や条約締結に向けた交渉、国家間の貿易など、実際に起こったことについて学ぶことは欠かせません。
しかし、起こったことを説明しようとするなら、歴史学と同じになってしまうではないか。そういう疑問が湧いてきたのです。

ちょうど現在、ウィリアムズバーグ史の授業を取っていますが、そのクラスでリーディング課題として出されている論文やディスカッションの際に自分の中で違いが整理されました。

歴史学は、人文学（Humanities）の一つであり社会科学ではありません。アプローチの方法としては、設定された歴史的事実について、史料をもとに徹底的に事実関係を洗い出して行く形をとります。そのため、例えばウィリアムズバーグ史の授業では、当時の政治家の日記やレストランの在庫記録、法律や新聞記事などの一次資料を用いて、植民地時代のウィリアムズバーグについて学んでいくことが多いです。そうして資料を洗い出した結果、なぜ特定の出来事が起こったのかを説明しようとするのが歴史学における研究です。
論文に関しても、筆者独自の「切り口」があり、その切り口の正当性を証明すべく色々な根拠が並べられているわけです。そういった意味で、変数を用いて現象が起こった理由を説明していないので、普遍性も求められておらず、往々にして理論を構築するといった流れにはなりません。

それに対して、国際関係学や政治学などの社会科学では変数を用います。
変数を用いるということは、仮にIVが増えたら、DVも増える、というようなx軸とy軸のグラフのような関係性を描くことを目標としています。つまり、そのグラフの線上であったら、DV（現象）がどの状態であっても同じ因果関係が説明されるという、「理論」が構築されるわけです。
もちろん、根拠を示すためであったり、事例研究として詳細な歴史的事実を調べてまとめたりすることも少なくありません。しかし、そこからさらに普遍性を求めるという点で、科学は純粋に文献などの資料と向き合って分析する歴史学をはじめとした人文学とは大きく異なるのだと思います。

理論は世の中の現象を説明する道具であり、そういった理論を色々知っておくことで、世の中の「なぜ」を説明するフレームワークのバリエーションが増えて、様々な分析ができるようになります。そのため、国際関係学を勉強していると、一つ一つの国際問題や世界史を知識として暗記する機会はそんなに多くなくて、あくまで色々な場面で応用が利く理論をたくさん学んでいくことがとても多いです。もちろん何が根拠となってその理論が成立したのか、もしくは理論を応用して実際の事実を分析する際は、史実を知っておくことがとても大事になります。

大学にいると、それぞれの学問分野が扱っている内容が純粋に異なっているだけではなく、アプローチの仕方・世の中の見方が大きく違っていることを実感させられます。そういった違うアプローチがお互いを学ぶ上で役に立ち、広い視点から多角的に物事が見えるようになるのかなと思います。このような気付きを得たのは、4年間のリベラルアーツ教育を通して様々な学問を学ぶ機会を得たからこそだと感じています。

○大学とは…Trial and Errorの場

もう一点、今月号で考えたいのは、4年間の大学生活とはどういう存在なのか、という点です。
最近、個人的には大学とは4年かけて自分なりのスタイルを確立する「Trial and Errorの場」なのかなと思っています。

Trial and Errorというのは日本語にすると「試行錯誤」となりますが、いろんな方法を試してみて、最終的に自分にとって最善の手法を見つけるということで、大学という社会に出る前の大事な4年間でできるだけ多くの側面でこれを達成しておくことが大事なのかなと思います。

例えば勉強面。高校までは学校の先生が比較的レールを敷いてくれて、効果的な勉強の方法を教えてくれたり、定期的に宿題やテストを出したりすることで、ある意味しっかり管理してくれていたと思います。それに対して、大学では完全に個人戦です。日々の講義やディスカッションからどうやって予習・復習すれば一番知識を身につけられるのか、どういう準備をしてどういう形でエッセーを書けば一番うまくいくのか、そういうことを常に考えながら自分を使って実験を繰り返します。
膨大な量の課題や知識量をうまく処理して、最終的に成績という形で結果を出す、というのは自分の力で試行錯誤しながら確立していく必要があります。人それぞれベストな方法は違うわけで、教授や友達に言われたやり方を盲目的にまねしているだけでは確立できません。GPAなどの高い成績をキープしたい、というようなプレッシャーはあるものの、逆に大学の4年間は自分にとってベストなスタイルが見つけられるまで失敗を恐れずに試行錯誤する時間なのかなと思います。もちろん周りの人の助けも借りながら、泥臭くチャレンジしていくことも大事です。

これは生活面でも一緒です。寮生活という、24時間周りに他人がいる環境で学生生活を送っている中で、いろんなことが分かってきます。また、自分のことはすべて自分でやらなければいけないので、自己管理という面でもどうやったら一番効率的に出来るのか、洗濯などの小さなことからたくさん試行錯誤を繰り返して自分なりのスタイルを確立させていく時間になります。

こうした、日々成長意識を持ち続けながら生活をすることで、4年間という長くて短い学生生活を有意義に過ごし、自分という人間についてもより良く知ることができるのかなと思いました。
そういう意味で、大学とは「Trial and Errorの場」と表現したいと思います。


以上、大学でも4年生になり、この4年間の学生生活を通して感じたことをまとめてみました。
次回では、いよいよ詳細が確定しつつあるHonors Thesis、卒論について詳しく紹介していきたいと思っています。

では！

◇ 2017年9月 いよいよ最終学年

9月号です！
いよいよ最終学年が始まり、アメリカの大学での生活も残すところ1年を切ったと思うと、一日一日を有意義に過ごさねば、と思う日々です…
さて、今月号では毎学期恒例の授業紹介を行っていきたいと思います。

○授業紹介

a．MSCI401D Fundamentals of Marine Science: Biological Oceanography
海洋生物学の授業です。 海洋生物学は、名前の通り海の生物や生態系について学んでいくのですが、魚やイルカ、というような一般的なイメージにある海の生物よりも、植物プランクトンや動物プランクトンなどについて重点的に学びます。そうした、海の生き物を生態系で根本から支える部分に着目することで、結果的に海洋生物全般について広く知ることができます。

この授業は、先学期履修した海洋物理学の授業と同様に、ウィリアム・アンド・メアリー大学の海洋学大学院、VIMS (Virginia Institute of Marine Science)の基礎科目（MSCI501D）でもあるので、テレビ会議システムで大学院生のいるVIMSキャンパスと学部生のいる本キャンパスを繋ぎ、授業が行われます。
教授は基本的にはVIMSキャンパスにいるので、普段は自分の専門である植物プランクトンなどについて大学院生に教えたり、研究を行ったりしています。ただ、このクラスに関しては週二回の講義のうち、教授は一回をVIMSキャンパスで教えますが、もう一回は本キャンパスで教えているので、大学院生と学部生を平等に扱ってくれています。
また、毎週もう一時間はRecitationという学部生のみのコマが存在して、この時間では博士課程のTAがファシリテーションをしながら一週間で学んだことの復習をしていきます。授業内ではさらにディスカッションベースでお互いに分からないことを解決して、次の週に備えます。やはり、大学院レベルのクラスなので、学ぶ知識量が非常に多いです。教授の話す膨大な情報量から、何が大事で、何を覚えておくべきなのかを整理して、試験の準備をしていくのも、このRecitationの重要な役割の一つです。

もともと中学生の時に海外の大学へ行きたいと思った最初の動機が、海洋生物学に関する知識を世界中から英語で得たい、というものだったので、実際今それが実現でき、とても感慨深いです。
特に、VIMSというアメリカでも有名な海洋学研究所で大学院レベルの内容が学べているのは、素晴らしい環境だと改めて思います。 結果的には国際関係学を専攻にしたので、もともと昔考えていたほど大学で生物学の勉強をしたわけでもなく、周りの学生の生物学の知識に圧倒されて毎日苦戦中ですが、自分なりに海洋生物学をしっかり学んでいきたいと思っています。

b．MSCI398 Ocean Acidification
海洋酸性化について学ぶ、週1回80分で1単位のセミナーです。海洋物理学、海洋生物学と来て、海に関する化学も勉強したい！と思ったのがきっかけでこのクラスを取ることにしました。
海洋酸性化というのは、その名の通り海中のpHが下がり海水が酸性に近づくことで、炭酸カルシウムを多く含むサンゴや貝殻などが融ける、若しくは成長しにくくなってしまう現象です。 “Other CO2 problem” とも言われていて、産業活動によって大気中の二酸化炭素濃度が増えると、その分海中にも二酸化炭素が融け込み、それが水と反応すると海水中の水素イオンが増加して、より酸性化が進むというメカニズムになっています。
大気中の二酸化炭素濃度が増えて地球温暖化が引き起こされる、という事実は広く世の中にも浸透していますが、海が酸性化するという話はあまり広く知られていません。自分も高校生の時に初めて知ったのですが、とても衝撃的でした。サンゴや貝など人間社会の生活とも密着している生物が大きな影響を受けるこの現象について、しっかり学んでいくのは海洋学を学ぶ者としてとても重要な気がします。

博士課程最終学年の人が教えるセミナーで、学生の数も10人程度の小さなクラスなので、一人一人がディスカッションに積極的に参加していくことが求められています。学期の最初のほうでは海洋酸性化のメカニズムなど、化学をしっかり学びましたが、学期の多くは様々な論文や記事を通して、世界各地のケースをディスカッションベースで学んでいく形になります。
特にこのクラスの面白いところは、化学を専攻している人だけでなく、生物学や地学などを専攻している学生が多く、それぞれの専門で学んだ色々な視点からディスカッションができるところです。国際関係学のような文系科目を専攻にしている学生は自分以外いないので、海洋生物学のクラス同様、理系の知識面では自分にディスアドバンテージがありますが、自分なりに発信できる視点を見つけて、ディスカッションにしっかり参加していきたいと思います。

c．ECON475 International Trade Theory
国際貿易理論の授業です。
国際関係学専攻では必修の授業なので、周りも以前何度か同じ国際関係学関連の授業を取ったことがある4年生が多いです。
国際貿易理論は、簡単に言うと国と国はなぜ貿易するのか、貿易することによって得られるものは何なのか、損することはあるのか、といったことを学んでいきます。先学期の国際政治経済学の授業でも貿易理論について基礎的な部分は学びましたが、この授業は経済学科のクラスなので、ミクロ経済学がベースになっていて、数式なども使って理論を学んでいきます。

学期を通して、様々な貿易理論を一つ一つ学んでいくわけなのですが、個人的には理論を学ぶことがとても好きです。理論には、実際の世の中を正確に説明できるような完璧なものは存在しないし、誰もが認める絶対的に普遍的な価値を持つものも存在しないのですが、世の中を見る・説明する一つの「フレームワーク」としてとても重要な役割を果たしています。
国際関係学では、リアリズム、リベラリズムなどといった国際関係理論をはじめとした、様々な理論をたくさん学び、「なぜ国家はこのように行動するのか」「なぜ戦争は起こるのか」などといったような問いに挑戦していきます。現在起こっている国際問題も理論を使うことでより深く理解することができるし、将来に関しても多少予測ができるようになります。そういった意味で、多くの場面に当てはめることのできる普遍的な理論を知っていることは、広く世の中を把握する力になります。
貿易理論についても似ていて、普遍性を持つために様々な前提を置いてシンプルにしていることが、特に経済学の理論のため多いです。一番最初に習う基礎的な理論であるリカード理論は、「2か国が2つの財のみを生産していて、それぞれの比較優位に基づいて貿易をする」という現実とはある意味程遠い設定の理論です。ただ、こうした理論によって、なぜ貿易することが理にかなっているのか、双方の利益になるのか、という問いには答えることができます。あえてシンプルにすることで、重要な要素だけを抜き出し、丁寧に説明ができるようになるわけです。
このように、ただただ情報を学ぶだけでなく、理論を学ぶことで、色々な場面に応用ができて自分なりに分析する際のフレームワークが増やし、世の中を見る力を身につけられるところが好きです。

d．GOVT330 Politics of European Integration
欧州統合の政治について学ぶクラスなので、主にEUに関連したことを学んでいきます。
オランダ人の教授のもと、30人くらいが履修しているので、いわゆる一般的な政治学のクラスのサイズです。
このクラスでは、まず3週間くらいかけて第二次世界大戦後の欧州統合の歴史を学びました。戦後復興から欧州石炭鉄鋼共同体、欧州経済共同体、欧州共同体を経て、最終的に欧州連合が誕生し、単一通貨ユーロが流通するまで、欧州各国の中でそれぞれの主権や逆に統合への思い入れなど、様々な思惑が交錯して、紆余曲折した様子を詳しく学ぶことができました。
やっぱり、そこで思うのはヨーロッパ内の歴史的・文化的な紐帯です。長い長い歴史の中でお互いの国々がお互いと関わり合うことが当たり前で、お互いの特性もよくわかっているし交渉や駆け引きにとても慣れているんだなと痛感しました。ただその一方で、ニュースとかを見ているとEU加盟国が増えていくことに対して純粋に「いいことだ」という印象しか持たなかったものが、その裏で加盟する上で途方もない努力があったり、経済格差を埋めるのがとても大きな問題になっていたり、EUに入ることは金融政策を失うことであり、とても経済的にも大きな意味を持つことであったり、いろんな事情も知ることができました。

今は、このクラスでも理論を学んでいます。FunctionalismやIntergovernmentalism、Constructivismというような理論を使って、欧州を政治的にも経済的にも統合していくことにどんな意味があるのか、説明できるようになる予定です。また学期の後半では、EUの諸機関や政策、そして今ホットなBrexitについても学んでいきます。
ヨーロッパでこれを学ぶのではなく、あえてアメリカで「外から」見た欧州政治、アメリカ人が考える欧州統合について、客観的に知れる機会となりそうなので楽しみにしています。

e．HIST220 Williamsburg in Colonial and Revolutionary Era
17世紀の植民地時代から独立戦争時代までのウィリアムズバーグについて学ぶ歴史のクラスです。
このクラスに関しては、「聴講（Audit）」という形で取るので、リーディングや課題、試験には取り組まず、純粋に授業にだけ出て講義を聞くスタイルにしています。実は1年生のころからこのクラスのことは知っていて、いつか取りたいとずっと思っていたのですが、正規の成績のつくクラスとして履修するには他との兼ね合いから負担が大きすぎるので、気楽な聴講という形を取ることしました。

4年間自分が暮らしているこのウィリアムズバーグという町の歴史について、せっかくならもっと学んでみたいと思ったのが、興味を持った動機です。
特に独立戦争時代、ウィリアムズバーグは英領北アメリカ最古の植民地であるバージニア植民地の首都でもあったため、当時はアメリカの政治的中心地でした。また、大学の隣には独立戦争当時の街並みを再現したコロニアル・ウィリアムズバーグがあって、実際に専門家から「現場」で話を聞くことができます。

例えば、この間の授業ではコロニアル・ウィリアムズバーグの中心部にある、Bruton Parish Churchという教会へ行って、専門家から詳しく話を聞くことができました。
この教会は、ウィリアムズバーグに大学が創立され、植民地の首都になったことに大きく関係しています。当時はウィリアムズバーグではなくMiddle Plantationと呼ばれていたこの地区を統括するための教会として1674年に作られ、約10年後には恒久的な意味合いも込めてレンガ造りの教会に建て替えられました。当時珍しかったレンガ造りの大規模な教会があったことから、このMiddle Plantationの重要性が増し、1693年にバージニア植民地として初、北アメリカでは2番目の大学が設立されました。そして、ウィリアムズバーグは立派な教会と大学があって、植民地の首都としてふさわしいと認められ、1699年に英領北アメリカで最初の植民地であるジェームスタウンからウィリアムズバーグへ首都が移されました。
この授業で、なぜこの地に大学ができたのか、なぜジェームスタウンから首都を移転する際にウィリアムズバーグが選ばれたのか、というような理由を知ることができて、非常に有意義でした。

やはり、ウィリアム・アンド・メアリー大学で勉強している醍醐味の一つは、アメリカ発祥の地にいるという事実です。実際キャンパス内で考古学調査が行われていたこともありますし、コロニアル・ウィリアムズバーグへ足を延ばせば、アメリカ建国の雰囲気を体で感じることができます。
さらに、こうしてこの大学ならではのクラスであるウィリアムズバーグの歴史を履修することで、よりアメリカの歴史を身近に感じることができました。

f．JAPN101 Elementary Japanese I（JAPN412 Teaching Practicum）
今学期も日本語のクラスのTAをしています。
今回は2015年の秋学期と同じく、日本語101のクラスです。本当に日本語を一から学んでいくクラスなので、大変ではありますが、逆にとても楽しいです。特に、TAは基本的に日本語で授業を進めていくことで日本語を聞く機会を最大限増やすことを目指しているので、学生たちの表情の固まり具合がすごいです。最初のクラスはまだ日本語を習い始めて3日目だったので、みんなのパニック状態を見るのがちょっと楽しかったりします。
もちろん、しっかり内容を理解してもらうことが大事なので、英語も使って詳細を説明したりしますが、やはり言語を学ぶのは非常に大変なことであると、改めて痛感します。自分の1年次のフランス語のクラスを思い出します…
毎回TAを担当すると思いますが、毎年多くの学生が日本語に興味を持って、挑戦してくれるのはとても嬉しいことです。101は日本語学習の導入部分なので、しっかり楽しんでもらえるように工夫していきたいと思っています。

g．INRL495 Honors in International Relation
今までこの留学レポートでも紹介してきたとおり、Honors Thesis（卒論）の準備を行ってきましたが、正式に大学側でも登録されました！
卒論は、このINRL495として3単位の授業に登録されるので、各学期末に成績もつきます。また、その授業の一環としてセミナーが毎週30分間行われます。

このセミナーは、政治学科、国際関係学科、公共政策学科の3学科合同で行われます。Honors Thesisを行う3専攻の学生が集まり、改めて学術論文を書くというのはどういうことなのか、また執筆中の悩み何度を自由にディスカッションしながら解決していくのが目的です。 ただ、3学科合同なのにもかかわらず、学生は12人しかいません。政治学専攻と国際関係学専攻が半々で公共政策専攻はいなさそうです。この3つのどれかを専攻にしている4年生は少なくとも200人くらいはいると思うので、実際にHonors Thesisに挑戦するのがいかに少人数なのかが分かります。

一応この授業でも論文の書き方に関する本がリーディング課題として出ているので、改めて方法論みたいなのをしっかり学びつつ各自の研究を続けます。
また、成績がつくのでいくつか提出物もあります。これは、実際のHonors Thesisに向けたもので、今学期の後半になってくると、いよいよ論文の序章やLiterature Review（先行研究に関するレビュー）など論文本体を提出物として締め切りまでに完成させなければいけません。それぞれ個人でスケジュールはあると思うのですが、最低限この時期までには終わっているように、というメッセージになっています。
Honors Thesisは基本的に自分とアドバイザーの教授だけの孤独な戦いであり、こういうセミナーがないと、お互い同じ戦いに挑んでいる仲間と顔を合わせることもないので、この機会は非常に大事になります。


以上、恒例の授業紹介でした！
こうして振り返ってみると、今学期は今まで以上に10人程度の少人数のクラスが多くなりました。いよいよ最終学年として専門性の高い授業が多いのだなと痛感します。
また、今年は単に授業を取るだけでなく、自ら課題を設定し研究を行う、Honors Thesisも行っています。単に課題を与えられるだけでなく、自分で計画を立てて行うのが、今までの学生生活と大きく異なる点です。
4年間、ウィリアム・アンド・メアリー大学で学んでいることをしっかり「自分なり」に形として残せるように、最後の1年間も頑張っていきたいと思います。

では！

◇ 2017年8月 最後の夏休み

8月号です！
いよいよ8月28日に日本を出発し、人生最後の長い夏休みが終わってしまいました…
就活に始まり、それが終わった後は割とのんびりと過ごした（過ごしてしまった）夏休みとなりましたが、その中でも色々な貴重な経験をすることができました。
今月号では、そんな経験を振り返ってみたいと思います。

○スイミングスクールのコーチ
実は、近くのスポーツジムに通って運動することを毎年夏休みの恒例としていました。実家から自転車で5分のところにある本当に近所のジムで、小4から高2まで自分が水泳の選手をしていた場所でもあります。
アメリカの大学に通っているということはジムにも話していたのですが、夏の2、3か月だけ通って退会して（半年以上空く場合は休会できないのです）、また次の年に入会するという不思議な会員を続けていた際、今年の6月に「スイミングスクールのコーチをやらないか」と声をかけてもらいました。このジムでアルバイトをしていると、施設を自由に使うことができるので、バイト代が稼げるうえに会員費も浮くということで、ジムの人が気遣ってくれた形です。
ということで、7月と8月の前半の短期間ではありますが、幼稚園生、小学生対象のスイミングスクールでコーチをすることになりました。

a.　水泳と自分
このブログではあまり話したことがなかったのですが、自分は2歳で水泳を始めて以来、1か月間以上泳がなかった時期がないというくらいずっと水泳をやっていました。
年中でスイミングスクールから選手研修クラスというところに引き抜かれて、小1から小3まで競泳の選手として試合などにたくさん出ていました。
小4の時にスクールを移り、新しいところでフィンスイミングに出会い、そこでさらに自分の人生が大きく変わりました。フィンスイミングというのは両足に1枚のイルカの尾びれのような大きなフィンをつけてプールで泳ぐ競技で、日本ではまだまだマイナーな種目です。しかし競泳にはないスピード感とイルカのように泳げるところが魅力の種目です。この競技で17歳以下のユース日本代表として世界大会に何度か出場し、トレーニングだけでなく、選手としての心得や「日本を代表することの何たるか」、なども含め多くのことを学びました。 水泳・フィンスイミングは2歳から17歳までの間の生活の大きな割合を占めていて、海洋学を学ぼうと至ったこと、ランニングやチーム球技などの陸上競技が苦手なことなどなど、自分自身の根幹となっている重要な要素です。

ユースの年齢制限である17歳を過ぎて以降は競技から離れ、「選手」として水泳と関わることはなくなりました。ただ、大学1年のころはウィリアム・アンド・メアリー大学のスイムクラブに所属していたり、それ以降も定期的に大学のプールで結構ガッツリ泳いだりと水中にいることは今でも大好きです。

b.　コーチの役割
実際この夏もジムのプールで泳いでいたことから声をかけてもらった形になるのですが、スイミングスクールのコーチはとても楽しい経験となりました。
週3~4日間のシフト制で、午後の幼稚園生のキンダークラスと続いて開催される小学生向けのジュニアクラス2つの計3コマのレッスンに入ります。当然教えることは初めてなので、メインのコーチにつく「サブ」というポジションで入るのですが、基本的にはメインのコーチと同じように一人一人の泳ぎのフォームを確認し、アドバイスすることが求められるので、レッスン計画を作ったりクラスをリードしたりする以外はメインのコーチと同じことを行っていきます。

自分自身、級ごとに分かれて水泳を習う、いわゆるスイミングスクールにいたのは2歳から4歳までだったので、ほとんど記憶がありません。在籍していたのはクロールと背泳ぎのキックをテストされる級くらいまでだと思います（その後「選手研修クラス」に移っていきなり他の2種目を教え込まれてあっという間に4種目を含めた練習をする競泳のクラスに混ぜられていました…）。そのため、最初はどんな雰囲気で、どういう形で「石川コーチ」（実際子どもたちからこう呼ばれます…）として水泳を教えるのかイメージがつかめず戸惑いました。

例えば、キンダーのクラスだと水慣れの要素が強いので、オレンジのヘルパーを両腕につけて顔を水につけたり、おもちゃで遊んだりします。幼稚園生の相手をすること自体まれですし、ある意味全くバックグラウンドの違う相手に対して、どうやったら興味を持ってもらえるのかなど色々考えさせられました。
また、小学生のクラスでは実際に泳ぐ際のフォームのポイントをおさえ、的確にアドバスをする必要があるため、メインのコーチがどうやって教えているのかをよく聞いて、「もっと大きくキックだよー」とか「手は真っ直ぐねー」というような感じで教えていました。最初はクロールや背泳ぎのクラスから入り、慣れた後は平泳ぎやバタフライのクラスにも入っていくのですが、単に見てアドバイスをするだけでなくて、実際に補助をして正しいフォームを体で覚えてもらわないといけないので、その補助の仕方を覚えるのが大変でした。 ただ、毎週同じクラスを見ていると、徐々に上手くなったりするのが目に見えてわかる瞬間はとても嬉しいです。例えば平泳ぎのキックは感覚的に再現できるようになるには通常とても苦労がいるので、補助しつつ練習を繰り返すうちに最終的に正しい蹴り方ができるようになったりすると教えている側としても達成感がありました。

c.　コーチになること
今回スイミングスクールのコーチになるにあたって、やはりバイト代がもらえたりジムが自由に使えたり、そういう対価があることはもちろん動機の一つでありますが、それ以外に自分自身には「恩返し」という側面もあります。
自分がこうして2歳からずっと水泳をやってきたのもスイミングスクールでたくさんのコーチたちにお世話になっていたことがその背景にあるんだなと、最近自分の生い立ちを振り返った際に感じました。
スイミングスクールのレッスンの最後5分くらいは、自由に遊んでいい時間で、そこで子どもたちから「投げて！」と言われることがよくあります。プールの中で抱っこして水上から軽く投げることです。子どもはこれが無性に好きで、一度やり始めてしまうと永遠と子どもが集まってきて投げ続けることになります。もちろん子どもなので結構重いし大変なのですが、振り返ってみると自分も小さいころに同じように投げてもらっていたなーと気づきました。こうして、自分が今度は「コーチ」という立場になったのかと、しみじみとした気持ちになりました。

また、コーチとして教える以上、話し方・伝え方にも意識しないといけません。
先月号でも少し触れましたが、聞き手を意識したコミュニケーションは特に子どもたちに対しては大事だなと感じました。泳ぎ終わった後の短い時間の中で、的確にフィードバックをし、次に活かしてもらえるようにするには、端的に分かりやすくパっと説明する必要があります。どうやって相手に伝えたら分かりやすくなるのか、実際の動きにつなげてもらえるのか、とても難しい課題です。
さらに子どもたちって面白いなーと感じたのは、みんな本当によく周りの人を見ているところです。子どもたちは人の目をびっくりするくらいよく見ていて、こっちの表情を敏感に察知していました。初日に言われたのが、とにかく笑顔でいる、ということ。こちらが笑顔でいると相手も安心して笑ってくれる。すると子どもたちにとって水泳が楽しいものになってくれる。そういう流れが生まれるのです。

そして、就活が終わった今、アルバイトをすることで来年を意識した仕事の仕方ができたのではないかなと思います。今までも何度も短期のアルバイトを経験してきましたが、以前は社会経験という意味合いが強かったです。それに対し、今回はあと1年以内に社会人になる身として、具体的な仕事内容は大きく異なりますが、他者との関わり方、コミュニケーションの仕方、仕事の行い方など、今までとは違った意識を持ってバイトに臨めたのかなと思います。

一か月半の短い期間でしたが、およそ計80時間くらいはシフトに入ったので、濃密でとても貴重な経験をすることができました！

○卒論リサーチ
以前何度か記事でお伝えしたように、4年生では1年かけて卒業論文、Honors Thesisの執筆に挑戦します。それに向けて夏が非常に重要な準備期間となります。
先月号でお伝えしたように、論文を書く際、主張・論理がまるっと単純明快にまとまっているかが、きれいな論文が書けるかどうかの重要なポイントです。しかし、自分のトピックは春学期に紹介したようにまだきれいにはまとまっていなかったため、リサーチ（論文集め＋ひたすらリーディング）をしつつ、論点を整理することがこの夏の最重要課題でした。

ただ、こうした論点整理はずっと考えていてもできる訳ではなく、ある種のひらめきが必要です。そのために色々なソースを使って、新たな視点をたくさん得る機会が必要でした。それが、本を読むことだったり、ひたすらいろんなキーワードをもとに論文を探して様々な研究テーマを見たりすることです。
そしてその一環として、積極的にシンポジウムなどにも参加してみました。

結果的に自分の卒論テーマをはっきりさせてくれたのは、笹川平和財団の海洋政策研究所が主催する「第4回海洋安全保障シンポジウム」でした。このシンポジウムではアカデミアやシンクタンク、海上自衛隊、在日米海軍など幅広い分野の人が登壇し、それぞれの研究テーマから海洋安全保障についてプレゼンテーション、パネルディスカッションが行われました。
これだけ多くの立場の人が集まり、一度に様々な情報が得られることができるような機会は本当に貴重だと感じています（霞が関の真横にあるのでおそらく政府機関の人たちも大勢来ていました）。特にアメリカの大学に行っていると、もちろん学内で講演があったりすることはよくありますが、交通の便も優れていないため、大都市に行って大きなシンポジウムや学会などに参加することは出来ません。 それに対して、東京は政治・経済・文化・学術の中心地であり、東京にいればすべてにアクセスができます。こうした都市は世界的にも珍しいですし、東京にいられることの大きなメリットだと感じました。普段何気なく東京に住んでいれば、こういう機会にもおそらく気づかないし、膨大な機会に恵まれていることにも気づきません。アメリカの大学は大学内に素晴らしい環境が整備されていますが、キャンパスの外へは身動きが非常にとりにくいのも事実です。夏の限られた間ではありますが、こうして学術の中心である東京のリソースを少し活かすことができてよかったと思います。

卒論の最新の状況についても、今後もう少しリサーチをして明確に確定できたら紹介していきたいと思います。


最後の夏休みとなる今回の3か月ちょっとは、今までの夏休みほど色々詰まってもなく、割と落ち着いて過ごせたのかなと思っています。今回紹介しなかった以外にも旅行に行ったり、今年もHLABサマースクールに今度は運営側ではなく、高校生に対して英語で授業を教える役割として少し関わったりと、他にもちょこちょこと活動をしました。
来年は卒業から就職まで期間がなくドタバタする形になる予定なので、夏休みが送れなくなってしまうのがとても寂しいですが、これからの学生としての最後の1年も、しっかり頑張っていきたいと思います！！

では！

◇ 2017年7月 自己分析と表現力

7月号です！
すっかり梅雨も明け、夏らしい日々が続いています。
さて、今月号では就職活動を通して感じたことをまとめていきます。
具体的な就活経験談というより、就活の際に経た抽象的な思考プロセスのようなものを書き留めておきました。
（写真は4月に参加した2日間インターンの際にニューヨークで撮ったものです）

○自己分析：ビジョンを考える
先月号では「選択肢」というキーワードをもとに考えました。
「海外の大学に進学する」という選択も人生の中で非常に重要な決断であり、どのような経緯でそういう決断に至ったのか、自己分析を通して出願することになります。以前2015年11月号で就活について書いた際に触れましたが、アメリカ大学受験と日本の就活は非常に似ています。現状の能力よりも今後の活躍へのポテンシャルを重視する傾向がある点からもそれが分かります。
高校3年生当時にエッセー執筆に向けて行った自己分析も大いに活かされます。自分とはどういう性格で、何が好きなのか、というような自分自身の根本的な部分というのは、高校生の時からそうは変わらないわけで、自分も当時まとめたノートやエッセーを結構参考にしたりしました。
そして、高校3年生時点で行った自己分析から、この大学生活を通して自身にどのような変化が起こったのか、改めて自己分析をすると明確になるので、やはり定期的に自己を振り返り、分析することは大切なのだと感じました。
将来の進路を決定する際に一番確実な方法は、自分自身が将来の大きなビジョンを持つことです。その一方で「どんな人生を送っていきたいのか」「人生を通して何を達成したいのか」そういった抽象的で根本的な部分を振り返り言語化するのが、もしかしたら一番時間がかかって難しい部分なのかもしれません。
ビジョンが明確になると、あとはそれを支える根拠を集め、ロジックを立てて掘り進んでいくことになるわけで、いかにビジョンがしっかりしているかで、その後の表現の明快さに大きく影響してくると思います。

掘り進むというのは、
人生を通して達成したいこと
　　↓
なぜそれを達成したいのか（自分の思考回路、適性）
　　↓
どのような手段（仕事）によって達成できるのか
　　↓
どのような経験からそう考えるに至ったのか
　　↓
それを達成すべく過去にどのような活動を行ってきたか

という様に、大きな視座からどんどん「なぜ」を突き詰めて具体的な視座に持っていく形です。

自分自身の場合、中学・高校の早い段階から大学に進学して専門的に勉強したいことがあって、高校時代はとにかく勉強したいことがあるから大学に行きたい、アメリカの大学に行っていろんな人と出会い刺激を受けたい、という思いで進学しました。その一方で、勉強したいことを自分が満足するまで勉強した後、どうしたいかというのは明確に「職種」という形ではイメージがついていなかったので、ある意味すごく単純で短絡的だったかもしれません。
それでも、色々な世代の人と話し、多様な意見に基づくキャリアビジョンを聞くことで、自分の中で共感する考え方であったりピンとくる要素があったりしました。そうすると、なぜ共感できたのか、なぜピンとくるのか、自身の性格や過去を振り返ると意外と納得できたりして、徐々にビジョンが生まれました。
ビジョンが明確になれば、それを達成する手段としてどんな業種がいいのか、という視点で業種選び、企業研究もわかりやすくなり説得力も増します。やはりそういった意味で、自分はどういう人間で、どういうビジョンを持っているのか、ということを整理しておくとその後が明快になります。

○表現力：自分を伝える
内容と共に重要になってくるのは表現力です。

まず挙げられるのは、論理性です。
伝えたいことを分かりやすく伝えるにはロジックが通っていることが前提になります。前項の矢印で記したフローを組み立てる際に、しっかり矢印でつながるかどうかの論理性がポイントというわけです。例えば、ビジョンが明確になった際、なぜこの職種がビジョンを達成する最も適切なのか他者が納得できる一貫したロジックを組み立てるため突き詰めていきます。
実はこうしたロジックを組み立てる訓練は、常に大学でエッセーを執筆する際に行っていることであるので、論理性を持つということは普段の大学での学びが大いに活かされるのだと気づきました。エッセーを書く際にはロジックが通っているか考えながら主張や構成を組み立てます。その際、どんなに一所懸命資料を集め、説明するネタがあったとしても、首尾一貫して主張を論理的に立証できていなかったら評価されません。いかに説得力のある論理的思考力で文章がきれいにまとまっているか、これを常に考えていました。
そうなると、いかに自分のビジョンや経験を分かりやすく他者に伝えられるか意識する際に、エッセーの構成を考える時のようなロジックを組み立てるのは同じ作業です。そこに、どんな詳細をいれて主張を補強するのかという視点で表現をまとめるといった感じです。

また、これはエッセーを書くときに本当に痛感するのが、主題やロジックは常に単純明快であることの重要性です。シンプルなものであればシンプルなものであるほど、表現も明快になる上、ロジックもわかりやすくなります。そうすると相手に対しても説得力のある内容が展開できるというわけです。
これに関しては、エッセーでも常に単純明快な主題が組み立てられるわけではなくて苦戦しているところです…特にこれからHonors Thesisを控えているので、練りに練ってシンプルで分かりやすいものを組み立てられよう今後も訓練を続けていきたいです。

もう一つ上げられるのは、客観性です。
いかに効果的に内容を伝えらえるか、相手の視点から客観的に考えることがとても重要であると感じでいます。前項で挙げたような、自分のビジョンや自分の経験について話す際、往々にして自分が純粋に伝えたいことと相手が知りたいことに剥離が起こります。 どんなエピソードを話したら相手の印象に残るのかを考えながら話の内容を選び、組み立てたロジックを最後まで一貫性を保って伝えることで、相手も納得するストーリーにすることができると思います。
客観性に関してはやはり自分では気づけないことも多いし、どうにもならない部分でもあるので、いろんな人から何が印象に残るポイントなのかフィードバックをもらいながら準備しました。

○まとめ：あくまで一つの通過点
上記のようなことをまとめてみると、意外と「就活」というのは何か特別な力が必要だったりするものではなく、日頃からやっていることを丁寧に活かして行くことができるのだと感じました。論理性であれ、表現力であれ、意識すると今までの経験の中に「これは応用できるかも」ということに溢れています。せっかく経験したことなので、一瞬一瞬を大切にして活用していければいいなと思います。
また、あくまで今回の経験を自己分析などを通して自分自身を振り返ってみる機会ととらえることで、また新たなステップを踏み出し、次の経験へとさらに繋げていくことができるようにしていきたいと思います。

以上、簡単に就活の際に考えたことを記してみました。
ではまた！

◇ 2017年6月 海外大学進学という「選択肢」

6月号です！
夏休みに入り、日本に帰国してから早一か月が過ぎました。
今月号は、大学3年生の総括として振り返ってみたいと思います。
この1年間は、新たな挑戦を通して、アメリカの大学で過ごした最初の2年間をより客観的に見ることができたように感じます。改めて、一つの「選択肢」として自分が選んだ海外大学進学という決断を振り返ることができました。

○アメリカ大学進学という選択肢
まず「アメリカの大学に進学した」、という選択肢について。
これは、3年生の前半である秋学期に交換留学で英国・スコットランドに行ったことによって、客観的に振り返ることができました。
昨年の9月~12月号で交換留学での経験について詳しく紹介させていただきましたが、この1学期間の交換留学を通して、アメリカと英国の大学の違いがよくわかりました。

もともと、アメリカの大学を志望したきっかけは、高校1年が終わった春休みにいくつか有名大学のキャンパスを訪れたことです。この時、世界のアカデミアの中心であるアメリカのパワーを感じ、自分もこんな環境で世界中から集まる「知」と「人」に触れたいと強く思いました。そうしたアメリカのエネルギーに惹かれ、アメリカの大学を中心にカナダ、英国、オーストラリアの大学の受験システムや教育制度を調べ始めました。
その中で、アメリカの大学が大切にするリベラルアーツの精神に触れました。この「多様な学問を学ぶ中で視野を広げ、繋がりを見出す中で新たな価値を生み出す」という姿勢に共感し、アメリカの教育システムが自分の性格と自分が思い描く4年間の大学教育に最も近いと考えたわけです。

実際、アメリカの大学で2年間を過ごし、まさにリベラルアーツを体現するような学びをしてきたと思っています。まず第一として、「国際関係学専攻・海洋学副専攻」という、普通では考えられないような組み合わせが大学の仕組みと自分の意思によって可能となっていること。もちろん、どちらか一方を専門的に追究していくことはどこでもできたことだと思います。しかし、その両方を自分が満足するまで横断的に学べる環境が整っているのはやはりリベラルアーツの特権なのかなと思います。
そしてより一般的な視点に立つと、自分の責任と計画性において、4年間の大学での学びを完全なオーダーメードで組み立てることができるのも魅力的です。とりあえずいろんな学問を少しずつ勉強してみた後、本当の意味で自分の興味を見極めたうえで、それを自分が探求したい分だけ探求できるという制度が整っています。
例えば自分の2年生の時のルームメートは、入学当初は生物学専攻を考えていましたが、その後国際関係学専攻、そして最終的に2年生の終わりでは物理学専攻に決めました。彼は最初の2年間で様々な科目を履修して、色々な教授と出会い、最終的に自分が納得した学問に出会えたということです。この、まずいろんな選択肢をしっかり知れる、という点において、アメリカの大学が有する教育システムは魅力的だなと改めて思います。

こうした、アメリカの大学の特徴を改めて感じることができたのが、3年生秋学期の英国への交換留学です。今まで、主観的にアメリカの大学のよさを感じることは多々ありましたが、それを客観的に他の選択肢と比べることは出来ませんでした。アメリカの大学が英国の大学よりも優れているという話では決してありませんし、英国の大学でいいと思ったこともたくさんあります。ヨーロッパ、そしてスコットランドならではの雰囲気を全身で感じ、生活できたのもやはり交換留学の醍醐味です。それにプラスして、自身の好みとマッチした選択を他の選択肢も経験したうえで改めて自分として客観的に評価できたのは、非常に貴重な経験でした。

ちょっと勉強の話に終始してしまいましたが、教育システム以外にもアメリカか英国の大学どちらかを選択した先には色々な違いが存在します。そもそもその国に長期間住むということ、そして周りの人々、学生生活、教授との関係性など、アメリカに行っていただけでは知り得なかった、他の選択肢の先にあることを実際に体験することができたという意味で、交換留学はとてもいい経験です。

○リベラルアーツ教育という選択肢
続いては、「リベラルアーツ教育」について。
前項ではアメリカの大学の特色としてのリベラルアーツを振り返りました。それに加えて、リベラルアーツ教育とある意味対比をなすのが「研究」です。今年に入ってから何回かにわたりHonors Thesis（卒業論文）などを紹介してきましたが、まさに3年生の春学期は新たに「研究」と出会った学期でした。

大学に入る前にも、長期的なリサーチプロジェクトで課題として自分でいろいろ調べたりして論文を書くことは何度もありましたが、基本的には常に授業を受け、与えられた課題をこなすことに終始していたわけです。それに対して、今回のHonors Thesisでは一からすべてを自分で行います。それだけでなく、研究機関としての大学に所属する一員として、またアカデミアの世界の一員として研究を行うことが求められることを実感しました。
すべてを鵜呑みにせず、一歩立ち止まって一つ一つ真偽を検証する姿勢を鍛えられるのが、教育の姿ですが、あくまで知識を受け取る方であり、消費者としての立場に終始しています。その一方で、学問を創造する立場に立つには、今まで知らなかった色々な作法があって、アプローチの仕方があることを学びました。
一番苦労したのは（苦労しているのは）、アカデミアでは仮説を立て、それを科学的な手順に則って丁寧に丁寧に証明していかなければいけないことです。普段、調べた情報を自分の主張を軸にまとめて執筆するエッセー課題などのレポートとは大きく違い、緻密に証明を積み重ねていく本格的な研究は独特です。特に、国際関係学と海洋学を統合させて、新たなものを作り上げようと奮闘している自分にとって、（3、4月号で繰り返し強調しているものの、感覚の問題なのであまり共感してもらえないかもしれませんが…）何もかもが初めてで、本当に学ぶものが多かったように感じます。

これまでの大学生活で、研究という選択肢に積極的に触れることができなかったことは少し後悔でもあります。どうしても高校までの選択肢である、授業を受ける、課外活動に参加する、というようなことに目が行き気味で他の選択肢の存在を発見しにくかったということもあると思います。それが、こうして3年生の後半である春学期に新たな選択肢と出会い、実際に経験することができたのは非常に大きかったです。また、こうして別の選択肢を実践することで、もともと知っていた「教育」という選択肢を客観的に振り返ることができました。

○まとめ：選択肢
「選択肢」について、まとめておきたいと思います。
普通、人生において何か決断を下して一つの選択肢を選ぶと、もう一つの選択肢のその先を知ることはありません。海外大学進学を例にとると、アメリカの大学に進学した場合、自分が英国の大学に行っていたらどうなっていたのか、知る由はないです。そうなると、必然的に果たしてベストな選択ができたのか悶々とすること大いにあり得ます。
実際、高校卒業後の5月に進学先をウィリアム・アンド・メアリー大学に決定する際に、自分自身が悩みに悩んだ経緯から、他の選択肢だったらその後どんな人生だったのか、答えの決して出ない問いを考えたこともありました。そうした問いに、ある程度答えを導きだしてくれるのがこの「交換留学」です。
そういった面において、交換留学という制度は、「他の選択肢を実際に体験して、選択の善し悪しを検証する」という、人生の他の場面では考えられないようなことを可能にしてくれる特異なものです。
簡単に言うと、「せっかく交換留学のチャンスがあるなら挑戦してみなよ」という点に収まるのですが、交換留学ってすごいことなんだなーとしみじみ感じました。
「研究」に関しても同様です。繰り返しになるのであまり詳細には書きませんが、研究という選択肢を知ったからこそ、今まで当たり前のように受けてきた「教育」をより客観的に知ることができました。

常に多くの選択肢を確保しておくことは非常に重要です。
また、こうした新たな発見があったのも、自分に選択の余地があったからであることを忘れてはいけません。選択肢が複数存在していたからこそ、自分にとってベストだと思う道を求めることが可能になったわけで、このことに感謝しないといけないと感じます。
海外の大学へ進学するというのは、それ自体を目的化してしまうのはちょっと違っていて、あくまで一つの選択肢に過ぎないということを認識するのも大事です。海外の大学に進学することで失う選択肢があるかもしれませんが、得る選択肢も非常に多く、海外の大学に進学した先にいろんな可能性が広がっているという事実に価値があるのかなと思ったりしました。
選択肢が広ければ、それだけパッと何かやりたいことができた時に実際に実現させられる機会も広がるので、やはりどんな形であれ、できるだけ選択肢の幅を広げる努力をすることは重要です。
こうした姿勢は、まず多様な学問や価値観と出会うことを目指すリベラルアーツの精神とも一致するのかなと思いました。

以上、6月号では3年生を振り返りながら「選択肢」について考えてみました。
では！

◇ 2017年5月 アメリカの大学の特徴「寮生活」

5月号です！
5月中旬に3年生を終えて日本に帰ってきました。
帰国後の2週間と6月の1週目はいわゆる「就活」をし、無事に自分が満足いく形で終了することができたので、少しホッとしています。
こちらに関しても機会があれば今後紹介していきたいと思います。

さて、そんなこんなで遅くなってしまいましたが、今まで紹介していなかった3年生春学期に関することを今回はお話ししたいと思います。

○Room Selection
毎年春に行われるRoom Selectionは次年度に住む寮を決定する重要な行事です。
通常の上級生向け寮に住むプロセスを経験するのは実は今回が初めてだったので、今月号で紹介しようと思った次第です。
1年次は全員Freshman Hallsと呼ばれる一年生向けの寮に住まなければいけないので、7月ごろに全員にアンケート調査が行われます。このアンケートでは、一人一人の生活習慣（部屋をきれいにするタイプか、音楽を聴きながら勉強するタイプか、などなど）を調査し、似た習慣を持つルームメートを大学側がマッチングしていきます。希望すればもともと知り合いの友達と住むことも出来ます。その後、住む部屋とルームメートが通知され、連絡を取り合うことができるという仕組みになっています。そのため、1年次には自分でどの寮のどの部屋に住みか選ぶことができません。

2年生以降になると、Upperlevel Hallと呼ばれる寮に住むことになります。それと同時にキャンパス外に自分でアパートや家を借りて住むことも可能です。しかし、ウィリアム・アンド・メアリー大学では寮の数が充実しているという点と、周囲も静かな住宅街ということでキャンパス外に住むことの利点があまりないという点から、大部分の人がキャンパス内の寮に住んでいます。最近では近くにあったホテルを大学が買って、寮として利用したりしていることもあり部屋の数も増えているので、希望すればほとんどの場合寮に住むことができます。
自分の場合、2年次は日本語を学びたいと思っている学生が集まる日本語ハウス（Japanese House）に住んでいました。2年生のころに書いた記事でも少し紹介しましたが、こちらはSpecial Interest Housingといって、一般の寮の前、2月ごろに入寮の希望を出し、志望理由などを書いたあと面接を通して寮に入れるかが決定します。そのため、通常のRoom Selectionより前に独自のフローで次年度住む寮を決めることができます。
また、3年次は交換留学でセント・アンドリューズ大学に行っていたので、春学期に住む寮はメールで簡単に希望を伝え、大学側が空いている部屋を用意してくれた形になったので、こちらも通常のフローではありませんでした。

では、一般的な寮の決定方法はどうなっているのか、新4年生ながら今回初めて経験した手順をお伝えします。通常の場合、授業の履修登録のようにオンラインで与えられた時間に部屋を選びます。
まず、2月に来年度も寮に住むことを大学側に申し出て、デポジット（$200）を払い、Housing Contract（寮の利用契約）に合意します。この利用契約は、入寮から大量までの決まり、持ち込んでいいもの、寮内の物品を破損した場合など、トラブルが発生した場合どのように対処することになるのか文面で明記されており、毎年内容が変わるわけではないものの、必ず合意する必要があります。

そして、3月下旬にランダムにタイムスロットが個別に割り当てられます。これは、
・月曜日〜火曜日午前は4年生
・火曜日午後〜水曜日は3年生
・木曜日〜金曜日午前は2年生
という様に学年ごとに割り当てられている日にちの中を、さらに午前9時から30分ごとに分割されたタイムスロットが一人一人にランダムに割り当てられるという意味です。つまり、月曜日9時がタイムスロットの人はすごくラッキーで、キャンパス中のどの寮のどの部屋も選べるというわけです。徐々にいい部屋から埋まっていき、木曜日の夕方とかになると余っているあまり人気のない部屋を2年生が選ぶことになります。
4年生の場合、月曜日の午前中から火曜日の午前中まで、どの時間帯が自分に割り当てられるかは完全に運で、このタイムスロットによってだいたいどれくらいいい寮に住めるかが決まるといっても過言ではありません。というのも、人気の1人部屋は数が限られているため、月曜日中にはすべて埋まってしまうからです。また、新しくできた寮や、先ほど紹介したようにもともとホテルだった寮などは、部屋数は多いものの早い者勝ちなので、だいたい2人部屋でも火曜日いっぱいには埋まってしまいます。アメリカの意外に年功序列なところが見てとれます。

そして、4月中旬に部屋をオンライン上で決定します。30分ごとのタイムスロットなので、自分の割り当てられている時間の30分前にまず空いている部屋を確認し、ある程度目星をつけたうえで、タイムスロット内にオンライン上で部屋を選択し、登録します。そのため、授業登録の時のような緊張感がありますが、同じタイムスロットに割り当てられている学生数は授業登録の時ほど多くはないので、アクセスが過度に集中せずページが固まることはありません。それでも、タイムスロット開始から数分遅れると残っていたいい部屋が埋まってしまうので、ヒヤヒヤですね…1年間生活する寮の部屋が決定される重要な瞬間ということもあり、学生生活の大きなイベントです。

○まとめ：寮に住むということ
アメリカや英国の大学に通う学生にとって忘れられないのが、この「寮生活」です。特にウィリアム・アンド・メアリー大学では寮に住むことが当たり前のようになっていますが、東京など都市にある大学と比べると改めてその特異性を感じます。
1年生のころは、初めてアメリカ人と24時間生活を共にすることはとても新鮮に感じていて、日々の生活の中から学びがたくさんありました。何気なくお互いの勉強の状況やその日の出来事などを会話したり、一緒に夕飯を食べに行ったり、結果としてルームメートは一番コミュニケーションをとる相手になります。1年生のころのルームメートとは今でもたまに一緒にご飯を食べたりしますし、何だかんだ言って大学での最初の思い出を共有するのでお互いにとって大事な存在です。
大げさに言えば、「交渉力」も身につくわけで、同じ空間を共有する際にライトや音、空調など些細なことでも、どこまでは妥協できるのか、もしくはどこからはしっかり自分の好みを伝えるべきなのか、そういう身近なコミュニケーション力も鍛えることができます。
3年生になってからは上級生に人気の1人部屋に住むようになりましたが、それでも大学の仲間の大多数がキャンパス内に住んでいることによって生まれる一体感のあるコミュニティーはとても素敵だと思います。
リベラルアーツ教育は何も学問に限られたことではなく、こうして寮生活を通した24時間教育を以て完結するのだなと強く感じました。

ということで、今月号では寮について紹介いたしました。
6月号では、大学3年生として過ごした1年間を振り返ってみたいと思っています。
では！

◇ 2017年4月 「教育」と「研究」

4月号です！
いよいよ4月も下旬になり、春学期の授業がすべて終了してしまいました…
一つ上の4年生たちがすべての授業を終えて感慨深くしているところを見ると、自分もあと1年後にはあのポジションにいるのかと急に恐ろしくなります。時が経つのは本当に早いです。

ちなみにウィリアム・アンド・メアリー大学では授業最終日のことをBlowoutと言います。この日はもうみんなリラックスしていて、いつもは割と真面目な学生ばかりのキャンパスですが、この日に限ってはみんなはしゃいでいます。そして、4年生はみんな大学の象徴であり、全米最古の校舎であるWren Buildingの鐘を一人一人鳴らしに行くのが伝統になっています。
色んな伝統が存在するのが、歴史の長いウィリアム・アンド・メアリー大学のいいところです。

さて、先月号では4年生がアカデミック面における学生生活の締めくくりとして行うCapstone Experienceについて紹介しました。そして、北極海について国際関係学のHonors Thesisを執筆するということも書きました。そこで、せっかくなので今学期約3か月ちょっといろいろ調べてきたことをまとめつつ、初めて直面した「研究」というものについて振り返ってみたいと思います。

○融ける北極海
基本的なことは3月号でお話ししましたが、簡潔に言うと地球温暖化によって北極海の海氷が著しく減少しています。これは海洋物理学の授業で習っているところとも繋がってくるので自分がやっている国際関係学と海洋学の二足のわらじがまさに意味のあることだと実感できてうれしいのですが、気候変動で最も大きな影響を受けているのは極地です。
その北極海の氷がどんどん前の年より少なくなって、この冬の海氷面積は過去数十年の観測史上最少を更新しました。このまま進むと数十年後には夏季には海氷がなくなるという推測もあります。北極海がまさに「海」になるわけです。大国に囲まれた北極海は資源にも恵まれているため、経済面、安全保障面で周辺国が皆存在感を高めるべく活動を始めています。
このような今まで人類が経験したことのない大きな地理的変化によって国際関係はどのように変化するのか？これが自分の研究テーマです。

○GOVT322 プロジェクト
2月号で今学期の授業を紹介したように、今学期はGOVT322 Global Environmental Governance（地球環境ガバナンス）という政治学の授業を履修しています。このクラスでは、学期末にFinal Projectという課題があります。クラス全員が一人一人違うテーマを設定し、リサーチした結果を10ページ程度のエッセーにまとめます。アプローチ方法は2種類あって、環境に関する問題を一つ選ぶか、一つの国を選んでその国が環境問題全体に対してどのように取り組んでいるのか書きます。そして、4月中の授業で自分のプロジェクトの内容や経過を発表するために10分間のプレゼンテーションも行います。
このクラスの教授は自分の専攻アドバイザーでもあり、色々卒論に関する相談に乗ってもらっていたので、このプロジェクトも北極海について調べることを許可してくれました。

自分のトピックは、The Environmental Governance in the Melting Arcticということで、北極海の資源や環境がどのようにガバナンスされているのか調べています。卒論の方では貿易や安全保障に焦点を当てますが、もう一つ大事な側面である北極の資源や環境についてもしっかり知っておきたいと思い、資源管理について書くことにしました。
このクラスでは学期を通して個人、国家、国際社会の3つのレベルから環境ガバナンスを学んできたので、プロジェクトでも主にこの3つの視点からアプローチしていきます。簡単に説明すると、どんな要素が個人の好み、国の政策、国際的なガバナンスの有効性を左右するのか学んできたという感じです。

a.　個人レベル：世論
個人レベルでいうと、人々の好み（いわゆる世論）を大きく左右するものの一つとしてメディアがあげられます。授業で読んだ論文の中に、人々の政治的な考え方とメディアの選びかたはそれぞれ影響しあっているという主張のものがありました。「保守系のメディアを読む人は自身の考え方も保守系になり、またそれと同時に保守系の考え方を持つ人は保守系のメディアを選ぶ」という、らせん構造とでもいうような関係性があります。人々は自分が信じることと違うことを主張する報道をあまり見たくないのです。
この北極海の例でいうと、2007年にロシアが北極点に潜水艦を派遣し海底にロシア国旗を設置した際の報道が保守系と非保守系のメディアでどのように違うか比べてみました。保守系の代表格Fox Newsと非保守系のThe New York Timesの記事を比べた結果、使って言葉や扱っている情報に違いがありました。一方は比較的この事実を淡々と紹介し、潜水艦の中の乗組員の健康状態などについて話しているのに対し、もう一方はこれを安全保障上の脅威と捉え批判的に紹介していました。この事実から、おそらく人々は普段読んでいるメディアが紹介しているようにこのニュースを捉え、その立場を取る（例えばこの事実を脅威としてとらえている）報道を今後も選び続け、その考え方がさらに固まっていくことが推測できます。
他にも、NGOの活動がどのように個人レベルの北極海に関する意識付けに影響を与えているのかなど、話すことができます。

b.　国家レベル：政策決定
国家レベルは割と統計的なデータが得られやすいので、計量的な分析を行う必要があります。北極海の資源管理についてだと、北極圏諸国の立場が北極海の資源や環境を守ることか、それとも活用することに重点を置くのかに大きく分けられると思うので、その違いがどのようなところから生まれるのか検証します。
一つ上げられるのは、その国の全輸出額に占める石油・天然ガスの輸出額の割合です。この割合が高いほど、北極海の資源開発はその国の経済にとって重要であることが分かります。ちなみにロシアやノルウェーはこの割合が高く、さらに北極海においても資源開発に積極的です。他にも、観光業への依存度や先住民族の影響力などの数値が高い場合は、環境保護を優先すると考えることができます。特に、民主主義や大統領制などといった国の政体が環境政策にどのような影響を及ぼすかは授業でも結構取り上げられました。先住民族の影響力は国々の選挙制度や政体が大きく影響してくるところです。課題で読んだ論文のようにできるだけデータを集め分析するのがこのパートの目的です。

c.　国際社会レベル：レジームの有効性
国際社会レベルでは、北極海のガバナンスには割と問題が多いですが、今現在存在するレジームの中で大きく取り上げられるものは、国連海洋法条約（UNCLOS）と北極評議会（Arctic Council）の2つです。
UNCLOSは排他的経済水域などを定めた国際法で、主に各国が主権をもって資源開発や環境保護に取り組むことを示したものです。逆に言えば、各国が独自に北極海の開発を進めてもいいと定めているようなルールでもあるので、国際社会が協調して北極海をガバナンスすることを促していないわけです。さらに、排他的経済水域は沿岸から200海里が原則なのですが、大陸棚がさらに続いている場合は水域の延伸を申請することができるという規定があるので、さらに問題は複雑化しています。実際、ロシアが10年前に国旗を設置したのも北極点まで大陸棚が続いているという主張のためです。他の国も200海里を越えて自国の権益があると主張していて、なかなか問題が収まりそうにはありません。
その一方で、北極協議会のほうは、資源や環境の管理のための現状の調査などに終始していて、国々の行動を変え、北極海の環境をよりよくガバナンスしていくほどの発信力を持っていません。このレジームは北極圏諸国8か国以外にもオブザーバー国家として日中韓印などのアジア諸国や、英仏独伊蘭西などのヨーロッパ諸国といった幅広い国を取り込んでいます。また、NGOや先住民族団体などもオブザーバーとして加わっているので、非常に包括的な仕組みを持っています。作業部会をたくさん持っていたり、幅広い活動を多くのステークホルダーを巻き込んで行っていたりするのですが、法的拘束力もなく力は弱いのが現状です。
こうしたレジームの対比も授業で何度か扱っていて、権限の強いレジームは有効であるがなかなか多くの国が参加しない一方で、権限の弱いレジームは行えることも少ないが多くの国が参加する、といったようなトレードオフの関係性を学びました。実際、UNCLOSと北極評議会はこのトレードオフにぴったりと当てはまるいい例です。
現在、国際的な海洋保護区を作る案があったり、南極における純粋な科学的調査目的以外の活動を禁止する南極条約のようなものが北極でも必要だという声も上がったりしています。国際的な資源・環境ガバナンスを目指し、北極にとってどのような形が一番いいのか、今後も考えていく必要があります。

北極海の資源管理や環境保護に関するガバナンスはすでに動いていて、様々な過去の事例があるので、調査対象として調べやすく、とても面白いテーマでした。
これを期末試験期間が終わる前にエッセーを書き上げていく予定です。

○Honors Thesis 提案書の作成
Honors Thesisを行うためには、テーマとアドバイザーを決め、提案書を学科長に提出し、許可を得る必要があります。提案書は4月中に出す必要があったので、先日完成し、提出してきました。提案書は、研究内容や先行研究、実際の研究手法、1年間の計画、そして使用予定の文献一覧で構成されています。ここでHonors Thesisにふさわしい内容かどうか、完遂できそうかしっかり説明して大学側に納得してもらう必要があるのです。

研究テーマは先月号で簡単に紹介しましたが、昨年の11月以来、北極海が航路となることで国際社会にどのような影響が出るのか卒論で書きたいと思ってきました。このテーマをどのようにHonors Thesisの研究となるように形を整えるかで結構苦戦し、この3か月リサーチを続けてきました。
そんな中、最終的にMaritime Governance: A Change in Geopolitics and Trade Patternsというタイトルで執筆することに決定しました。地政学的変化に対応した国際ガバナンスが、実際の通商パターンにどのような影響を与えるのか過去の事例をもとに研究します。
歴史上、地政学的な変化が生じた例はそんなに多くありませんが、ヨーロッパ人が米大陸を発見したのは地理的な「認識」が大きく変化した一例です。これによって、それまでイタリアの都市国家が経済の中心であったのに対して、より西のスペインとポルトガルといったイベリア半島の国家が大きく発展するきっかけとなりました。自分が特に焦点を当てようと思っているのが、スエズ運河とパナマ運河の開通という、最も特徴的な地政学的な変化です。それぞれの運河建設には国々の思惑が絡んでいたり、開通によって生じた地政学的な変化によって国家の安全保障的、経済的なパワーバランスの変動があったりしました。
そんな変化を国々が管理するために発生したガバナンス体制によって、その後の貿易や船舶の通行が大きく左右されるというのが、この研究の仮説です。過去の事例を研究し、それぞれがどのように管理されていたのかというモデルを構築します。こうした過去の事例から、本題である北極海に話を移して、北極海の現状を見た後、どのモデルが当てはまるか検証し、そこから今後の通商ルートが周辺の国々にどのような影響を与えるのか見ていきます。モデルから導き出されるパワーバランスの変化や安全保障上の問題なども同時に見ていく予定です。

とりあえず、卒論を書く準備は整いました。
計画では秋学期の間にだいたいのパートを書き上げ、春学期には手直しをしたり内容に磨きをかけたりしていくことにしようと思っていますが、これからリサーチを進めていく中で研究テーマもまだまだ少しずつ変わっていくことがあると思いますし、この通りに行くことはないのではないかと思います。ただ、夏と秋にしっかりとやって余裕をもって完成させられるようにしていきたいと思っています。

○「研究」とはいったい何なのか？
今回、卒論の準備をするにあたって、改めて「研究」とはいったい何なのか考えることができました。本来は、GOVT301 Research Methodsという授業を取り、2年生くらいの段階で知っていくべきだったのかもしれませんが、自分はその授業の代わりに経済の統計学の授業を取ったので独学で調べたり、いろんな教授から話を聞いたりする中でアカデミアの世界の「作法」を理解する結果となりました。

Honors Thesisは社会科学（Social Science）の研究であって、普段の課題で出されるような調べたことを自分の主張を軸にまとめるエッセーでも、シンクタンクなどが主に行っている政策研究でもないということは、いろんな教授から話を伺う中で誰もが強調していた点です。
Social Science paperとは何を意味するのか、それは簡単に言うと、Independent Variables（独立変数）とDependent Variable（従属変数）を設定し、その関係性を「仮説」として提示し、統計的な分析か事例研究などの手法を通して立証することです。

自分の中で特に変数を設定するという部分がなかなかピンと来ていませんでした。
例えば、最終的に決めた卒論のテーマで言うと、独立変数は地政学的変化に対応した国際ガバナンスで、従属変数は通商パターンです。つまり、研究テーマを決める際に出来なければいけないことは、「（従属変数）は何によって決まるのか？」と感覚的に問えるかどうかだと感じました。
自分の場合、「北極海で地政学的な変化が起こると何が起こるだろうか？」という思考ルートだったので、これでは独立変数が先に来てしまっていました。一方、だいたい論文を読んでいると独立変数はたくさんあって従属変数が一つというパターンが非常に多いです。これによって、卒論テーマを考えるのがより難しくなっていたのだと思います。

また、仮説は研究で立証できなければなりません。
北極海における地政学的な変化が及ぼす国際政治経済・安全保障への影響は、未来の話であって、現状ではどんなデータを集めても立証できません。そのため社会科学の研究の場合、今までの事例を取り上げて、どうしてこういうことが起こったのか調べ、理論としてまとめるのが自然です。振り返ってみれば当たり前のことですが、研究として行われているのはすべて過去の出来事の理論化です。それをもとに現状の情報を収集して未来にどうするべきなのかをまとめるのが政策研究であり、政策提言として世に出るものです。
ということで、北極海は自分の研究にとって核となる部分ですが、過去のスエズやパナマなどを使ってガバナンスがどのように通商パターンに影響を及ぼすのか立証した後、最後に北極海に当てはめる方法を取りました。
ただ、北極海に関することの多くが未来の話であることから、自分の研究が将来の世界に何か一石を投じることができると感じています。そういう新たな価値を作りだすことができるというモチベーションがあると、このトピックを選んでよかったなと改めて思います。

研究への社会科学的なアプローチは、ある意味当たり前のことで言われてみれば当然のことなのですが、普通に授業を受けて、普通に課題でエッセーを書いているだけでは分からない独特の「作法」みたいなものだと思います。こうしたHonors Thesis執筆という活動を通して、新たな世界を見ることができるのはとても素敵なことだと思います。

○やはり「科学」
ずっと前に書いたことがある気もするのですが、自分にとっての国際関係学の魅力は過去の歴史から法則を見出して、国家間の関係性を理論を構築して説明しようとするところです。高校生の時に国際関係学に興味を持ったのは純粋に模擬国連の経験から国際問題に興味があったからです。しかし、高校では国際バカロレアということで文系理系に分かれていませんでしたが、どちらかというと物理や化学が好きで自分のことを理系だと思っていました。法則を見つけて世の中の現象を説明しようとする理科のそういう姿勢が好きだったのです。
ただ、大学に入って実際に勉強をしてみて、国際問題といった「現状」を知るだけではないことが分かりました。国際関係学も社会科学の一分野として法則を見つけるという、同じ姿勢であることを知り、やっぱり科学なんだなと感じました。これが自分にとって一番面白いと感じる部分です。理論を学ぶことによって、世の中で何が起こっていて、なぜ起こったのか説明できるようになるのが楽しかったです。おそらく経済学が社会科学の中でも一番典型で科学的に説明しようとしていう学問だと思います。経済学は需要供給曲線をはじめとしてグラフを多用しますが、これはまさに独立変数と従属変数の関係を表したものです。政治学はそこまで明確なものは少ないですが、その二つを合わせた国際関係学は勉強していても楽しいなと感じます。
いまだにおそらく理系の脳みそなので海洋学を中心に理系科目は取り続けていますが、それでも国際関係学の方に重点を置いているのは、社会科学は自然科学と違って「完ぺき」じゃないからです。物理や化学の場合、大抵は自分で環境を制御し、独立変数の数値を少しずつ変えて「実験」を行うことができます。それに対し、社会科学は人間や社会、国際社会全体を対象としているため実験をすることはほぼ出来ません。一国を民主政権にして、もう一国を独裁政権にして、どちらも同じ人口やGDPにして、2か国の環境政策や安保政策、経済政策の変化を見るための実験を行うことは当然できません。そんな自然科学と違って常に何か欠点があり、すべてが科学的に説明できるわけでない国際関係学にとても魅力を感じます。難しいほうが燃える、というような感覚です…

ただ、こうして一見全く違う分野である国際関係学と海洋学を同時に深く学ぶことができたからこそ、2つを繋げて考えることができ、それぞれのいいところが見えてきたのだと感じます。やはり、こういうことのできるリベラルアーツの環境はとてもいいなあと、つくづく思います…

以上、「北極海」をテーマとした今学期の授業の課題と卒論の準備から見えたことに関して今月号では振り返ってみました。 ではまた！

◇ 2017年3月 4年間の学びの着地点：Capstone Experience

3月号です！
例年にない暖かさを保った2月と一変し、3月はいつも通りとても寒い日々が続きました。
ようやくここ数日以降暖かくなり始め、再び20度を超えるような日も出てきました。

いよいよ4月が目前に迫り、日本にいる自分の同級生が大学4年生になると思うと、とても不思議な気持ちになると同時に、少し焦りも感じます。
アメリカの大学にいる自分自身も、なんとなく「卒業」が見えてきます。この4年間の大学での経験の集大成をどのような形で作り上げていくのか、というのもこの時期の関心ごととなります。
そこで今月号では、アメリカの大学において4年生がどのような形でアカデミック面でのゴールを締めくくるのか、ご紹介したいと思います。

○Capstone Experience
4年間のリベラルアーツ教育の集大成として専攻を問わず全学生に課せられているのが、このCapstone Experienceです。、今まで学んできた自分の専攻科目、一般教養（General Education Requirement）の科目、そして自由に選択した科目などから学んだ幅広い知識を統合し、何か一つの形にまとめあげることが求められています。
特に大学という学問を鍛える場における締めくくりなので、自分なりの研究を行い、その結果を他者に発表する力を鍛えます。まさに、この4年間のリベラルアーツ教育はどういう意味を持っているのか、考えながら行う最後の課題になるわけです。各専攻によってこの要件を満たすことのできる方法は違うのですが、一般的には、Senior Seminars、Internship、Independent Study、Honors Thesisの4つが存在します。主に、自分の専攻である国際関係学専攻のCapstone Experienceを具体例として挙げながら紹介していきたいと思います。

a.　Senior Seminars
Senior Seminarsは、1年生の時に必修として取ったFreshman Seminarsと大まかな仕組みとしては似ていて、教授一人に対して学生15人の非常に小規模の授業になります。ただFreshman Seminarsでは、その学問の導入としてユニークな視点からディスカッションをもとに授業を進めて行くスタイルでしたが、Senior Seminarsは対極的です。今まで専攻として習ってきた国際関係学なら国際関係学について、かなり突っ込んだトピックを徹底的に学び、議論し合うのがこのセミナーです。
例えば、国際関係学専攻の場合は、国際関係学のSenior Seminarsとして認められている政治学科のセミナーを履修するわけになるのですが、GOVT404 Strategy and Winning Warなんていう安全保障学を極めたい人向けのセミナーがあったりします。教授や他の学生と共に小規模で熱く議論をしながら何か一つのことを学びたい人にとっては最高の経験になるのだと思います。まさに、少人数教育で一人一人の学びを大切にするリベラルアーツ教育の典型的な例だと感じます。

b.　Internship
すべての専攻で可能な選択肢ではありませんが、国際関係学専攻の場合、インターンシップを行うことでINRL498という授業として登録され、単位がもらえるうえにこのCapstone Experienceの要件も満たすことができる可能性があります。
どんなインターンでもいいというわけではなくて、今まで大学で習ってきた国際関係学の視座を実社会に活かすことのできる、省庁やシンクタンク、NGOなどでのインターンであり、かつ大学の教授がアドバイザーとして監督してくれる場合、認められます。将来的にワシントンDCで政策などに関わりのある分野で働きたい学生が速い段階で経験を積める機会でもあります。
一つの例として挙げられるのが、以前にも何度か留学レポートで紹介しているように、ウィリアム・アンド・メアリー大学のDCで1学期間授業を受けることのできるプログラムです。大学の援助のもとDCでインターンを行いつつ政治系の授業を取りながら1学期を過ごします。このケースでインターンをCapstone Experienceの要件に用いる場合が一番多いのだと思います。

c.　Independent Study
Independent Studyはいわゆる普通の卒業論文と言えると思います。自分の興味のあることについてのクラスがない場合や何かに特化して学びたい場合、1学期間自分で計画を立ててリサーチを行い、論文にまとめます。一般的に教授を一人アドバイザーとしてつけて行い、比較的手軽に行うことができます。日本と違い、ゼミがないので、自分で自由にテーマを設定し、アドバイザーも自分の興味に近い教授と交渉して担当になってもらいます。
授業がないので一週間のうちにコマなどはありませんが、他の授業と同じように単位ももらえて、成績もつきます。それだけ自分でスケジュール管理を行い、授業を取っている場合と同じように進めていかなければいけません。多くの学生がこのIndependent Studyを行います。

d.　Honors Thesis
最後に紹介したいのがこのHonors Thesisです。これもIndependent Study同様「卒論」という風に訳すことができますが、大きく違う点が、GPAによる足きりがあり、毎年各専攻数人しか行わない、非常に大変なものであるというところです。普通の専攻の場合は、GPA 3.0が足切りラインなのですが、国際関係学専攻の場合は3.4で、大学側が期待するクオリティーも非常に高いものになります。また、このHonors Thesisを無事に修了すると、普通の学士ではなくBachelor Honors Degree（優等学士）として卒業することができます。

Independent Studyと違い、Honors Thesisは一年間にわたって徹底的に研究し、最終的にはだいたい30-60ページ（人によっては100ページ）の論文にまとめます。まずHonors Thesisの場合、4年生の1年間を使って何か新しいことを勉強したい、というモチベーションではなく、「研究」である以上、今までに得た知識を使って何かをさらに検証したりすることに重点を置くので、できるだけ早い段階から準備を始め、自分なりに先を見据えて授業を履修したり知識を習得したりしていかなければいけません。
また、3年の春学期中にはプロジェクトを監督してくれるアドバイザーの教授を決め、学期の終わりまでにはProspectusと呼ばれる提案書を大学に提出する必要があります。どんな論点について研究を行うのか、先行研究のレビュー、研究の手法、今後の計画などを文章にまとめます。
4年の秋学期を通して執筆をつづけ、春学期にはHonors Colloquiumという場で途中経過をプレゼン形式で発表します。最終的に3月いっぱいで論文を書き終え、4月にはアドバイザーの教授を含めた3人の教授に対して、Oral Defenseを行います。この場では口述で研究内容やその意義について発表し、教授たちから承認がもらえると、晴れてHonors Thesisが完了する仕組みになっています。

Honors Thesisは単なる論文や研究の機会に留まらず、アカデミアの世界にガッツリ入り込む研究論文です。そのため、主に大学院へ進学し、最終的に学者になることを考えている人にとってはマストな課題でもあります。例えば、国際関係学の視点から話すと、現在の国際情勢について調べたことをまとめたり、政策を研究したりするようなものではなく、純粋に社会科学の一分野として、科学的に独立変数と従属変数を立て、物事の関係性を分析したうえで、理論を構築するなり検討するなりすることで、現在のアカデミアに一石を投じるようなものでなければいけません。

e.　自分の着地点は？
以上、Capstone Experienceを修了する4つの選択肢について紹介してきましたが、自分は今のところ、このHonors Thesisに挑戦してみようと思っています。やはり、せっかくアメリカの大学に来て4年間勉強しているので、何か形に残る方法でその足跡を残せたらと思っています。また、自分は国際関係学専攻、そして海洋学副専攻として今まで大学で前例のない組み合わせの学問を学んできました。最終的にこの2つの学問がどう繋がるのか、リベラルアーツ教育ならではの挑戦だと思いますし、人と違うことに挑戦した自分がその答えを出す使命を持っている気もします。

今考えているトピックは、「北極海」です。
現在地球温暖化によって北極の海氷が減少し、氷に閉ざされていた北極海が「海」になりつつあります。このことが国際関係にどのように影響してくるのか、検証してみたいと思っています。
今までずっと最終的に国際関係学と海洋学をどのように繋げるか考えてきました。例えば、領海や資源開発などでとても重要になってくる国際海洋法や国際海事法もありますし、海洋環境保全の国際的な協力などからも二つを繋げることができます。その中で秋ごろから気になっているのが、北極海です。

今まで閉ざされていた北極海が通行可能になると、北極圏諸国だけにとどまらず、日本も含めた多くの国に影響が出ます。例えば冷戦時代対峙し続けたアメリカとロシアにとっては、今までは大西洋や太平洋という大きな海で隔てられていた両国が、北極海という浅く小さな海を通ってお互い繋がることにもなります。また、ヨーロッパから日本などの東アジアに船で行く場合、北極海を通るルート（北方航路）は、スエズ運河・マラッカ海峡を経由する現在の経路の6割の距離であり、国際経済に多大なる影響を与えます。そのほかにも、今まで氷に閉ざされて開発できていなかった北極海海底の資源がどのように分配されるのか（海洋法によってなのか、それとも南極の様に特別な条約が必要なのか）など「北極海」は今後の国際関係学にとってものすごくアツいトピックとなりそうです。

いかんせん新しいトピックで、先行研究もほとんど無く、政策研究や政策提言のような論文ばかりが出てくるので、これをどのようにしてHonors Thesisという「研究論文」にしていくのかは、まだまだたくさんリサーチをして調べなければいけなさそうです…ただ、今までにない現象だからこそ、卒論として自分が研究することで国際関係学のフィールドに何か足跡を残せるのではないかと、奮闘中です。

現在考えているアプローチ方法は、北極海の海氷減少という地政学的な変化が起こすパワーバランスの変化に関して安全保障学的、そして国際政治経済学的に検証したいと思っています。そのため、主に地政学や海上戦略などの文献にあたり、過去に似たような事例がなかったか、もしくは理論を構築した例はなかったか調べているところです。また、大学内の色々な教授たちにも話を聞き、彼らのアドバイスをフル活用してしっかりHonors Thesisになるように準備を進めていきたいと思っています。


こうしたCapstone Experienceを通して、4年次ではこの大学生活で学んだことの意味を自分なりに消化する機会が与えられています。自らの経験や知識の蓄積を大いに活用して、新たな価値を生み出し、それを社会に還元する、という一連の流れは、何もアメリカの大学に限らず社会に出ても必ず何度も直面するものだと思っています。まずは、このアメリカの大学での環境を最大限に活かして、この留学経験を最も納得できる形で締めくくれるように努力を続けていきたいです。

以上で3月号としたいと思います！
ではまた来月！

◇ 2017年2月 専門を決めてから一年…

2月号です！
今年の冬は例年にはない異常なほどの暖冬で、ここ10日ぐらいはほぼ毎日20度前後で非常に暖かい日々が続いております。結局雪も一度も降らず、2月の中旬からは桜もどきがキャンパス中に咲き乱れてしまっています…
その一方で、毎年言っているように「春になる」ということは「花粉に苦しめられる」ということです。中でも今年のはひどくて、薬を飲んでいても何度もくしゃみをしてしまうので、風邪に間違われて心配されてしまうことも多々あります。また、アメリカでマスクをすることは普通ではありえないので、襲ってくる花粉をブロックすることもできないのが難しいところです…

さて、春学期が始まて1か月が経ち、課題や試験なども多くなってきています。今月号では毎学期恒例の授業紹介を行いたいと思います。

○授業紹介
国際関係学専攻、海洋学副専攻として3年生を迎え、専門的なクラスが多くなってきました。今学期は合計で16単位履修しています。

a.　MSCI401A Fundamentals of Physical Oceanography
海洋物理学の授業です。
海洋物理学というのは、主に物理で勉強する理論を用いて、海の物理的な仕組みや環境の変化の説明を試みる海洋学の一分野で、簡単に言うと海ではたらく力について学んでいきます。例えば、海流や波、そして温度や塩分濃度の違いによって生まれる流れなど、海を物理的な視点から分析していきます。最初の3週間ほどは数式で様々な力の表記と計算の方法を学び、現在はそれを応用させて実際に物理理論に基づく現象を学んでいます。今週はコリオリの力という概念を数式で表して実際の力を計算したりしています（ちなみにコリオリの力というのは、地球の自転によって起こるもので例えば黒潮などの海流の方向や台風の回転の向きなどを決めています）。
力というのは質量と速度によって計算できるので、要するに変化率が計算に含まれます。つまり、ここで微分や積分が出てきます。いかんせん物理も数学も高校以来なので苦戦中です…しかしその一方で、高校の時は単純に微積問題を解いていたのに対し、今は実際に現実的な現象を数式化しようとしているので、そもそもの微積の意味合いがちゃんと理解でき、一つ一つしっくりきやすいです。

この授業はとても特殊で、ウィリアム・アンド・メアリー大学の海洋学大学院、VIMS (Virginia Institute of Marine Science) の基礎科目（MSCI501A）でもあるので、海洋学副専攻の学部生と海洋学大学院の院生がともに履修します。そのため、大学の本キャンパスがあるウィリアムズバーグから車で30分離れたVIMSキャンパスに教授と履修している院生たちがいて、自分を含めた学部生たちはテレビ会議システムを使って本キャンパスにいながら遠隔という形で授業を受けます。本キャンパスにも遠隔サポートのためにTAが来て、学部生をサポートしてくれます。リアルタイムでやり取りができるので、基本的には普通の授業のように質問をしたり発言をしたりすることが可能です。
通常の講義の授業は毎週月曜と水曜で、金曜日に関しては学部生専用のRecitationというコマになっています。ここでは、その週に学んだ理論を復習し問題を解いたり、分からないことを教授に直接聞いたりすることができます。普段は離れたVIMSキャンパスにいる教授に生で質問をするチャンスでもあります。

普通に考えたら、今現在大学院の授業を学部生として取ることができているわけで、しかも海洋学を専門に扱う大学院のクラスを履修することのできる環境が整っているのは、とてもすごいことだと思います。また、VIMSはアメリカの中でも指折りの規模を持つ海洋学の研究機関であるため、そういった施設が身近に存在するのも、非常に珍しいことです。それと同時に、レベルの高い国際関係学の授業も取れている（しかも周りの学生は国務省・国防省・DCのシンクタンクを目指している）のは、数千あるアメリカの大学の中でもめったにできることではなかったなとつくづく感じます…

b.　FREN210 From Word to Text
今までの2年間同様、フランス語を引き続き取っていきます。このクラスは、一般的な文法を修了し、より実践的にフランス語が使えるようになるためのクラスなので、通常の言語クラスを修了したことを前提としています。そのため、新たな文法項目を習うというよりも、たくさん書いてたくさん読んでフランス語力を鍛えていきます。
今までは週4時間でしたが、このクラスは週3時間で単位も3単位になります。授業の主なフォーマットとしては、文法をおさらいしつつフランス語に多く存在する細かい例外をしっかり押さえ、メインではフランス語のテキストを読解していきます。
現在取り組んでいるのはアルベール・カミュのL’etrangerです。日本では『異邦人』として邦訳されている作品です。毎週20-30ページずつ課題として読み進めて、授業内では作品の分析を行います。まず今まで1ページ程度の長さの文章しか読んだことがなかった中で小説を読むのはなかなかの挑戦で、分からない単語も多く辞書を引き引き読み進めています。さらにそこからストーリーに関わる重要な文を選んで分析したり、作品の背景にある思想を読み解いたりしないといけないので、今までのフランス語の授業とはまた一段レベルが上がっています。
実は『異邦人』は高校時代の国語の授業でやった事があったので、話の内容自体は知っています。ただ、そもそものストーリーが難しくて（テーマは「不条理」です…）、主人公の言動が常に変わっていて読者をモヤモヤさせるので、これをフランス語で読むのはなかなか大変です（読者をモヤモヤさせることで読者が持つ固定概念のようなものを切り崩したいというのがカミュの目的なのでしょう）。言ってみれば極めてフランス的な思考構造だと言えます。

教授は1年の時に1年間お世話になった先生なので、懐かしくてうれしいです。会うのは1年ぶりでしたが、初日にあいさつに行った時もしっかり名前を覚えていてくれたのでよかったです。ただ、スコットランドに行っていた秋はほとんどフランス語に触れていなかったので、語彙や文法項目を忘れてしまっている場合が多くちょっと苦戦していますが、自分の時間で今まで2年分のフランス語を復習しつつ、このクラスに臨みたいと思います。

c.　GOVT322 Global Environmental Governance
国際関係学の授業です。「地球環境ガバナンス」とでも訳せるでしょうか。
このタイトルを聞くと、地球温暖化や酸性雨、オゾンホールなどの越境的な環境問題自体を学び、どのように国際社会がそれぞれ取り組んでいるのかを考える授業を想定します。しかし、それよりももっと根本的に政治学的に様々な利益集団の存在する国内社会と国際社会でどのように利害が調整され、環境が管理されているか（されていないか）を分析していくクラスです。
通常の国際政治の理論などを学ぶ伝統的な国際関係学の授業とは一線を画すとてもユニークなクラスです。海洋学も絡んでくる地球環境を扱う珍しい国際関係学のクラスであるのに加え、自分の専攻アドバイザーの教授が教えているので、結構前から取りたいと思っていました。

まず最初は、環境「問題」の本質を学ぶべく、どのようにして問題が発生し、問題が社会に認知され、解決に向けて動いていくのか、という部分から始まります。ゲーム理論などの社会科学系の理論を使ったりしながら個人が社会、メディア、NGO、アカデミアなどとのかかわりの中でどのように優先順位を決めていくのか学びます。
現在は、各国それぞれの制度や文化がどのように環境政策を形成しているのか学んでいます。この間読んだ論文（Sprinz and Vaahtoranta, 1994. “The Interest-Based Explanation of International Environmental Policy.” International Organization）では、越境的な環境問題に対して国それぞれの費用便益分析が働き環境規制を推進する国と推進しない国に分かれると紹介されていました。この論文はオゾンホールと酸性雨の問題を例にとり、その国が被害に喫緊で直面している場合と規制をかけるコストが低い場合推進するし、この2つの条件が整わない場合は推進しないという理論を構築しています。
例えば、酸性雨の問題に関して、中欧、北欧、ソ連などの国々は偏西風の影響で西欧から飛んでくる硫黄酸化物に特に被害を受けるため推進派で、西欧の工業国は規制されることで工業生産のコストが上がるため規制に消極的であるという立場が見えてきます。さらに、英国は初期段階から被害に苦しんでいるため工業国でありながら規制に積極的だったり、さらに西ドイツもシュヴァルツヴァルト（黒い森）という地域の象徴である森が被害を受けたため世論が規制に積極的だったりと、各国の利害が環境政策に大きな影響を与えていることが示されていました。ちなみに、この論文は非常に主張と因果関係がわかりやすくて、社会科学の研究論文としてはとても理想的な構造だと思います。

環境問題だけにとどまらず、政治学が往年の研究対象とする「どのように多くの利害が調整されて国の行動につながるのか」というような大きな問いに答えるような理論を多く学ぶことが出来ていて、まさしく「ガバナンス」を学ぶクラスです。今後国際関係学を学ぶ中で色々な場面で応用できそうな考え方がたくさん詰まった授業です。

d.　GOVT328 International Political Economy
国際政治経済学を学ぶクラスで、国際関係学専攻にとって必修の授業です。
国際政治でも国際経済でもなく、国際社会において政治と経済がどのように関わり合っているのかについて学ぶ学問です。この密接に関わり合っている二つの分野を横断的に見ることによって、より国際社会で何が起こっているのか学んでいきます。国家間の貿易というのは当然ながら極めて政治に影響を受けるわけで（最近のTPPのように…）、国々の行動を説明する政治学の理論を用いてより経済活動を理解しようと試みます。
例えば、最近習った理論だと国が自由貿易か保護貿易どちらの方針を選ぶかというのを説明するのに、Factor ModelとSector Modelというのがあって、それぞれモデル内の2つのステークホルダーのやり取りの結果、国の方針が決まるという考え方です。
Factor Modelでは、国内社会は大きく分けて資本家と労働者に分けられるとし、先進国のような資本が重要になる産業（ハイテク産業など）に強みを持つ国は資本を、途上国のような労働力が重要になる産業（繊維など）に強みを持つ国は労働を重視する政策を取ります。一方で、Sector Modelの方では国内社会は産業対産業の構造であるとし、対外的に競争力を持つ産業は自由貿易を求め、外国からの製品に脅威を感じる産業は保護貿易を求めるとしています。
このように、様々な事例から理論を構築し現在の国際社会を説明しようとするのは、昨年の春学期に取った国際安全保障学と重なる部分があります。あちらでは、国と国との軍事的な力のやり取りについての理論でしたが、今回は国と国との経済的なやり取りについての理論を主に学んでいきます。

ちなみに、このクラスの中間試験はちょっと変わっていて、パソコンを持ち込み、紙で配られる問題に対する答えを自分のパソコンのワードで打ち込み、試験終了時にメールで提出するというスタイルになっています。パソコンなので、ネットを使ったりしようと思えばできますが（もちろんカンニングになります）、そもそもそんな調べていたりする余裕がないくらいたくさん記述式の問題が出るので、答案を書くだけでいっぱいいっぱいです。そのため、80分ひたすらタイプしまくる試験でした。
このクラスが行われるのは全米最古の校舎であり大学の象徴である、Wren Buildingです。現役の教室として使われているところがすごいです。かつては教室や食堂、寮など大学の中心的な建物だったと聞いているので、トーマス・ジェファーソン先輩をはじめとした歴史上の人物と同じ建物で授業を受けていると思うと感慨深いです。

e.　JAPN202 Intermediate Japanese II
(JAPN412 Teaching Practicum)
今学期は中級日本語のクラスのTAを務めています。週5時間の授業のうち、毎週木曜日の授業をTAが担当します。2年生の秋学期でも日本語101のTAを務めましたが、ちょうどその時担当した学生たちが202になる今学期にまたぜひとも教えたいと思い、やらせてもらうことになりました。実際に101を担当した学生が何人かいて、みんな日本語がとても上手になっていてうれしかったです。
100番台と200番台では担当している教授も違うので、少しTAのスタイルも違いますが、基本的には先生から渡される授業のスケジュールに則って、一コマの授業を進行していきます。50分間どのようにファシリテーションしていったらうまくクラスを回せるか、どんな練習スタイルを取り入れたら日本語が上達するかなど、工夫することも多いのでいい勉強になります。
ちなみに、ちょうど今扱っているのが敬語です。敬語は日本語学習の中でも特に難しくて(日本人にとっても常に課題であり続けますが…)、どういった状況で使えばいいのか、そして使うなら使うで完璧に使わないと失礼になってしまって元も子もないので、慎重に勉強して行きます。Honorific expression、Extra-modest、Humbleという様に3種類を教えるのですが、これは日本語で言う尊敬語、謙譲語、丁寧語の敬語3種に厳密に対応するわけではないので、混乱を招かないためにも自分が習った敬語ではなくて教科書通りに正確に教える必要があります。101を教えていたときとは大分勝手が違くて、「何を知っていて、何を知らないのか」しっかり把握に努めて、正しい日本語文法の説明ができるようにこれからも準備していきたいと思います。

f.　ECON304 Intermediate Macroeconomic Theory
中級マクロ経済理論の授業です。2年の秋学期で中級ミクロ経済理論の授業を取りましたが、その対をなすクラスになります。マクロ経済学自体は1年の春学期に勉強した以来で、実に2年ぶりになります。大分忘れてしまったことも多いので、復習から入らなければいけませんが、今のところ101で習った内容を数式などに当てはめてより理論的に学んでいることが多いので、何とかなりそうです。
このクラスの教授は珍しく、パワーポイントなどは基本的に経済指標などのグラフを見せる時以外使わず、黒板にチョークで板書をするスタイルをとっています。教授と同じペースで自分もノートを取れるので、授業を受けていてノートを取りやすいです。

○専攻・副専攻を決めてから1年…
2年生の1月に国際関係学専攻・海洋学副専攻として大学に登録してから早くも1年が経ちました。様々な科目の入門クラスを取って視野を広げることを主目的とする最初の2年が終わり、自分の専門を深く掘り進める時期がいよいよ本格的に進んでいます。今学期も今月号で紹介したように国際関係学、海洋学それぞれの専門的な科目を通して、自分の専門的な知識が蓄積されていくような気がして純粋にうれしいです。特に国際関係学は知識の量がものを言う学問です。いかに多くの知識を蓄え、それらを統合し新たな価値を生み出せるか…？この学問を学んでいる一学生として、貪欲に学びの機会を求め続けていきたいと思っています。

では、これで今月号を締めくくりたいと思います。
また3月に！

◇ 2017年1月 交換留学から帰ってきて

2017年です！
本年も「留学レポート」をよろしくお願い致します！
こうして2014年8月から書き始めたレポートですが、早くも4年目に突入というのは非常に感慨深いです。毎月レポートを書くことによって、みなさまにウィリアム・アンド・メアリー大学での留学生活をお伝えしていくことができると同時に、自分の中でも毎月を振り返る時間としてとても有意義に活用できています。

さて、8か月ぶりにウィリアム・アンド・メアリー大学へ帰ってきました！！
久しぶりにアメリカに戻ってきて、ウィリアム・アンド・メアリーのきれいなレンガ造りのキャンパスを歩いたり、しばらく会ってなかった友達と再会しお互いの近況をキャッチアップしたりできてとてもうれしいです。
ちょっと浦島太郎的な感覚で、いない間に変わったことにちょくちょく一人で混乱したりしていますが、そういう感覚になれることも楽しいです。
ということで、今月号では交換留学からの復帰のプロセスについてお話ししたいと思います。

○交換留学からの復帰
a.　寮
通常、1年間大学の寮に住む場合は前年度の2月にRoom Selectionというプロセスを経て住む場所を決めるのですが、交換留学をする場合はこのプロセスに加わることは出来ません。
その代わり、11月ごろに大学内の寮を管轄する部署にメールで希望を伝えます。どの建物がいいのか、何人部屋がいいのか、などを伝えてそれを考慮に入れながら大学側が部屋を決定します。春学期だけになるので、秋学期で卒業する4年生が住んでいたところや、春学期に交換留学に行く学生が住んでいたところなど、その学期に空く部屋がどこによるかによってどんなところに住めるかが大きく変わるので、不確定要素が多いです。
とりあえず希望を出しておいて、12月の中旬ぐらいに大学から連絡がきます。このくらいの時期にならないとどの部屋が空くかわからないので、結構ギリギリの連絡になります。結果自分の場合は、一人部屋という希望は通りましたが、希望していたものとは違う建物に住むことになりました。おそらく希望していた建物の一人部屋が空かなかったんだと思います。
交換留学という、イレギュラーな道を進むと通常通りの流れで手続きができないので少し不安ですが、無事に問題なく住む場所も決まりました！

b.　履修登録
春学期に帰ってくるからには、春の授業の履修登録も必要です。登録に関しては、アメリカにいる学生と同じ形でオンライン上で行います。履修登録の2週間ほど前にメールで登録に関する案内があり、11月1日に実際の登録が行われました。
アメリカ時間でちょうど朝7時からだったのですが、スコットランドでは11時だったのでちょうど授業とかぶってしまい、時間勝負の授業登録を11時きっかりにしてから寮の隣の校舎で行われていた授業へ行きました。留学に行っていたからといって周りに遅れることもなく、逆にアメリカにいた時のように早く起きなくてよかったのでラッキーだったかもしれません。
ちなみに、普段はスコットランド（グリニッジ標準時）とウィリアム・アンド・メアリー（米東海岸標準時）は5時間差なのですが、この時はちょうど英国が夏時間から通常時間に戻ったのに対して、アメリカはその一週間後だったので、たまたま4時間差でふしぎな一週間でした。

c.　荷物
4年間アメリカにいるということで、結構たくさんの荷物がアメリカには持っていっています。夏休みで一時帰国する際にはすべて持って帰ることは出来ないので、毎夏大学の倉庫に無料で預けることができます。特に留学生など、簡単に荷物を持って帰ることのできない学生たちにとってはとてもありがたい制度です。また、アメリカ人の学生も遠くから来た人や、実家が近い人もミニ冷蔵庫や自転車などを預ける人はたくさんいます。大学内の寮の一つにある最上階の屋根裏のスペースがあって、そこが解放されています。今回は5月から1月までと長期間だったので特に荷物が多く、預けておけるのはとても助かりました。
1月にキャンパスに戻ったときも、授業開始日までが倉庫の解放期間だったので、帰ってきた初日に取りに行きました。無事に8か月前に預けた荷物をすべて受け取ることが出来て、こういった小さなことでも1学期間キャンパスを離れて留学に行きやすくなるきっかけづくりに寄与しているのかなと感じました。

d.　単位認定
留学に行って一番大事な復帰の手続きが単位の認定申請です。
留学中に履修した単位をウィリアム・アンド・メアリーで取った授業と同じように単位として認定してもらうことで、スムーズに4年間で卒業することができます。特にセント・アンドリューズ大学との間では学生の行き来が非常に活発なこともあり、大学側も基本的に留学先の大学の制度を理解していて移行が簡単です。
スコットランドでは一学期間に60単位を取得することが求められています。これは英国全体で共通の制度なのですが、アメリカでは平均して15単位です。これをまず換算することが必要で、スコットランドの10単位が2.5単位、20単位が5単位、30単位が7.5単位、という風になっています。向こうで70単位とっていたので、先学期はウィリアム・アンド・メアリー単位で17.5単位取得したことになります。

セント・アンドリューズ大学の成績通知は非常に遅くて、1月の下旬に届きます。すべて成績が出そろって単位が取得できていることを確認した後、成績証明書の送付を依頼します。ウィリアム・アンド・メアリー大学が成績証明書を受け取った後、どのように単位が加算されるかが判断されます。
6月号で簡単に紹介したように、どのクラスがどのようにウィリアム・アンド・メアリー大学に当てはまるか、という手続きは交換留学に出発する前に行うことができます。ウィリアム・アンド・メアリー大学で単位の手続きがあったのち、正式にオンライン上で確認することができる単位の取得状況に反映されます。
今のところちゃんとすべて手続きが完了されれば、国際政治理論のモジュールは国際関係学専攻へ、水生生態学は海洋学副専攻へ単位が加算され、卒業に一歩近づくはずです。セント・アンドリューズ大学では各科目の単位数が大きいので、単位数も増えてありがたいです。

○帰ってきてから思うこと
石造りで歴史あふれるスコットランドを離れ、アメリカに戻るのは少し寂しかったですが、それと同時に、もしくはそれ以上に、ウィリアムズバーグへ帰るのも楽しみでした。やはり、バージニア州の田園的なレンガ造りの建物もとても恋しくなります。また、2年間過ごしてきた所でもあり、ウィリアム・アンド・メアリー大学にいるととても落ち着きます。

a.　キャンパスの変化
さすがに8か月離れているとキャンパスでは様々な変化が起こっています。
まず挙げられるのは、自分が3年生になっていること。これはもう当たり前すぎますが、交換留学先では新入生同様にオリエンテーションを受け、新鮮な気持ちで1学期間を過ごしてきました。また、イギリスでは日本語のように3年生のことをThird Yearと言うので、アメリカで言う “I’m a junior” ということには、3年生も後半に入る春学期であるにもかかわらずまだ慣れません。
そして、学年が上がるということは当然新入生がいます。自分たちの代がClass of 2018なので、今年度の新入生はClass of 2020となります。キャンパス中心部にある食堂には各学年の大きなバナーが飾られているのですが、自分が1年生だった時にはClass of 2015とかが飾られていたのに、今はもうClass of 2020が飾られています。1年生だったことは2018年なんて遠い先のことのように思っていましたが、今の1年生が卒業する年が2020年だなんて信じられません。次の秋に入ってくる学生たちが卒業するのが2021年だなんてことはもっと信じられません…

そして、今年度から新たにできた施設などもいくつかあります。
ちょうど自分が1年だった時や2年だった時から工事が始まった校舎がいくつかあって、それらがすべて8月から利用開始になっていたので、キャンパスの一部は少し風景も変わりました。例えば、Integrated Science Center 3という主に生物学や脳科学が入る校舎は新しくできたもので、とても立派で大規模な施設です。
また2年間の改装工事が終わって、Tyler Hallという政治学、経済学、国際関係学、公共政策学が入る校舎も想像以上にきれいになっていてとても驚きました。建物自体は築90年以上でレンガ造りの伝統ある雰囲気なのですが、中はモダンで明るい内装になっていました。この4学科は、今まで長い間改修していなかった別の古い校舎に入っていたので（地盤沈下しているとまで噂されていました…）、こうして自分の専攻の学科がきれいな建物に移ってくれたことで、新しい教室での授業も増え、とてもうれしいです。
いかんせん自分だけがこういった新しい校舎に慣れていなくて、一人で盛り上がっているので少し気まずいですが、こういった非日常的な感覚はアクセントになって好きなので、一人で小さな変化をたくさん発見しつつ楽しんでいます。

b.　授業
今学期履修している授業に関しては来月号でご紹介したいと思いますが、戻ってきて感じた感覚的な話をしたいと思います。
スコットランドにいる間も何度か書いたと思いますが、やはり授業の進め方が英国とアメリカでは全然違うなと、アメリカに帰ってきて改めて感じました。
アメリカにいる場合、講演やプレゼンテーションなどは必ずInteractiveにすることを求められています。つまり、聞き手との活発なやり取りを通して常に楽しませるような手法を取り入れなければいけないということです。これはもはや暗黙の了解というか、なにかを人前で行うときのルールになっているように感じます。そのため、授業も教授が用意した資料を読んでいるようなことはまずなく、普通にしゃべっているかのように授業が進められていきます。また、授業によっては30人程の規模であっても学生の発言を重視し、ディスカッションを発展させることで授業を進行させて行くスタイルをとる教授も多くいます。
一方、英国の場合はよりフォーマルにことを進める傾向があるように感じます。授業も基本的には教科書や論文で使われるような結構硬めの文章で話されることが多いし、講義は講義、ディスカッションはディスカッションという様にメリハリをつけています。これは授業以外の普段の式典などの時も同様で、厳かな雰囲気を大切にする英国らしさがうかがえる気がします。
人によって好みが大きく分かれるところだと思いますが、授業に関してはアメリカ的なやり取りのある自由な雰囲気のほうが個人的には好きです。久しぶりにこういうスタイルの授業を受けて、授業の内容がすっと入ってくる実感があり、アメリカに戻ってきたことを強く感じました。

もう少し一般化して話すと、一つのスタイルしか知らずに現状に満足しているのと、様々な経験を通して視野を広げ、一つ一つの善し悪しを理解したうえで、自分の好みを知るのとでは大きな違いがあると思っていて、「留学」というのは自分が今までいたところとは異なる新たな世界を体験することであって、ある意味ではより幅広い知識のもと判断が下せるようになることなのだと思います。
すでにアメリカに留学して3年目に入り、日本とアメリカの生活や価値観、教育の違いなどをたくさん学んできましたが、それプラス英国での交換留学の4か月を通して、「アメリカの大学に進学する」という18歳の自分が下した判断をより客観的に評価できたというか、振り返れた気がします。

ということで、以上アメリカから1月号をお届けしました！ 早速授業も本格的に始まり、課題などに追われる生活が始まっているので、来月号で詳しくご紹介したいと思います！！

◇ 2016年12月 スコットランド編：交換留学を終えて

12月号です！

12月15日に帰国し、早くも1週間ちょっと経過しました。この12月号はスコットランド留学の締めくくりとしたいと思います。

○クリスマスマーケット
冬のヨーロッパといえば、クリスマスマーケットが有名です。実際にヨーロッパ各都市で11月後半からマーケットが開催されます。スコットランドの首都であるエジンバラも同様でクリスマスマーケットは冬の目玉イベントとなっています。
エジンバラのクリスマスマーケットは11月20日から年末まで開催されていて、街の中心部の広場にたくさんのお店が出ていて非常ににぎわっていました。クリスマスにちなんだオーナメントや雑貨、伝統的な食べ物を売るお店など、売っているものも非常に多彩です。クリスマスマーケットは主にドイツやフランスなど大陸で有名な文化なので、こちらでも多くの店はドイツやフランスから出店しており、ドイツビールやホットワイン、ソーセージなど大陸ヨーロッパのクリスマスならではな食べ物を堪能することも出来ます。 このようなクリスマスマーケットを目にすると、ヨーロッパ全体に存在する共有された文化というか価値観みたいなものを見て、アメリカでは感じられなかった空気感を感じることができました。

○期末試験
12月の2週間にわたって実施されるのが、今学期の締めくくりとなる期末試験です。セント・アンドリューズ大学では、期末試験の前に1週間授業がない準備週間が設けられています。12週間にわたって学んできた多くのことを振り返り、試験に備える時間です。人によってはせっかくの1週間の休暇ということで実家に帰ったりヨーロッパを旅行したりする人もいます。
平均的に最終的な成績の30%ほどしか占めないアメリカの大学の期末試験と比べ、セント・アンドリューズ大学をはじめとしたイギリスの大学の期末試験は50%から70%ほどを占めるので非常にウエイトが重く、期末試験はひと際重要になります。その一方で、セント・アンドリューズ大学の場合、9月号で少し説明させていただいた通り、一学期平均で2-3モジュールしか履修しないので、期末試験の数も2-3しかありません。その分、じっくり試験対策ができるうえ、大学側も学生が全力で準備をして万全な体制で期末試験を受験することを期待しています。

試験勉強をするうえで大変便利なものが、オンラインシステムで公開されている過去3年分の試験問題です。ウィリアム・アンド・メアリー大学では、教授によってクラスの内容が大きく変わるので、期末試験の内容もセント・アンドリューズ大学のような統一した方針をとっていない場合が多く、長年一人の教授が教えているクラスや入門クラスなどで過去問が公開されることをのぞくと、基本的にはあまりありません。過去問が公開されていると、出題形式や傾向が分かるので対策しやすくなります。セント・アンドリューズ大学での初めての期末試験ということで過去問を大変重宝しました。

期末試験自体も大分雰囲気が違います。
まず、アメリカの大学での期末試験は割とゆるいです。当然不正行為等に関する罰則は非常に厳しいですが、普段通りの教室で、普段通り椅子についている小さな格納可能なテーブルを使って答案を書きます。持ち物に関する規定などもあまりありません。できた人から自由に退席も出来ます。おそらく、規定などを設けなくても各々が自己責任においてしっかり試験を受けるという暗黙の了解のもとで期末試験が運営されるという、極めてアメリカ的な考え方が背景にあるんだと思います。
一方でセント・アンドリューズ大学での期末試験はもっと形式がしっかりしています。まず、試験会場は普段の教室とは違う大教室で他のモジュールと同時に実施されます。教室も試験専用にセットアップされていて、一人一人ちゃんと机といすがあり、試験問題や答案用紙もすでにセットされています。筆記用具と透明な容器に入った水のみが持ち込み可能で、試験中は机の上に学生証を置き、小さな「受験登録用紙」という紙に個人情報を書いたりもします。終了時間の30分前からは退席ができなくなります。
あと面白いのは試験が無記名で行われることです。答案用紙に名前を記入するのですが、その箇所には見えないようにシールを貼り、試験自体には学生番号のみが記載されるようになっています。公平に採点が行われるように配慮しているみたいです。

基本的に試験時間2〜3時間で、記述式の試験が多いので時間一杯ひたすら答案を書き続けます。
最初に行われた国際政治理論の試験では、7つの論題から3つ選び、それぞれ小論文を書くというものです。それぞれの論題で与えられているのは比較的漠然としたテーマなので、この4か月学んできたことをできるだけ幅広く、そして詳しく書いていきます。
水生生態学の試験も3時間で、3つのセクションに分かれています。最初の2セクションはどれも小論文形式なので、与えられた質問に答えるべく、今まで習った知識を全部詰め込んで文章を書きます。3セクション目はいくつかの短い記述問題や計算問題で構成されています。
最後に行われた英国史の期末試験は2年生向けのモジュールということもあって、試験時間も2時間になります。ただ、10の論題から3つ選んで3本小論文を書くので、大急ぎで答案を書きました。100人以上が履修している英国史のモジュールですが、同じ試験会場（体育館）で別に2モジュールの期末試験も同時に実施されていたので、一斉に500人近くが試験を受けている光景はなかなか圧巻でした。

期末試験においても国や大学の色が表れていて、ウィリアム・アンド・メアリー大学にずっといたら体験することができなかったとても貴重な経験となりました。

○St Andrews ? William and Mary Joint Degree Programme
この4か月、自分はウィリアム・アンド・メアリー大学からの「交換留学」という制度を利用してセント・アンドリューズ大学で学んできましたが、実は特に深い関係性を持っているこの2校の間でもう一つの仕組みが存在します。ウィリアム・アンド・メアリー大学とセント・アンドリューズ大学の特徴の一つということで、ここで紹介しておきたいと思います。
St Andrews ? William and Mary Joint Degree Programmeは、4年間の学びを終えるとセント・アンドリューズとウィリアム・アンド・メアリー両方の学位がもらえるというプログラムで、1年ごとに交互でそれぞれの大学で学ぶ仕組みになっています。例えば、ウィリアム・アンド・メアリー大学に1年生として入学したら2年生はセント・アンドリューズ大学で過ごし、3年生でアメリカに戻り、4年生としてセント・アンドリューズ大学の卒業式に参加します。毎年20人くらいがこのコースに入学しており、2大学における交流は非常に活発です。

このコースでは経済学、文学、歴史学、国際関係学が専攻できます。どちらの大学にいてもそれぞれの学年で同じ科目を学ぶことができるようにするため、基本的に4年間で履修する科目は決まっています。アメリカ、イギリスの2つの大学から学位がもらえるという大きな魅力に加え、それぞれの大学で合計2年間ずつを過ごすのでじっくり2か国の文化を経験することができることや、リベラルアーツを大切にするアメリカと専門性を重視するイギリスの両方の教育を受けることができる点など、多くの魅力があるコースです。
実際にこのコースにいる知り合いが何人かいて、毎年大学が変わる慌ただしさはあるもののとても充実した学生生活が送れているそうです。特に、留学に興味のあるアメリカ人、イギリス人にとっては比較的短期間の交換留学以上の海外経験が得られるお得なプログラムとして人気です。
アメリカ、イギリス両方の大学を十分に経験したいという人にとっては、とてもいい仕組みかもしれません。

○今後の展望
この4か月のスコットランド留学は、大きく異なる大学システムや学問へのアプローチ方法など、アメリカの大学に行っているだけではなしえない学びや経験にあふれ、自らの4年間の海外大学での留学経験により深みを与えてくれたと思います。大学生活も残すところ1年半となり、最後の締めくくり方も模索し始めています。そうした中で、より多くの可能性のある選択肢を知ることができたと感じています。
特に、自分の専攻である国際関係学のレベルが非常に高いセント・アンドリューズ大学で4か月学ぶ中で新たなアプローチ方法や取り組み方を経験することができたと同時に、自らの国際関係学に関する知識がまだまだであることも痛感させられました。1年時から、国際関係学に特化した学びをしているイギリスの学生たちは自分よりも強固な知識の土台を持っていることを、ディスカッションなどを通して強く感じました。一方で、国際政治学以外にも経済学、歴史をはじめとした幅広い分野から国際関係を見ていくウィリアム・アンド・メアリー大学の専攻システムで学んできたうえ、海洋学を副専攻にしていることもあって、よりリベラルアーツな教育を自分は受けてきました。イギリスで国際関係学を学んでいる学生以上に幅広い分野の知識はあるものの、国際関係学を専攻としている以上、彼らに負けないくらい自分の専門分野の知識を得ていきたいと感じ、今後ますます学問に励んでいきたいと思うようになりました。冬休みも時間があるので、この4か月で感じたエネルギーを忘れずにどんどん本を読んで知識を蓄えていきたいと思います。
また、4年次には卒業論文（Honor Thesis）の執筆を計画しているので、この春学期には準備を進めていかなければいけません。「研究」という、高等教育機関にとって「教育」と並ぶ大事な側面も大学生である以上しっかり経験していきたいと考えています。

残りの1年半もこのスコットランド留学で得た経験を活かして、大いに努力を続けていきたいと思います！

○お知らせ
1月10日(火)18:00-20:00でアゴス・ジャパンにて、ウィリメリに関するセミナーを行います！
ウィリアム・アンド・メアリー大学の魅力のみならず、
・ウィリメリの学業・生活
・アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア4か国の大学受験
・アメリカ大学からの交換留学制度
・イギリスの大学での学業・生活
などなど幅広く話すつもりなので、お時間ある方はぜひぜひお越しください！！
/e.php?e=5058

そして、1年間「留学レポート」をご覧いただきありがとうございました。
2017年も皆さまどうぞ宜しくお願い申し上げます！

◇ 2016年11月 スコットランド編：非日常に身を置く「留学」

11月号です！
11月末になりこちらでの授業がすべて終わり、残すは期末試験のみとなりました。そしてスコットランドはもうすっかり真冬で、16時には日没時間となりどんどん暗くなってしまいます…
さて、今月号ではスコットランドでの生活など、学業以外の面を紹介していきたいと思います。

○スコットランドの雰囲気
まずはスコットランド自体の雰囲気についてです。
スコットランドはブリテン島の北半分を占めており、島の中でも山が多く水が豊富な地域です。そんなこともあって、比較的自然が多いエリアです。ただイギリス最高峰が1300mぐらいなので、スコットランドの「ハイランド」といっても日本的な感覚で言うと丘陵地帯といった感じです。先月号でも少し紹介しましたが、地形も森林に覆われているというよりも草原や岩場が多いので、少し小高いところに上がると遠くまで見渡せます。
セント・アンドリューズ周辺も牧草地帯なので、うねるような丘が連なる中で羊や牛が放牧されていたり、作物が育てられていたりします。町を少し出るとそんな広大な空間の中にぽつんぽつんと家が建っていたり、石造りの低い塀がどこまでものびていたりと何とも情緒深い景色です。特に石造りの建物は古くなって苔むして色がくすんでくればくるほど歴史の重みを感じるので、くぼみから草が少し伸びていたりするだけですごく雰囲気が出ます。レンガ造りや木造と違って、本来自然に存在するものをそのまま使っていることから、こうして少し崩れた見た目も逆に風情を引き立てているのだと思います。寂びを思う日本の美的感覚をすごく刺激するような気がします。

スコットランドに来て驚いたことの一つは、スコットランド人の優しさです。こちらに来る前は明るくおしゃべりなアメリカ人とは対照的で少し冷たいイメージを英国全体に対し勝手に抱いていたのですが、スコットランド人はかなり気さくで優しいです。大学の学生はもちろんバスの運転手やお店の人など一般的な人も含め何か話を聞くと色々丁寧に話してくれたりします。
有名な通り、スコットランド人の訛りはなかなか厄介です。もちろん人によって訛り具合は違いますが、いわゆるブリティッシュアクセントとはだいぶ違います。一番わかりやすい例が「エイ」です。「エイ」がオーストラリアだと「アイ」になるのは有名ですが（Dayがダイと発音するなど）、スコットランドでは「イー」になります。つまりDayはディーといっているように聞こえます。他にも全体的にアクセントの位置が違ったり、長音を延ばさなかったりします。
ちなみにですが、スコットランド人が普段から話す言語は英語です。個人的にはスコットランドに留学するまで公用語としては英語を話す一方ゲール語など別の言語がスコットランド人の母語だと思っていました…しかし、現在ゲール語を話すのはスコットランドの北端やブリテン島の北に位置する島々などほんの一部に限られているそうです。あくまで、現在のスコットランド人は英語で教育を受け、スコットランド訛りのある英語を日常生活で普通に使用しています。

ここからはスコットランドに関する感覚的な話です。
先月号の英国史のモジュールの項目の中で少し紹介したように、スコットランド王国は様々な事情から消滅し、現在の英国が形成されています。そのため、現在のスコットランド人にとってスコットランドは日本的感覚で言えば地方以上で国以下のとても微妙な位置づけです。
たとえば、国名がUnited Kingdomであり、United Kingdomsではないことが一つの例として挙げられます。アメリカの場合、北米にあった植民地がそれぞれ自立した形をいかに維持するかに神経を注ぎながら一つの国を成立させたため、各州の自治を尊重する形で複数の州のまとまり、United Statesとして連邦体制がとられています。その一方で、英国の場合はあくまで一人の国王のもとイングランドとスコットランド、ウェールズ、北アイルランドという4地域がまとまって一つの王国を形成しています。そのため、複数の王国の連邦体制が取られているわけではありません。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドはそれぞれ議会を持ったり、独自の法令を制定したりと、ある一定の自治は認められていますが、あくまで一つの王国であり、政治的な括りというよりもっと歴史的・文化的な括りに近いわけです。つまり、この英名で「s」がつくかつかないかでいろんなことが見えてきます。3か月ちょっと過ごしてきて、生のスコットランドに触れるとともに、英国の歴史も学んできたことがあって、スコットランドというものがいったい何なのか少しずつわかってきたような気がします。

○セント・アンドリューズ大学の雰囲気
セント・アンドリューズ大学は英国の大学の中でも学生数が少ない稀有な大学です。たいてい英国の大学では学部生の在学生数が1万から2万以上いる中で7000人しかいない大学はすごく珍しいです。アメリカの大学の感覚からするとこの学生数はいわゆる「中規模大学」に分類されるわけで、1000人しかいないリベラルアーツカレッジと比べてしまうとそんなに不思議ではないのですが、英国において有名大学の中ではすこし独特の雰囲気を放っています。大学の位置する町も小さいですし、それだけ小さめの規模のコミュニティーを形成することで、近い関係性ができると同時に他大学に比べて勉強に集中しやすいのかもしれません。

また、留学生の割合が4割というのも英国の中で最も高い大学の一つです。留学生の出身としては圧倒的にアメリカが多く、留学生の半分を占めています。普通に大学を歩いていてもアメリカ英語を聞くことが非常に多く、授業によってはアメリカ人のほうが多いのではないかと思ってしまうほどです。特に国際関係学は人気で、アメリカ人の学生がとても多いです。これに関しては、アメリカの大学を受験する際に利用するオンラインの共通ウェブ出願システムであるCommon Applicationでセント・アンドリューズ大学を受けることができる、すでにたくさんのアメリカ人がいる、国際関係学が英国で一番、などの点からアメリカから飛び出したいアメリカ人学生にとって、言語の心配もなく手っ取り早く「海外大進学」しやすい大学なのかもしれません。EU圏内からの留学生も非常に多いです。ヨーロッパのいろんなところから来ているみんなの話を聞くのがとても面白いです。
残りの6割を占める英国国内出身の学生ですが、面白いことにスコットランド人よりイングランド人のほうが多い印象です。実際スコットランドの人口はイングランドの人口の10分の1なのでしょうがないといえばしょうがないですが、スコットランドの中のイングランドの大学と言われることもあります。ただ、スコットランド人は格安で進学できるのに対し、イングランド人はそれなりに学費がかさみます。しかも面白いのが、EU圏出身者はスコットランド人と同じく格安な学費なのです。同じようにイングランド人はイングランドの大学に格安で入学できるので、セント・アンドリューズ大学にはそれだけ余裕のあるイングランド人が多く集まる傾向があります。イングランド人にとっても、すこし実家から離れて新たな環境で学生生活を送れるセント・アンドリューズが魅力的なのかもしれません。

続いて寮について少し紹介したいと思います。
ウィリアム・アンド・メアリー大学と同様1年生は必ず寮に入らなければいけません。2年生以降は対照的にセント・アンドリューズの町にフラットと呼ばれるアパートを借りて住む人が圧倒的に多いです。そのため、ウィリアム・アンド・メアリー大学と違い「上級生寮」というのは存在せず、寮に住みたい上級生は大多数の1年生と共に寮で生活します。ただ、上級生はどこに住むか選ぶ権限があるみたいです。自分が住んでいる寮も、ほとんどが1年生なので、Freshman Hallに住んでいたころのにぎやかさを思い出します。
それだけ大学内で寮の需要が少ないので、ほとんどの寮が1人部屋です。1年生から1人部屋に住めるなんて何とも贅沢だなとアメリカの大学から来た身としては思ってしまいます。しかも中には自分の部屋の中に小さなバスルームがついている寮もあります。大学自体が町の中に点在しているので、寮も町の中にある寮と町から少し離れたところにある寮とが存在していて、自分の履修している教科の建物に近いところをできるだけ選んでいるみたいです。
寮のプランには大きく分けて、CateredとSelf-cateredの2種類あります。Cateredの方は寮の食事付きで、Self-cateredは自炊する形になります。これもキャンパス内に住む場合は必ず大学のミールプランを取らなければいけないウィリアム・アンド・メアリー大学とは異なります。自炊する人が住む寮は比較的キッチンが立派な場合が多いですが、自分が今住んでいるCateredの寮もいいキッチンがついています。食堂は大学の共通カフェテリアではなく、各寮に付属しています。朝昼晩それぞれ1時間ちょっとしか開いておらず、いつでも食べに行けるわけではないのが少し難点です。
これに関しては、アメリカと英国という括りより大学ごとに特徴があると思うので、ウィリアム・アンド・メアリー大学以外の大学のシステムを知るという意味で面白い機会となりました。

○「ゴルフの聖地」で
セント・アンドリューズで最も有名なものといえば、真っ先にゴルフが挙げられます。セント・アンドリューズは「ゴルフの聖地、The Home of Golf」と呼ばれており、世界最古のゴルフコースであるOld Courseでは、5年に一度全英オープンが開催されるほか、世界大会が多く行われるため世界中のゴルファーにとってのあこがれの地です。
St Andrews LinksにはOld Courseの他に6つのコースが隣接しており、一つの独立したゴルフの世界が広がっています。Old Courseの1番ホールのティーグラウンドの前には、The Royal and Ancient Golf Clubという建物があり、ここで決められたゴルフの規則が毎年世界中に向けて発表されます。近くには英国ゴルフ博物館やゴルフショップ、ゴルファー向けのラウンジ、宿などたくさんの施設があり、毎日世界中からやってくるゴルファーでにぎわっています。町を歩いていても、特に暖かかったころはゴルフクラブを担いだ人たちが通りを歩いていたり、パブのオープンテラスでゴルフバックをわきに飲んだりしている景色がよく見られました。
セント・アンドリューズにおけるゴルフの歴史は大学と同じく600年以上前までさかのぼります。まずは、1100年代に現在ゴルフ場となっている土地がスコットランド王から地元の住人たちに授けられて以来、牧羊や洗濯など住民が自由に使っていたのですが、それが徐々にゴルフの原型となる遊びをする場所に変わっていったそうです。そして、1400年代（大学ができたころ）に、学生たちが武芸（アーチェリー）よりもゴルフに熱中してしまったため、一度ゴルフ禁止令がだされました。つまりそのころにはある程度ゴルフという活動が出来上がっていたことが分かります。1800年代に隣のNew Courseができて以来、もともとあったコースはOld Courseと呼ばれるようになりました。1900年代中葉から徐々にアメリカでもゴルフが人気となり、アメリカ人やアメリカ資本が多く入ってくるようになってからこのSt Andrews Linksは飛躍的に発展したそうです。

St Andrews Linksに存在する7つのゴルフコースの特徴はその自然さです。特にOld Courseに関してはコースの地形がほとんど人の手によっていじられていません。普通のゴルフコースだと、グリーンはほかよりも小高くなっていて一目でグリーンの範囲がわかります。しかし、Old Courseのグリーンとは単に芝生がパター用に短くなっているだけで、逆に周りのエリアよりくぼんでいたりすることもあります。グリーン以外でも、基本的に芝が短く刈られているフェアウェイが比較的広めですが、地面が均されているわけではないので、よくよく見ると小さな丘がたくさんあってうねっています。そのことから、Old Courseはさらに「神が作ったコース」とまで言われることもあります。また、ゴルフ場にはほとんど木が生えていないので全体的にだだっ広い草原のように見えます。しかも7つものゴルフコースがこの調子で広がっているので、St Andrews Linksは一見すると広大な空き地のようにも見えます。
芝の整備はさすが聖地ということもあって徹底されています。ショートコースをのぞいた6つのコースでは、芝の上から直接打つことが禁止されているので、必ずボールを拾い上げ、人工芝の小さなマットを敷き、その上にまたボールを置いてプレーしなければいけません。そのため、コース上には芝が剥げたところが一切なく、とてもきれいな芝が一面広がっています。特にOld Courseに関してはメンテナンスが徹底していて、いわゆるグリーンキーパーという芝を整備する人の数が他の6つのコースの人数の合計と同じだけ存在するそうです。

自分も小中と6年ほどゴルフを習っていた時期があるので、久しぶりにゴルフをやってみることにしました。St Andrews Linksに併設する形でGolf Academyという練習場があるのでそこにちょくちょく練習に行っています。ゴルフの面白さは、一球一球考えながら打つと、その考えがしっかり反映されることです。クラブがボールに当たる前に顔があがってしまった、ひじが開いてしまった、クラブの振り上げかたが曲がっていた。など一つ一つ意識すると問題が見えてきます。これを丁寧に分析して振り返りながら打つことで、少しずつ改善されていきます。自分を振り返り、調整していく感覚です。しかも、その結果が球の方向や距離などの形で明確に表れるので、一回一回の努力がよくわかります。ゴルフをする時だけは、純粋に目の前の球のことに集中し、ただひたすらまっすぐキレイに飛ぶことだけを考えていると、いいリフレッシュになります。そして、世界中のゴルファーが憧れる地でゴルフができていることはつくづく幸せなことだなと感じています。

○まとめ：留学の機会とは？
留学には人それぞれ多様な目的があると思います。
ひたすら勉強をする、異文化を学ぶ、友達を作る、遊ぶ。
普段とは違う生活環境に身を置き、短い時間の限られた一日一日を大切にする。個人的にはこれが一番大事だと考えています。そのため、「普段だったらできないことは何か？」を常に自分自身に問いかけながら今までの3か月スコットランドでの生活を送ってきました。自分の場合、アメリカでの生活は留学先というより進学先であって4年間いるのでなかなかこれを意識することは難しいですが、今回のスコットランド交換留学は本来の意味での「留学の機会」を強く意識する時間となりました。
特に日々の生活に追われていると、当然課題がたくさん発生してきます。しかし、リーディングをこなすにも「何のためにわざわざスコットランドでリーディングをやるのか」考えると、課題を終わらせるためにリーディングを行うのではなく、純粋に今セント・アンドリューズ大学でしかできない勉強をしたいから情報をインプットするというマインドセットが出来上がりました。そうすると、言われたタスクをそのままやるのではなくて、自分なりの優先順位がおのずと見えてきます。今学期の成績がウィリアム・アンド・メアリー大学の4年間の累積GPAに反映されないこともあって（もちろん単位を認めてもらうには一定以上の成績が必要です）、割り切って比較的自分のペースで勉強することができます。リーディングで4か月を終わらせたくない、という思いが強くあったので、セント・アンドリューズならではの経験を大事にしました。

それが先ほど紹介したゴルフであり、そして旅行です。車社会のアメリカと対照的に英国では車なしでだいたい行きたいところに行くことができるほど、公共交通機関が整っています。スコットランドの首都であるエジンバラはもちろん、グラスゴーやダンディーなどにもバスで手軽に行くことができます。また、10月の下旬にあった1週間の秋休みでは、電車を使い、スコットランドの北部を一周してきました。北海油田の基地でありスコットランド第3の都市アバディーン、ウィスキー街道の起点エルギン、そしてネッシーで有名なネス湖に近いインバネスの3都市を巡り、スコットランドについてより深く知ることができました。一人で知らない町を歩き、小さな発見の数々を積み上げていくことで、スコットランドとはどういう地域なのか色々思案する時間が持てました。こうした経験を通してスコットランド、セント・アンドリューズでしかできない事が最大限できたのかなと思っています。
こうした本質を常に頭の中において生活を送ること、とても大事だと思っています。特に留学というような非日常の世界に身を投じる時、慣れるのも大切ですが、この「非日常性」を絶対に忘れないように日々新鮮さをもって生活するのも重要かなと思っています。

こちらでの生活も残りわずか。
やり残すことの無いよう、フットワークを軽くしてやりたいことをちゃんとやりきりたいと思います。
では！

◇ 2016年10月 スコットランド編：学問を深く深く

10月号です！

10月も終わりに近づき、スコットランド、セント・アンドリューズは最高気温が15度を下回る日がほとんどになってきました。紅葉の季節となり、石造りの街並みと紅葉のコントラストがとてもきれいな時期です。ただスコットランドはロシアのモスクワ並みの高緯度に位置しているので、これからどんどん日照時間が短くなってくるそうです…
さて、今月号では具体的に自分がセント・アンドリューズ大学でどのような学びをしているのか、紹介していきたいと思います。

○授業紹介
まずは、恒例の授業紹介。 9月号で紹介したように、アメリカの時より履修しているクラスの数が少ないです。

a．BL3308 Aquatic Ecology
3年生用の水生生態学の授業です。海水や淡水にすむ生物の生態について学んでいきます。クラスはだいたい50人クラスの規模で、週3回講義の時間があります。海外留学のプロセスを紹介した号でも書きましたが、セント・アンドリューズ大学には、生物学科の中でも海洋生物学を専攻にできるくらい海洋学の授業が豊富で、大学院の施設としてScottish Ocean Instituteという研究所がキャンパス内にあります。海洋学が学べることもこの大学を選んだ理由の一つです。
このモジュールでは、スコットランドの環境を中心に、川、湖、海岸線、海洋の生態系を一つ一つ見ていきます。講義も生物学科の中の教授たちがトピックに応じて持ち回りで担当します。今まで、日本の海のこととか、アメリカの沿岸の海洋環境などが自分の主に学んできた範囲だったので、今回スコットランドの視点から海だけでなく淡水の環境も学ぶことができるのはとても新鮮です。

特に、9月の下旬に授業の一環として参加したフィールドコースでは、実際にスコットランドのハイランドの生態系を調査する機会がありました。3日間のコースで、セント・アンドリューズから1時間半ほど北に行ったところにある、Kindrogan Field Study Centreへモジュール履修者50人ほどでバスで行きます。フィールドコースでは、近くの川や池の生態を調べて、人的活動の影響や生物の多様性などを測定しました。いわゆる、「環境アセスメント」というやつです。
実は全イギリスの淡水の90%がスコットランドにあるので、淡水の生態系を学ぶにはスコットランドは最適な場所といわれています。（豊富に水があるからこそスコッチウィスキーは生まれたんですね…）
2日間かけて川の上流と下流と近くの池の状態（幅、1mごとの水深、水流量）と環境（水底に生息する小さな無脊椎動物の採集、石についたコケや藻の回収）を調査しました。調査が終わったら施設に戻り、採集した生き物の種を特定します。それぞれの種には、どれくらい環境汚染の負荷に耐えられるかという数値があるので、何がどれくらいいたか記録することで、川の環境がわかります。川の上流のほうはいわゆるハイランドといえるような幽玄な景色が広がっています。山といえば木に覆われているイメージですが、ハイランドは荒涼とした草原が広がり、たまに岩がむき出しになっていたり、羊が放牧されていたりと、なかなか自分の既存の価値観を壊す感動的な景色です。こうした景色を見れただけでもこのフィールドコースに参加してよかったなと思えます。

これから学期の後半に入って、より海のことをやっていくそうなので楽しみにしています。
ちなみに評価は2000語のエッセーとプレゼンテーション、そして期末試験で決まります。いわゆる中間試験は学科によってはあるのですが、セント・アンドリューズではそんなに主流ではないそうです。

b．MO2008 Scotland, Britain and Empire
2年生用のモジュールで、1500年以降の英国の歴史を学んでいきます。2年生用のクラスなので比較的大規模でだいたい100人くらいが履修していて、週3時間講義があります。トピックによって歴史学科の色々な教授が講義を行います。主な焦点としては、1500年当時にイングランド、スコットランド、アイルランドの3つの王国に分かれていたブリテン島がどのように一つになり、どのようにして「帝国」となっていたか学んでいきます。
ちなみに英国で最初に「帝国」という言葉が大々的に使われたのは、1533年にイングランド王ヘンリー8世がローマカトリックからイギリスの独立を宣言した時です。それまでのヨーロッパはローマ教皇が宗教的に頂点に位置し、各国王も教皇の承認などを得ながら政治を行っていました。しかし、ヘンリー8世は離婚問題で教皇と対立し、その影響下から脱するために教皇から任ぜられる神聖ローマ帝国などに対して、独自の「帝国」であると宣言したのです。これは、東アジアの冊封体制下で「国王」が中華帝国の臣下を意味することから、「天皇」を称することでその勢力圏を脱した日本に似ているかもしれません。このように、ヨーロッパ大陸の隣に浮かぶ島国として存在していた英国は、なかなかユニークな歴史をたどってきました。

歴史専攻でも何でもありませんが、せっかく海外留学でスコットランドに来ているので、しっかり現地の歴史を学ぶのも大切かなと思い履修していますが、非常に面白いです。
実際、16世紀に起きたスコットランドの宗教改革について学んだときは、当時セント・アンドリューズがスコットランド最大の聖堂と、スコットランド最古の大学（当時大学は主に神学を学ぶところでした）を有していたことから、スコットランド宗教の中心的な町であったことが分かりました。今でも当時の運動で火あぶりで殉教したパトリック・ハミルトンの逸話の残るスポットがあったり、破壊された聖堂の廃墟が残されていたりと、歴史にリアリティーを感じるとともに、親近感がわいてきました。

もう一つ歴史の授業に関してのお話を。このクラスは2つの1500-2000語エッセーと書評、期末試験で評価が決まります。その最初のエッセーを通して考えたことです。
1707年にスコットランド王国とイングランド王国が、「合同法」という法律によって、グレート・ブリテン王国にまとまりました。それ以前の1603年から王位継承問題が理由で、二つの王国は同じ国王のもと、同君連合を組んでいたのですが、政府・議会も別で、経済もまったく別個でした。その後、それぞれの政治的、経済的、宗教的な背景により、1707年に一つの王国として正式に成立することになりました。
エッセーでは、この合同法が両国にとってどのような意味合いで「便宜上の結婚」だったのか論じました。つまり、アイデンティティー的に合同するのは反対だったが、実利を取るために合同したという意味です。
この出来事は、スコットランドにとってはエジンバラの議会を解散し、ロンドン・ウエストミンスターにある議会に集約され、政治的にも経済的にも圧倒していたイングランドに事実上吸収された形になったので、スコットランド王国が消滅した歴史上非常に大きな意味を持つものです。しかし、同時にイングランド王国も消滅したにもかかわらず、英国史の中ではあまり大きく扱われていません。 こうした、「普通」の英国史の視点からでは見落とされがちな、「別視点」から歴史を眺めることができるのが、スコットランドという、ある意味でマイノリティーな地域で歴史を学ぶ面白いところです。2014年にも独立投票までやっているわけなので、自分が住んでいるスコットランドという地域が、どのような歴史をたどり、どんな思いでいま英国を構成しているのか、知るいい機会になりました。 最近では英国の植民地についても学んでいましたが、普通に学んでいる中では滅多に出てこないスコットランド人の活躍なども知ることができて新鮮です。そもそもスコットランドも植民地を建設していたことすら知らなかったのですが、例えば今カナダにあるノバ・スコシア州、全然今まで意識していませんでしたが、これはNew Scotlandのラテン語表記です。すぐに英領そしてフランス領になりましたが最初に入植したのはスコットランド人でした。普通に英国史を学んでいたら圧倒的な存在感のイングランドの影に隠れてしまうスコットランドもこのモジュールでは同等に扱われているので、英国の歴史を深いレベルで学ぶことができています。

c．IR3041 International Political Theory
自分の専攻に直結する国際関係学の授業です。このモジュールは3年生向けなので、クラスは20人しかいません。教授はギリシャ人です。
この「国際政治理論」は、リアリズム、リベラリズムなどの国際関係理論とは違うものです。国際関係理論や、今までアメリカで習ってきた理論は、過去の歴史などから法則を見つけ、現在起こっている現象の理由を求めたり、現象を一般化したりすることが多かったです。
それに対して、今回学ぶ政治理論はNormativeという言葉をキーワードに、世の中はこうある「べきだ」というような規範的な考え方をします。つまり、古典的な政治思想をもとに、現在の国際情勢の理想的な形を考える学問です。毎週、力、権限、法、権利、富などのテーマが設定されているので、それに関連する古典を読み、それぞれの言葉が持つ哲学的な概念や理論を理解してた上で、現在の国際問題に照らし合わせていくのが授業スタイルになります。
比較的、アメリカより英国の国際関係学のほうが、歴史や古典的な政治思想を大切にする、とよく言われるのでこのようなアプローチのモジュールは非常に「英国的」といえるかもしれません。
なにしろ、毎週いわゆる政治学の古典中の古典といわれる作品の原著（マキアヴェッリ「君主論」、スミス「国富論」、ミル「自由論」、アリストテレス「政治学」などなどいっぱい）を全部または一部読まなければいけないので、結構きついです。

こちらのモジュールに関してもエッセーについて少し話したいと思います。
このモジュールも2つのエッセー（2000語と3000語）、そして期末試験で成績が付きます。
最初のエッセーでは、今まで考えてきた概念を古典的な学者の政治思想と絡めながら現実の国際関係に落とし込んでみます。
今回選んだお題は、ホッブスとルソーの考えを参考にしながら、現在の国際関係で「力（Power）」と「権限（Authority）」がどのような形で存在するか考えていくものでした。今現在、究極的に言えば力と権限を持っている最上位の主体は、「国家」です。国家同士をコントロールする世界政府のようなものがない以上、実質的に国際社会は無政府状態といえます。その中で、国際社会で力と権限を持っている主体に最も近いと認識されるものが、国連の安全保障理事会です。そのため、安保理がどれだけ国際社会で力と権限を持っているのか検証することにしました。
まず、力と権限が現在の政治学でどのように定義されているか触れます。
「力」とは、相手が普通だったらしないことを自らの希望通りに相手にさせる容量のこと。
「権限」とは、力を行使することを正当に認められている存在のこと。
という考えをベースに、安保理の力と権限を考えた後、今度はホッブスとルソーにとっての力と権限の概念に触れ、それぞれ、ホッブス的に安保理に力と権限が備わっているのか、ルソー的に安保理に力と権限が備わっているのか、エッセーで書いていく形になりました。
ちなみに、細かい説明を省略して結論だけ言うと、安保理はルソーよりホッブス的な力と権限を持っているということになりました。

最初にも言いましたが、今までアメリカで学んできた国際関係学は（とはいっても過去に3つしか授業を取っていませんが…）もっと科学に近い理論がベースでした。しかし、現在学んでいるのは哲学的な概念で、変な言い方をすれば空想の世界です。例えば、ホッブスのリバイアサンは現実に存在したわけではなく、人間の本質や習性などを彼なりに分析した結果生み出された思想です。
正直、こうした哲学に触れる前までは、今まで習っていたより現代的な理論も今習っている思想も具体性を取り除いた普遍的な法則というか本質を求めるという点で似ていると思っていたのですが、まったく脳の使い方違って困っています。今までの理論は頭で図案化してイメージしやすかったのですが、哲学的な思想になるとどうも形を作ることが難しく、思想家の気持ちになって考えないといけないので、思想を理解するのが非常に難しいです。
しかし、過去の古典的な名著と向き合う時間を設け、それらが現代にどのような「知」をもたらしてくれるのかを考えるのは、ルネッサンス以来の伝統的な「学問」の姿だと思うので、その「学問」が発達した中心地であるヨーロッパでこうした学びができるのはとても幸せなことだとつくづく感じます。

d．IR3022 International Relations and International Law
上記3モジュールが実際に履修しているものですが、実はIR3041よりも本当はこのモジュールが取りたかったものの定員オーバーだったので、教授と交渉して聴講させてもらっています。クラスのサイズは20人ほどで、週1時間講義があります。教科書も買ったので、ちゃんとリーディングもしっかりやって授業に参加しています。教授はスロベニア人です。
このモジュールは、国際法について単純に法学の視点から学んでいくだけではなく、国際法が国際関係にどのように寄与しているのかに注目して、国際法を学んでいきます。

国際法は国家が守らなければいけない法律ですが、そもそも国内で言う警察機構のように法律の違反を取り締まる機関がないことから、そもそも「法」と呼べるのか等々議論の余地があるところが何とも面白い概念です。
今国際法と呼ばれているものは、国家間が結んだ条約や過去の事例などを見て国々が守っている慣習法などがありますが、一番基礎になるものが1945年に作られた国際連合憲章です。
国連に加盟することが一般的に「国家」として国際社会に承認してもらう一歩なので、国連憲章は現在193か国が批准している国際的にも存在感の非常に大きな国際法です。実際にIR3041のエッセーの時も全加盟国が承認している国連憲章を根拠に安保理の正当性（→権限につながる）を論じたりとかもしたのですが、この憲章を読むとこの70年間の世界の姿が見えてきたりします。
特に面白いのが、武力行使に関する規定です。憲章51条で認められている唯一の武力行使は「自衛権」を行使する際であって、つまり「報復」は国際法で認められていません。この「自衛権」の定義がすごくあいまいで、現在の根底になるのは19世紀からの慣習（ウェブスター見解）になっている自衛権が行使できる定義ですが、テロ以降もっと防衛というより先制攻撃も認められるようになってきたりと、その状況と主張する国の立場によって、国際社会の規範が大きく左右されます。
基本的には国際法は、国家は何ができるのか、どのように振舞えばいいのかなどの指針となっているので、国際関係学を学ぶ上では非常に大切なものだと思います。なかなかカオスな学問ですが、あくまで聴講なので楽しみながら学んでいきたいと思います。

○チュートリアルについて
アメリカの授業と大きく違う点が、この「チュートリアル」の存在です。
チュートリアルとは、学生7-10人に対し教授が一人と非常に少人数で行われるディスカッションの授業で、たいてい教授の研究室で行われます。文系のほとんどのモジュール、そして理系のモジュールでもあったりします。チュートリアルでは、通常課せられていたリーディング課題について教授のリードのもと話し合います。自分がとっているモジュールでは、歴史も国際関係学も両方モジュールがあるので、歴史は週3時間の講義＋チュートリアル1時間、国際関係学は週1時間の講義＋チュートリアル1時間という感じです。

アメリカでの講義と違って、こちらの講義の時間は教授がひたすら話し続けるので学生が意見を言ったり質問をしたりするケースはほとんどありません。その分、アウトプットをする場としてチュートリアルが独自に設定されているわけです。
生物と歴史のクラスはたくさんの教授が講義を担当するのでいろんな先生の話を聞いてきましたが、講義も結構フォーマルなことが非常に多いです。基本的に教授は話すことを何ページにもわたって紙に印刷して用意してきていて、それを丸読みすることはありませんが、しっかりしたスピーチのような口調で話しているので、結構自分の世界に入ってひたすら話し続ける先生が多い気がします。正直もっとインタラクティブでプレゼンのようなアメリカの講義に慣れていた自分にとっては聞き取りにくく感じてしまうことがあります。ただいわゆる大学の講義といえば、いま自分が受けているようなものが普通だと思うので、甘えずしっかりどんなスタイルでも対応できるようになっていきたいと思います。

○まとめ
ずいぶん長い記事になってしまいましたが、以上で現在学んでいることの紹介としたいと思います。
9月号で紹介したように英国の大学は基本的に1年次から学科が決まっているので、自由に科目が取れるアメリカに比べて、3年生用のモジュールになると周りの学生のそれぞれの科目に対して基礎が非常に固まっているように感じました。特に国際関係学に関しては、専攻であるにもかかわらず自分の知識の未熟さを痛感する日々です。このような専門性を求め自分自身を磨いていくコミュニティーも素敵だなと思います。自分自身はあくまで色々なことに興味があるので、生物、歴史、国際関係学という別々の学科のモジュールをとっていますが、一つ一つの分野で専門性が求められている以上、しっかり自分を磨いていきたいと思います。

次月号ではセント・アンドリューズでの生活や環境などについても紹介できればと思っています。 では！

◇ 2016年9月 スコットランド編：異なる大学システム

9月号です！
今月号からは英国、スコットランドのセント・アンドリューズ大学での交換留学について紹介していきたいと思います。
交換留学の概要や意義、プロセスなどは6月号で紹介させていただいたので、そちらもあわせて参照してください。

〇セント・アンドリューズ大学について
まずは簡単に改めてセント・アンドリューズ大学について紹介したいと思います。
セント・アンドリューズ大学は1413年に創立された英語圏で3番目、スコットランドで最古の大学です。スコットランドの首都であるエジンバラから車で1時間半ほど北に行ったところに位置しています。学部生の数は7000人ほどでそのうちの4割が留学生といわれています。特に、アメリカ建国時代に活躍したアメリカ人が多くセント・アンドリューズで学んでいたことからアメリカ人の割合が非常に高く、大学を歩いていても普通にアメリカ英語をよく聴きます。国内ランキングでもオックスフォード、ケンブリッジに次いで3位や4位にランクインするなど、英国全体でもトップの大学です。中でもコンピューターサイエンス、哲学、物理学、政治学、心理学、神学などの分野においては国内トップです。

〇大学の仕組み
a．学部
英国の大学は、リベラルアーツ教育を行うアメリカの大学とは対照的で比較的日本の大学に似ています。大学受験は基本的に学科を受験するという形で、明確な学びたい志望理由やその学問に関連する高校時代の科目の成績が最重視されます。この科目の成績というのも、高校の最後の2年間で行われるGCE A Level（イングランドの高校課程）やSQA Higher（スコットランドの高校課程）、IB（国際バカロレア）などの最終試験の成績で、規定以上の点数が取れていると入学できるというような形です。つまり言うなれば、高校1年生ぐらいの時には大学で勉強したい科目をそれなりに決めておかなければいけないわけです（日本の文理選択に近いかもしれません）。
そのため、アメリカではCollege of Arts and Sciencesなど全員が「教養学部」に入ることからあまり「学部」の概念がないのと対照的に、学生は学部に所属します。セント・アンドリューズ大学では、Faculty of Arts（文学部）, Faculty of Sciences（理学部）, Faculty of Divinity（神学部）, Faculty of Medicine（医学部）の4つの学部に分かれています。卒業時の学位もこの分け方で、その中に様々な学科が存在する仕組みになっています。

b．モジュール
イギリスの大学ではクラスのことを「モジュール」と呼びます。
例えば僕は今学期に3つ授業を取っているので、3モジュール履修しているという表現をします。こちらの履修システムも、専攻というガイドラインのみが与えられているアメリカのそれとはだいぶ仕組みが違います。
一般の正規生は、入学時から学科に属し特に1、2年生（First Year, Second Year）は決められた基礎モジュールを取ることが多いです。国際関係学科で言うならば、国際関係論をはじめとした基礎的な知識をしっかり2年間で学び、その後の専門課程に備えます。しかし、ひたすら国際関係学を学ぶだけではなくて、どの学科だとしても必ず各学期1モジュールは学科に関係のないものを取ることができます。通常、アメリカのダブルメジャーや専攻・副専攻システムのようにJoint Degreeといって2つの学科を修了することもよくあるので、その場合は決められた順序に従って両方の科目のモジュールを取る形になります。
3、4年生の専門課程のことをHonoursといいます。こちらでは必修というより自分で取りたいモジュールを選択して、より自分の興味ににあったことを学んでいきます。また修士課程が1年間なので、そのまま5年間で修士まで取ってしまうことへの敷居が非常に低いです。ただ、成績を維持しないと修士課程に進級できないという話も聞きました。ちなみに、イングランドでは学部は3年で修了できますが、スコットランドは4年間です。その分専門以外の学問にも触れつつ大学生活を送ってほしいという狙いなのでしょう。また国際関係学科の例を使うと、1、2年生の間は国際関係学に関する科目は各学期1モジュールしかとらないので、残りの2モジュールは自由にとりたいものを取ることができます。
ちなみに交換留学生は医学部以外のどの科目を取ることも可能です。

c．単位制度
英国全体で統一された仕組みなのですが、こちらでは一年間で120単位とることが基本になっています。そして、各モジュールは10単位から30単位あるので、大体1学期に2〜3モジュール履修します。1、2年次は20単位のモジュールが多く、Honoursになると30単位のモジュールになります。 ちなみに自分は20単位、20単位、30単位の合計70単位を履修しているので人より多く、結構大変です。単位数が増えるほど、自分で自習をしたり準備をしたりする要求レベルが上がります。

d．週当たりの授業数
大学での生活が大きく異なる点はここにあります。
セント・アンドリューズ大学では授業数が圧倒的に少ないです。1、2年生のモジュールの場合は週3時間講義がある場合がよくあるのですが、Honoursになると講義は週1時間しかないことが普通です。その分、自分で計画的に勉強をしなければいけないわけです。これは週当たりの授業時間数と単位数がほぼ一致するアメリカとは対照的です。自分の場合、週の前半に授業が固まっているので、木曜日は1時間、金曜日に至っては全く授業がありません。

〇オリエンテーション
さて、一通り大学の仕組みについて説明させていただいたところで、9月の頭に行われたオリエンテーションについて紹介したいと思います。

9月2日に日本を出発し、まずはパリへ。フランスには8年前に少しだけ行ったことがありましたが、その時はほとんど観光できなかった上に、パリは初めてだったこともあり、せっかくフランス語を2年間やっていたので、2泊だけパリに滞在しました。過去2年間、長距離便に乗ればアメリカに行っていたので、今回もどうしてもその感覚が抜けませんでしたが、パリに降り立って街並みを見ると、ようやく「ヨーロッパに来た」という風に体で感じることができました。

さて、9月4日にセント・アンドリューズに到着し寮に入りました。
2年前にアメリカの大学のオリエンテーションについて紹介させていただきましたが、こちらのオリエンテーションはそれとはだいぶ違います。アメリカでは寮のフロアでグループを作り、朝から晩までさまざまなプログラムが組まれていてグループで行動します。そのため、そのオリエンテーションのグループが大学で最初に仲良くなる人たちです。
一方こちらでは、1週間を通して色々なイベントが企画されていますが、すべて自由参加で、グループもなければ組まれたスケジュールも存在しません。興味のあるものがあれば参加していいよといった感じです。そのため、特に寮の部屋の近い人たち同士で集まったり、交流したりする機会はありませんでした。そのぶん、食堂とかで会うとみんな初対面でも積極的に話しかけていて、知らない人と隣に座ったりと、一人一人が知り合いを増やす工夫をしているような印象を持ちました。

5日の午前中にはまず文学部・神学部生用のOpening Ceremonyと呼ばれる入学式のような催しが行われました。大きなホールに新入生が集まり、校長、学部長、教授代表などのスピーチがあり、コーラスのパフォーマンスもあり、最後には校歌を歌いました。
その他に、午後にはMatriculationと呼ばれる、入学手続きが行われました。基本的に交換留学生も新入生と同じ要領でオリエンテーションが行われます。事前に、オンラインで個人情報やパスポート情報の入力などを済ませて、Training in Good Academic Performance (TGAP)というオンラインコースを受ける必要があります。このTGAPは、大学での学びについて紹介したり、アカデミック面における盗用や不正に関するルールを紹介したりするものです。
それを踏まえ、手続きではパスポートチェックを行い、指定された時間帯にAdvisingを受けます。Advisingでは、あらかじめ考えていた履修したい授業が取れるかどうか相談して、履修登録を行います。ウィリアム・アンド・メアリー大学では一人一人に教授がアドバイザーとしてついて、色々相談したりしますが、ここで言うアドバイザーとは単に履修登録をしてくれる人のことだそうです。Advisingでは、学科ごとに担当の教授が何人かいるので、自分が履修したい学科のところへ順番に回っていって、登録してもらいます。

そして、授業が開始される前日の11日にはOpening University Chapel Serviceに参加してきました。St Salvator’s Chapelという大学の大きな教会で行われ、開始前には、鐘がカランコロンと街に鳴り響いていました。学長も参加する礼拝で、讃美歌の合唱、聖書朗読、教授の説教などがありました。説教では、新学期の初めに際し、文学部、理学部、神学部、医学部のそれぞれがそれぞれのアプローチ方法で知を追い求めつつも、大学として4学部一体となって前に進んでいくことの重要性を話していました。
11時から1時間ほどの礼拝が終わり、その後12時からは大学の目玉行事の一つであるPier Walkが行われます。これはその名の通り近くの海に突き出た桟橋（防波堤）を歩く行事です。セント・アンドリューズの学生は皆赤いガウンを持っていて、このPier Walkやそのほかの正式な行事にはこれを着て参加することが多いです。ぼくもガウンはありませんが参加してきました。
赤いガウンになった理由は、長い数百年の歴史の中で忘れられてしまいましたが、この防波堤を歩く伝統は、昔近くで船が難破してしまい、それを決死で助けに行った人が、その後ちょっとして死んでしまったことを祈念して始まったといわれています。また、このガウンの着方にも伝統があって、
・まだぴちぴちの1年生は、ちゃんとぴっちりガウンを羽織り、
・少し学校に慣れてきた2年生は、ガウンを少しだけ緩め、
・専門的な勉強を始める3年生は、文系の人は左肩を出し、理系の人は右肩を出し、
・もうすぐ卒業する4年生は、両肩を出して脱げそうになりながら羽織ると決まっています。
ちなみに、3年生のところの左右の覚え方は、文系は心（心臓は左にあるので）を追求する学問で、理系はハート（感情）ではなく合理性を求めるからだといわれています。学期中は基本的に毎週行われますが、この最初の週末のPier Walkが最大で、観光客が写真を撮りに来るほど有名な行事です。

さて、ウィリアム・アンド・メアリー大学も320数年の歴史があり、その中で培われた伝統が数多く残されている大学ですが、セント・アンドリューズ大学は600年を超えるものすごい歴史があります。また、中世の大学では神学を教えることが非常に重要な役割だったこともあり、スコットランド最古の大学を持つセント・アンドリューズはスコットランドの宗教の中心地でもありました。そうした、歴史と伝統に育まれた町で4か月を過ごすことができるのは、本当に素敵なことです。
石造りの建物に囲まれた町を歩けば、どこからバグパイプの音が聞こえてきたり、教会の鐘の音で時刻が分かったりと、日本やアメリカでは考えられないような生活を送ることができています。新たな環境、文化の地で、新たな学問への向き合い方を学び、今後も視野を広げていきたいと思います。
10月号では、恒例の授業紹介などを通してよりアカデミックなことをお伝えしていきたいと思います。

では！

◇ 2016年8月 HLAB特別号その2

8月号では、実際のHLABサマースクールの期間中に感じたこと、サマースクールを終えた今感じることなどを中心に書いていきたいと思います。

〇期間中のプログラム
8月11日、まずは海外大学生を迎えて全地域の全大学生による準備期間「イントロ」が開始しました。8月の上旬は使用する施設の下見に行ったり、講演にご登壇いただくスピーカーの方と打ち合わせを行ったり、みんなも期間中に配布する資料を印刷したりと、準備が続きました。それを踏まえ、最初の数日間は大学生間で最終調整を行う緊張の数日間です。
そして14日、80名の高校生を迎えサマースクールが開始されました。具体的なプログラムのコンテンツや雰囲気などに関しては昨年の8月号やホームページ（http://tokyo.h-lab.co/playback-2016/）を参考にしていただきたいですが、個人的な印象としては本当にあっという間の9日間でした。去年も同じことを言ったと思いますが、とにかく必死で9日間を過ごしていくといった感じです。しかし、それと同時に今まで何か月も運営メンバー全員で準備して準備してたどり着いたサマースクールであり、楽しくてしょうがなかったことも事実です。実際、毎日毎日朝起きると一日の流れを頭に巡らせ、今日は今まで企画書の中だけにあったこのプログラムが現実となって高校生へ届けることができるんだ！と思うと感無量でした。
当然、自分には特定の担当も持っている企画もないので、期間中それに向けて動いていくわけではありません。主に自分の役割として持っていたのは、ゲスト対応や高校生に向けた朝集会と大学生に向けた夜のミーティングのファシリテーションです。昨年度は大学生メンバーではあったものの基本的には高校生と常に時間を過ごす場面が多く、運営に関しては携わっていなかったので、まったく違った側面からサマースクールを見ていました。運営委員長という、裏の裏まですべてを把握し統括を行うポジションにいることで、HLABを根本から見つめる機会になったのも事実です。目先のことにとらわれず、常に初心に立ち返ってビジョンを確認する作業を繰り返すことで、高校生にとって、大学生にとって、そしてHLABにとってベストな形は何なのか模索することが多かったです。

〇高校生
やっぱり高校生と向き合う時間は本当に大切な時間です。
高校生の前では「委員長として」などといった肩書は関係ありません。一人の人間として高校生たちと真剣に向き合い、それと同時に心の中では自分自身とも向き合っている感覚があります。もちろん自分より様々な面において豊富な経験や知識を持っている高校生もたくさんいます。そんな中で、自分が高校生の時何を感じたのか、3年前のサマースクールでは何を思ったのか振り返りながら話していると、自分自身の根を見つめる機会にもなりました。
特に、去年も大学生としてHLABに関わっている分、自分自身の変化に気づくことができます。去年の場合、海外大学を受験し、アメリカの大学で1年間過ごしてきた経験があったのは事実ではあったものの、結局は1年間しか大学生をやっていないし、自分が学びたいと思っている国際関係学や海洋学の知識もまだまだ初心者レベルでした。もう1年アメリカで生活をする中で、ただアメリカに慣れただけではなくて、知識もついて経験も増えたことで、気持ちや考え方が大きく変わったと思います。（ちょっと脱線しますが、実際アゴスの留学レポートや説明会で話す留学から学んだことが毎回変わるのは、それだけ毎学期自分が大きく変化し、成長している証なんだなと思ったりします。）1年前には伝えられなかったことを思い、この1年間を振り返る機会にもなりました。きっとまた来年も全然違う思いを持って夏休みを迎えるんだと思います。
高校生と話すのは純粋に楽しいです。大学生になってしまうと高校生と接する機会なんてほとんどない訳だし、自分の経験が増えれば増えるほど、今の高校生に伝えたいことも増えてくる気がします。疲れているときでも廊下で高校生に話しかけられてそのまま廊下に座っておしゃべりしたりしているだけでも疲れが吹っ飛びます。
80人全員が色んな想いをもってサマースクールに参加してくれているし、一人一人の価値観や経験がサマースクールが最も大切にしている「多様性」を作ってくれているのを強く感じたのが、閉会式で代表としてスピーチをする高校生を選ぶときでした。閉会式の2日前に閉会式の企画を担当する大学生メンバーと分担して高校生一人一人と15分ほど面接を行いました。全員と話をした中で共通して感じたのが、それぞれが本当に強い想いでこの期間を過ごしてくれていて、ここで学んだことを他の参加者と共有したいという気持ちを持っていることです。中には期間中十分に自分の実力を発揮できなかったことを後悔している高校生もいたり、今後の夢を見つけたのでその決意表明をしたいという高校生もいたりして、サマースクールを通して得た感情は千差万別ながら、全員が「来てよかった」と思ってくれていることが素直にうれしかったです。15分では聞き出しきれないそれぞれのあふれる思いを感じることができた瞬間でした。

〇サマースクールを終えて
サマースクールを無事にやり遂げることができて、正直少しだけホッとしています。
昨年秋に委員長に就任してからの自分の変化があまりにも大きくてすべてをきれいに整理しきれませんが、今までの経験から思うことを書いてみたいと思います。
まずは、人として学ぶことがたくさんあったこと。本当にこの10か月間ほどいろいろあったし、最初は分からないこと・やったことのないことだらけだったので、新しく吸収することが本当に多くて、常に学びっぱなしの時間でした。サポートしてくださっている方々への渉外活動をやり遂げる力、効率的に複数のタスクを同時並行で回して行く力、周りの人が動きやすいように情報を伝達する力など。特に、「仕事」をする上でのマナーなどは一から学んだ気がします。社会人の方々への応対の仕方、メールの書き方、名刺の渡し方から始まって、支援していただいているということはどういうことなのかなど、気持ちの持ち方なども周りのHLABの人たちからたくさん学びました。しかし、初めてのことに直面するたびに自分の未熟さを痛感するとともに、こうしてそれに気づき成長できる環境にいることにありがたさを感じる日々でもありました。

そして「委員長」という立場を通して感じたこと。
先ほども少し触れましたが、これだけ根本からHLABの活動に携わっていると本当に多くの方々が協力してくれている事実を強く強く感じました。7月号にも少し書きましたがサマースクールを作るためにはたくさんの工程があって、自分たち学生にできることは基本的にはアイデアを出して内容を作っていくことだけで、お金や施設の面で支援してくださったり、理念に共感してお忙しい中プログラムに参加してくださったり、こうしたサポートがなければ実現することは全くできないということです。
それプラス委員長として大切にしなければいけないのは、ともにHLABを作ってくれた大学生のメンバーへの感謝の気持ちだと思います。委員長の仕事は簡単に言うと、とにかく周りの人に助けをお願いし、周りの人に感謝をする仕事なのかなと思って、自分の中で最初に打ち立てたビジョンをもとに、チームのメンバー一人一人にとって活動しやすい環境になっているか、どうやって周りのモチベーションを上げていくかに配慮し続けることに注力し、逆に自分がガンガン作業をしていくこととは違うのかなと思っていました。小さなことから一つ一つの協力に感謝していくことは本当に大事だなと感じました。
また、常にどんな時でもやっぱり委員長として見られているわけなので、自らが常に先頭に立って行動をとらなきゃいけないし、できるだけ明るく振舞うことが大事なのかなと感じました。すこし傲慢な言い方かもしれないんですが、やっぱり委員長である自分自身が楽しめていなかったらみんなが楽しめるプログラムを先導していくことなんてできないんじゃないかなと思い、自分の気持ちを奮い立たせて全力でプログラムに取り組んでいました。期間中もどうしても大変なこととか必死になり過ぎていっぱいいっぱいになってしまっている瞬間は何度もありました。これは去年も感じたことなのですが、そんな時こそ笑顔で元気に振舞っていれば自分の気持ちも楽しくなってくるし、周囲にも不安を与えなくてすむのかなと思っていました。特に困難が発生した時は、成長するチャンスだと捉えてノリノリになる必要もあるのかと思います（普段はただテンションを上げていればいいということではないと思います。一つ一つの事柄に対してまじめに、きっちりきっちり取り組むことが大事ですが、極限状態になるとそれを越えて、こうした心の持ちようが大事になってくるように感じたということです）。
気持ち系のことが多いですが、サマースクールを終えた今、こういうことを率直に感じています。

〇まとめ：人と人をつなぐ場
今回の活動を通して、自分は人と人をつなぐ場を作っていくのが好きなのかな、と改めて感じました。例えばウィリアム・アンド・メアリー大学でアメリカ人の友達と共に立ち上げた団体、ICE(国際文化交流会)でも、留学生や異文化に興味を持つ学生など多様なバックグラウンドを持つ学生にとって自由に交流できる場所を提供することで、そこから新たな出会いや発見が生まれることを目指していました。さらに「ウィリアム・アンド・メアリー万博」という形でいろんな団体を集めパフォーマンスショーを開催したのも興味の範囲を広げてもらう一助になりたいと思っていたからでした。HLABもそういう場で、今まであったことのなかった百数十人が一堂に会すことで実に色々なものが生まれます。このような場を作った結果、作りだされるものは非常に魅力的です。
たぶん、自分が実際2013年のHLABに高校生で参加した時にそうだったのが根底にある気がします。今まで多様な人たちとの出会いから多くのことを得られるということにそもそも「気づく」ことすらできていなかった事実を自覚したのがあの時でした。それから、自分が体験できたことが原動力となり、こうした場を通して何かに気づき、新たな一歩を踏み出してもらいたいと感じるんだと思います。そういう面では教育に携わるのはやっぱり面白いなと思います。

〇最後に
ひたすら自分の想いを綴り続けた結果、若干取り留めのない記事になってしまいましたが、このHLABの経験から感じたことを率直に書き留めさせていただきました。
とにかくHLAB TOKYO 2016の運営委員長として関わらせてもらったこの時間は最高の経験になりました。本当に貴重なことを経験を積ませてくれたHLABとそれに関わる魅力的な人たちに感謝したいです。まだこれから今年のHLABを分析して来年度に引き継いでいく大事な作業が残っていますが、この区切りで一度振り返らせていただきました。

ちなみに、ただ今9月初旬より英国セント・アンドリューズ大学に交換留学で来ております。9月号からはこちらでの学びについて紹介させていただきます！

では！

◇ 2016年7月 HLAB特別号その1

大変遅くなり申し訳ありません、7月号です！
今年に入り、アゴスのブログの更新が遅れてしまうことが多々ありましたが、それだけ忙しく去年の12月から自分の生活の大きな部分を占めていた活動について、今回は振り返る機会を持ちたいと思います。

実は、今年の夏はHLAB TOKYO 2016の運営委員長を務めておりました（http://tokyo.h-lab.co/）。HLABは、簡単にまとめると、高校生向けの「リベラルアーツ」をテーマとしたサマースクールの運営などを通して、「高校生・大学生・社会人のボーダーを越えた交流」の場づくりを行っている団体です。アゴスの横山代表からもHLAB監事として多大なるサポートをいただいております。ぼくは2013年に高校生としてサマースクールに参加して以来、昨年は大学生メンバーとして関わり、今年も引き続きHLABに関わっていました。
この留学レポートでは、7月号と8月号の2回にわたり運営委員長として過ごした10か月について、素直に率直な想いをまとめてみたいと思います。7月号はサマースクールまでの期間について振り返ります。

〇運営委員長に就任
この長い夏が始まったのは去年の11月末でした(今でも忘れられない、サンクスギビングの当日です)。
昨年度運営委員長より「2016年度の運営委員長をやらないか。」と声がかかったのです。正直めちゃめちゃびっくりしました。自分の中でも8月にサマースクールを終えた後、名残惜しさはあったし、引き続き関わりたいという思いはあったものの、盲目的にもっと多様な活動をしなければいけないという思いがあり、2016年はHLABに携わるつもりはありませんでした。
それでも、昨年度運営委員長や一緒に活動してきた仲間とスカイプしているうちに、運営委員長に興味を持ち始めました。多様な活動という面でも、他のプログラムに参加したりして経験を積むにしても「参加者」としての立場は変わらないので、それよりも、大きなプロジェクトを委員長として引っ張り、「運営側」に回ることで、たくさんの新たな経験ができると感じるようになりました。
その一方で、そうそうたるメンバーが務めてきた運営委員長というポジションに自分が就いてよいものか、自分が委員長をやる意味はどこにあるのか、とても悩みました。果たして自分で本当によかったのかはHLAB TOKYO 2016は一度っきりなので今でもわかりませんが、過去に築き上げてきたものとそれをさらに発展させていく必要性によるプレッシャーは大きかったです。
それでも、「教育」の形で得てきた経験を次の世代に活かしたい、今まで多くのことを学ばせてくれたHLABに貢献したい、という思いを持ち、自分なりに自分が委員長になることに納得できたので、運営委員長になることを決意しました。振り返ってみると、中高と国際バカロレアのカリキュラムの下で学んだあとアメリカの大学に進学したことで、教育の形などに関してそれなりに主体的に考えてきたし、2013年に高校生で参加した時も「教育」についていろんな人と意見を交換したな、なんてことを思い出し、色々しっくりきました。

〇運営に向けた基礎作り
12月に帰国後、まずは東京以外で行われるHLABサマースクールの運営委員長をはじめとした、運営チームを結成する前から中心となって活動を行う「学生ボード」のメンバーと顔を合わせ、早速活動が始まりました。12月末に大学生運営メンバーの募集を締め切り、1月から3月にかけて面接を行っていくので、HLAB TOKYO 2016で何を目指したいのか、どんなチームを作っていきたいのかといったビジョンを考え、基礎を作っていきました。
昨年8月号でも紹介させていただきましたが、やはり自分が一番大切にしたかったHLABの本質が、たくさんの魅力的な高校生や大学生、社会人との出会いから得られる「気づき」の場なので、このサマースクールが参加者全員にとって今後のエネルギーの源になることをビジョンとして打ち立て、準備を進めました。
実際に1月になり運営メンバーに募集してくれた大学生との面接が始まりました。今まで面接を受ける側に立ったことは何度もありますが、最初のころは面接する側として初めて会う人に質問を考え、会話から本当の姿を引きだすのに苦戦しました。一人一人がみんないろんなことを経験し、いろんなことを考えていることを普段の会話以上に気づくことができるのが面接の面白いところです。面接官側の視点に立つことができる貴重な経験となりました。

〇アメリカから遠隔での業務
1月下旬にはまたアメリカに戻り、学業を続けながら遠隔で準備を進めていきました。特に運営メンバーが決まりチームを結成する3月までの間は、副委員長と連絡を取りながら今後のスケジュールや実際のサマースクールのプログラムの企画を考えたりしていました。またオンラインで学生ボードのミーティングなどもあり、今年の前半の号でお伝えしたようにアメリカの大学の方でも課題が多かったり色々活動してたりもしたので、ものすごく忙しかったです。
3月にチームを結成した後は、結成時にHLAB全体で行った合宿に向けてビデオメッセージを作成したり、東京メンバーで毎週行うミーティングに朝6時半から参加したり、オンラインでできることを行いました。しかし、正直オンラインですべて行うのはなかなか苦労しました。やはり、直接会って話したことのない人が大半の中で、オンラインでコミュニケーションをとっているとどうしてもゆっくり一人一人と話す時間がなかったり、仕事の内容に終始しがちだったりと、どこまでみんなにとって「運営委員長」として存在できているか悩むこともありました。また時差もあるので、朝起きた時に日本の日中で起こったことをメールなどで確認し、対応の必要なものに関してはすぐに対応したあと授業に行って勉強したりしていました。
その一方で、現在日本で起こっていることを常に客観的に観察できたのは強みであったように感じます。特に委員長として大切にしたかった役割の一つが常にビジョンを忘れないことでした。みんなが書いてくれた企画書を一つ一つ読みながら、ただ企画が回るかを確認するのではなく、高校生にとって最も有意義な時間を過ごすにはどんな環境を作ればいいのか、みんなで考えたゴールを達成するためにできることはないか、に主眼を置きフィードバックを行ったりしました。常にチームのみんなと一緒に準備作業に終われていたりすると見落としてしまいがちな初心は何だったのか、一人キャンパスを散歩しながら振り返ったりしたのはいい思い出です。

〇遂に帰国
5月31日に2年生を終えて日本に帰国し、夏休みが始まりました。
やはり東京にいることで、多くのメンバーと実際に顔を合わせながら作業を行ったり、またミーティング以外の時間や合宿で一人一人とHLAB以外のことをじっくり話したりできたのは、自分の気持ちの面でとてもやりやすかったし楽になりました。
またそれと同時に、今までは画面の前や文章の中だけでよかった委員長としての振舞いですが、帰国してからは常に意識する必要がありました。コミュニケーション一つとっても、委員長として人前に立って話すこともよくありますし、運営メンバーに何か作業をお願いする際の指示出しなどいろんな場面で意識することが必要になってきます。今まで何気なくやっていたことをもう一度オーディエンスを考慮することで、的確に情報を伝達しメンバーが動きやすいように努力しました。

自分の中で大切にしたいと思ったのは、一人一人の運営メンバーへの信頼です。今年の運営では一人一人が運営に関する担当を持ち、それに関してオーソリティーを持ってもらいました。担当というのは例えば、サマースクール期間中のプログラムの立案から実施、施設や食事、高校生からの問い合わせメール対応など様々です。個人的な経験として、高校時代に行っていた活動でトップダウンで物事を進めすぎたという反省があるので（設立からスタートしたということもありましたが…）、いかにそれぞれのやる気と責任感を引き出していくのかが大事なのかなと思うようになりました。また、委員長の役目というのはメンバーが活躍できるリソースや環境を整えることなのかなと思ったりして、スケジュールの管理やリマインドをしたり、何か相談があったときには即答えられる体制を作ったりして努力しました。結果、自分自身はあまり手を動かさなかったのでちょっと寂しさもありましたが、チームメンバーの活躍によって自分は安心していられました。

〇サマースクールを作り上げるということ
9日間のサマースクールを作ると一言で言ってもその裏には膨大な数のタスクがあります。まず大きなところで言えば参加者を集めたり、予算や会場を確保したりしないといけない。サマースクールに参加する高校生や運営を担ってくれる大学生、そして期間中の講演企画などに来ていただく社会人のゲストの方など。そして、高校生を集めるには広報が必要。広報を行うためにパンフレットとポスターを製作したり、SNSに投稿したり、説明会を行ったり。説明会を行うには、会場を確保し、運営してくれる大学生に仕事を分担したり当日の詳細な動きをまとめた資料を作成したり…などなど大きなタスクを達成するために複数のタスクがあり、それもさらにたくさんのタスクが完了することでようやく一つの形になっていきます。こうした一覧表にすることも出来ないような量のタスクをチーム一丸となって行っていくことで、ようやくHLABサマースクールという、HLABが目指すビジョンを体現する一つの場が作り上げられていくわけです。
やり方も一つではありません。今年でサマースクールを東京で行うのは6回目でしたが、みんなそれぞれが今年のHLAB TOKYOを目指し、前年度までとはまた違った自分たちらしいプログラムを作り上げました。つまりマニュアル通りではなく、みんなの工夫と想いに支えられて運営されています。その中でも、例えば喫緊の資料作りに追われてとにかくこのタスクを完了することがどうしても目的化されてしまうことがあります。そんな時に、そもそも今パソコンの画面に向かっているのは、8月に高校生のとって最高のプログラムを提供するためだということを思い起こしてもらうのが委員長の役目です。できるだけ長期的な視野でスケジュール感をつかみ、常に冷静に状況を客観視して運営に携わる力を委員長として見につけることができたのかなと思います。

〇まとめ
ここまでサマースクールに向けた運営に重点を置いて振り返ってきました。次号では実際の期間中で感じたこと、期間を終えた今思うことを書いていきたいと思います。

◇ 2016年6月 海外留学について


6月号です！
実は、3年生の秋学期で交換留学へ行くことが決まりました！行き先は今何かと話題のイギリスです。9月から4か月間スコットランドのセント・アンドリューズ大学で学ぶことになります。
「留学先からの留学」という形になりますが、今月号ではウィリアム・アンド・メアリー大学における海外留学についてお話ししたいと思います。

○なぜ海外留学なのか
ぼくが9月から留学をするというと、アメリカでも日本でも多くの人がすでに留学しているのに！と驚きます。しかし、すでに留学している場合でも大学では分け隔てなく海外留学の機会がある以上、その機会を活用しない手はありません。
自分が海外留学に行こうと思った理由はいくつかあります。まず第一に、そもそも自分がアメリカの大学に進学しようと思ったのが、日本に限らず世界中から知識を得たいと思ったからです。実際英語で得られる情報は日本語で得られるものに比べて圧倒的に豊富であるし、先進的です。それ以上に例えば春学期履修していた国際安全保障学の授業であれば、将来的に国務省や国防省に入ってアメリカの行く末を担っていくような学生と共に、DCの安全保障学の中心にいた教授から学ぶことができたのは非常に貴重な経験です。文字情報以上に膨大な知識を得るにはやはりその場に行って人と話をすることが大切になります。そうした本来のアメリカ大学進学の目的の延長線上に、今度は様々なものの発祥の地、中心の地でもあるイギリスの大学に行って同じように様々な知識や情報を体で感じたいと思うようになりました。
2つ目に国際関係学を学んでいる以上、アメリカ以外の視点からもこの学問を見てみたいと思うようになりました。特にイギリスの場合、英国学派と呼ばれる歴史や政治思想を重視するアプローチ方法があるので、実際にどこまで大学でそれが実践されているのかはわかりませんが、新たな視点から国際関係学を学んで自分の理解を深めてみたいと思います。
3つ目に何より長い歴史を持つヨーロッパで過ごしてみたいと思うようになったのも正直なところです。ウィリアム・アンド・メアリー大学はアメリカでももっとも歴史の長いバージニア州に位置し、大学周辺には建国の中心となった遺構が数多く残っています。ヨーロッパにはそれ以上に千年以上の歴史があるところが多く存在すると思うので、そうした歴史を感じながら、今まで、そしてこれからの国際関係を考えてみたいと思います。
4つ目に勉強面だけでなく、やはり留学を通して得られる価値観も大切にしていきたいです。アメリカに2年間いると、アメリカの人々の考え方やその地で生きる「勝手」が徐々にわかってきます。アメリカの大学におけるチームの運営の仕方から大統領選の話、地元で一番おいしいサンドイッチチェーン店まで、こうしたことは実際にアメリカ人の友達と一緒に時間を過ごさないと感覚としてつかめてこないものが多いです。このように勝手がわかっている地域を世界の中で増やしていくことで、今後いろんなところで活躍していけるようになりたいと思っています。この留学ではイギリス、そしてヨーロッパの勝手がわかるように人々と交流を重ねていきたいです。

○セント・アンドリューズ大学について
セント・アンドリューズ大学はスコットランドの首都エジンバラから車で1時間半ほどにある街、セント・アンドリューズにある大学です。1413年創立で、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学に次いで英語圏では3番目、スコットランドでは最古の大学になります。セントアンドリューズはゴルフ発祥の地として有名で、全英オープンで使用されるOld Courseと呼ばれるゴルフ場はゴルフの聖地といわれています。
学部7000人ほどの中規模大学ですが、45%がイギリス国外出身、またアメリカとのつながりが強いことから15%がアメリカからの留学生といわれていて、非常に国際色豊かな大学です。最近の卒業生で言うとイギリス王室のウィリアム王子とキャサリン妃がいます。

自分がセント・アンドリューズを選んだのは国際関係学が非常に盛んだということと、海洋生物学が単独の学科として存在するからです。アメリカとは全く違う環境でこれらの学問がどのように扱われているのかとても楽しみにしています。また、600年以上の歴史を持つ大学ということで、近くには大聖堂の遺跡があったり、ゴルフの発祥の地だったり、すぐ近くには砂浜があったりと、とても素敵な街のようなので9月以降セント・アンドリューズ大学の魅力をたくさんお届けできればと思います。

○海外留学について
日本の大学では近年1年間の交換留学という形で海外の提携校に留学することが比較的人気になってきていて、大学や学部によっては必修のところも出てきていると思います。アメリカでも交換留学の重要性は十分認知されていて、アメリカの大学を選ぶ際、海外留学の機会が多く、多様な提携校が存在することは進学の一つの決め手になります。それくらい、海外留学は大学にとって大事なプログラムでもあります。ウィリアム・アンド・メアリー大学でも同様で、この大学では約半数の学生が何らかの形で在学中に海外留学を経験するといわれており、これはアメリカの大学の中でも非常に高い比率です。
特に、2019年卒業からスタートした新しい大学カリキュラムであるCollege Curriculum では、3年次に海外留学かそれに準じる形で異文化での経験を積むプログラムを履修することが学生全員に求められることになりました。その結果、今後ますますウィリアム・アンド・メアリー大学では海外留学が盛んになっていくことになりそうです。

ウィリアム・アンド・メアリー大学には3種類の海外留学が存在します。まず一つ目が夏休みに1か月ほどの期間で行われるW&M Summer Programsです。基本的には海外の「大学」に留学に行くというよりも、「都市」に留学するという形でウィリアム・アンド・メアリー大学の教授が現地ならではのクラスを教えます。現在15か国で18のプログラムが行われています。
そして学期もしくは1年間の留学する場合、学費の支払先によって種類が別れます。ウィリアム・アンド・メアリー大学に通常通り学費を支払う場合の留学がTuition Exchange Programになります。大学が州立大学のため、主に州内の学生がこの制度を利用します。3種類目がAssisted Enrollment Programです。これは、多くの場合海外の大学の学費のほうが安いため、直接留学先の大学に学費を支払う場合の留学方法です。どちらの制度であっても留学できる大学とTuition Exchangeでしか提携していない大学もあります。合わせて11か国16大学と提携しています。
例えば、日本の大学だと慶應大学と秋田の国際教養大学の2校と提携しており、9月からの1年留学と4月からの1学期留学の2種類あります。どちらもTuition Exchangeのため、ウィリアム・アンド・メアリー大学に学費を払って留学し、日本の2つの大学からも日本人が毎年母校に学費を払ってウィリアム・アンド・メアリー大学に1年間の交換留学に来ます。

そんな海外留学ですが、ウィリアム・アンド・メアリー大学ではReves Center for International Studiesが海外からくる留学生の支援とともに海外留学に関しても管轄して行っています。何かわからないことや相談があればいつでもReves Centerの職員の方にメールで質問をすることができるだけではなく、Reves Centerの建物に行けば過去に海外留学を経験したStudent Advisory Boardという学生が常駐していてプログラムの調べ方や応募用紙の書き方なども教えてくれます。職員の方々もタイミングがよければ詳しい話を聞かせてくれます。

○応募プロセス
次に大学における海外留学のプロセスについて順を追って紹介したいと思います。

a．留学フェア
毎年9月の土曜日に大学内ではReves Centerが主催する留学フェアが開催されます。このイベントでは、それぞれの提携校がブースを持ち、その大学に留学経験のあるウィリアム・アンド・メアリー大学生とその大学から留学中の学生が大学の魅力や向こうでの生活を紹介してくれます。
この留学フェアを通して、多くの場合どこに留学したいかイメージすることができたり、実際にその大学に行ったことがある人と知り合いになることができたりと、留学へ向けた最初のステップを踏み出すことができます。

b．ワークショップ
ウィリアム・アンド・メアリー大学では、留学を希望する学生は2回のワークショプに参加することが義務付けられています。1日1回図書館かReves Centerで開催されていて、過去に留学経験のあるStudent Advisory Boardの学生が1時間ほどのセミナーを行ってくれます。1回目は海外留学制度や準備の仕方について、2回目では志望校を決めた後の具体的な応募方法などについて詳しく教えてくれます。
自分が行きたい大学に留学したわけではなくても、実際に留学経験のある学生から経験談などを聞くことで留学までの準備で何をしなければいけないのかイメージがつくいい機会になります。また毎日開催しているので、「必須」となっていますが都合のつくときに2回参加するだけでいいのでそんなに負担ではありません。

c．応募用アプリケーション
通常留学に出発する前の学期の中ほど(9月からの留学であれば3月、1月からの留学であれば10月)がアプリケーションの締め切りになっているので、それに向けて準備を進めていきます。アプリケーションは独自のオンラインシステムに大学受験の時のような要領で進めていきます。オンラインのフォームに必要事項を記入し、留学の動機や目標に関するエッセーを4つほど執筆します。それに加えて、大学の事務から取り寄せた成績証明書や普段お世話になっている教授から授業での様子などについて推薦状を書いてもらいます。
志望大学によってはGPAの足切りラインがあることもあり、成績は言うまでもなくとても重要ですが、交換留学の際はエッセーで留学の目的が明確化されているかどうかが最も重視されるといわれています。
推薦状は高校の時と同様に、学業面での自分自身の姿を教授に書いてもらうのですが、やはり学生数の数が大きいだけあって高校の時よりも難しいように感じました。できるだけ自分のことをよく知っている教授を作って印象を強くしたうえで、アポを取ってお願いをしました。

d．出発前オリエンテーション
3月中旬に応募が締め切られ、2週間ほどで結果が出ます。
無事に海外留学に行けることなると、学期の終わりのほうで出発前オリエンテーションが行われます。このオリエンテーションは大学から海外留学に出発する全員に向けてのものなので、一緒に同じ大学に行く学生や留学先の大学についてなどは教えてもらえないのですが、もっと一般的な「海外に長期滞在するとは」みたいな形で留学する際のマインドセットを教え込まれます。

e．単位認定制度
多くのアメリカの大学生が留学する背景に、留学のしやすさがあります。特に留学をしやすくしているのが、留学先の大学から持って帰れる単位に関する仕組みが整っていることです。ウィリアム・アンド・メアリー大学の場合、出発前と大学に帰ってきた後の2回単位認定を申請することのできるタイミングがあります。
留学先で履修したクラスについてクラスの内容や難易度が分かるシラバスや試験などがあれば、それを各学科の学科長に提出しウィリアム・アンド・メアリー大学で該当するクラスとの類似性が認められれば自分の大学で履修したのと同じ扱いを受けることができます。大学が提供していない内容のクラスでも申請をすれば認めてもらえることが多くあります。特に歴史に関しては一定の大学であれば自動的に歴史の授業として認められます。また、専攻の要件で選択科目の中に入っているものに関しても同じ内容をカバーしていると認められれば留学先で履修したという扱いを受けることができ、留学をしないで大学に残った場合とそんなに差異はありません。ただ、留学先で取得した単位については反映されるのは単位だけで、実際に取った成績はGPAなどに含まれません。
事前に単位として認めてもらえれば、履修したものが確実に帰国後反映されるというのがわかっているので、安心して授業を選択することができます。

このような形で留学に向けた準備を大学にいる間に終わらせ、休みの間に寮や食事、航空券など実際に留学先の大学で必要な手続きなどをオンラインで行っていくことになります。

以上、アメリカの大学における海外留学についてご紹介させていただきました。アメリカだけでなく様々な場所で経験を積むことができるのが海外留学です。アメリカの大学に進学予定の方はぜひ検討してみてください。

では以上で6月号とさせていただきたいと思います！

◇ 2016年5月 バージニアの海岸より


5月号です！
日本に帰国してから早くも数週間たってしまいましたが、あらためて2年生として最後の2週間についてこの5月号ではご紹介したいと思います。
期末試験を5月の最初の2週間で終え、慌ただしく寮の部屋を片付けた後、後半の15日間はウィリアムズバーグを離れ、海洋学のフィールドワークのクラスを履修することにしました。

○夏学期とは
まず、簡単に夏学期について紹介したいと思います。
通常、夏休みは5月中旬から8月の下旬までですが、その間に単位をさらに稼ぎたい人は、夏に開講されるSummer Sessionと呼ばれる夏学期の授業を取ることができます。
第一セッションが6月いっぱい、第二セッションが7月いっぱいで、それぞれ3単位分の授業が履修できます。
その他にも、ワシントンDCにある大学のDC Officeで行われているDC Summer Institutesと呼ばれるコースもあります。これは、5月の下旬の2週間にDCでウィリアム・アンド・メアリー大学の教授や現在DCで活躍する卒業生を講師に迎える授業と、8月上旬までのインターンシップで構成されている6単位のプログラムです。ウィリアム・アンド・メアリー大学にはDCの政府機関などに勤める卒業生や関係者が多くいるので、こうした機会を利用することも出来ます。

○MSCI331 Field Studies in Coastal Marine Environments
さて、そのSummer Sessionと同じ扱いで、海洋学副専攻必修の授業として、このMSCI331というフィールドワークの授業が5月の後半の15日間で行われました。15日間なので、通常の1か月のSummer Sessionより短いですが、泊まり込みでみっちり行うので、3単位分もらえます。ちゃんと試験もあって、秋学期や春学期に週3時間計40時間ちょっとで修了する3単位と全く同じように扱われます。

a. Wachapreague
そんなMSC331の授業ですが、バージニア州の飛び地、Eastern ShoreのWachapreague(ウォシャプリーグ、人によって微妙に発音が違います)という町で行われます。そもそもこのEastern Shoreと呼ばれる地域は、デラウェア州から伸びる半島の先端100kmの部分を指します。ちなみに、この半島を、Delaware州、Maryland州、Virginia州にまたがるDelmarva半島といいます。
大学のあるウィリアムズバーグからEastern Shoreへは、まず車でバージニア州のほぼ南東端に位置するノーフォークという都市まで南下し、そこから半島の南端までつながる海ほたるのような30kmにわたる海底トンネルと橋を渡り、再び北上して3時間ぐらいで着きます。Eastern Shoreは主に農地が広がっていてとてものどかな雰囲気です。Wachapreague自体も町というより小さな集落みたいな感じで、レストランも一つしかありません。

4月号でも少しご紹介した通り、ウィリアム・アンド・メアリー大学にはVirginia Institute of Marine Science (VIMS)と呼ばれる海洋学大学院があります。VIMSのメインキャンパスはウィリアムズバーグから車で30分ほど行ったヨーク川をはさんだ向こう岸にあります。基本的にVIMSの研究はそこで行われていますが、それに加えて、WachapreagueにもEastern Shore Laboratoryという研究施設があり、そこの寮に滞在して2週間過ごしました。

Eastern Shoreを衛星画像で見てもらうと、実際の半島の東側にさらに同じくらいの太さの沼地が広がっていて、その東端には細長いバリアー島が連なっていることが分かります。このような東端にバリアー島を抱え、陸地と島の間がSalt Marsh（塩性湿地帯）になっている環境はメーン州からテキサス州までアメリカの大西洋沿岸に多く見られる地形です。
Wachapreagueはそんな、アメリカの大西洋側の典型的な沿岸環境を研究することのできる施設というわけです。この町の海岸からは、広い大西洋は見えず、広大な湿地帯だけが見えます。この浅瀬も全て砂や泥で出来ているので、毎年島の形が変わっていくそうです。

b. Week 1
そんな大西洋沿岸を学ぶことのできるWachapreagueで、海洋物理、地学、生物学的視点からフィールドワークを通して学んでいきました。まず、1週目はひたすら講義やフィールドワーク、実験を朝8時ごろから夜9時ごろまで行い、沿岸環境を徹底的に学びました。
たとえば2日目には、船で水温、塩分濃度、酸素濃度、栄養、クロロフィル、pHなどの海水の物理的状況を調べ、湿地帯の一番内陸側から最外縁部まで一連の流れでどのように変化していくのかを調査しました。移動するにつれて数値が徐々に上がるものもあれば、下がるものもあります。それぞれの特徴を環境の変化を分析して、論理的にその傾向を説明することも出来ます。
生物学的なフィールドワークも行います。例えば、5日目には船でラグーン島に向かい、島の内側に広がる塩性湿地の植生を調査しました。塩性湿地といわれる環境では、ヨシのような高さ20cmぐらいの草がドロドロの地表の上に生えていて、満潮時には海水に沈んでしまう過酷な環境です。そんな塩と風の影響を強く受ける場所で生きているので、海岸線から近いところには一種しか生息できません。少し離れたところに生息している植物も非常に限られていて、表面はロウのようなもので守られています。中には中心の軸が空洞になっていて、空気を大気中から取り込み、根まで運んでくれる種もあります。植生を調査するために1m四方のマスをランダムにおいて、その中の種類と植物が地表を占める割合を調べ、その後その4分の一を刈り取って、個体数を調べたり土壌サンプルを取ったりしました。夕方に戻ってきた後は、採取したサンプルを顕微鏡で見て、実際にこれらの植物がどのように厳しい環境を生き延びているのかを調べました。

一通り7日間のインプットが終わると、そのまとめとして2時間の試験が行われます。当然3単位もらえるわけなので、他のクラスと同様に成績もつくしGPAにも含まれます。それだけに、学んだ内容量もめちゃめちゃ多いです。特に、講義で学んだ内容に加え、教授たちがフィールド上で口頭で膨大な量の情報を提供してくれるので、全部を整理して理解するのは本当に大変でした。基本的に教授たちが強調するのは、名前を暗記するのではなくて、どのようにしてこの沿岸環境が作りだされているのかということを、生物学、物理学、化学、地学の様々な視点から総合してみることが大切だといっているのですが、そのためには知識がなければ説明も出来ないので、やはり覚えることが大事でした…
実際の試験の内容は、短い記述式の問題で、実験室内のテーブルを巡回して質問に答えていきます。分厚い試験の問題用紙が配られるのですが、問題によっては実際の生物を見ながら質問に答えるものや、実験器具を使ってデータを読み込むものもあったりしたので試験中に巡回するという形になっていました。

c. Week 2
アメリカ大西洋沿岸の海洋環境についての知識をたくさん得たところで、今度はまとめとしてグループ課題を1週間かけて行います。このFinal Projectでは、塩性湿地帯の食物網（Food web）をみて、食物網内の生物とその流れを実際の調査をもとに炭素量として測定し、このエリアの食物網を実際の量と共に明らかにしていきます。
植物、貝、カタツムリ、カニ、魚の5グループに分かれて調査を進めていきます。自分のグループは牡蠣といわゆるムール貝（イガイ）に焦点を当て、この生態系で底生のろ過摂食者（Benthic suspension feeders）の生物量（Cg/m2）とプランクトンからこれらの貝へ流れる生物量（Cg/m2/day）、貝から排せつされる生物量（Cg/m2/day）を計算します。調査は教授のヘルプの下、自分たちで計画を立てて、「干潮時間が何時なので何時にボートを出してほしい」などという形でお願いをして、サンプルを採取したりします。ちなみに、この時期の干潮は朝5時や6時だったので、早朝にボートを出してもらってました。

2週目は、みっちり時間割が決められていた1週目とは異なって、自分たちで発表日までに色々な調査やデータ収集を行い、プレゼンに備えた形になりました。実際に湿地帯を泥まみれになりながら歩き、まずはムール貝や牡蠣がどのように湿地帯に生息しているのかを観察します。20個ぐらいのサンプルを取って、貝の長さを測定し、身をむき、湿った状態の重さと1日乾燥させた状態の重さを測定することによってムール貝の見に含まれる炭素量を計算します。貝の長さとそれぞれの炭素量をグラフ化し回帰分析をすることによって、湿地帯の平均的な貝の炭素量が平方メートルで割りだすことができます。
次に、ムール貝がどれくらい植物プランクトンを摂取するかを計測しました。小さいサイズから大きいサイズまでさまざまな貝を用意し、植物プランクトンのサンプルを貝が一つずつ入った容器に注入し、2時間後、4時間後にクロロフィルの量を測定することで、プランクトンがどれだけ減ったのかがわかります。ここから除去率を計算し炭素量に直すと、調査地点全体のムール貝が一日でどれくらい植物プランクトンを摂取するかが炭素量でわかります。ムール貝は一日中海水に浸かっているわけではないので、　潮の満ち引きを計算して、平均的な浸かっている時間を使用して一日の量を計算します。
とても複雑なので、教授から色々なことを聞いて少しずつデータ処理を進めていきます。最終的にはペアと15分間のプレゼンテーションを行いました。
このみっちりプログラムの組まれた2週間には、まず情報を目と耳で得て、体で感じたうえで、蓄えた知識を実際の調査で活用するという、一連の流れがあり、アメリカ東海岸沿岸の海洋環境について深く学ぶことができました。

○充実した環境
実はこのクラス、大学生9人に対し、教授4人プラス大学院生のTA2人という、なんとも贅沢な環境で行われました。2週間の間は、みんな同じ寮に泊まり、教授たちも学生たちが持ち回りで作った夕食を一緒に食べます。そんな環境なので、コースの開始当初に配られたシラバスにも、”Office hours: All day every day”と書かれていました。
朝、パンをかじりながら教授に前日の夜の講義でわからかったことを聞いたり、ボートの上で干潟ができたプロセスを話してもらったり、夕食時に教授が何十年もかけて研究し続けている牡蠣の生態について語ってくれたりと、常にどんな時でも教授たちの熱い話を聞くことができます。
教授は、プランクトンの専門家、底生の無脊椎動物の専門家、海岸植物の専門家、そして海洋物理学の専門家があつまり、それぞれの専門分野の講義やフィールドワークを担当していました。みんなおじいさんなので、自分の専門について非常に熱心に、時には長々と話してくれます。
また、大学院で海洋学の研究を続けているTAたちからも、一歩先を歩いていて実際に研究を始めた立場から大学院に進学した理由や今後のビジョンについて聞くことができました。周りの学生もみんな面白い人たちが集まっています。海洋学副専攻のためのクラスなので、ほとんどの人が生物専攻・海洋学副専攻というお決まりのパターンではあったのですが、みんなで海の魅力について語り合ったり、アメリカのいろんなところから来ていたりするので、それぞれが自分なりの個性を発揮してこのクラスに貢献していました。

寝食を共にしながら、いろんな話をすることで普段の学校生活では得られない教授や院生との深い交流が生まれ、今後目指すべき道筋の例を教えてくれました。きっと、このコースには海洋学におけるフィールドワークや調査方法を学ぶだけではなく、こうした24時間教育の中で教授・院生・同じ学生からいろんな刺激を受けて、「海洋学を学ぶ者たるは…」みたいなものを海洋学副専攻全員に経験してほしくて、大学側も必修にしているのかなと思ったりしました。
特に、海洋学を副専攻にする人たちは将来的に研究を続けていく人が多いので、あまりメジャーではない海洋学というコミュニティーで「学者間」の交流を深めていく訓練みたいなものにもなるんだと思います。ただでさえ小さめなコミュニティーにいるうえ、調査をするとなったらだいたい調査船などの閉ざされた空間に長期間いることになると思うので、海洋学者にとってこうしたコミュニケーションは特に大事なのでしょう。

ちなみに、施設面もとても充実していました。VIMSはバージニア州の海洋・河川に関わる政策研究・提言も行っているだけあって、一流の設備がそろっています。Wachapreagueという集落にあるのでEastern Shore Laboratoryの規模自体は大きくありませんが、海水をかけ流しで施設内に循環システムが構築されているなど、こうした一流の設備を使って学部のうちに海洋学について学ぶことができるのはなかなかすごい経験だと思います。

○まとめ：Interactiveを強調するアメリカの教育
こうした2週間のプログラムは、アメリカの双方間の行き来を大切にする教育スタイルについて改めて意識する機会となりました。教授たちが強調するのは、この時間はInteractiveだから積極的に発言してほしいという点です。これは、アメリカのクラスやトークイベントなどでもみんなが強調することで、アメリカではマストな雰囲気すら感じます。他のところだと、きっちり教授と生徒の関係性を固定させて一方通行にフォーマルな形で講義を行うこともあると思いますが、特にこのクラスだと教授も学生も関係なく下の名前で呼び合うほどの仲まで発展させます。こうした意識付けが、自由な雰囲気を作り、ボーダーを越えた交流を活発化させているのかなと強く感じました。

以上、5月号になります！ 6月も終わりに差し掛かっているので、すぐに6月号もお届けできるように致します！

◇ 2016年4月 どんな要素で大学を選ぶのか


4月号です！
今年も、ウィリアム・アンド・メアリー大学のキャンパスは桜もどきが咲き乱れ、とても素敵な春を迎えました。相変わらず花粉はすごくて、窓を開けておくと周辺に花粉が溜まって黄色くなってきてしまいます…
そんな4月といえば日本では新学期ですね。一方、アメリカの高校生にとっては、3月の終わりに大学から結果通知が届き、いよいよ4月から5月にかけて進学する大学を選ぶ、とても大事な時期になります。
ということで、今回はDay for Admitted Studentsと呼ばれるイベントを紹介しつつ、僕の2年前の4月を振り返ってみたいと思います。「大学のこんな要素を大切にして最終的に進学先を決める」という点で何か参考になれば幸いです。


○Day for Admitted Students
3月の下旬に各アメリカの大学から続々と、「おめでとう、合格ですよ！！」というメールや、事前にアクセスを伝えられていた、「出願者用サイトに結果が載ったので結果を確認して下さい」というようなメールが届きます。ちなみにウィリアム・アンド・メアリー大学からは、「Good Things」というタイトルのメールが届きました。W&Mの場合、アドミッションオフィスのブログで事前に、合格の場合はこれ、不合格の場合はこれ、補欠の場合はこれ、という様にメールのタイトルが教えられているので、そのタイトルを見ただけですぐにわかります。高校時代のアメリカ人の英語の先生によると、昔は全部郵送だったので、封筒のサイズでだいたいの合否が分かったそうです。大きい封筒には合格通知の他にその後の手続きや、大学のパンフレットなどが入っていて、小さい封筒の場合は不合格の旨がかかれていたというわけです。
4月に入るころにはすべての大学から結果の通知が来るので、それ以降は合格した大学から、「ぜひ来てください！うちの大学はこんなにすごいんですよ！！」というようなメールが送られてきたり、「大学で合格者向けオープンキャンパスを開催するのでぜひ来てください！」という大学もあったりして、たくさんのメールやパンフレットが送られてきます。

その合格者向けのオープンキャンパスが、Day for Admitted Studentsと呼ばれているものです。ウィリアム・アンド・メアリーでは毎年4月の中旬の土曜日に開催され、合格者が両親と一緒にキャンパスを訪れます。やはり、実際に合格してからキャンパスを見て学生と話をしたりすることで、ネットや写真からではわからないことがたくさんわかります。しかも、ただ勉強するだけではなくて、4年間そこで生きていかなければいけないので、環境とかをよく考えてみるのは、案外見落としがちだけど一番大事なところだと思います。よく言われるように受かってから行くと、より「自分がこのキャンパスで大学生活を送ることを想像できるか？」意識できるので、もし可能であるならば大学訪問はお勧めです。
ここの大学のDay for Admitted Studentsは、まず朝大きな体育館でオープニングセレモニーとして学長の面白い話があったり、アカペラグループのパフォーマンスが行われたりします。その後は、自分の興味に合わせて、40分ブロックで行われる説明会に参加します。自分は確かキャンパスツアーに参加したり、海外留学についての話を聞いたり、国際関係学専攻と海洋学副専攻についてそれぞれ話しを聞いたりした記憶があります。
また、昼にはSunken Gardenと呼ばれるキャンパス中心の芝生の広場で昼食を食べ、広場に在校生たちが出した学生団体のブースを回っていろいろ話を聞くことができます。去年はワシントンDCの全米桜祭りに行っていたため参加できなかったこともあり、今年は在校生として2年ぶりにオープンキャンパスに参加しました。とても暖かく天気のいい一日だったので、2年前の自分を思いだしながらICEとJCAのブースを担当していました。自分自身、2年前はそこで在校生と少しお話が出来て、W&Mの学生の雰囲気を感じることができたので、このDay for Admitted Studentsは非常に思い入れがあります。


○Why W&M?
では、自分のこの先の人生を大きく左右するといっても過言ではない大学選択ですが、どのように決めていくのでしょうか？これは合格通知を複数の大学からもらった場合、アメリカの高校生が皆悩み、不安になる選択です。まずは、受験する大学選びから振り返ってみたいと思います。

もともと自分の場合は、中学1年生で国際バカロレア(IB)クラスに進学するにあたり、当時興味のあった海洋学の知識を世界中から学びたいと思い、最終的には海外の大学で英語で海洋学を学びたいと思うようになりました。それから高校生になってもその思いは変わらず、まずは4000以上あるといわれるアメリカの大学の中から海洋学を学べるところを中心に受験することにしました。受験校を選ぶ時点では小規模なリベラルアーツカレッジから大規模な総合大学まで幅広くうけました。
大学を選ぶ上で自分は特に最初のほうで学べる学問を主に意識していたのですが、高1から高2に上がる春休みでアメリカの超名門大学をいくつか訪れることができたので、どんなキャンパスでどんな雰囲気が自分の好みなのか（キャンパスが大きいのか・小さいのか、建物が近代的なものが多いのか・古い荘厳な感じがいいのか、はたまたその中間か）知ることができ、その後の大学選びで非常によい参考になりました。
そんな中で、W&Mを見つけたきっかけは、この大学に存在する海洋学専門の大学院（Virginia Institute of Marine Science）です。立派な研究機関があることから学部でも海洋学を学ぶ様々な機会に恵まれていることを知り、実際に受験することにしました。

受験後の4月に合格校が決まった際、本当は4月いっぱいで進学先を決定しなければいけないのですが、実は5月の末までUCLA、カリフォルニア大学ロサンゼルス校とどちらにするか決められず、めちゃめちゃ悩みました。UCLAは世界的にも有名な大規模研究大学でとても魅力的な大学です。実際高2の夏にキャンパスを訪れた時も、「こんなところに進学で来たらな」と思いその後の勉学の励みにもなったところです。それでも、色々な要素を鑑みて最終的にウィリアム・アンド・メアリー大学に進学することを決心しました。
まず、理屈うんぬんよりも一番心にぐっと来たのはW&Mのキャンパスです。それまでは正直アメリカで2番目に古いというイメージしかありませんでした。4月に開催されたDay for Admitted Studentsの朝、タクシーでホテルからオープニングセレモニーの会場まで向かう途中に初めてキャンパスを目にして、なんだか心がすごい感動で熱くなったのを覚えています。写真で見るのとはまるで雰囲気が違いました。321年の重みというか、今までのそうそうたる卒業生が残していった歴史を感じることのできるこの場所がすごく魅力的です。せっかくアメリカで勉強するならアメリカについて深く学べるところがいいですよね。そんな建国の息吹が感じられる素敵な町に大学があります。
次にDay for Admitted Studentsで感じた魅力はこの大学のコミュニティーです。教授や学生の丁寧で温かいところが評判でもあります。実際に訪れて色々な人と話す中でその温かさを感じ、中高と小さな環境の中にいたので、まずは中規模な大学の中で自分をしっかり成長させたいと思いました。一方、学部4学年で6000人が在籍しており、小規模なリベラルアーツカレッジと違って大学院もあるため、常に新しい人と出会うチャンスがたくさんあります。現に大学生活の2年間を終え、学生の温かさ、さらには学生に対して教えることに最も情熱を注ぐ教授たち、そしてヘルプを求めればしっかりサポートしてくれる大学の職員の方たちに囲まれて、自分の学びを最大限にすることができていると感じています。
学業面でも魅力がたくさんあります。ずっと海洋学を学ぶことを目指してきましたが、同時に国際関係学への興味も増してきていたので、W&Mで可能な海洋学副専攻という形にし、国際関係学をメインの専攻にすることで、国際関係から見た海洋学という位置づけができると感じるようになりました。また、その際ワシントンDCにも近く、アメリカの学部の中でもW&Mの国際関係学は非常に質が高くて有名なので、本格的な国際関係学の学びができることを知りました。質の高い国際関係学の学びができると同時に、海洋学の研究機関が備わっているというこの環境にすごく惹かれました。

色々書いていくなかでだんだんウィリアム・アンド・メアリー自慢になってきてしまいましたが…、上記のような環境、周囲の人々、リソースなど様々な要素を合わせて最終的に進学先を決めることが大事になってくるかと思います。その中でもやっぱりDay for Admitted Studentsは自分の人生を変えたと言ってよい一日となりました。もし、あの時この大学のキャンパスを訪れていなかったら、たぶんこの大学に対して特別な印象を持つことはなかったと思います。それくらいキャンパス訪問はネットを見ているだけでは得ることのないインパクトを与えてくれます。
最後に自分が紹介したいのは、出願の際に必要になってくるエッセー課題で、W&Mが課している論題です：
Beyond your impressive academic credentials　and　extracurricular　accomplishments,　what　else　makes　you　unique　and　colorful?　We know nobody fits neatly into 500 words or less, but you can provide us with some suggestion of the type of person you are. Anything goes! Inspire us, impress us, or just make us laugh. Think of this optional opportunity as show and tell by proxy and with an attitude.
なんか素敵じゃありませんか？
他の大学が無機質に直球で質問を投げかけてくる中で、この口調は大量のエッセーを書いている中でとても印象的でした。やはりこんなところにも大学のカラーが表れているんです。大学のカラーが自分にあっているのが進学先を決めるうえで一番重要な点だと思います。それをできるだけ色々な情報限から得て、進学先を決定することができればと思います。

そんなこんなで今月号は「進学先を決めるうえで大事な要素」について、4月に行われるDay for Admitted Studentsを通して感じたことを書かせていただきました。
とはいえ、4月は本当に忙しくて過酷なものとなりました。2月号でご紹介したように今学期は14単位しかとっていないのですが、GOVT329 国際安全保障学の授業で毎週300ページ読みまくっています。確かに国際関係学を学ぶうえで、どうしてもこれくらいのインプットがないと分析していくことすらできないと思うので、苦しみつつ取り組んでおりました。「若いころの苦労は買ってでもしなさい」という言葉があるように、教育に力を注ぐ教授の愛のムチだと前向きに捉えるようにします。

では、また今度は5月号でお会いしましょう！

◇ 2016年3月 多様性を表現する場


3月号です！

今年もまた春がやってきました！！
(注：更新が遅くなってしまって申し訳ありません。春学期後半が予想以上に過酷なものとなってしまったので、3月号を半分書いた状態で中断しなければいけませんでした。ということで、3月の気分でどうかお読みください…↓)
ウィリアムズバーグが1年の中で一番素敵になるのが春です。最近では気温も20度を超える日々が続き、暖かくてとても過ごしやすいです。また、徐々にキャンパス内の木々も目が出始めていたり、あちこちには桜もどきが咲いていたりして、キャンパスは黄緑色とピンクに包まれています。
それと同時に、昨年号でもお伝えしましたが、花粉が飛んでいるので花粉対策は手を抜けません。毎日薬を飲まないとむずむずが止まりません…
そんな3月の今日この頃ですが、今月号では2月、3月に自分が中心となって動いた2つの活動についてご紹介したいと思います。


○Lunar New Year show
日本に住んでいたら旧正月というものを意識することはほとんど無いと思うのですが、実は2月8日は中国の旧正月の日でした。中国人をはじめとした東アジア人コミュニティーのあるアメリカに住んでいると、旧正月の存在は結構みんな知っていて、身近なものとなります。例えば、Googleのトップはこの日だけサルの画像になっていたり、大学内の学食では中国風の飾りつけがされていたりして、中華料理もたくさん出ていました。ちなみに題名の通り、旧暦は月の満ち欠けなどをもとに計算されていたことから、旧正月のことを英語でLunar New Yearといいます。
自分にとって毎年旧正月は世界のニュースでしか見ない出来事だったので、アメリカに来て最初の旧正月となった去年は、特に「アメリカで旧正月について知る」ことに対して衝撃を受けたことを覚えています。

ということで、毎年旧正月の前後にLunar New Year showというものが開催されます。これは、大学のChinese Student Organization (CSO)と、Korean American Student Association (KASA)、そしてJapanese Culture Association (JCA)の3団体が合同で毎年行っているイベントです。日本では当然旧正月を祝う習慣がないので、このイベントに参加しているのはちょっと誤解を招く形になっているのですが、他のアジア系団体と交流を深めるいい機会ということで、一緒にやっています。
実際のイベントのコンテンツとしては、1時間ほどの劇とそれぞれの団体のダンスパフォーマンスが行われ、イベント後には3団体が用意した食べ物がホールで振舞われるという形になっています。

自分は、今年度JCAの企画全般を統括するイベントコーディネーターを務めていることから、CSOやKASAとの連携を担当しました。11月下旬ごろに一度それぞれの団体の統括者とミーティングを行い、今年の劇のテーマを決め、冬休み中は主に脚本の執筆が行われました。完成した脚本をもとに春学期が始まって1週間ぐらいの段階で、キャストを決め、それから2週間ほぼ毎日夜に劇の練習をしてきました。やはり、みんな本職は学業なので、忙しい中いかにみんなを集中させ、限られた時間の中で質の高いものを作り上げていくのは、アメリカの大学の中でとても難しい課題です。特にこうした、時間が要求されるものも多い演劇となると、実際の演劇系の団体ではない限り、なかなか人集めも難しかったりします。
今回の劇のストーリーをざっくりと話すと、清朝に朝貢に来ていた朝鮮と琉球王国の使節、そして清国の代表の3人が現代のアメリカにタイムスリップして、旧正月の風習について紹介するというものになっています。日本の場合、旧正月を祝う習慣はありませんが、沖縄では今でも地域によってそういう習慣があるということなので、独自の文化と歴史を持つ沖縄を大学に紹介するいい機会ととらえ、劇ではあえて日本ではなく、琉球王国に焦点を当てることにしました。時代ものになると色々衣装や小道具が大変でしたが、あるものを工夫して何とかしました。特に琉球王府の役人が身につけていたハチマキと呼ばれる冠は自分で空いた時間に手作りしてみたりしました。劇の脚本がとてもいいストーリーになったので、劇自体もとてもクオリティーの高いものができてよかったです。
今まで、自分はこういうようなパフォーマンス系のイベントを企画、運営したことがなかったので、劇の作り方、練習の方法から始まり、ステージの照明や音響などを担当していくのは、とても新鮮で面白い経験になりました。特に、自分はステージに立って演技をするわけではないので、袖でヘッドフォンをつけて音響や照明のキュー出しを行ったり、浴衣などの衣装の着付けをしたりしていました。他団体の統括者はみんなそれぞれ経験したことがあったので、最初のほうはいろいろみんなから教えてもらうことが多かったですが、要領がわかってくると新しい発見がたくさんありました。このイベントを通して、今までほとんど関わりのなかったたくさんの人たちと知り合うことができてとてもいい機会となりました。こうして色々なところに自分の知っているコミュニティーを作っていくのは大切なことだと改めて感じました。
ちなみに、一つ発見となったのは、アメリカにおけるアジア人事情です。今回CSOやKASAと関わりを持つまで全く知らなかったのですが、CSOやKASAにはそれぞれ中国・韓国系のアメリカ人が多く所属しています。それに対して、大学にはChinese Students and Scholars Association (CSSA)というのもあり、こちらは中国出身の留学生が多く所属していて、活動も主に中国語で行われるそうです。CSSAも別日に旧正月のイベントをすべて中国語で行っていたそうなので、こうした棲み分けがある事実はとても興味深く感じました。JCAに関しては、そもそもの日本人留学生や日系人の母数が少なく、基本的に日本文化に興味のある学生が所属している団体なので、そういった現象は起きないようです。


○W&M World’s Fair 2016
10月号でICE、International Culture Exchange Organizationという団体を2年前に1年間交換留学で慶應大学に行っていたアメリカ人の友達と一緒に設立したという話を少しさせていただいたと思います。この団体の大きな4つの目的が：
1．留学生の支援
2．交換留学の支援
3．様々な文化の紹介と交流
4．学内に存在する文化系団体（Cultural Organizations） の橋渡し役
です。
昨年の9月ごろから本格的に活動を開始して、現在は毎週1時間のミーティングを行い、月ごとのテーマに沿った文化の紹介をプレゼンテーション形式で行い、後半の時間で自由にディスカッションを行っています。今まで、食文化から始まり、祝日、音楽、遊び、スポーツなど様々な側面から、世界中の文化を知る機会を作ることができています。
メンバーも、アメリカ人、4年間の正規留学生、そして交換留学生など多様なバックグラウンドから集まり、いろんな国の文化について共有することができました。
そして、大学の留学生や交換留学などの国際交流を担当するReves Centerから問い合わせもあったりして、ゆっくりではありますが徐々に大学内での知名度を高めていっています。

そんな中、去年の秋ごろさらにICEの存在をキャンパスで広めるべく何かイベントができないかと考えていた時に、Willian and Mary World's Fair、「ウィリアム・アンド・メアリー万博」を開催し、学内に存在する様々な学生団体に協力してもらえないかと思うようになりました。最初は、本物の万博のように国ごとにブースを設け、食べ物や伝統文化を紹介する形をイメージしていたのですが、一年目ということでより運営側としての負担が少ない形で、各学生団体にパフォーマンスをしてもらい、ショーにすることにしました。
普段それぞれの団体でパフォーマンスショーやイベントを行うことはよくありますが、多くの文化のパフォーマンスをこの万博に集めることで、そもそも特定の文化に興味があるわけではない人にとっての「出会いの場」にして、より色々な文化に興味を持ってもらいたいという思いがありました。今までも大学のStudent Association（大学版の生徒会のような団体）が過去にこのようなイベントを開催したことがあったようですが、単発に終わってしまっていたので、今後はICEがその目的にも掲げているように、学内の団体の橋渡し的な役割を担いつつ、続けていきたいと思います。
秋学期の終わりにスペースを確保し企画を始め、2月ごろから具体的な内容を詰めた後、実際に大学内に存在する団体とコンタクトを取り、パフォーマンスしてくれる団体を集めました。やはり、設立して1年も経っていなくて知名度もまだまだ低い団体ということもあり、参加してくれる団体が多く集まるか心配でしたが、最終的には本番1週間ぐらい前までコンタクトを取り続けて旧正月に参加した3団体を始め、インド系のダンスチームからロシア音楽のグループまで8団体が参加してくれることになりました！
準備を進める中で、ICEのメンバーも積極的に企画に関わってくれました。みんなのアイデアから、ショーの後に別会場でクイズ大会を行うことにし、10月号で少しご紹介したLanguage Housesのチューターたちにも協力してもらって、フランス、スペイン、イタリア、ロシア、ドイツ、日本のお菓子も提供することができました。

最終的には数多くの団体の協力のもと、多様な文化を大勢のお客さんに見せることができたので、非常に良いイベントになりました。自分自身も中心となってこれだけ大学内の団体を集めパフォーマンス系のイベントを行ったのは初めてだったので、とても貴重な経験ができたと思います。ICEのメンバーもこのイベントを通して、より繋がり合えたというか、団結力が生まれたので、来年以降のICEの活動がより楽しみです。今後も、ICEの活動を通して少しでも大学内の国際交流、文化交流に貢献していきたいと思います。


以上、今学期の中盤は今まで経験したことのなかったことを、2つのパフォーマンス系イベントの運営から学ぶことができました。学業に忙しい中でも、こうした団体での活動は今しかできない事だと感じます。また、大学内にも何気なく授業を受けているだけでは気づかないリソースにあふれていて、舞台のあるホールを無料で使用することができたり、学生団体がイベントの資料などを作成する際に必要な材料を提供してくれる部署があったりなど、こうしたことを見逃さず、今後も大学に存在する可能性を最大限に活かしていきたいと思います。

では、3月号でした！

◇ 2016年2月 得た知識を処理する力

2月号です！
2年生の春学期が始まって1か月が過ぎ、新しい学期の生活には慣れてきましたが、科目によっては学期中に中間テストが複数回ある場合も多いので、周囲の友達も自分も課題に追われる毎日が続いています。
さて、今月号では毎学期恒例の授業紹介を行っていきたいと思います。今学期は14単位に抑えていますが、なかなかそれでもみっちり勉強している感じです…

○授業紹介
a. FREN202 Intermediate French II
フランス語を引き続き勉強していきます。今回も別の先生なので、ちょっとスタイルが違いますが、先学期と同じ教科書を使っています。あとから追加されたクラスなので、他のFREN202のクラスに比べて人数が少なくて12人しかいません。その分、全員に対して授業中にたくさんフランス語を話す機会があるのでとてもいい環境で言語が勉強できていると思います。この202を修了するというのが大学での言語学習の一区切りとなるので（英語で言うとだいたい英検2級ぐらいまでできるようになるはずです）、ちゃんとフランス語をしっかり身につけたいと思います。

いわゆる日本の高校英語でやるような文法項目（比較級、関係代名詞など）や、フランス語独特の文法項目など、102で軽く触れたものや新たなものを深く練習していきます。今学期は長文読解や長めのパッセージのリスニングなど、文法を理解するだけではなくより総合的な力を身につけられるような訓練が多いです。フランス語はやはり英語と語順がほとんど一緒なので、とにかく動詞の活用や語彙を覚えていくことが大事なのですが、いかんせん覚えることが苦手なので、頑張らなければいけません。また、個人的に英語を勉強した時にはリスニングが一番最初に上達した記憶があるのですが、フランス語に関してはリエゾンと呼ばれる単語間の繋がりが非常に多かったり、語尾を発音しなかったりするので、一番難しいです。その分今年のフランス語の先生は授業中の9割はフランス語で話しているので、とにかくフランス語を浴びて慣れていきたいと思います。

先月号の専攻要件でもご紹介したように、国際関係学専攻は第二言語を母国語並みにするか、第三言語をしっかり習得できるようにすることを求めいています。確かにこうしてフランス語をしっかり身につけたからこそ得ることのできる情報や世界観があると思うので、英語以外の言語を通して得た知識を今後の学習にも役立てていきたいと思います。

b. ECON307 Principles and Methods of Statistics
統計学の授業です。経済学に重きを置いて、統計の基本を習いつつ経済学に応用できるようにしていきます。クラスは35人で、教授は先学期のECON303(中級ミクロ経済理論)と同じ先生なので、授業スタイルがわかっていてやりやすいです。先学期同様、書画カメラに先生の手書きを写し、それをノートにまとめていっています。高校の時にも統計を少し数学で習いましたが、あまり予備知識がないので今回しっかり学ぼうと思っています。
やはり、色々な場面で統計は非常に大事だといわれているし、実際他の授業のリーディングで課される論文などを読んでいてもデータ分析が含まれていたりするので、統計学の知識を固めればしっかりそういった情報が論文の筆者の分析だけではなく、自分の理解から論文を主体的に読み取ることが可能になると思います。2週間に一回ほど課される宿題ではStataと呼ばれる統計ソフトを使ってデータ分析を行います。コンピューターサイエンス系に全く疎い自分は、commandと呼ばれる文章を打ち込むだけで瞬時に表や値が表れるのに感動してしまいました。ちなみにこの授業は、先月号で紹介した国際関係学専攻の要件の一つで、この科目以外に政治学の分析の手法やビジネスに重点を置いた統計など、数理的な分析方法を学ぶ科目を一つ選びます。個人的に経済学が一番身近な上、選択肢の中でこのクラスが最も王道の統計額が学べるので、これを選びました。

c. MUSCP20 Percussion 2
先学期に引き続きドラムの授業をとっています。先学期で大分ドラムの基礎的な能力がたくさん見についてきたと思うので、これからももっとうまくドラムが叩けるようになっていきたいです。毎週一回30分の個人レッスンでは与えられた課題を実際に行い、フィードバックをもらって、新たな課題をもらうといった感じです。音楽学科の校舎の地下にある練習室はいつでも使えるので、僕は週2回の曜日を決めて練習しに行っています。勉強やスポーツ以外にも音楽などに時間を使うことで、なんだか生活が豊かになる気持ちがするのでドラムの練習は結構うれしいです。おじいさん教授とも仲良くなれたので、授業もおしゃべりをしながら楽しい雰囲気で上達できています。

d. MSCI330 Introduction to Marine Science
今までずっと勉強したかった海洋学の入門クラスです。自分がそもそも海外の大学に行きたいと思った動機は、世界中につながっている海を知るには日本だけでなく英語で世界中から海洋学に関する知識を得たいとIBクラスに進学する前の小6の時に思ったからです。それ以来、最終的に国際関係学へとメインフォーカスは変わりましたが、いよいよ長年の夢であった海洋学を学ぶことができて本当に感慨深いです。入門クラスですがご覧の通りクラス番号は300番台なので、事前に生物、化学、地学のいずれかの入門クラスを取ることが求められており、そういった一般的な科学を理解していることが前提となっています。

実際の授業では地球の構造から始まり、海水の性質、海洋循環、潮汐、海洋生物学、生態系や海洋資源などを4か月かけて学んでいきます。教授が2人体制で教えるので、海洋物理・地学系と海洋生物学系をそれぞれ別の先生が教えます。教授は普段ウィリアム・アンド・メアリー大学の海洋学大学院、Virginia Institute of Marine Science (VIMS)で研究している方たちで、この授業の時だけウィリアムズバーグの本キャンパスに教えに来ます。実際に世界中の海を回って研究・調査を行っていた経験を講義の合間に聞くことができるのはとても魅力的です。授業はだいたい45人くらいで中規模なので、質問をしたり発言をしたりする機会がとても多く自由な雰囲気のクラスです。海洋学を副専攻にしようと思っている自分にとって、このクラスはその第一歩となります。

国際関係学と海洋学、一見全く関係のない分野なのですが、海洋学は「海」の科学というとても扱う範囲の広い学問なので、地球の表面積の7割を占める海を科学の視点から学ぶのと同時に、海を舞台として繰り広げられる国際関係を社会科学の視点から分析することができれば、とても面白い学びが広がっていくと考えています。具体的にはまだどんなつなぎ合わせが実際に学部生のうちにできるかはわかりませんが、国際海洋法や船舶航行の規約（海事法）、海洋環境保全の国際協力などで自分なりに学びを深めたうえで卒業できればと思っています。

e. GOVT329 International Security
国際関係学専攻としていよいよ本格的な政治学の授業が始まりました。このクラスは国際安全保障学を徹底的に学んでいきます。クラスは34人なので中規模です。安全保障とパワーといった概念や、様々な戦争原因論をカバーし、そして学期の後半では核問題などの現在国際社会が抱えている安全保障上の諸問題について学んでいきます。このクラスは政治学の授業の中でも非常に厳しいことで有名です。実際月水金の授業それぞれ毎回論文を2、3本ページ数にすると100ページ近く読んでから授業に参加しなければいけないので、相当きついです。このクラスで大量のリーディングが課されているため、全体で14単位しかとっていなくても勉強にかけている時間は先学期とあんまり変わりません…

ただ、リーディングは100ページをまるまる一語一句読んでいくわけではないし、教授もそれは求めていません。学期の最初のほうは結構頑張って全部読もうとしていたので1時間で20ページほどしか進まない時期もありました。しかし、徐々に授業で教授の求めているものを理解するうちにもっと効率的にリーディング課題を処理することができるようになってきました。教授が強調しているのはSkimする能力で、いわゆるななめ読みをしながら要点をしっかり把握していく力です。学期の最初に配られたシラバスには各授業日の予定と共に、Focused Reading Questionというものが用意されているので、とにかくその質問の答えとなりうる重要な箇所だけを素早くキャッチし把握しておくことで、ただ文章を読んだというよりその論文の本質を理解したということになります。また、リーディングの後にはReading Journalを作成します。常にシラバスの質問をもとにそこから疑問を発展させて論文に問いかけながら読んでいくことが求められているので、そのQ&A表のような形にまとめます。

本当にリーディング量が多くてつらいのですが、実際のリーディングの内容は国際政治理論を語る上で欠かせないような世界的に有名な学者が執筆した論文を教授がうまく体系立てて予定を組んでいるので、非常に得るものが多いです。クラスの学生も国防省や国務省を目指す学生や実際に海兵隊に所属した経験のある学生もいたりととてもレベルが高くいつも鋭い指摘や質問に感心させられてしまいます。教授も国際安全保障に関しての知識が膨大で実際にアカデミアとしてOffensive Realismの代表的学者ジョン・ミアシャイマーやソフトパワー論の第一人者ジョセフ・ナイなどとも交流のある人なので、彼の経験した話や洞察を聞いているだけでもとても面白いです。こうした世界的に有名な論文を原文で、そしてその多くが発表された国であるアメリカで大量に読むことができるのは、こうしたアメリカの大学に通う学生のうちしかできない事だと思うので、本当に恵まれた環境だと思います。

こういう作業をしてて思いだすのは、大学受験の時に一所懸命やっていたSATのCritical Readingと呼ばれる試験です。この試験では、短時間で長文を読み、高度な質問に答える必要があります。普通に本を読むようなスピードでは全く間に合わなかったので、常に文章と対話を重ねながらどこが大事であるか考えながらななめ読みをしなければいけませんでした。高校のころはこの試験がすごく苦手であまり好きではありませんでしたが、この試験で測られていた能力は今現在非常に求められているものなので、やはり大学でいかに活躍できるか測るための試験だったのだなと今更ながら思います。

SATも然り、国際安全保障のリーディングも然り、現代の社会に必要とされているのは知識量ではなく、得た知識を分析する力なのだと、つくづく感じます。昔は知識を蓄える媒体としては本などしかなかったと思うので、そのような時代では膨大な知識を持つ人が求められていたと思います。しかし、今の世の中ではなんでもググればすぐに出てきてしまうので、インターネットや社会にあふれる情報をいかに整理し見極めることができるかが大事です。統計学やData Analysisが最近注目されているのもそういう理由だと思います。この国際安全保障のクラスのリーディングも知識の土台を固めたうえで、それを批判的に分析し、様々な情報と統合した新たな価値を作っていくことが求められています。そういった意味では12月号で話した「創造力」も同様です。Creativityを持って様々な分野の知識を横断的に結び付け新たな情報へと作り変えていかなければいけないのが、大学で課題として課されるペーパー執筆などにつながっていくと感じます。こうした作業を通して、少しでも今の社会に必要な力をつけていければと思います。



以上、今月号は簡単に今学期の授業をご紹介させていただきました。
最近は15度近くまで気温が上がる日も増え、春も近いのでしょうか…？そうすると今度は花粉が…
春休みも近いので、そこまで踏ん張りたいと思います！
ではまた！

◇ 2016年1月 学びの道しるべ「専攻」

新年あけましておめでとうございます！
さて、1か月の冬休みもあっという間に終わり、1月20日から春学期が始まりました。
冬休みの間は色々忙しかった一方で、年末年始ということもあってたくさんおいしいご飯を食べたり、テレビを見たり、19単位の怒涛の秋学期の疲れを取ることができたかなと思います。ちょうど東京を出発するときも天気が悪くて雪が降ったりしていましたが、ウィリアムズバーグに帰ってみるとこっちもこっちで雪が降ったりと、どこにいても同じような天候が待っています。今年は暖冬だということなので、今後2月にかけて少し寒くなりつつも、あまり雪で学校が休校となったりしないことを祈りたいです。

実は先日、正式にウィリアム・アンド・メアリー大学における国際関係学専攻として手続きを行いました！！これで今までのInternational Relations major (maybe...??) みたいな雰囲気の自己紹介から卒業して、胸を張ってI’m International Relations major! といえるようになりました！
ということで2年生も後半に入り、いよいよ今までの入門クラスを土台として徐々に専門的な分野へと学びが積み重ねられています。また、今回自分が手続きを行ったように周りの2年生がみんな大学での専門となる専攻を決めるのもこの時期です。ということで、今月号では改めてアメリカの大学の専攻の仕組みから話を始めたいと思います。


○アメリカの大学の専攻の仕組み
アメリカの大学の制度について説明するときに、よく「入学時には学部学科を決めなくてよくて、2年生の終わりに専攻を決める」という風に表現するのですが、それをもう少し具体的に、正確に話してみたいと思います。

a.「入学時には学部学科を決めなくてよい」
入学したてのころにこの留学レポートでも少し紹介させていただいたのですが、そもそもアメリカの大学には原則学部学科を受験するという概念がありません。エンジニアなどをのぞいた一般的な分野を勉強したい場合は、みんな共通のCollege of Arts and Sciencesやそれに近い名前の学部に入学します。一応、大学側も入試段階である程度新入生の学業面でのバランスを確保したいため、願書に受験段階で希望する専攻を3つほど候補として書く場合が多いです。ただ、その場合でもUndecidedというチョイスがあったりするので、必ずしも願書で選択した専攻を最終的に選ぶことは求められていません。現に、自分の周りの友達も半分以上が1年の秋学期に出会った時と今では違う専攻を考えているといっても過言ではありません。

意外と多くの人にとって大学生活の最初の2年間で専攻したい分野を変えるきっかけとなるのが、他分野との出会いです。高校時代にある程度興味分野が定まっていたとしても、国際関係学やビジネスなど高校時代には全く触れていなかった分野を勉強することで、新たな興味が広がるきっかけとなる場合が多いです。特に、ウィリアム・アンド・メアリー大学では留学レポート2014年10月号でご紹介したGeneral Education Requirement（注：2015年度入学以降はカリキュラムが変わりました）を通して全学生に必ず幅広い分野に触れさせることで、常に気持ちをオープンに大学生の段階で自分を見極めるチャンスを与えています。一般的なアメリカの大学ではリベラルアーツカレッジでも総合大学でもリベラルアーツ教育を大切にしてGERに近い卒業要件を設けているところが多いので、主にまだ専攻が決まっていない最初の2年間でアメリカの学生は大学の要件を満たすべく幅広い科目を取ることになります。
まとめると、入学時から学部学科にしばれられない分、専攻が決まっていない最初の2年の間に、専攻以外の卒業要件として様々な分野を知る機会がある、ということになります。

b.「2年生の終わりに専攻を決める」
冬休みに日本で周りの友達から、3年からゼミに入るから今はそれに向けて準備をしているという話をよく聴きました。いわゆる最初の2年が教養課程で後半が専門課程という風になっているところも多いと思います。2年生の終わりに専攻を決めるというと、そういった意味でその感覚に近いかと思います。しかし、実は「2年生の終わり」というのは厳密に言うとちょっと違って、自分の大学の場合は39単位取得時から専攻を宣言すること（Declaration of major）が出来て、54単位取得時までには必ず専攻を宣言しなければいけないという風になっています。卒業するのに120単位必要で、正規生として毎学期12単位以上取らなければいけない形になっているので、遅くともみんな2年生を終えるまでには宣言することになるわけです。自分の場合、1年生を終えた段階で35単位持っていたのですが、2年生の秋学期を終えた段階では54単位になってしまったので、春学期が始まって早急に宣言する必要がありました。このように、アメリカの大学における専攻というのは、所属する場所というよりも4年間をかけてどんな分野に特化して勉強していきたいのか道筋を立てさせてくれるものといった感覚が強いので、極端な例を言えば、自分で専攻をデザインして大学側に正式に認めてもらうことも出来ます。


○国際関係学専攻
そもそも、「専攻（Major）」というのがどういうものなのか、大学の国際関係学専攻を例にご紹介したいと思います。
まず、ウィリアム・アンド・メアリー大学にはMajor/ Minor（副専攻）合わせると50ほどの分野があります。それぞれが専攻もしくは副専攻として学生は自由に選ぶことができます。ちなみに、この大学で人気トップ5の専攻は、政治学、心理学、生物学、英語、金融だそうです。

国際関係学専攻として卒業するには、定められた専攻要件（Major Requirements）と呼ばれるものがあります。卒業までの4年間のうちに決められた科目、もしくは決められた選択肢の中から科目を選ぶことで、最終的に国際関係学専攻を修了したと認められます。大学の中でも専攻が大変だといわれている国際関係学ですが、それだけ要件も他の専攻に比べて多いです。ではここで、とても長いので実際のリストの抜粋を載せたいと思います。あくまでウィリアム・アンド・メアリー大学の国際関係学専攻の要件ですが、どの大学のどの専攻でも同じようなものがあると思うので、あーこういう感じなんだと感覚がお伝えできればうれしいです。

Part A: Core Curriculum (7 courses)　7科目すべて必修
Part A represents the core of the IR major, and includes basic requirements in Government, Economics, and History. All courses must be taken, and no substitutions are allowed.
GOVT 150/204: Introduction to International Politics
GOVT 328: International Political Economy
GOVT 329: International Security
ECON 475: International Trade Theory and Policy
ECON 476: International Finance Open Econ Macro
HIST 192: Global History since 1500
INRL 300: International Relations in Disciplinary Perspective

Part B: Methods (1 course)　一つ選択
Part B includes courses designed to familiarize students with the basic methodological tools of disciplines contributing to the IR major. This course meets the Major Computer Proficiency requirement. Students who intend to write an Honors thesis in IR should select the methods course that provides the necessary tools to complete the thesis. It may be fulfilled with any of the following courses:
BUAD 231: Statistics
GOVT 301: Research Methods
ECON 307: Principles and Methods of Statistics
PSYC 302: Experimental Methods
SOCL 352: Methods of Social Research
など8クラスから選択

Part C: Social and Cultural Contexts (1 course)　一つ選択
Part C emphasizes the role that social and cultural contexts play in international relations, and exposes students to relevant disciplinary approaches. Students may fulfill part C with any of the following courses:
ANTH 330: Caribbean Cultures
ANTH 335: Peoples and Cultures of Africa
GOVT 311: European Political Systems
GOVT 312: Politics of Developing Countries
HIST 325: Race, Culture, and Modernization in South Africa
HIST 328: Modern Japanese History
SOCL 312: Comparative Sociology
SOCL 313: Globalization and International Development
など27クラスから選択

Part D: Capstone (1 course)　卒業論文、リサーチ、インターンシップなどから選択
To fulfill part D, each student must successfully complete an independent research project. This course meets the Major Writing Requirement. This requirement may be met by completing one of the following:
INRL 495-496: Senior Honors in International Relations
INRL 480: Independent Study in International Relations
Three credit directed internship in contributing department (approved IR topic only, and must not be Pass/Fail)

Part E: Electives (2 courses)　2つ選択
IR majors may choose any two courses from the list below, provided that no more than nine of the twelve total courses required for the concentration may come from the economics and/or government department. All the courses in Part C listed above can also count as Part E courses.
ANTH 476: National Formations and Postcolonial Identities
BUAD 417: International Banking and Trade Financing
ECON 342: Global Economic History
ECON 483: Development Economics
GOVT 322: Global Environmental Governance
GOVT 324: U. S. Foreign Policy
GOVT 326: International Law
HIST 243: Europe Since 1945
HIST 319: The Nuclear World
HIST 435: America and Vietnam
RELG 323: Warfare and Ethics
SOCL 408: Migration in Global Context
SOCL 427: Globalization and the Environment
など47クラスから選択

Second Language Requirement　第二言語か第三言語まで学ぶ必要があります
The IR major requires intermediate proficiency in a modern language other than the native language of the student. The student can meet this requirement in two ways:?
Continuation of the modern foreign language used by the student to meet the College requirement to three courses above the level of 202. The courses must be taught in the target language.?
Starting a second modern language in addition to the modern language used to meet the College requirement. The student must achieve the 202 level in both of the languages, and one course over the 202 level in one of the languages. The courses must be taught in the target language.

という様に（長い引用恐縮です）、専攻要件といってもPart Aの7つの必修科目以外に膨大な選択肢があるので、自分の興味のあるエリアに特化して自由に組み合わせることもできます。
これらの科目は、国際関係学専攻を宣言してからでないと取れない訳でもなく、1年生の入学当初からどんどん入門クラスを取っていく必要があります。そのため、ある程度は他の専攻の場合も同様で最初の段階から専攻したいものを意識しつつ入門クラスを取る場合が多いです。
つまり、4年というスパンの中で決められた要件に従って計画的に時間割を自分で設計し、こなしていくのがMajor「専攻」といえると思います。


○Declaration of Majorの仕組み
その中で先ほど触れたように所得単位が39単位から54単位である間に専攻を宣言することによって、学校側がそれぞれの学生が何を目指して授業を取っていっているのかを把握するための手続きとしてDeclaration of Majorが存在するという様に換言することも出来ると思います。

そして、ここからは実際今週自分が行った手続きをご紹介したいと思います。
まずもうすでに54単位取得してしまっている自分は早急に宣言をしなければいけなかったので、冬休み中に学校のホームページを読んで研究していました。また、専攻を宣言する際に、Major advisorと呼ばれるアドバイザーを国際関係学関連の授業を教えている教授に頼まなければいけないので、誰に頼めばいいのかという部分が一番この手続きで難しい部分です。

通常、アドバイザーになってもらう教授は今まで国際関係学関連の授業で教わった教授、自分が一番話しやすい教授、自分の興味分野に近い研究を行っている教授などを意識して選んでいきます。自分は今までにあまり国際関係学関連の授業はまだとっていないので、国際関係学を専攻している3年生の友達にアドバイザーの候補を見せて相談に乗ってもらいました。それを踏まえ、さらに国際関係学のDepartment Headの教授のオフィスアワーを訪れてさらに相談に乗ってもらい、最終的にアドバイザーになってもらう教授を決めました。その後アドバイザーになってほしい教授とアポを取り、実際にアドバイザーになってもらうために交渉をします。この際、Declaration of Major Formと呼ばれる宣言の申請用紙を持っていって、卒業までにどのクラスをどのタイミングで履修して専攻要件をクリアするかという計画表をもとに今後の学習計画を組み立てて、申請用紙にサインをもらいます。その紙を今度は国際関係学のDepartment Officeへ提出し大学側が事務手続きを済ませると、晴れて大学の学生情報のところにInternational Relations Majorと表記されるわけです。

自分は、やはり将来的には国際関係学と副専攻に考えている海洋学を何かしらの形でつなげたいと思っているので、国際関係学の中で環境や政治経済が専門の教授にお願いすることにしました。もともと彼が教えている、Global Environmental Governanceという授業も面白そうなので来年取ってみる予定だったこともあり、ぴったりでした。また、教授も実際あってみたところ明るく親切な先生だったので、今後ちょくちょく話に行きたいと思います。


いよいよ国際関係学専攻として本格的な大学での学びが始まります！早速今学期の授業もなかなか密度が濃くて大変ですが、いろいろ考えるところもあって面白いです。また、勉強だけではなくて残りの2年半の大学生活を有意義に過ごせるように、ここだからこそできることをたくさん見つけて色々な経験を積んでいけるようにしていきたいと思います。
今学期の授業紹介はいつも通りまた来月行わせていただきます！

では2016年初投稿は、学業面で新たなステップを踏み出すこの時期に改めて「専攻」の仕組みをご紹介させていただきました！今年も引き続き留学レポートをどうぞよろしくお願い致します！

◇ 2015年12月 国際関係学と創造力
12月号です！
先日アゴスで行われたセミナーに来てくださった方々、大変ありがとうございました！そして、12月後半に日本に帰ってきました！

久しぶりの我が家、おいしいご飯、テレビ！なんだか毎回休みに入るごとに同じようなことを言っていますが、アメリカの大学に進学後3回目の帰国でありながら、やっぱり感じる喜びは変わりません。
日本にいると素朴なことにも幸せを感じるようになるので、すごいポジティブな人間になったみたいな気分です。

2年目の前半を終え、この12月号では主にFall 2015について振り返ってみたいと思います。実は今学期の初めのほうで「Settle inしつつある自分」について話し、ある程度大学での自分の立場が確立しつつあるというようなことを言っていたのですが、新団体ICE (International Culture Exchange Organization)の設立、日本語入門クラスのTAなどを通して何だかんだ少しずつ新たな挑戦を続け、大学内での輪を広げた一学期でもありました。

ただ、個人的には自分だからこそそのコミュニティー内でできることを見極め、貢献していくことは非常に大事だと思っています。このことを行うには、まず自分の強みや弱みは何なのか、自分のどんな経験が身になっているのかなどを考える自己分析と、コミュニティーの現状を把握し、問題意識を持つことが必要になると思うので、常に主体的に物事を捉える力を養うことができると感じます。

さて、今回は自分が専攻にしようと思っている国際関係学に直接つながるINRL300 International Relations in Disciplinary Perspectiveのクラスから感じたCreativity、創造力・発想力の重要性を通して振り返っていきたいと思います。

○Creativity Crisis?
INRL300のクラスは、9月号で簡単に紹介したように「国際関係学」を政治学の一分野という捉え方をせず、政治学、経済学、歴史学、社会学、心理学といったような分野間を統合したものとして捉え、様々な学問から幅広い視点で考えることを目的としたとても珍しいクラスです。

まずCreativityについて考え始めたのは、今学期も終わりに近づき、INRL300の一番最後の授業に向け “Yes, There is a Creativity Crisis!”という記事を課題で読んだ時です。

この記事は創造力を数値化するテストのスコアが下落していることに着目した上で、現代の人々が数十年前から急速に創造力を失いつつあることに対して警鐘を鳴らしている記事です。テストというのも、簡単な図形からどんなものが想像できるかなど頭を柔らかくして考える必要のある物が中心なのですが、そうした既定の枠からはみ出るような発想力が高得点を得るものです。

確かに最近ではなんでも3Dをはじめとした映像化が進みなんでもビジュアルで可視化することができるので、昔の人ほど想像力を使う機会が少なくなったのかもしれません。

そんな、Creativity Crisisですが記事自体は別にこのクラスの中心テーマである国際関係学に触れているわけではありません。そもそもどうしてこの記事が課題として出たのか考えつかなかったのですでにCreativityに欠けてしまっているわけですが、最後の授業での教授からのメッセージとして伝えたかったことの一つが、Think creativelyということでした。

このクラスの目的であるように、国際関係学を一つのオーソドックスな考え方にとらわれずにoutside boxから考えられるような創造力豊かな頭を持ってほしいということで、学期最後に現在問題視されている創造力の低下にスポットライトを当ててその大切さについて考えたのでした。

○実生活に根差した国際関係学
国際関係学においてそんな伝統的な枠の外から考える代表例がソフトパワーに焦点を当てたアプローチ方法です。自らの目的を達成するために軍事力や経済力を使うことをハードパワーといい、それと対照的にいわゆる文化力を使うことを柔らかい力、ソフトパワーといいます。

通常の国際関係学では軍事力による力の均衡であったり、経済制裁や経済連携による国家間の関係であったりというような政府や地位の高い人たちによるやり取りについて政治学、経済学を主体に学んでいくというのが典型的です。
それに対して、イデオロギーやポップカルチャーなど魅力的な物を発信することによって、相手が自主的に自らの意向に沿うようにアピールしていくのがソフトパワーです。

このソフトパワーはスポーツや食文化、映画などから見出すことも出来ます。例えば、授業ではMcDonaldizationという現象について学びました。あのマクドナルドから広まったファストフード文化には4つの要素、
(1) もっとも効率的に満腹になる方法・Efficiency、
(2) 大きい=良いという考え方・Calculability、
(3) 常に同じものが食べられる・Predictability、
(4) 機械的に食事を作業としてとらえる・Control through nonhuman technologyがあります。

この4つの要素が、ハンバーガーをはじめとした安価で迅速なファストフードに魅せられた各国に広まり、アメリカ的な食文化が世界中の国々に浸透しているという話です。これは、アメリカが他国に自らの考えや嗜好を軍事力や経済力を背景に強要したわけではなくて、他の国々にとっても魅力的であったから受け入れられ、結果的にアメリカに都合がよくアメリカの経済にも好影響を及ぼすこととなったわけです。

その一方で、「ファストフード」という名前が示している通り、できるだけ素早く調理や消費ができてしまうこの食生活のマイナス面も広く世界に伝わってしまったというのも事実です。

実際に学期末に提出だったペーパーでは北朝鮮政府が1980年代に制作した映画 “A Traffic Controller on Crossroads”という映画を見て、北朝鮮政府が映画を用いて国の内外にどのようなメッセージを伝えているのかを分析しました。

ここでは、北朝鮮という情報の限られた国について、映画から読み取れることは何なのかという外部の視点も含め考えていきます。このペーパーを通して、映画がソフトパワーとして実際に人々の心を掴み、動かしていく事実を感じることができました。

このように柔らかい力、文化力によって他国に影響を及ぼすソフトパワーの考え方はマクドナルドのように自分たちの実生活にも深く根差した例であって、通常は国と国のトップがやり取りするものとして距離を感じがちな国際関係学という学問を身近なものとしてとらえることができます。

より創造力を持ち機転を利かせることによって、今まで政治や経済からの観点に絞られていた国際関係学を身近なマクドナルドや映画といったようなソフトパワーからも考えられると強く感じました。

○Interdisciplinary
このクラスの名前にも入っているDiscipline は主に学問の分野・領域というように訳される言葉ですが、Interdisciplinaryというのはまさに分野を横断した視点という意味です。

そういった意味で、このクラスでは幅広い分野からいろんな知識を得ることができました。やはり政治、経済、歴史、社会学、心理学がどういうアプローチでどういった内容について探求していくのかという面でそれぞれ違うので、その違いを理解しつつ一つ一つを国際関係学と結びつけるにはやはり創造力がいると思います。

特に今まで全く触れたことのない社会学について学んだときはそのアプローチ方法が自分にとってとても新鮮でした。登壇した社会学の教授は、大学のあるウィリアムズバーグにおけるラテン系移民の状況について調べることで移民問題について明らかにしようとしています。

実際、近年ではアメリカ人が定年退職後にニューイングランドやワシントンDCなどから比較的暖かいアメリカ南部に移り住む動きが起こっていて、(東京と同じぐらいの気候の)ウィリアムズバーグも歴史や文化に恵まれていることや地域的にバージニア南部に位置することもあり、最近は住宅開発が盛んです。

その一方で、NAFTA(北米自由貿易協定)の締結後に競争で不利になったメキシコの農家の人々が大勢失業し就労先を求めアメリカにわたってきている現状があります。この需要と供給がマッチしたのがウィリアムズバーグをはじめとした南部の開発が盛んなエリアで、ラテン系の移民の人々はこうした場所で建設やクリーニングなどで多く働いています。

これはGlobal Ethnographyと呼ばれるアプローチで、これはウィリアムズバーグやメキシコの農家といった小さなコミュニティーをローカルな視点から深く観察・研究することでグローバルな問題を理解しようという試みです。そうした政治学、特に国際政治の舞台では通常よく見落とされがちな個人レベルでの分析というのもこの社会学の教授のように密着し調査を続けることによって複雑な世の中を読み解くカギになることが分かりました。

社会学以外にも一見関係のなさそうな分野であっても、創造力を持って見てみると色々な関連性がみつかり、新たな分析が行えるようになります。

このINRL300の授業はウィリアム・アンド・メアリー大学で国際関係学専攻として卒業する上で必修の授業です。特に2年次に履修することが勧められているので、今後本格的な国際関係学を勉強する前に、創造力を持って幅広い視点から分析できるような柔らかい頭を養ってほしいという大学のメッセージなのかもしれません。

今学期はこの授業を通して普段ではなかなか行わないようなアプローチを学んだのですが、来学期はGOVT329 International Security(国際安全保障)という戦争などに注目するコテコテの古典的な国際関係学のアプローチを学ぶので、また新たな国際関係学の側面を知るのがとても楽しみです。

では、今回は少し短いですがここで終わりにしたいと思います。
2015年もまたたくさんの新しい発見と経験にあふれていました。来年も今の環境を当たり前だと思わず一日一日を大切にし、精進を続けていきたいと思います。また、留学レポートも今後も一所懸命書いていきたいと思っているので、皆さまどうぞよろしくお願い致します！

◇ 2015年11月 2年生ながら「就活」について 11月号です！

ただいまThanksgiving Break中で久しぶりにゆっくりすることが出来ています。
しかし、休みが終わると授業もあと一週間のみ。その後は期末試験があって、もう2015年秋学期も終わりになります。去年とは比べ物にならないくらい月日の流れるスピードが速いです…でも早く日本の美味しいご飯も食べたいですね！

今回は、毎年11月に開催されるボストンキャリアフォーラムを通して考えた「就活」について話したいと思います。


○ボスキャリ
Boston Career Forum、通称ボスキャリは、毎年恒例の日英バイリンガルのための世界最大の就職イベントです。今年は、11月20日から22日までの3日間開催され、主に有名日系企業が195社集まり、海外に留学している日本人大学生、交換留学生、日本語の話せる外国人学生をどんどん採用していくイベントです。ロサンゼルスやロンドン、シドニー等でも同じ会社がキャリアフォーラムを開催していますが、この3つに比べてボスキャリの規模は桁違いです。
今回ウィリアム・アンド・メアリー大学から自分以外にも慶應大学からの交換留学生、日本への留学経験のある中国人留学生、そしてMBAの方などがボスキャリに参加していて、同じ飛行機に乗ってボストンに行ったりしました。

自分は2年生ということで、本採用を目指しているわけでも、本格的なインターンシップを獲得しに行ったわけでもないのですが、来年3年生として参加するボスキャリはインターンなどで重要になってくるので、それまでにボスキャリに実際に参加して、様々な企業の話を聞いたり、自分の将来について見つめ直したりして、来年ボスキャリの準備がスムーズにできるようになるために行ってきました。
またこの11月後半というのは、正直こっちの学生にとっては期末前の課題提出がたくさんあるのでとても辛い時期なのですが、その様な状況下でも就活の準備に時間を割けるように、タイムマネジメントができるようになることも目指しました。実際、事前に時間のある時にちょくちょく出展する企業について簡単に調べてみたり、自分の履歴書や英文履歴書（Resumeといいます）を作って、添削してもらったりしたので、いい予行練習になったかなと思います。

実際のキャリアフォーラムは金曜日からなので、木曜の午後に大学を出てボストンに向かいました。金曜の朝、早速会場であるBoston Convention and Exhibition Centerに向かいました。会場に入った瞬間今までのボストンの雑踏が消え、いきなり日本になります。係りの人が日本語で「コートはあちらで預けてください」「チケットをご提示ください」などと声を上げているので、結構衝撃的でした。エントランスを通り抜け、ブースが並ぶホールに降りていくと日本人がうじゃうじゃ、日本語表記の看板があちこちでそこはまさに東京ビックサイトか何かのようでした。こんなに「留学生」がいるのかと思うくらいの人出で驚いたのですが、どうやら4年間アメリカの大学に進学している人よりも、交換留学であったり日本からわざわざ飛んできた人だったりのほうが多いようです。
ということで、かなり圧倒される雰囲気でした。自分の場合日本の大学に通っているわけではないので、このボスキャリが「就活」というものを始めて現実的に目にした瞬間でした。まずは、とにかく情報を収集するためにずらっと並んだ企業のブースをぐるぐる回り、ブースの仕組み、就活生の行動、企業の担当者の行動、面接を待つ就活生のしぐさなどじっくり観察しました。

キャリアに活かせる特別な経験もないし、2年生ということで求職活動はできないので、ここは割り切ってとにかくいろんな企業のいろんな人から話を聞くことに焦点を当てることにしました。変に飾らず、逆に素直にそういう旨を伝えれば、じっくり丁寧に話を聞かせてくれる企業があったのでそれも今の段階ではありかなと思います。
それぞれの企業のブースではテーブルを寄せて受付を作っていたり、丸テーブルでラウンジを作っていたり、いすを並べて小さな30分ほどの説明会を行っていたりしていました。特に説明会は一日の中で何度も開催しているところが多いので、まず初めに企業について知るにはとてもいい手段です。やっぱり当初感じた以上に企業のカラーみたいなものってあって、説明会の内容や、担当者の話し方などが同じ業種でも違いました。また、一対一で話すときも同じ業種の企業に同じ質問を投げかけてみてどんな答えが返ってくるのか何度かやってみるとよくわかります。

多くの企業が、この「グローバル化」の中で従来の業務だけではなくて、もっと手を広げることで世の中全体を作っていきたいと言っていて、自分が普段接する機会の多かった教育のグローバル化ではない異なる側面の「グローバル化」を考えるきっかけになりました。
そんな中で、異なる文化に身を置き、相手の考え方を知りつつまとめ上げることのできる力や、わざわざ海外の大学に飛び出していったチャレンジ精神などを留学生から求めていると答える企業が多かったのも印象的でした。こうしてたくさんの人と話すことが出来てので、今後は企業が求めているものと、自分が持っているもの、経験してきたことを短い時間の中で効果的に相手に説明できるよう訓練していきたいです。
さらに、いろんな人と話をする中で、内容だけを今後の糧にしていくのではなく、一歩視点を引いてどのようなプレゼンが印象的なのか、どのように企業の方が質問の答えると印象に残りやすいのかなども意識しながら聞いていると、もっといろんな場面で今回の経験が活かせるかなと思いました。

世界中から留学生が集まってくるのがボスキャリである、といっても過言ではないので、就職について情報を集めるだけではなく、自分の知り合いと久しぶりにたくさん会えるのもこの機会のいいところです。高校の先輩、HLABの友達、海外大学に進学した先輩や同期などと夏以来の再会を果たすことで、普段大学という、ある意味閉鎖的であり恵まれた環境の中でぬくぬく育っているので、それぞれどんな思いで海外で勉学に励んでいるのかお互い知ることができて、とてもいい刺激になりました。


○アメリカでの就活
日本では同じ時期に一斉に就活を始めることが多いですが、アメリカでの就活は個人戦です。今4年生の友達はちょうど仕事の面接がたくさん入っていて忙しい学期を迎えていました。
ウィリアム・アンド・メアリー大学では、Cohen Career Centerという部署があって、学生の就活をサポートしてくれます。説明会が開かれたり、模擬面接を行ってくれたり、個別相談にも乗ってくれたりします。ちなみに、どうやら面接用にスーツも貸し出してくれるらしいです。毎日決まった時間には、Walk-in Hoursといっていわゆるオフィスアワーみたいなものがあるので、そこでコンサルタントが相談に乗ってくれます。
英文の履歴書は日本の物とはだいぶフォーマットが違って、学歴、職歴、課外活動歴をリストアップし、それぞれ箇条書きで数行説明文を載せるという感じです。そのため、その短い説明文でいかにインパクトを残せる言葉遣いができるかが重要だそうです。自分ではなかなか適切な “Action verbs”を選ぶのは難しいので、Walk-inして添削してもらったりもしました。

また、毎学期の初めのほうに大学内でキャリアフェアが行われます。数十社が集まり、学生が担当者にいろいろ話を聞いて回ったりします。ボスキャリと異なるところは、面接がその場で行われないところです。大学のキャリアフェアではみんな学生がレジュメをもっていって企業とコネクションを作るのがメインです。企業はフェア開催後にレジュメを見て、学生に連絡を取って、スカイプ面接や直接面接を行ったりするそうです。
日本での就活が、みんな就活スーツを着ていて異様だとよく批判されていますが、実はアメリカのフェアもみんな普通にスーツを着て参加します。正直それ以外オフィシャルな場面で着る服の選択肢もないと思うので、フェアの雰囲気はそんなに違いません。また、ビジネス専攻の人は度々イベントやプレゼン発表の時にスーツを着なきゃいけないらしいので、キャンパスでスーツを着て歩いている人がたまにいます。ただ、ボスキャリはスーツじゃないと入れませんが、僕は1年の9月にポロシャツ短パンで大学のキャリアフェアにはいれました。

アメリカの就職観で日本と大きく違う点は、いかに今までその職業に関連する経験を積んできたかが重視されるところです。そのため、インターンなどを通して実務経験を持つことが最大の売りになります。専攻も関係してくるので、レジュメには専門知識をアピールできそうな今まで履修した科目をリストアップしたりもします。そんなこともあって、ビジネスやコンピューターサイエンスなど実践的な科目に専攻が集まる傾向がどうしてもあります。特にこの2つはウィリアム・アンド・メアリー大学でも人気があって、結構周りの友達からも勧められたりします。


○JCA Presents: Career in Japan
そんな中、今回ボスキャリに来ていた中国人留学生のように、日本に就職したい学生もいたりします。先日、せっかく大学のMBAに在籍している日本人の方々ともコネクションがあるので、Japanese Cultural Associationのイベントとして、日本人MBAの方をお呼びしてパネルディスカッションを開催しました。パネリストとして登壇していただいた5人のMBAの方々はみなさん様々な日本の企業から派遣されているので、幅広い業種からの視点で話を聞くことができて、日本人以外の学生にとっても有意義な時間になったと思います。
先ほど話したようにアメリカの就職観は日本とは違うので、日本の就職観を理解するのがちょっと難しかったようなんですが、日本の専門性ではない「人間性」をよく見ているところは、実はアメリカの学生が大学受験で経験したものによく似ていると僕は考えています。


○日本の就活とアメリカの大学受験
日本の企業はたいてい総合職の場合、対象学部は全学部全学科となっていて大学で学んだ知識というよりも、人間として何を学んだのか、どういう人物なのかが重視されるとMBAの方もおっしゃっていました。そんな話を聞いていて思ったのは、アメリカの大学受験との類似点です。

イギリスの大学受験はアメリカの就活に似ているかもしれません。イギリスの場合、GCEやIBといわれる高度な発展科目を取って、最終的に出願する学科ごとに指定された科目で高い点数を取れたかが最も重要になっています。つまり、イギリスの場合はエッセーも書きますが、主に大学の判断基準はいかに予備知識を豊富に持っているかです。
アメリカの場合、GCEやIBのようなものとしてAPがあります。APやIBで優秀な成績を取っておくと有利に働いたり、入門クラスが免除されたりしますが、アメリカの大学的にはあくまでリベラルアーツの精神のもと学生をまんべんなく一から教育したい思いがあるのでそこが一番重要ではありません。
確かに学校の成績やSATのテストスコアも見ますが、それを見ている理由はいかに高校で習った「知識」を大学で使ってもらえるかではないです。課外活動や今までの人生観などをエッセーなどで文章に起こすことで、自分はどんな人間で、どんな考え方をするのかを表現します。そのため、大学で活躍できるポテンシャルを持っているのかを今までの努力の証明である4年間の成績と自分の想いや思考回路がにじみ出たエッセーから大学が人として全部を読み取っていきます。

ここまで書いていくと日本の就活との類似点が見えてくると思います。
そもそも日本の企業が求めているのは即戦力ではないと思います。入社後ジョブローテーションなどを通して様々な経験や会社の考え方を養ってもらいたいという話をしていました。つまりそういった状況下でいかに成長し活躍できるポテンシャルがあるかを見極めるために、就活ではその人の人となりを見ているようです。ボスキャリでも先輩たちから面接の話を聞くと、自己紹介をしてほしい、失敗談を話してほしい、課外活動について話してほしい、などどこかアメリカの大学に出願する際にエッセーで聞かれたこととそっくりでした。大事なのはやはり何をしたかではなくて、その場面で自分がどう考えてどう行動したかということなんだと思います。

そんなことを考えていると、もしかしたらアメリカの大学に入学した人は自己分析を一度行っているので、有利なのかもしれません。というより、情報も限られてるし、先輩からの経験談も聞けないので、そういう面だけでも有利だと思いたいですね…

というわけで、今回は2年生ながら就活なんていうトピックで書かせていただきました！
まだまだ知らないことだらけなので、今後もっと情報を集めていきたいと思います。


○宣伝
帰国後の12月20日（日）に「William and Mary大学在校生による大学説明会」と題しまして、この冬もアゴスでセミナーを開催させていただきます！
アメリカ以外にもイギリス、カナダ、オーストラリアの大学を受験した経験や大学の選び方、実際のウィリアム・アンド・メアリー大学での生活などをお話しできればと思っています。ぜひお時間ある方はお越しください！！
以下リンクでセミナー参加予約できますので、ご利用ください。
William and Mary大学在校生による大学説明会


では来月は日本から更新させていただきます！

◇ 2015年10月 大学での自分の役割を考える
10月号です！

秋も深まり、徐々にウィリアムズバーグも寒くなってきてきます。実は秋休みも終わり、今学期も折り返し地点にきました。ということで、毎週のように中間テストがあって、まさに19単位の恐ろしさに思いっきり直面している今日この頃です。

さて、先月号では今学期の授業について紹介したので、今回は生活面での様子をお話ししたいと思います。

○2年生以降のハウジングについて
1年生は全員Freshman Hallsと呼ばれる1年生専用の寮に入ります。大学内に14のFreshman Hallがあって、それぞれ150人近くが住んでいる大きな寮や30人ぐらいが住んでいる小さな寮までいろんなサイズのものがあります。一応入学前に希望調査があって、Large Hallがいいのか、Small Hallがいいのか、またどんな生活環境を送っているのか（朝型・夜型、Always綺麗・Not綺麗、音楽をかけながら勉強・静かなところで勉強など）の希望を記入しています。その調査をもとに、同じような希望の学生がマッチングされ、ルームメートが決まります。

希望がすべて通らないこともありますが、去年自分は希望通りLarge Hallの一つ、Jefferson Hallに入ることができました。また、ルームメートもとてもきれい好きで快適な生活を送ってました。ちなみに、今学期は去年のルームメートと毎日昼前の授業を一緒に取っているので、ほとんど今でも毎日一緒に昼ご飯を食べています。

さて2年生以降は原則自由で、キャンパス外に自分で住むところを見つけて学校に通うことも可能です。ただ、ウィリアムズバーグは住宅街ではありますが、あまり学生が住めるようなアパートがたくさんあるわけではないので、ほとんどの人が4年間キャンパスに住んでいます。

Upperlevel Hallsはいろんな種類の物があって、Freshman Hallと同じような感じの物（なんだかんだアメリカの大学も年功序列がしっかりしてるので、1年生の寮が一番古かったりします）から、数年前までホテルだった建物をそのまま使ってる何とも贅沢な寮もあったりします。そして、バスルームのタイプも様々で、1年生の寮はすべてHall Bathroomと呼ばれる形で、フロアでバスルームを共有しますが、2年生以降の寮にはSweet Bathroomと呼ばれる形のものもあって、2部屋の間にバスルームがあったりします。

このようにいろんなタイプの寮があるわけですが、どの寮に翌年住むのかは春学期の3月ごろに決定します。これも年功序列で、新4年生から順にクジで登録できる時間帯が決まります。そのため、早い時間帯に登録できる4年生から順にいい寮が埋まっていく感じです。ちなみに一番人気の寮はTribe Squareという寮で、完全にシェアハウスのように4人でキッチンを共有し、さらに一人ずつの個室があるスタイルの寮です。14部屋しかないので、全学部生6000人がうらやむ56人だけが入居することのできる寮です。

その他にも、Special Interest Housingといって、特定の興味を共有する仲間たちが集まる寮があって、EcoHouse、Africana House、Mosaic House、International Houseなどがあります。さらに、Languages Housesといってアラビア語、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語がそれぞれ寮の1フロアずつを持っています。各Language Houseにはネイティブのチューターがいて、クッキングナイトやムービーナイトを開催しています。ちなみに、Language Housesの場合は、通常の寮のクジ引きの前に申し込みをオンラインでして、その言語の学科の教授と面接をして、そこで倍率が高い場合は選考があったりします。

自分は今年その中で、日本語ハウス（J-House）に住むことにしました。日本語ハウスといっても日本人がたくさん集まってきているわけではなくて（そもそも日本人自体大学に数人しかいないので）、日本語に興味のある人、日本文化を学びたい人たちが集まってくる中で、逆に日本人としてそのコミュニティーに貢献できるのではないかなと思って入ることに決めました。また、J-House自体がシェアハウスみたいな感じでもあって、中央のキッチンとラウンジを囲むように22人の住人の部屋があるので、とてもいい雰囲気の環境です。

やはり、去年入学した時点で交換留学生をのぞいて日本で生まれ育った日本人が大学に自分一人しかいなかったこともあって、自分の中で日本人としての意識というか、日本文化を広める使命感みたいなのをすごく感じました。そんなこともあって、JCAだったり、日本語101のTAだったりを通して少しでも大学で自分だから果たせる役割みたいなのを見つけていきたいなと思いました。

○JCA幹部として
ちょうどJ-Houseの話になったところで、今度はJCA, Japanese Cultural Associationの話に移りたいと思います。今年は、Event CoordinatorとしてJCAのイベントを担当する役職につきました。去年1年間、JCAのメンバーとしてイベントに参加する側の視点から色々気づきがあったので、そこで感じたものからいかに「本物の」日本らしい雰囲気を取り入れることができるか工夫してイベントを作っていくことにしました。


a.　秋祭り
そのなかで自分の力が最も試されたのがJCAとして行う1年間で最大のイベント、JCA Aki Matsuri 2015でした。去年の11月号の記事でも少し紹介しましたが、毎年日本の祭りをイメージして様々な屋台フードや遊びを用意したりするイベントで、パフォーマンスも行われます。
今までの活動が評価されたのか、実は今年は大学からCultural eventということで、結構な量の予算が秋祭りのために下りて、食材や模擬店に関するものは、すべて学校のお金で賄うことができました。その代わり、去年までは食べ物はすべてチケット制で1食1ドルとかだったのですが、今年はすべて無料ということになりました。また、今年は今までとは違うもっとキャンパスの中心の食堂や郵便局が入っている建物のホールを予約できたので、新たな形での秋祭りのスタートとなりました。


今年の秋祭りの企画構想が始まったのは夏休み前で、実際に企画を固め始めたのは今年度が始まってからです。今までやってきたコンテンツに改良を加え、また新しいものにも挑戦したりしました。
やはり、アメリカにいるとリソースが限られているので、現実として手に入れられるものの中でいかに理想に近づけられるかが大事になってきます。例えば、毎年焼きそばの麺には中華麺ではなくパスタを使ってきました。コスト面や調達の労力を考えるとなかなか本物の焼きそば麺を手に入れることは出来ません。
ただ、それでもソースなどは手に入れることができるので、それなりに本場の味に近い料理を提供することができるんです。
また、時間的な制約も結構あります。前日はJCAのメンバーみんなで仕込みを行うのですが、その中でいかに効率的に作業を行っていくのか考えるのも企画立案者としての役目なので、そんなことを考えながら準備を進めていきました。1年ちょっとバージニアで生活をして、徐々にどこでどんな日本食が売っているのか、どんな代替え案があるのかなどが分かってきて、アメリカでの生活の勝手がわかってきたというか、なんだかアメリカの一員になれてきてる気がしてうれしいです。


そして当日には、前日までに仕込んだ食べ物などをすべて会場に運び込んで設営を行いました。今年は、開場に合わせてオープニングスパークを行ったので、日本人MBAの方たちから頂いた手作りの神輿を担いだり、JCAの有志によるダンスパフォーマンスを行ったり、勢いのあるスタートを切ることができました。
また、大学の剣道クラブと空手クラブにも学期の始めにコンタクトを取り始めて、パフォーマンスを行ってもらいました。こうして、大学内の他の日本関係の団体とも交流を今後も強化していきたいです。心の中では他のバージニア州内の他の大学の日本クラブとも交流を持つことができないかひそかに野望を抱いています。ただバージニア州自体が関東と中部地方を合わせた面積ぐらい大きいので移動手段が難しいですね…

最終的に秋祭りは200人近くの入場者数があり、食べ物も予定の2時間ぐらい前に売り切れてしまったので、3時間ぐらいでイベントを終えることとなりました。今年は、初めての挑戦も多く事前の準備が大変でしたが、総じてよりよいイベントになったと思います。そして何より、多くのJCAメンバーをはじめとした人たちの協力があって、イベントに来てくれた人たちがとても楽しんでいる様子を見ることができたので、本当によかったと思います。


b.　企画立案者としての経験
大学でこれだけ大きなイベントの開催をリードすることは、なかなかできないとても貴重な経験となりました。自分自身は、現場監督として常にいろんなところを走り回っていて、特に前日の仕込みに関してはキッチンのスペースの問題で2か所に分かれてやっていたので、もう秋祭りが終わったときにはヘトヘトだったんですが、やっぱり企画を立ててイベントを運営するのは本当にやりがいがあって楽しいものです。


やはり個人的に、イベントを運営していくうえで大事だと感じたのは、常に全体を把握してそれをもとに効率的にメンバーに仕事を振り分けていくことでした。
当日の朝、秋祭りに必要なものをすべて会場に運び込んで設営を行う際、短時間でたくさんのことをやらなければいけないのに、逆にたくさんのことがあり過ぎて、せっかく朝から集まってくれたメンバーたちの中で手持無沙汰にさせてしまう場合が出てきてしまいました。これは、たぶん自分が事前に仕事を整理しておければもっとうまく割り振れたのかなと思って、もっと全体を把握して上手に音頭を取っていければよかったです。

逆に自分はあくまでイベント担当であってJCAの会長ではないので、確実に事前に会長に報告・連絡・相談（ほうれんそう！）をすることを意識していました。こういうイベントの中で一番怖いのは情報共有がなされていない時だと思うので、どうしてもどこかでほころびは出てくるんですが、常に上手くコミュニケーションをとる必要がありました。

ちょっとこれは自分がイマイチだったなと感じたことで、「アメリカでは」と一概にはできない事ですが、こっちにいると雰囲気作りがとても難しいです。今まで日本でやってきた感じだとメンバー全体のなんか団結力というか、ノリというかそういうのが強く重視されると思うのですが、こっちだとより実務的な関係で終わってしまう傾向がある気がします。これは、自分のイベント担当としての力量に問題があったのかもしれないですが、みんないろんな活動を抱えているしそれぞれに違う優先順位があるので、その場面で仕事を着々とこなしていくことに焦点が当たっている気がしました。そのためよくあるパターンはイベントが終わった後も結構あっけなく、みんなさっさと帰っていくことです。やはり一番にあげられるのは、みんな忙しいので週末とは言えど、勉強をする必要があるという事実です。結構その辺の切り替えというかそういうのが、こっちに来て他の活動とかでもよく起こることだなと感じています。


ただ、そうは言ってもこのイベントにおいて人とのつながりは本当に大事だなと感じました。あくまで自分はまだまだ2年生ですし、アメリカでの色々な生活事情に関する知識やコネクションは少ないです。そんな中で、秋祭りに関わってくれたいろんな人とのつながりで、これだけのイベントができたと感じています。JCAメンバーみんなの知恵を合わせてこうしたコンテンツが出来上がっていったのに加えて、日本語学科の先生やMBAの方たちからはアドバイスをいただいたり、宣伝に協力していただいたり。このようないろんな人とのつながりからイベントが成長していくって本当に素敵なことです。
せっかくいい経験を積むことができたので、今後の活動にぜひ活かしていきたいと思います。また、来年はさらにパワーアップした秋祭りで大学を盛り上げていきたいと思います！！

○新団体：ICEの設立
さて、今年JCAに加えて力を入れている課外活動が今年からスタートした新団体のICE、International Culture Exchange Organizationです。はい、アイスと読みます。文化間の「アイス」ブレークを行おうというギャグが使えます。この団体は、2年前に1年間交換留学で慶応大学に行っていたアメリカ人の友達と一緒に設立したものです。今年の頭から二人で話を始め、団体の会則を作ったり、諸制度を作ったりしていって、4月に学生団体を管理するグループに新団体の意図をプレゼンテーションし、審議ののち、正式に大学の学生団体として認可を受けることができました。


この団体の目的の4本柱が：
1．留学生の支援
2．交換留学の支援
3．様々な文化の紹介と交流
4．学内に存在する文化系団体の橋渡し役
です。

これは、二人の大学での経験が大きく影響していて、
慶應に留学していた際に彼が経験したのは、世界中の留学生と慶応生の国際交流を促進するPlurioという団体です。ある日、自分がアメリカについてみんなの前でプレゼンをして、さらにその後フランスからの留学生がフランスについてのプレゼンをしたのを見て、日本について学ぶために慶應に来たのに、それだけではなくてフランスやそのほかいろんな国のことも知る機会があることに衝撃を受けたそうです。その経験から、この新団体設立の構想が生まれました。

また、自分の中での経験として、大学に来て一番最初のオリエンテーションの時に受けた中国人留学生の圧倒的な数と団結力への衝撃がありました。彼らは彼らですでにお互いを知っているし、ウィリアム・アンド・メアリーにいる先輩との強いつながりも持っていました。そのため、携帯はどうしたらいいのか、銀行口座はどうするのか、どうやって大学に行ったらいいのか、何をもっていったらいいのか、など異国の地で生きるために必要な情報を簡単に先輩たちから聞くことのできるネットワークが存在していました。一方、自分の場合は幸い慶應の交換留学生などから情報を得ることができましたが、他の国の留学生はみんな各国から数人ずつなので、そういうネットワークを持っている人は少ないと思います。

そんな中で、大学の留学生を担当する部署も非常に手厚いサポートをしてくれています。ただ、この団体を通して、より身近で学生自身の経験が活かせるような包括的な場所を作っていきたいと思うようになりました。

実際に今学期の授業が始まる前日に行われたStudent Activity Fairでメンバーを募集し、ミーティングを開始しました。まだまだ新しい団体で知名度も非常に低いですが、徐々に広めていって、いろんな国の留学生や多文化に興味を持つアメリカ人が楽しく視野を広げられる団体として成長していけるようにしたいです。こないだ、学内新聞”The Flat Hat”にも取り上げてもらったので、今後もっと人を集めていきたいです。

基本的なフォーマットとして、毎月のテーマを決めて、そのテーマに沿った文化の紹介をプレゼンテーション形式で行い、後半の時間で自由にディスカッションをしていきます。最初のテーマは、食べ物でアメリカの食文化、和食、コロンビア料理、オーストラリアの食文化、広東のフルーツについてのプレゼンを聞くことができました。現在は、テーマを音楽に移しポップカルチャーをメインにディスカッションを行っています。

メンバーも顔ぶれが決まってきて、興味を持ってくれている人は毎週欠かさず参加してくれているのでありがたいです。それぞれのメンバーに自分の経験した文化について話してもらうので、何といってもこの団体にとってメンバーは一番大事な財産です。これからさらにいろんなバックグラウンドを持った人が集まってきてくれるような環境を作っていきたいです。

○自分に何ができるのか
アメリカでは学期の最初の2週間ぐらいに友達と会話をすると、よくsettle inできてきた？というような表現が使われます。新たな場所に定住したか聞いているわけではなく、もっと心理的になじんできたかというような意味合いです。個人的にはいつもこの言葉を聞くと、サンゴが産卵を通して生まれて海に漂って、最終的に自分の住む場所を決めて一生その岩にくっついて生きていくみたいなイメージを勝手に持っています。
大学生活も2年目に入り、ある程度学校生活もルーティーンが決まってきました。また自分の場合は選考・副専攻にしたい分野も決まっているつもりなので、学業面でも徐々にsettle inしてきています。これは、馴染んできたという意味と、サンゴのように自分の場所を決めたというか一つのところに落ち着いたみたいな感覚でしょうか。確かに昨年度色々なところに顔を出して経験したものの中から自分がいいと思ったものに落ち着いた、というような意味もありますが、決して新たな探求をやめたという意味ではありません。

この感覚については先月号でも軽く触れましたが、そうすると今度は、自分のsettle inした環境で、自分に何ができるのか、自分はこの環境の中でどんな貢献ができるのかはっきりしたくなります。1年の春学期に取ったフレッシュマンセミナーの教授も学期の一番最後の授業で、「この4年間ウィリアム・アンド・メアリーで過ごすなかで、卒業する前に何か一つでいいからこの大学に何かを残していってほしい。」とおっしゃっていました。教授自身この大学の卒業生で、その後多くの政府機関でキャリアを積んできた人です。その頃からいろいろ考えていたことなんですが、今月号で話した、J-House、JCA、ICEの経験から徐々に自分は今の時点での答えを出しつつあるように感じています。

しかし、これは4年間の中でどんどん変わっていくことだし変わっていくべきことな気もします。その時その時の状況に合わせて自分のやるべきことを見つけていくことは逆に必要なことです。そんな気持ちも含めて、今後探求を辞めず、ウィリアム・アンド・メアリー大学の一員として大学に少しでも貢献し、自分の成長にしていけるように頑張りたいと思います！

では、今月号はこれで以上とします。
また11月に！

◇ 2015年9月 2年目の秋
9月号です！

ついに、このアゴス留学レポートを書き始めてから、1年が経ちました！あっという間だったような、長かったような…
皆様、いつも読んでいただき大変ありがとうございます。これからも、ウィリアム・アンド・メアリー大学での様子など、できるだけ色々な情報をお伝えしていければと思っています。

バージニア州、ウィリアムズバーグの夏は相変わらずカラッとはしてなくて、湿度があります。気温は東京と同じぐらいで、日差しが若干強めな感じです。前にも少し話したことがあると思いますが、春には桜もどき+花粉、夏はジメジメした暑さ、秋は紅葉、冬はごくたまに雪という感じで、ここの気候は1年を通して東京とほぼ同じなので、東海岸では一番日本からの感覚の移行が簡単で過ごしやすいと思います！
では、今月号は早速2年目の大学生活の様子をお伝えします。


○2年目の感覚
やはり、2年目に入って、何もかもが新鮮で難しかった去年とは違う感覚を持ち始めています。一言でいうと「周りが見えるようになった」ことが非常に大きいと思います。
まず1つは、要領がつかめていること。いつどんなことがあって、どんな風に臨めばいいのかわかっているという点で、最近を振り返ってみると去年に比べて全体的にやりやすくなっていると思います。去年は、何もかもが初めてで、どんな風に一つ一つのことと向き合えばいいのかわからなかったですし、逆にあまり決めつけたくもなかったので、どんどんいろんなところで人にあって話を聞きに行ったり、挑戦したりしてみました。有意義なこともあって、おかげで今こうして安定していられるというのも一つあると思いますが、いろんな面で効率も悪かったと思います。今年は特に課題に関していえば、自分のできる能力もわかっているので、いつ何を始めたらいいのか、どれくらいかかるのか計算したうえで、やるべきことを分配できています。そういった面で、余裕が生まれて周りが見えるようになってきています。

2目は周りの人をもっと深く見れるようになったこと。去年は一つの側面からしか見ることができなかったのに対し、今はなんだかもっと深く周りの人をみて、気付きを得ることができている気がします。去年は去年で、いままで高校では本当に小さなコミュニティーにいたところからの転換ということもあって、あまり余裕がなかったのかもしれません。たぶん6000人の中にいて、一人一人と話すこと自体が刺激に値してたと思います。
今年の状況が変わったのは、たぶん自分が思うに、今年の夏のHLABの影響もあると思います。同世代の世界中の大学に行っている仲間と触れ合うことで、学生のいろんな側面を知ることができました。最近、いろんな人から新たな気づきがあったり、新たに気になることができたりと、面白いです。

自分の気持ちの変化に加えて勉強面で言うと、正直3か月の夏休み明けですぐに勉強になれるか心配だったのですが、リーディング力が意外に落ちずスムーズに課題をこなすことができています。これは冬休み明けの状況とは全く逆で、春学期の最初はリーディングが全然できなくて大変でした。
冬休みは、リーディング力を落とさないように、英語の本を一生懸命読もうと思っていたのですが、結局なかなか集中できず、1冊ぐらいしか読めませんでした。そのため、冬休み1か月を通して、文字を読むという機会が少なかったのが原因だと感じました。
一方その失敗を踏まえ、この夏休みは読書量をとにかく増やして活字に触れる感覚をなくさないようにすることを努力しました。そのため日本語の小説やカデミックな本を常に持ち歩いて読むことで、結構な量の本を読むことができました。もともと読書は好きなので、とにかく素早く目で文字を追って頭に取り込んでいくプロセスを訓練していれば、それが英語になっても意外に苦労せずにリーディングがこなせるようになるのかなと思います。リーディング力を維持したい場合、日本語でも何でもとにかく本を読む作戦、意外にいいかもしれません。


○授業紹介
ではここで今学期の授業を紹介していきます。
余裕が出てきたなどと最初のところで言っていますが、実は今学期は基本的な上限である18単位を越えて19単位とっているため（Overloadといいます）、正直なところ結構忙しくて、課題が重なると結構ヤバくなる可能性大です。

a.　ECON303 Intermediate Microeconomic Theory
中級ミクロ経済理論。去年の秋学期に履修したECON101ミクロ経済入門で習った内容をもっと数式などを用いて学んでいくクラスです。だいたい35人ぐらいのクラスなので、入門とは違って大分小さなクラスになります。入門クラスではもっと経済学的な物の考え方を養うべく、ミクロ経済の様々なポイントを学んでいったので、計算はなかったのですが、今回はもっとその考え方に基づいて、より実践的に数学的にメカニズムを解明していくという感じで、実際にそもそもなぜこういう仕組みになっているのか深く知ることを目指しています。微分とかも入ってくるので、数学は高校以来久しぶりですが、一つ一つしっかり理解していきたいと思います。経済学は国際関係学でもとても大事なので、基礎を固めていろんなところに応用できる力をつけていきたいです。
月曜・水曜・金曜の朝8時からの授業なので、結構朝がきついですが、明るくて評判のいい教授なので、朝眠い中頑張って授業に行っています。だいたいいつも7時40分ぐらいに起きて急いで支度して授業に行く感じです。実際のクラスは、パワーポイントを使ったスタイルではなく、書画カメラを使って先生が手書きで解説していくことを一緒にノートに取っていくスタイルなので、置いていかれることもなくノートが作りやすいです。

b.　CHEM103 General Chemistry I
理系を目指す人が最初に取る化学の入門クラスなので、物理化学系のほうをメインに、本格的に化学の内容を学んでいきます。特にGeneral Education Requirementと呼ばれる卒業要件ともあまり関係ないので完全に自分の興味で履修しているのですが、海洋学系の科目で、この化学のクラスを事前要件にしているものもあるので、取っておくことにしました。化学は高校以来なのでちょっと忘れかけていましたが、それぞれの分野を高校の内容に触れつつさらに掘り下げていくという感じです。
入門クラスなので140人ぐらいの講義スタイルの授業です。この授業は、教授がタッチパネルに電子ペンで授業ノートを書きこんでいってプロジェクターで写すというハイテクなスタイルで、パワーポイントに比べてノートが取りやすいです。また、それ以外にPoll Everywhereというサイトを使って、授業の中で選択問題の小クイズが行われます。例えで言うならば、最近日本のテレビでもdボタンで投票して番組側もそれをもとに反応するという仕組みがあると思うのですが、それと同じような感じで、自分のスマホで答えを選ぶと、教室のスクリーンにクラスの投票率がでて、教授もどれくらいの人が正解出来ているのか確認したうえで解説してくれる仕組みです。これは結構革新的だと思います。

c.　FREN201 Intermediate French I
去年に引き続き、フランス語を勉強していきます。ついに中級になってしまいました。去年と同じように25人ぐらいのクラスで、去年一緒に取っていた友達も何人かいます。今年は先生が変わって、新任の先生です。この夏休みの3か月間たまにフランス語の文章を読んでみたり、アニメを見てみたりはしてたのですが、結構忘れてしまっているので、もっと練習しておけばよかったと後悔しています。今年は、教科書の内容などを見ていると、新たに文法の法則を学ぶことよりも実際に長文や短編映画などを通して、いかにフランス語が使えるようになるのかに焦点が当たっているような感じなので、苦手な単語も頑張って覚えつつやっていきたいと思います。
やっぱり去年と大きく違うと感じるのは、先生のフランス語でしゃべる割合です。フランス語の4技能の中でリスニングが一番苦手なので、最初のほうは先生の言っていることがほとんどわからなかったのですが、大分週4時間も聞いているとなんとなく耳が慣れてきたと思います。202まで修了すると、いわゆる英語で言う2級レベルに到達するはずなので、頑張らねば！

d.　INRL300 International Relations in Disciplinary Perspective
このクラスは、日本人の教授が担当しているクラスです。国際関係学専攻として卒業するためには必修のクラスで、国際関係学を様々な分野から考えてみようというのが目的の、珍しいクラスだと思います。具体的には、火曜日と木曜日に80分の授業は40人のクラスで、毎回政治、歴史、経済、社会学、心理学学科の教授が週替わりで登壇して、自分の分野から見た国際関係学について講義してくれます。
それと同時に、木曜日の午後にはSectionと呼ばれるディスカッションの授業が50分あります。このSectionは20人だけで、午前中の授業の内容やリーディングの内容を主に教授のリードのもと話し合います。ちゃんとリーディングを課題としてこなすだけではなくて、自分のものとして吸収して、しかもそこからプロセスしていかなければならないので、なかなか覚悟が必要です。国際関係について話し合うと、やはり自分なりの考えや視点を見出していくことが難しい場合もあります。普通に読んでいるだけだと、「あーなるほどね」で納得して終わってしまうので、いわゆるCritical thinking, 批判的思考をしっかり持つことの大切さが痛感されます。やはりこういうところにディスカッションの授業を設ける意義があると思います。
ちなみに、最初の数週間は授業と並行して、国際関係理論についてより深く理解するために、”Theories of International Politics and Zombies” というすごいインパクトのあるタイトルの本を読みました。この本はゾンビが人間を襲い始めた場合、人類はどういう対応をするのかリアリズム、リベラリズム、構成主義、新保守主義などの学派ごとに分析予測している本です。学派によって本当にゾンビに対する対応策が違うので読んでいてとても面白い本でした。それをもとに、自分なりに国際関係理論の立場を一つ取って、国際社会の理想的なゾンビ対応策を考えるというペーパーがちょうど1週間ほど前にありました。
一方的なパワーポイントによる講義ではなく、ゲストスピーカーであったり、ディスカッションであったり、常に自分が何をするのか問われている授業スタイルなので、この4か月で国際関係学について幅広い視点から学ぶことができそうです。

e.　ARTH251 Survey: Art History I
ヨーロッパの原始美術から、メソポタミア美術、エジプト美術、ギリシャ・ローマ美術、初期キリスト教美術など13世紀までの西洋、中東、アフリカ、アメリカの美術史を学んでいくクラスです。入門クラスなので90人ぐらいのクラスです。もともと美術に興味があって、ずっと美術史を勉強してみたかったので、楽しみなクラスです。ただ、作品や作者名、美術的な学術用語を結構暗記しなければいけないので、ちょっと心配です。
教授はスペイン人で結構なまりがあって聞き取りにくいですが、一つ一つの作品に対して思いを語ってくれるので、いい先生です。高校では世界史をちゃんと勉強したことがなかったので、メソポタミア美術を勉強していると紀元前2000年以上も前から高度に発展した文明があって、人々が暮らしていた様子などを知り、日本の歴史観とは全然スケールが違うことに衝撃を受けます。なんだかこういう世界史の側面を学ぶと、まだまだ自分の知らない世界がたくさんあって、「世界って広いな」ってケロッと思ったりします。

f.　MUSCP10 Percussion 1
ドラムを30分間、個人レッスンで練習していくクラスです。もともと高校のころドラムを2年間習っていたので、基礎はある程度あるのですが、もう最近は暇な時に適当にドラムスティックを使って運動しているだけなので、すっかり忘れかけてしまっています。General Education Requirementで卒業までに芸術系の授業を必ず取らなければいけないので、しっかりドラムをたたけるようになりたいと思い、履修することにしました。
先生は結構おじいさんで、何十年もWMでパーカッション（ティンパニー、ドラム）などを教えていて、最近バージニア交響楽団を定年で引退したそうです。とても気さくな方で、楽しい授業になりそうです。いかんせん1対1のため、これだけ教授と常にコミュニケーションをとることは珍しくてとてもいい経験になると思います。ただちょっと心配なのは、毎週4〜6ページのドリル練習が出されることです。一応音楽学科の校舎の練習室のドラムはいつでも使えるので、気分転換にちょくちょく練習しようと思っています。

g.　MDLL401 Practicum in Teaching Foreign Languages
今学期はJAPN101 Elementary Japanese Iのティーチングアシスタント（TA）を行っています。自分の大学では、言語のクラスのTAはアルバイトではなくて、TAをやると授業として1単位がもらえます。その1単位の授業がこの外国語教授法を学ぶクラスです。
シラバスによると
A mentored teaching internship experience in foreign language pedagogy. Students will work closely with faculty to assist in fostering student language learning while developing their own teaching skills.
という説明が載っています。
「どのように外国語を教えていくのか」について、毎週実際にいろんな言語を教えている教授が週替わりで授業を行ってくれます。はじめてTAをやるフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語を教えるすべてのTAが集まって一緒に授業を受けます。他の言語のTAとも交流を持つことができるのはとてもいい機会です。

そして、実際のTAの役目として毎週金曜日の日本語101の授業を50分まるまる教えます。その日は教授も授業に来ないので、完全に自分の裁量で1コマが決まってしまうので責任重大です…事前に教授と授業の内容を打ち合わせして、そのプランの通りにやっていくのですが、50分の時間管理が結構大事で、ペアで会話練習やドリル練習をしてもらったり、アクティビティーを行ったりするうえで上手く自然にみんなをリードするには結構スキルがいります。あとは、基本的に英語があまりできないふりをして授業を行うので、身振り手振りや片仮名の外来語を使ってなんとなくみんなに意味を解ってもらうようにします。できるだけ、授業で習ったフレーズを積極的に使うことでみんなに耳で覚えてもらうことを意識しています。

このように、実際にTAとして大学で授業をもって人に教えること、日本語を初心者に教えること、そして教育理論などの知識的な授業も学んでいることは、夏休みには正直想像していなかったので、すごくいい経験ができていると感じています。


以上、ご覧のように今学期はなぜか授業数がめちゃめちゃ多いです。いろいろやりたいことがあるのと、やらなきゃいけないことも多いので、とにかく一つ一つの経験を大切に、着実にこなしていきたいと思います。

本当はもう少し色々他のことも書きたかったのですが、いかんせん授業数がまず多いので長文になってしまいました。今回かけなかった部分は来月号に取っておきたいと思います。


では、また来月！

◇ 2015年8月 HLABを終えて
8月号です！

先日アメリカに帰ってきて、いよいよ大学生活2年目が始まりました。
まだI’m a sophomoreと言うのに毎回不思議な感覚になりますが、徐々にアメリカでの生活に脳みそを慣らしていきたいと思います。

さて、今回は8月に2週間にわたって行われたHLAB TOKYO 2015での様子をご紹介させていただきます！


○HLABの様子
a.　イントロ
8月10日から13日までは、HLAB東京、小布施、徳島、東北全4地域の大学生が一堂に集まり、イントロと呼ばれる準備期間がありました。このイントロ期間では、実際に大学生の間でサマースクールの準備を行ったり、ハーバード大学生を中心としたセミナーリーダー（SL）に日本を体験してもらうべく、明治神宮参拝や茶道体験、日本食文化の講義など、英語で日本文化について学んだりしていきます。

b.　本期間
大学生同士でしっかり打ち解けて用意ができたころ、8月14日から22日までいよいよ8泊9日のサマースクールがスタートします。

期間中ほぼ毎日午前中に行われるセミナーは、SLが中心に準備をし、英語で様々なテーマで授業を行う少人数制のクラスです。僕たちハウスリーダー（HL）はSLのサポート役として、高校生に日本語で解説したり雰囲気づくりをしたりしていきます。
僕のセミナーは、The Key to Understanding South Asian International Relations: The Pashtun Peopleというタイトルで、アフガニスタンの最大の人口を持つパシュトゥン人の歴史や文化について学び、南アジアの国際関係を考えていくというセミナーです。ペアのSL自身がパシュトゥン人で、両親がアフガニスタン出身なので、彼女の具体的な経験などを知ることができます。HLとして高校生に教える身でありながらも、HLAB以前は全く知らなかったパシュトゥン人の文化に触れて、日本人との共通点や相違点を発見することができたことはとても有意義だったと思います。特にこのセミナーを取った高校生たちは、もともと異文化や国際関係に興味のある人たちが多かったので、視野の広がった時間になったのではと思います。
高校生は前半の3日間で二つ、後半の3日間でさらに二つのセミナーを履修するので、自分たちは4回同じ内容を教えることになります。それでも、うまくいかなかったところ、説明がわかりにくかったところなど毎回改善の余地があったり、セミナーを受けている高校生によって全然雰囲気が変わってきたりもするので、一つ一つのセミナーが違うところにまとまっていくのがとても面白かったです。

ハウスリーダーのもう一つの役割が、サマースクール全参加者を12のグループに分けたハウスと呼ばれる行動単位のまとめ役となる点です。このハウスで移動時にまとまって行動したり、夜のリフレクションで一日を振り返ったりするので、HLABのなかで最も親密になるメンバーです。
ちなみに僕の入ったハウスはHouse 5だったので、”House 5, High 5”という掛け声をみんなで使ってました。先月号にも書いたように自分は2年前に高校生として参加しましたが、やはりハウスの存在はとても大事で、一日セミナーやフォーラムをはじめとした、様々な企画を通してたくさんの高校生や大学生、社会人と出会った後に戻ってきてホッとできる環境がハウスです。
ハウスリーダーとして、どのようにハウスの雰囲気をよくするのか、みんながハウスメンバーそれぞれをよく知って、団結することができるのかというのは最大の焦点です。初日のアイスブレーク・ワークショップから始まって、8日目のハウス動画作成までいろんなことがありましたが、一つ一つの活動を通して、最終日ハウスのみんなのキラキラした顔を見ることができて本当によかったです。


○出会い
やっぱり出会いです。
先月号も書きましたが、このHLABという一つの場に集まってくる人たちとの出会いが本当に大切な糧になっているんだなと思いました。

a.　高校生
このHLAB 2015にHLとしてどのように参加したいかは先月号で少し書きましたが、実際にサマースクールを終えて自分の方もいろんな刺激を受けることができました。一人一人と話をしていると様々な経験や考えが出てきて、本当に高校生80人がそれぞれ魅力を持っていておもしろいです！
やはり2年前に同じ高校生として参加しているので、サマースクール全体のイメージがつかめている点だけでなく、実際に自分があの時何を感じたのか、HLABをどんな経験としてとらえていたのか、その後どう変わったのかというような視点があるため、過去参加者としての経験はHLとして今回参加した際も大事だなと思いました。また、特に初日は自分も高校生の時めちゃめちゃ緊張して、最初は全く知らない100人以上の人たちと会うのが怖くて仕方がなかったので、そんな話とかをするのもよかったです。
みんな高校生は、それぞれ進路のことだったりいろんな話が聞きたくて大学生のメンバーに話しかけてきてくれると思うのですが、海外の大学に興味があって受験のことなどを熱心に聞いている人も多かったので自分も少し役に立てたのかなと思っています。僕は個人的には全員が海外進学すべきだとかそういうことは思っていませんが、一つの選択肢として存在をまず知ってもらいたいのと、それだけでなくてその選択肢にはどんな道が待っているのか、なぜその選択肢を取った大学生がいるのかということをみんなに知ってもらいたかったので、これを機に視野を広げてみんなにも将来のことを考えてもらいたいと感じました。

そもそもサマースクールにおいての大学生の存在理由って、「自分が高校生の時にこういうことを知っておきたかった！やっておきたかった！」というような後悔の念が根源的にはあると思うので、自分の高校時代を振り返るいい機会になりました。特に自分の場合、高2の秋に出場した模擬国連の高校生全日本大会まで、他高校の生徒と交流することもなく、中学・高校と自分の前ばかり見ていた気がします。それに比べて、やはりこのようなHLABを通して自分の周りを見ることができること自体が貴重な機会になると思います。
こうして高校生と話していて思うのは、具体的な経験やエピソードの重要性です。アメリカの大学に出願する際のエッセーに関しても言えるのですが、何か発見した時、学んだ時にその内容だけではなくそれにまつわる具体的なエピソードも同時に交えて話す方が、聞き手にとって説得力もあるしイメージしやすくなると思います。また、こうするには日々の一瞬一瞬の生活を大切にする必要もあるし、様々な経験を最大限自分のものにする気持ち造りができます。

b.　大学生
HLABを通して、多くの大学生と出会うことができたのは本当に素晴らしい経験でした。
やはり東京にある大学の利点は、東京という街が非常に多様であるという点。常にキャンパスの外にチャンスを求めていって、学生としての生活も、キャンパス外の活動が多くなる場合もあると思います。そして、東京自体にたくさんの大学が存在しているので、他大学との交流も容易です。
一方、アメリカの大学での生活は、ボストン、ニューヨーク、ロサンゼルス等のいくつもの大学が集まる大都市圏にある一部の大学を除き、基本的にはキャンパス内で学期中の学生生活が終始しがちです。また、他大学の学生との交流も滅多にする機会がありません。逆に、大学としてもキャンパス内に本当に多様なリソースを与えているので、キャンパス内ですべてのことが事足りてしまうというのも事実です。
そのため、これを機会にたくさんの日本人大学生やアメリカ人大学生と交流し、同世代の仲間たちが今どんなことを考えているのか、どんな活動を行っているのか知ることができました。HLABに集まってくるメンバーは本当にそれぞれがいろんな思いを持っていて、それを聞くだけでも面白いし、自分もまだまだ自分磨きを続けていかないといけないと現状に危機感を持たせてくれました。

ちょっと話がずれますが、大学生って何なのか高校生と話していたときに気づいたのは、「先生」の存在の有無だと思います。高校では先生という、学業や生活などを指導する大人がいて、課外活動も大人がどこかでサポートしてくれています。また、自分と同じ授業を取っていて学校生活を送っている人が大抵たくさんいます。一方、大学にも教授という授業を教えてくれる大人は存在しますが、課外活動もすべて学生だけで行います。アメリカの大学の場合は履修も完全に自由なので、自分と同じ生活を送っている人は大学に何千人いても一人もいません。
HLABもそうです。アドバイザーの社会人の方がいらっしゃいますが、すべて運営は運営委員を中心にHLなどの学生が行っています。これって高校生の時は気づいていたけど実感のなかったことで、いざ大学生になって自分と同じ世代のメンバーで一つの大きなサマースクールを作り上げていると思うと、すごいことだなと改めて感じます。自分の責任のもと挑戦するのは怖いことだけど、自分でしっかり考えて、行動を行っていかなければならないのが、大学生としての姿なのでしょう。

c.　社会人
フォーラムやフリーインタラクション（夜に社会人の方が宿舎にいらしてざっくばらんに話を聞くことのできる企画）を通して、自分たちよりもさらに一歩も二歩も先を行っている社会人の方たちと交流を持つのも自分にとって大切な出会いとなりました。

まず、出会った方々から出てくる言葉の一つ一つがすごく貴重で、力強かったです。やはり、一人一人が強い思いをもって今の高校生に伝えたいことを考え、真剣に向き合ってくださっているため、その言葉が心に深くしみこんでいく感覚があります。そして新たな気付きから、また次なる思考や視点を生み出してくれるのも、出会った人たちから得た言葉の集積です。
例えば、フォーラムスピーカーとして登壇されたプラトン哲学者で慶應大学教授の納富信留氏は、自分がなぜ哲学を探求しようと思ったのかという話の中で、”Gaining knowledge is not the only way of learning.”　（フォーラムは英語で行われます）とおっしゃっていました。多くの学問が知識を深めるために存在していると思いますが、それだけではなく、哲学のように人生を豊かにするための学びを自分はしたいと思われたそうです。
フリーインタラクションの時に直接お話しすることができた辻調理師専門学校代表の辻芳樹氏は、幸せの5つのポイントを話してくださいました。5つの中で特に印象的なのは、「朝起きた時にその日やる事がある」ことが大事であるという点です。これってなかなか気づくことのできない幸せなのかなって思ったりして、日々の何気ない日常にも感謝する必要があるなとも同時に感じました。
その他にもたくさんの素晴らしいお話を聞くことができて、貴重な言葉を受け取ることができましたが、量が量なので2つだけに絞るとして、やはりいろんな人からの話を聞くことの大事な理由は自分にはなかった「気づき」が得られるからだと思います。そこから新たな発想が生まれていけばなおいいのかもしれません。

さらに、登壇してくださったすべての方々が強い思い、パッションを大切にしていました。それぞれの話の中に、伝えたい強いメッセージと内容があり、彼らのパッションがあるからこそ、僕ら聞き手側にもしっかり届いているんだと思います。
また、一つ一つの問題に対して主体的にかかわる勇気も大事だと感じました。例えば、義肢作成を行う会社Xiborgの代表、遠藤謙氏のフォーラムでは、障害についてのディスカッションが行われました。こういったときに、特に日本人の場合自分なりの意見を持つことって結構難しいし、意見をいうことはあんまりないかもしれませんが、アメリカの大学に行っていると常に “What do you think?”と聞かれるので、与えられた情報や問題に対して、しっかりと正面から向き合い、自分なりの解釈をしてアウトプットしようと試みる必要があります。フォーラムスピーカーをはじめとした社会人の方は自分のこととして問題を捉え、一つの軸となるものを持っているのがとても印象的でした。


○おわりに
This is just the beginning.
HLABの閉会式で必ず出てくる言葉です。2年前の時も今回も、やはりこのHLABが終わってすべてが終わりなのではなく、このサマースクールを終えた今何をするのかが問われています。
この9日間は本当にあっという間でした。高校生として参加した時よりもあっという間だったと思います。それだけ密度が濃かったし、全力でこの期間を駆け抜けた感じです。朝7時に起きて、8時からセミナーを教えて、23時に高校生が寝た後に大学生ミーティングがあって、そのあとも打ち合わせがあったりで、途中休む時間はあまりなく、結構きつかったですが、めちゃめちゃ楽しかったです。
どんなに楽しくても眠かったり、疲れたりすることはやっぱりあります。いかんせん「ロールモデル」としてのHLを求められているので、周りの目が気になりプレッシャーに感じることもありました。そんな中で、疲れてても眠くても、笑顔でいれば、自然に心も元気になって切り替えることが大事なんだなと、ささいなことではありますが感じました。

正直なところ、アメリカに帰ってきた今でも若干HLABへのなつかしさが頭から離れませんが、こうして文章化してまとめることで、一つの区切りにはなったかなと思います。これはあくまですべての始まりということで、この素晴らしい経験をもとにさらにアメリカでの大学生活2年目を頑張っていきたいと思います！


以上8月号でした。
次回は、新学期の授業などを紹介していきたいと思います！

◇ 2015年7月 リベラルアーツと自分 7月号です！

先日のセミナーにお越しくださった方、本当にありがとうございました！
すっかり梅雨も明け、蒸し暑い日々が続いていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか？
もうすぐ夏休みも終わり、日本での生活が惜しいような、早くアメリカで新しい生活をスタートさせたいような、そんな心持ちです。

さて、もうすぐ終わる夏休みですが、まだ最後に残されている大イベントHLABがあります！このサマースクールを通して感じたリベラルアーツが自分にとってどんな意味を持っているのか、そんな話をしたいと思います。


○HLABと高校生の自分
2013年の夏、高校3年生として僕はHLABに参加しました。高校最後の夏、受験の夏に9日間家を空け、サマースクールに参加し、大学出願に必要なエッセーの準備やSAT、そしてIB(国際バカロレア)の勉強ができなくなってしまうことに不安もありましたが、この9日間で受けた刺激がその後出願の準備をするうえでやる気のブースターになりました。

サマースクールに参加することを選んだ理由の一つはアメリカの大学へ出願することを決めていた時期に、実際にアメリカの大学に在籍しているハーバード大学をはじめ様々な大学の学生と交流し、情報を得ることでした。確かに、この経験を通して実際に生の先輩の声を多く聴くことができたのは貴重な機会となりましたが、それ以上にかけがえのない「気づき」と「出会い」がありました。

a.　気づき
2歳で水泳を始め、10歳でスクーバダイビングの資格を取って以来、常に海について学びたいという強い意志が自分の中にはありました。海外の大学に行きたいと最初に思ったのも、世界中につながっている海を勉強するには日本の中で満足せず、英語を使って世界中から海洋に関する知識を得たいと考えたのがきっかけです。
小学校6年生でそう決めて以来、海洋学を高校卒業後に海外の大学で学ぶべく様々なことをやってきました。高2の夏休みには、アメリカのSea Education Associationという教育機関が行うOceanography of the Southern California Bightという高校生向けのサマースクールに参加し、10日間ほど帆船の研修船でロサンゼルス沖を航海したり、その後大学の研究所で海洋学について実験を行ったりして、将来自分が本当に海洋学を専門として勉強していきたいと信じることができました。

しかし、このサマースクールの中で自分の本当の興味について気づくことができました。自分の好奇心旺盛な性格に関して自己分析の結果たどり着いた原点は、15年間通っていた玉川学園とIBが大切にする全人教育です。このbalanced explorer of one’s own lifeという考えの下、自然を駆け回り、本物に触れ、広くアンテナを張って興味を持つことができた環境が、実は幅広い分野について学びたいと思わせてくれていました。
一方、いつからか大学では一つのことを学ぶ場所であると思うようになり、時間の中でいろんなことに興味があることを徐々に忘れかけていました。アメリカの大学がリベラルアーツと呼ばれる教養教育の中で幅広い分野について学ぶ機会があると知識では知っていたものの、HLABの中でリベラルアーツの精神に直接浸ることで、何か一つの目標、興味を立てることではなく、心の底で眠っていた幅広い分野の中にある自分の興味分野を掘り起こし、大学でもいろんなことを学んで「いいんだ」と思うようになりました。このサマースクールでの気づきが大きなきっかけとなり、自分の中で海洋学と国際関係学の両方を本気で学んでいきたいという思いと共に、アメリカの大学のリベラルアーツの精神に惹かれていくことになりました。


b.　出会い
このサマースクールを通して得た最も大切なものは出会いです。
高校時代、基本的には自分の高校のなかの限られた空間で生活していた自分にとって、新たな80人の高校生との交流はとにかく新鮮でした。様々なトピックについて同世代の参加者と本気で議論をするということは日々の生活ではなかなか機会がなかったし、このHLABに集まってくるメンバーだからこそできることなのだとも感じました。
また、海外の高校に行っている人、遠く関西から参加している人など、幅広いバックグラウンドを持った参加者たちがこのサマースクールに集まってきていたので、学校での生活や普段やっていること、考えていることなど、多種多様な考えや経験を会話の中から聞くことができました。こうした環境に身を置くことで、日常では感じることのできない刺激を受けることができました。

ボーダーを越えた高校生、大学生、社会人との交流は、HLABにおいて大きな目的の一つです。この9日間で普段何気なく高校生活を送っているだけでは決して関わることのない大学生や社会人から、今までどういう経験をし、どんなことを考え、そしてこれから何を目指していくのかという話を聞き、自分自身が今後どうしていきたいのか、考える指標となりました。この貴重な機会に、直接一対一で話すことができ、ただただテレビや本から情報を得るだけでは掴むことのできない感動と刺激がありました。
出会いを通して、一つ一つの言葉、一人一人のストーリーが結ばれていくその積み重ねで、どんどん視野が広がり、自分の中で将来に向けてのビジョンを形成する大事な経験となりました。


○HLABと大学生の自分

a.　サマースクール準備
さて、今年の夏は大学生としてHLABに帰ってくることができました。今回自分が担当するHouse Leader (HL)は、ハーバード大学生を中心としたSeminar Leader (SL)が企画した少人数セミナーをペアで実施したり、ハウスというサマースクール期間中の基本的な行動単位で高校生やSLをまとめたりするのがおもな役割です。
3月に採用の結果をいただき、4月から徐々にHLとしての活動が始まってきていて、全部で6回のHLミーティングが行われてきました。最初2回のミーティングが開催されたときはまだアメリカにいたので、フォローアップといって運営委員が時間を取ってくれてGoogle Hangoutでミーティングでの内容を教えてくれます。

今までのミーティングでは、実際に行うセミナーのシラバスを高校生にとってどうしたら分かりやすく、そして楽しそうに見えるかお互いにフィードバック交換をしたり、期間中のコンテンツの動きを確認したりといろいろな準備が行われてきました。そして何より、共にサマースクールを動かしていく大学生たちと毎回のミーティングで会うことができるのが楽しいです。
アメリカの大学に行っていると、日本の大学に行っている人も海外の大学に行っている人もどちらの場合でもなかなか日本人の大学生と知り合う機会がありませんでした。日米それぞれ大学の仕組みなども違いますが、高校生の時とはまた少し違う「学生」としての立場で深く話すことができるのはとてもいい機会です。


b.　大学生として
2年前の夏に高校生として参加した時、大学生のHLや運営委員はとても大きく、しっかりしていて、何不自由なく大学生としての立場と責任を全うしているように見えました。しかし、いざ逆の立場に立ってみると、高校生に対してどうふるまっていいのか、みんな模索していることがよくわかりました。
高校生と大学生といって立場を分けたとしても、当然自分が経験したこともない経験をたくさん積んだ高校生だってたくさんいるわけですし、たまたまたった数年早く生まれてきただけなのが自分です。
唯一高校生と違うことは、高校を終えた先の一つの選択肢を今まさに経験しているという事実であり、自分が行った選択が正しかったのか知っているという点です。ただ、選択が正しかったのか今の中で答えが出ているとしても、それは結局のところたかが知れていて、その本当の答えはもっとずっと先にならないとわからない気もします。

自分はこの9日間を通して高校生参加者に何が与えられるのか？
それは何とも言えません。
でも、僕は一緒に考える存在を目指したいと思っています。結局は一人一人の人生です。高校生の人生を大きく変えうるような言葉を与えるよりも、彼らが考え、何かに気づく、そんなきっかけが生まれる場、雰囲気を作る一助になりたいです。
例えば進路のことで言うならば、海外経験がない状態で試行錯誤しながら海外の大学を受験し、最終的にアメリカの大学で1年目を終えた今、その進路選択は自分にとって間違っていなかった、明らかにプラスであったことは断言できます。そんな選択肢を高校生が直面する大学進学という分岐点で提供するであったり、一緒に考えたりできればいいかなと思っています。
やっぱり、高校生の時に感じた「出会い」のパワーは一人一人の考え方、生き方を共有するところにあると思います。このHLABという場で、様々な意見、側面を知ったうえで判断できるような環境を作っていきたいです。


○なぜ「リベラルアーツ」なのか
ところで、なぜリベラルアーツが大事なのでしょうか？
なぜ広い視野を持つことが大切にされるのでしょうか？

こんなことが気になりだしたのは、自分がアメリカの大学に行ってどんな学びをしているのか振り返っているときでした。アゴスでの説明会やそのほか留学に関連することについて話す際には、やはり1年間のアメリカ大学での生活や得たことを自分の考えにまとめる必要があるので、その際に日本の教育とスタイルやアプローチ方法も含めどのような点が違うのかいろいろ考えていました。そんな中、アメリカの総合大学、リベラルアーツ・カレッジどちらも大切にしているリベラルアーツは、そもそもなぜ重視されているのかという疑問にたどり着きました。
例えば、イギリスの大学はアメリカとは大きく異なり、出願時に学科を決め、大学というよりその学科の要求する条件を満たしているかがカギになります。それは、イギリスの大学が3年間の教育課程で、基礎的な知識は高校の発展レベルのクラスですでに修了していることを想定しているからです。
一方、アメリカの大学は最初の2年間は専攻を決めずに、自由に幅広い分野の科目を取ることができるうえ、多くの大学が卒業までに専攻と全く関係のない分野であっても必ず履修するようにと枠組みを設けている場合もあります。まさに、こうしたリベラルアーツの精神にHLABの経験から惹かれていった訳ですが、結局なぜなのでしょうか。

これに対する一つの答えになりうるのは、西洋の諸学の根源ともいえる「哲学」がどういう役割を持っているのか考えたところにあると思います。
たまたま哲学の入門書を2年ぐらい前に買ったのを思い出し、おもむろにかじってみていたのですが、そもそも哲学は、大昔には学問のすべてであったと言われています。哲学は何か決まった法則がある物でも、実験できるものでもありません。そんな目に見えない哲学ですが、その根源には世の中の「普遍的な」原理原則を探し出し、この世界についてなんとか説明しようという思いがあります。この世とは何なのか、人間とは何か、知るとは何なのか等々、自然や道徳などをも含むすべてを包み込むことのできる考え方です。
本来、こうした思想的な側面であった哲学は、自然の真理を追究し法則を見つけるべく自然科学へと発展していったり、普遍的な人間、そしてその集合体である社会の在り方を見つけるべく政治学へと発展していったりした結果、ギリシャなどの哲学者は科学者、政治学者として広く知られる場合も多く出てきました。

リベラルアーツでの学びは、例え何か一つの興味ある分野が定まっていたとしても、幅広い分野を探求することで今まで見えてこなかった新しい視点が生まれる、そしていろんな興味がある場合も何かしらのところで必ず学問は繋がっている、ということを教えてくれます。まさに哲学がそれを体現していて、結局今自分が学んでいることはそれだけで独り歩きしているわけではなくて、必ず他の物ともかかわりあって発展してきたことを知る必要がある気がしました。そして、その繋がりをしっかり理解することで、一歩ずつこの世の中について理解することができるのだと思います。
「なぜリベラルアーツなのか？」その問いへの答えの一つは、様々な知見から自らの生きる世界についてよりよく知る力を得ることのできるのがリベラルアーツだからだと思います。こうした多角的な学びは物事の本質を深くとらえることにも役立ちます。

こういう「なぜ」を問うのも、ただ是を是とする鵜呑みを恐れ、知識と主体的にかかわることを目指すCritical Thinking、批判的思考も広い視野を持つことで得られる力だからなのでしょう。


というわけで、7月号ではHLABを通して自分が得たことを振り返ってみました。
しかし！今年のHLABはこれからです！！あと本当に少しで高校生を迎える暑い・熱い夏が始まります。一人一人が強い思いを持っているこのHLAB、今年はどんなサマースクールになるのでしょうか。

8月号では、実際のHLABサマースクールでの様子などをお伝えしたいと思います。
次回はアメリカ（！！！）での更新になると思います。
よろしくお願いします！！

◇ 2015年6月 夏休み突入
6月号です！
梅雨に入り、じめじめとした日が続いていますね。
Freshman Yearを終え、日本に帰国してから早1か月。一体何をしているのか？今月号はそんなアメリカ大学在学生の夏休みの過ごし方について話していきたいと思います。


○夏休み！！
怒涛の期末試験を終えた後、一息つく暇もなく寮の部屋を入居時と同様に何もない状態まで一所懸命片づけてドタバタと日本に帰ってきたのが5月の中旬で、新年度の授業が始まるのは8月の最終週です。それまでの3か月ちょっとが夏休みという衝撃的な長さです。これはアメリカの場合、大学以前の場合も同様なので、例えば高校とかでも年度が替わるということもあって宿題もない3か月の超長期休暇なわけです。そんなこともあってアメリカの生徒は夏休みボケを防ぐためにサマースクールなどに積極的に参加する仕組みになっています。
それは大学生も当然一緒で、この3か月の間に何をするのかが非常に重要になってきます。特にアメリカの場合は年度替わりが夏ということもあって、大学生として迎える夏休みは3回しかありません。そのため、2年生以上の多くは1月ぐらいからインターンシップなどを応募し始め、3月ぐらいには面接が近々あると言っていた上級生の友達が何人もいました。アメリカでは日本よりも就職の際に即戦力となるような経験を積んでいることを重要視されているような印象があるので、こうしたインターンなどを通した実務経験というのは大切なアピールポイントとなるのだと思います。
夏休み中に大学が提供しているもので言うと、大学のSummer Academic Sessionsと呼ばれるいわゆる夏学期で単位を稼ぐ人や、ワシントンDCにある大学のDC OfficeでDCならではの授業とインターンシップを組み合わせたDC Summer Institutesに参加する人、世界15か国で行われている大学の夏季海外研修に参加する人など様々です。

一方で、一年目を終えた僕は何をするのか？とりあえず今年は日本で「海外進学」を自分の中でテーマとし、身近な環境で自分の経験を活かせる活動をしようと決めました。また、内情を話すと最近の円安で学費がどんどん上がってしまっているという現状もあるので、自分の経験が活かせるアルバイトをしようと考えていたこともあります。具体的には自分の母校である玉川学園やいつもお世話になっているアゴスでのアルバイトなどです。


○母校でのSGH業務補助
1月号で紹介したように玉川学園では昨年度から文部科学省よりスーパーグローバルハイスクール(SGH)に認定されたことを受けて、様々な「グローバル人材」を育てるような企画が始まっています。僕は、6月7月の2か月間学校が行っているSGH業務の補助という形でアルバイトをさせていただいています。
玉川学園はSGHのテーマとして「国際機関へキャリア選択する全人的リーダーの育成」と題し、国際機関や国際協力に重きを置いて様々な活動を行っていますが、その中でもグローバルキャリア講座と呼ばれる講演会がお昼休みに月2回の頻度で行われています。実際に国際機関や内閣府のPKOで活躍していた方々などが現地での活動についてTED方式で話してくださいます。僕はそのポスター作りや撮影した動画の編集などの作業から、当日の会場設営などを行ったりしています。

実際に自分も講座に参加したり、ビデオ編集の際に過去の話を聞いたりしていて感じるのは、まず「知る」ことの大切さです。日本で生まれ育った人が様々な経緯を経て国際機関で活躍する姿を高校生の時代に見ることができるのは非常に貴重な経験だと思います。どうしても別世界のように感じるようなフィールドでも自分と同じようなバックグラウンドから進んでいったことを知ることで、自分の選択肢が大きく広がると感じました。
これってこうした講座による経験に限らずいえることだと思っていて、チャンスや機会を得るだけで可能性がぐっと広がっていきます。例えば僕も現在英語の面で事前準備を手伝っていますが、学校が毎年行っているアフリカンスタディーズという夏休みの研修では、高校生が実際に南アフリカとボツワナを訪れて「本物」の国際協力を知ることができます。もともと自分と接点のなかったものがこうした機会を得ることによって、自分の経験となっていく力は本当にすごいものだなと感じました。
○アゴス
先月号の最後に少しふれたように、アゴスでもアルバイトとしてお世話になっています。大学学部進学をテーマとしたセミナーではイベントスタッフとして受付などをやらせていただいているので、見かけた方もいらっしゃるかもしれません。この夏から進学する人、すでにアメリカ大学で様々な経験をした人たちの話を聞いて、改めて海外受験では何を求められているのかを考える機会がありました。
海外、特にアメリカ大学の場合は学校での勉強だけでなく、課外活動での経験などいろいろな側面からの自分を大学側に示し、アピールする必要があります。大学受験の準備する際にどんな活動を行った方がいいのかというような疑問が生まれてくると思うのですが、よくそれに対して答えとして出てくるのが何をやったほうがいいじゃなくて、何が自分はできるのかという考え方で、とにかく自分の好きなことを突き詰めていけばおのずと結果はついてくるとよく言われています。

それがいったいどういう意味なのかというと、「自分を磨く」ということになるのだと思います。活動歴を連ねるだけではなくて、なぜ自分のやりたいことや本気でやってきたことを続ける必要があるのか？それは大学が何を求めているのか、そして僕ら学生が大学に入って何を求めているのかともつながってきます。例えば、多くの人が大学に入ったら周囲の学生から刺激を受けたいと言います。逆に振り返ってみて自分は周りに刺激を与えることができているのか？僕自身、まだまだそういうしっかりと中身のある人間であると自信をもって言うことは難しいですが、大学側は受験者が大学進学後に活躍してくれるポテンシャルを見ているといわれるため、そんな周囲の環境を好転させられるような人物を求めています。数じゃない、タイトルでもない。自分の今持っていること、今必要なことを、自己分析を通してしっかりと見極めたうえで、さらにそこから自分自身を磨いていく必要があるのだと感じました。
だからこそ自己分析を早い段階でやるのが大事で、受験が差し迫った時期に人生を振り返るよりも、日々の生活の中で少しずつ自分について振り返ったり、自分についてよく知ろうとしたりすることで、無理をせず等身大の自分から自身の強みを活かした魅力を引き出すことができるようになるんじゃないかなと思います。

なぜ僕がこういうことを言っているかというと、自分自身がこのことに高校生の時に気づくことができていなかったからです。綺麗ごとの面で「とにかく好きなことをやればいい」と理解しつつも、結局はどうしても大学進学という目標のためにやらなければいけないこと、やるとお得なことなんかを意識してしまうのが本音のところです。そんな矛盾したモヤモヤした心持を整理できたのがこの考え方です。実際1年間アメリカの大学で生活している中でいかに大学に貢献できるのか、自分が存在している意義を示すことができるのか考えた結果、やはり早い時期に自分の強みを把握し、それを磨けるようなことを行うことによって、自分にとっても得るものが最大限に広がると感じました。この考えをもとに、僕も日々精進できるような生き方をしていきたいと思っています。


○あをによし、奈良
3か月の夏休み、旅行に行く人も多いと思います。
ここでちょっと話題を変えまして、1泊2日で行ってきた奈良についても話してみたいと思います。

ギャップターム中にも日本中を旅行して日本についてもっと知りたい！なんて思っていたものの、結局どこにも行くことができなかったので、寺社仏閣の集まる古都、奈良への旅行はとても新鮮で様々なことを体いっぱいに感じることができました。
今回が初の奈良だったため、唐招提寺、薬師寺、平城宮跡、東大寺(+大仏)、春日大社、興福寺というようないわゆる王道といえるスポットをメインに訪れました。唐招提寺に関しては、ちょうど拝観した日がお寺を創建した鑑真の命日だったので大変多くの人が訪れていましたが、全体的に奈良のどの観光地でも日本国内外問わず多くの観光客が訪れていたのは非常に印象的でした。それにしても、奈良公園のあたりにはたくさんのシカが普通に歩き回っていて面白いです。

一番印象に残っているのは平城宮跡です。平城宮跡は日本史でもおなじみ、平城京が710年に建てられた際の宮殿であり皇居があったエリアに、朱雀門や当時重要な儀式を行った大極殿などの建物が復原されている場所です。しかし、一部の建物は1300年前の姿を紹介すべく復原された建物が残っていますが、それ以外は完全に原っぱです。しかもさらに朱雀門と大極殿の間を思いっきり近鉄線が走っています。こうした光景は僕にとってものすごく衝撃的でした。
東京がこうなる姿を想像できないし、想像したことすらありませんでしたが、現実的に遠い昔には皇居として日本の中心であった場所が、時が経つにつれ忘れ去られ、草原となっていったのを目の当たりにして、時の流れが持つパワーを強く感じさせられました。周りには何もなく、ただただ平らな空間の真ん中に立って考えていると(ちなみに奈良の語源は平ら→「ならされている」というところからだそうです)、まさに1300年前には日本をまとめる国の心臓部であった場所であることを想像して当時の人々がどんな気持ちでここを歩いていたのだろうか？どんな景色が彼らの目には映っていたのだろうか？と思いを馳せたくなります。
決してつながることのない大昔の人たちとの接点がこうした遺跡であり、長い時間残されてきた仏像などの美術品だと思います。千年前に同じ場所で同じものを見ている人がいて、きっと千年後にも全く同じものの前に立っている人がいると思うと、本当に不思議な気持ちになります。このような「非日常」への探検が僕は大好きです。実は僕が歴史や海洋学、春学期に取った天文学などの分野が特に好きな理由は、自分にとって全くの別世界であるところを知ることによって、今までの固定概念を壊して広い視野で想像を掻き立てられるからです。また、同じような気持ちになれるアメリカの古都、ウィリアムズバーグもとてもいいところです。そんな、「時間との対話」を行うことのできた奈良の旅でした！！


○宣伝
実は、7月21日(火)に「William and Mary大学在校生による大学説明会」と題しまして、アゴスでセミナーを開催させていただきます！
ウィリアム・アンド・メアリー大学の魅力や学校生活を始め、受験の経緯や大学選びについてもいろいろお話しさせていただこうと思っているので、ぜひお時間ある方はお越しください！！
以下リンクでセミナー参加予約できますので、ご利用ください。
/onlineservices/modules/agendax/?op=view&id=3821&on=20150721
以上、留学レポート6月号をお届けしました！
夏休みも残り半分ちょっと。今回お伝えした以外にも、HLABサマースクールに関することなども次回、お伝えしていきたいと思います！

◇ 2015年5月 Freshman Yearを終えて

5月号です！
期末試験を5月上旬に終え、先日日本に帰ってきました！
再び日本のおいしいご飯を食べることができることに感謝しながら（毎度ご飯のことが真っ先に出てきます）、今回は春学期後半の出来事の紹介しつつ、1年目、Freshman Yearを振り返っていきたいと思います。


○MBA、ビジネス大学院の授業見学
ウィリアム・アンド・メアリー大学は学部6000人の比較的教育に重きを置いた中規模大学ですが、Arts and Science, Law, Education, Marine ScienceそしてBusinessという5つの大学院も兼ね備えており、合わせて約2000人が学んでいます。ちなみに、最初に僕がウィリアム・アンド・メアリーに興味を持ったのは、この海洋学専門の大学院があり、Virginia Institute of Marine Scienceという大きな研究所が存在するからです。
Mason School of Businessという名前のビジネス大学院には、日本の様々な業界の有名企業から毎年約5人ずつ、計10人の日本人が派遣されてきていて、2年間のプログラムを通しMBAを取得されるために家族でウィリアムズバーグに来られています。夕食をご馳走になりに自宅へお邪魔したり、秋学期にJapanese Culture Associationの秋祭りに来てくださったり、ウィリアム・アンド・メアリーの小さな日本人コミュニティーではありますが、大変お世話になっています。

ビジネス大学院の校舎も大学内の同じキャンパスにあるのですが、新しくできた大きな建物なので外観がレンガ造りでとても立派です。中も高級ホテルに迷い込んでしまったような豪華な造りになっています。MBAプログラム以外にも、学部のビジネス専攻の授業はここで行われるので、他にも大学内に雰囲気のある校舎はいくつかありますが、この校舎で勉強するためにビジネスのクラスをとってみたくなってしまいました。

4月の中ごろ、MBA1年目の日本人の方が大学院のアドミッションオフィスに連絡を取ってくださり、朝8時から1時間20分の授業を2コマ参加させてもらえることになりました。1年目は必修の授業が多いそうで、今回見学させていただいた “Operation” と “Managerial Accounting” の2つの授業も、1年生を半分に分けたグループで、片方のグループが1つのクラスを受けている間にもう片方が別の授業を取って、2時限目に入れ替わる、という仕組みになっていました。そのため、午前中は教室の移動はなく、教授が逆に入れ替わるという形でした。だいたい1クラス40人ぐらいいる印象で、この日はManagerial Accountingの授業にゲストスピーカーが来ていたという理由もあるそうですが、多くの人がスーツなどのフォーマルな服装で授業を受けていたのが、学部とは全然雰囲気が違って印象的でした。

まず、最初のOperationという授業は、日本語では「生産管理」と言うそうで、今回はメイドイン・サンフランシスコを売りにしている、Timbuk2というバッグメーカーについて話しました。このカバン屋さんは、オンラインで1兆通りにも及ぶ組み合わせのオーダーメードバッグを販売しているが、それが実は型が同じなので、それほどコストはかからないという話や、アップルが昔アメリカから中国に生産拠点を移したように、コストを抑えるために中国で生産したほうがいいのか、というようなことをディスカッションしました。学部から比べると、比較的ディスカッションとしては大人数のクラスですが、みんなそれぞれ意見をもって発言しているので、とても建設的な議論が進みます。授業の中では、中国にすべて移すべき、オーダーメードはサンフランシスコで、大量生産の物は中国で作るという様に分けるべき、そしてすべてサンフランシスコで作るべき、という3つの意見が形成されていました。

そして9時30分からは、Managerial Accountingという授業を見学しました。このクラスは管理会計といって、この日は鉱業でマネジメントをやられている、ウィリアム・アンド・メアリー大学の卒業生の方が特別講師として80分話をされました。鉱物関係の様々な分野について、初期投資からその後のマネジメントまでを詳しく話していました。特に印象的だったのは、生徒の皆さんがすごい積極的に質問をしていたことです。ずっと途切れずに質問が続いていたので、この授業ではほとんどが質問に答える時間に割かれていました。今回話に来てくれた講師の方は、鉱業の企業でCFO（最高財務責任者）を経験されているので、みんな真剣に彼の経験や考えを聞いていました。中にはとても鋭い質問もあったりしました。

やはり、MBAの最大の特徴はほとんどの生徒に就業経験があるということです。みんな自分の会社での経験などを話に織り交ぜて発言したり質問したりするので、学部生のディスカッションとは重みが全然違います。確かに、話によると学部から直接MBAコースに来る人も何人かいるみたいですが、ほとんどの人がもう何年も会社で働いている人たちばかりでした。
また、授業の後にMBAのアドミッションを担当する方と面談もすることができました。ちなみにアゴスにも何度も説明会などで来られているそうで、毎年アゴスでMBA対策を受講した方が多くウィリアム・アンド・メアリーのビジネス大学院に進学されています。特に、この夏からは新たに6~8名ほどの日本人の方がウィリアム・アンド・メアリーのMBAに入学されるそうなので、これから大学内の日本人コミュニティーも少し大きくなるようです。面談を担当された方は、とても親切で「これから何でも相談してね！」とおっしゃってくれたので、こうして新たなネットワークを作ることができたことに感謝したいです。

今回の授業見学を通して、今まで全く知らなかったビジネスという分野に触れることができたのはとても意義のあることでした。入学前から「国際関係学専攻、海洋学副専攻（予定）」という形を考え、それに付随した分野を中心に授業を取るとともに、昔から興味のあった学問を主に勉強するべくクラスを選んできました。その時点で、ある程度文理問わず様々な分野について興味があることに対して自分の中でどこかしら満足している部分があったことに気づきました。こうして、ビジネスという新たな選択肢を前にしてみて、知らず知らずに消えていた選択肢がいくつもあるのではないかと自分自身に問う必要がある気がしました。せっかくウィリアム・アンド・メアリーには10月号でご紹介したようにGER, General Education Requirementと呼ばれる細かなリベラルアーツの課程があるので、何も考えずにとにかく自分が今まで知らなかった分野に飛び込んでみるのも大事なことだと感じました。ちなみにですが、大学のカリキュラムがこの夏から改定されるので、新1年生以降はGERという枠組みではなくなってしまうのですが、”Liberal Arts University”としての目的意識は変わらないので、これから入ってくる学生も同じようなリベラルアーツが体験できると思います。



○政治学を学んで：ペーパー執筆
この春学期は、国際関係学を専攻するという今のところの計画に基づいて、政治学の授業を2つ取りました。政治系の授業で必然的についてくるのは、ライティング課題です。正直僕にとってはこの書くということが最もきつく、その一方で最も得るものの多い作業だと感じています。そこで、この1年を通した「書く」というアウトプットについて振り返ってみたいと思います。

もともと小さいころからなんでも忘れっぽかった自分にとって、書くという動作はとても大事な物でした。小学校1年生の時の担任の先生が、100枚日記といって原稿用紙100枚たまるごとに製本してくれたことがきっかけで、小学校時代6年間はずっと日記を書いていました。そのことがそれ以降の学習において書くことへの抵抗感をなくしてくれたんだと思います。
ただそうは言っても、依然長文を執筆することは僕の中では大作業で結構エネルギーが必要です。それを抑え込む役割をしているのが、「記録をしないと忘れてしまう」という小さいころからのある種の強迫観念です。本当に昔から覚えておくことがダメで、忘れ物が非常に多い人間でした。最近ではなんでもすぐに記録するようにしていて、そのおかげで忘れなくなったというよりもちゃんと忘れても思い出すことができるようになったという感じで、なんとかやっています。
実は、ウィリアム・アンド・メアリー大学での生活を記録しておこうと思って自分でもブログもやっているのですが、それとこのアゴスの留学レポートを合わせて書くことで自分の経験の記録になっています。またそれと同時に、日々何気なく過ごすだけではなくて、こうした執筆の機会を作ることで、改めてアメリカの大学での生活、意義について振り返ることができるので、とてもありがたいことだと思います。そうした意味でも、書くことというのは得た経験などを整理し振り返ったうえで、自分なりの考えとしてアウトプットするとても大切な作業です。

フレッシュマンセミナーとして学んだ国際政治学の授業は、リアリズムやリベラリズムといった国際関係理論から始まり、外交、国際政治経済、国際機関、安全保障、テロリズムなど国際政治に絡む様々な分野について多くの知識を得ました。それと同時に、実際に授業に関連した形でライティングの課題も6つ出されました。単に論文を書くだけではなくて、政策提言や報道発表、スピーチなどいろいろな形態の文体の書き方も経験することができました。
一番印象に残っているのは、民族間紛争について学んでいるときに書いた報道発表（Press Release）です。実際に起こっている民族間紛争を一つ選び、その紛争における問題点とその解決策を発表するという形を取ります。実際に選んだのは、世界で最も新しい国、南スーダンの水事情です。調べてみると、長年続いた紛争でインフラ整備が非常に遅れ、子供をはじめとした多くの人々が下痢やコレラなどで死亡しているそうです。これに対して、UNICEFが石鹸を配ることで、大幅に改善されているということが紹介されていました。そこで、UNICEF南スーダンの報道官として、新たな石鹸の配布計画を発表するという内容にしました。実際にUNICEFや日本政府の報道発表を研究して、高官の発言を入れてみたり(もちろん自分で作ります)、リンクを張ったり、メディアの目にとめてもらえるようなものにしなければいけません。また、各国の行動を促すために、いかに支援が利益になるのかというところまで考えたりすると、国家間の思惑や駆け引きなんかも考えることができて、とても面白いです。このような形で、学んだことを活かした上で、実際にある意味自分の作品を作っていくというのは結構大事で、理解が深まることにつながっていくと思います。

また、アメリカ政治学のクラスでもResearch Paperという形で、学期の終わりにライティング課題が出ました。リサーチペーパーなので、自分の意見というより、ひたすら調べてひたすら論文などを読んだ上でまとめていきます。選んだテーマは、アメリカ国内における環境問題で、僕はニューイングランド地方の漁業が「コモンズの悲劇」という典型的な方法で乱獲が進んだことに着目し、乱獲とコモンズの悲劇という理論の関連性、そして連邦政府、州政府、地元政府それぞれがどのように乱獲を規制していくべきなのか各政府の特色を織り交ぜ論ずるという内容です。
僕が今国際関係学と海洋学を中心に学んでいくのにあたって頭の中に思い描く目指すべきところは、国際的な海洋環境の問題などを政治学や経済学などの視点を踏まえて考えていくことにあります。実際大学で生物や政治、経済などを少しずつ勉強して、今回に関してはアメリカ国内の政治問題ですが、初めて2つの相容れない分野を自分なりに融合させて考える機会を作ることができました。やっぱり、自分がなんとなくやりたいと思いながらも、どういう形で実現することが可能なのか分からず、モヤモヤしていた分、そのすべを見つけ作業しているときはとても楽しかったです。

秋学期のグローバル史の授業でもペーパー自体は2つありましたが、それ以外はリーディングや講義などのインプット、そして試験という形でのアウトプットがメインでした。今学期はそれに比べると多くのライティングを経験することができました。1年目を終えて振り返ると、秋学期では12月号でご紹介したように「考え方」を学び、春学期ではそうして得た考えを表現する方法を身に着けることができたと思います。高校で全く勉強していなかった分野の授業ばかりを履修し、それぞれ入門クラスなら入門クラスなりに、その学問とどう向き合えばいいのか「本物」に多く触れながら知ることを経験しました。それに積み重ねるように、今学期ではライティングの課題などを通して自分のものとして消化したうえでプロセスされた自分なりの考えからコミュニケーションをとるというステップを踏むことができました。
やはり高校と大学は、学ぶ質・量ともに大きく異なると思います。そんな中で、こうしてFreshman Yearに大学での学びにおいて基礎となりうる、考え方、そしてその表現方法をしっかり身に着けられたことはとても大きな収穫だと感じています。まだまだ4分の1（逆にもう4分の1という驚きもありますが…）が終わった段階なので、まだまだ精進しなければいけない部分がとても多いですが、一つ一つ無駄にしないで、身に着けていければと思います。


以上1年目を終えた今、感じたことなどを中心に5月号を書かせていただきました！
アメリカの場合夏休みは3か月と長期間ですが、休みボケしないためにも活発に動いていきたいと思っています。
今のところの予定ですと、アゴスのほうでイベント運営の補助や資料作成などちょこっとアルバイトとしてお世話になっています。イベントなどで見かけることがありましたら、ぜひ声をかけてください！他にも、アゴスの横山代表も監事として関わっていらっしゃる、ハーバード大学生と日本人大学生を中心として運営されているHLABというリベラルアーツにフォーカスを当てた高校生向けサマースクールの大学生スタッフ（ハウスリーダーと呼ばれています）をやらせていただきます。
新たな経験を通していろいろ学べることをとても楽しみにしています！
では！

◇ 2015年4月 外から見た日本

4月号です！
いよいよ春学期も終わりに近づき、あと数週間で日本に帰国するところまで来ました。何だかんだずっと海外の大学で勉強するんだと中学生の時から意識していたのに、その大学生活がもうすでに4分の1終わったと思うと、時が経つのが本当に早くて恐ろしくなります。

こちらバージニア州ウィリアムズバーグでは桜や桜もどきの開花が終わるなか、つつじが咲き乱れ、大学キャンパスも新緑で覆われています。気温も東京と同じように20度中盤で、暖かな日が続いています。ただ相変わらず花粉はひどいです。自転車のサドルなどは、一晩たつと若干黄色くなっていたりします。


さて、今回は今までのように、出来事をレポートするというより、一つのテーマに絞って自分なりの考えをまとめるスタイルをとってみようと思います。
テーマは、ずばり「外から見た日本」です。


○動機
「海外に出たことで、初めて日本がよく見えるようなる」なんて言うフレーズは、留学した人ならだれでも言うことだと思います。よって、この「外から見た日本」というのも非常にベタなテーマです。ただ、やっぱり本当のことなんですよね。どうしても「日本人」としてのアイデンティティーや、日本の文化、海外で日本がどのようにとらえられているのかについて、とても敏感になります。また、アメリカの大学に通っている人間として、自分なりの発見や考えを今回まとめてみようと思いました。

最初に僕が「日本についてもっと知りたい」と感じるようになったのは、小学校5年生の時に参加した交換プログラムです。自分の母校、玉川学園にはアメリカ、カリフォルニア州に提携校があって、毎年小学5年生が10日間ほど提携校に行ってホームステイを経験し、翌年にはホスト先の同い年のアメリカ人が来日し自宅に泊めるプログラムがあります。同じ玉川学園に通っていた5歳年上のいとこがそのプログラムに参加して以来、僕にとってこれに参加するのは、長年の夢であり、目標でした。しかし、いざ行ってみるとやっぱり英語で上手くコミュニケーションが取れない、自分の故郷について紹介できない。そんな自分について説明できないもどかしさを強く感じたことが、その後中学からIB(国際バカロレア)クラスに進学する道へつながっていきました。
IBクラスに進学して、すべての授業を英語で学ぶようになると、日本地理や日本史についても英語で学ぶ機会が生まれました。まずは、大化の改新をTaika Reformなんて表現したりするところに面白さを感じていたりしたのですが、今までは日本語で書かれた情報しか得ることができなかった一方、英語を学ぶことで、より多くの情報に触れることのできる可能性に言語のパワーを感じました。また、英語で日本について学ぶことで、自分でも他者に日本について徐々に説明するスキルを身に着けていけたのはとてもいい経験でした。


○ワシントンDCの中の日本〜全米桜祭り〜
さて、では本題に入っていきたいと思います。
この時期にこのテーマで留学レポートを書こうと思った直接のきっかけは、3月下旬から4月中旬まで　ワシントンDCで開催されている全米桜祭りです。103年前の1912年に東京からDCに日米友好の証として桜が贈られ、それを記念した桜祭りが毎年開催されています。DC南側のポトマック川、そして川からの入り江であるタイダルベイスンに沿った形で数千本の桜が植えられているので、見頃の季節になるとDCでも1年で最も混雑します。
今回は、4月10日からウィリアム・アンド・メアリー大学のJapanese Culture Association (JCA)のイベントとして、みんなでDCまで1泊で行ってきました。また、4月11日にはDC中心部の通りを封鎖してパレードが行われたり、ワシントンDC日米協会が主催する、「さくらまつり―Japanese Street Festival」も行われたりしていたので、DCは交通機関も完全にマヒしてしまうくらいの大変な混雑でした。川沿いの桜並木は人であふれていて、多くの人が思い思い桜を見上げながらのんびり散歩をしていました。幸い当日は晴れていたので澄み切った青空とほんのりピンクの桜がとてもきれいなコントラストで、異国の地での桜鑑賞を楽しむことができました。

こうした、大盛況の桜祭りですが、DCの春の風物詩として、DC近郊に住んでいる人ならほとんどの人が訪れたことのあるイベントです。まず言えることは、日本の象徴ともいうべき桜の花がこうして、ワシントンDCでも名物として多くの人に楽しまれているというのは本当にうれしいことです。また、それと同時に開催される、様々な日本文化に関連するイベントで日本についてさらに知ってもらう機会があることはとても大切なことだと思います。
例えば、DC中心部の通りを封鎖して毎年行われるJapanese Street Festivalでは、日本の企業や日本に関連するDC近辺の団体などが多くブースを構えたり、日本食を売る屋台が出たりと、夏祭りさながらの様相を見せています。さらには、浴衣やコスプレを着たりしてお祭り会場を歩くアメリカ人も多くいました。日本食以外にも、さりげなく中華やタイ料理などの屋台も日本食以上の数存在していたのですが、やっぱり日本食の屋台の行列は桁違いでした。ただ、それでも日本人がやっているわけではないものが多いです。また、武道エリアではバージニア弓道連盟が弓道のデモンストレーションを行っていました。中高4年間学校で弓道部に入っていたこともあって、弓道については一応詳しいのですが、段審査の時に行う座射という形式を取っていました。アメリカ人の人も一緒に道着袴で本格的にアメリカの首都のど真ん中で矢を射る光景を見るのはとても興味深かったです。
ちなみに、会場内でウィリアム・アンド・メアリー大学の日本語学科の教授が指揮を執り、有志のメンバーによる書道パフォーマンスが行われました。いわゆる書道ガールズ甲子園でやるような、音楽に合わせてダンスと組み合わせたものです。多くの人が見に来てくれていて、こうした新しいスタイルの日本文化も新鮮で面白かったと思います。
また自分の母校、玉川学園と同キャンパスにある玉川大学も毎年このさくらまつりで太鼓などのパフォーマンスを行っています。DC以外にもフィラデルフィアなど東海岸の都市をいくつか回って講演するそうです。自分が高校時代にお世話になった先生から連絡先を教えて頂き、実際に講演の後に玉川大学の引率の先生にあいさつをすることも出来ました。

さて、こうした桜祭り、DC的にはどんな存在なのでしょうか。この桜祭りの最大の特徴は、日本に対して興味のある人だけが来るイベントではないという点です。最初に書いたように、この桜祭りは恒例のDCの春の風物詩となっているため、毎年桜を見るために多くの人が訪れます。自分のルームメートもバージニア州西部出身ですが、昔桜祭りに行ったことがあると言っていました。こうした大きなイベントと同時に、Japanese Street Festivalなどが行われることで、多くの人に本来の日本文化を体感してもらうとてもいい機会だと思います。DCの年間イベントの中でもこの全米桜祭りは大きな存在感を放っています。世界中の人が訪れるアメリカの首都で、こうして日本から送られた桜が毎年大切にされているのはとてもありがたいことです。


○普段の生活に入り込む日本
一方、普段のアメリカ人の生活にはどれくらい「日本」が入り込んできているのでしょうか。日本車に関してはもはや当たり前ですが、それ以外にもいろいろあります。まず、何といっても一番僕が驚いたのは、ポケモン、遊戯王などといったゲーム関連です。自分は小さい頃ほとんどやっていなかったので、全然ゲームについての知識がないのですが、周りのアメリカ人は詳しい人が本当に多いです。僕のルームメートはポケモンが大好きで、今学期の初めに大学のポケモンクラブに入ったそうです(JCAとは別団体として存在しています)。また、秋学期の中盤には寮のフロア全体で、遊戯王がなぜか流行って、週末にわざわざ近くのショッピングモールまでカードを買いに行って遊んだりしていました。ゲームのスマッシュブラザーズなどはとても人気で、大学内でトーナメント的な物が何度か開催されていた記憶があります。

食に関していうと、日本食の存在感はそれなりに大きいです。寿司はとても人気で、大学内で寿司も買うことができるので、結構多くの人が買って食べています。僕もたまにお世話になりますが、基本的にいわゆるSushi rollsという感じなので、あくまで握り寿司はほとんど食べられません。バージニア州内に東洋水産の拠点があることも関係しているのかもしれませんが、マルちゃんのカップ麺やカップ焼きそばは非常に人気で、大学内のコンビニには必ず両方ともおいてあります。ただ、日本食が人気だといってもウィリアムズバーグ周辺の日本料理レストランはたいてい日本人以外が経営していて、本格的な日本食とは言い難いです。

特にポケモンなどのゲーム類に関して言えることは、日本の物というよりもいたって自然にアメリカの生活の中に入り込んでいることです。ルームメートも特に日本に興味があるわけではなく、単純にポケモンやどうぶつの森などのゲームが好きだそうです。そう考えると、普遍的な価値の元、長い時間をかけてアメリカで根付いてきていることがわかります。新しいものとして、面白珍しく受け取られるよりも、ここまで自然にアメリカ人とその生活の中に定着している文化のパワーを感じたりもしました。

一方、最近ここ数年の間、日本のテレビ番組では訪日外国人の視点から日本のすごいところを紹介していたり、世界の中に見る日本などを紹介したりする番組がとても増えています。ただ、実際のところ日本に自ら興味があって訪れる訪日外国人がそれぞれの出身国における日本の認知度、存在感を示しているわけでは当然ないので、正直なところテレビで言われているほど日本の様々なことについてみんなが知っているわけではありません。アメリカ人が世界標準では決してありませんが、たとえるならば世界遺産やミシュランガイドなどはアメリカ人的にはそんなに敏感じゃないだろうし、当たり前ですが寿司が世界遺産に登録されたからといって、日本と同じように世界で紹介されているわけではありません。こうした視点を変えて物事を見つめることって、自分の経験からすると意外に見落としがちな気がします。実際に海外に飛び出して、実際に人々と話をしたり経験を積んだりすることで、日本の今まで見えてなかったいいところや、逆に限られた情報からしか見えていなかったことなどを、冷静に発見することができます。だからこそ、「外に出て初めて日本の姿が分かる」というのは本当のことだと思います。


○まとめ
最後にちょっと今学期フレッシュマンセミナーとして学んだ国際政治学と関連付けてまとめてみたいと思います。フレッシュマンセミナーは1年生のみの少人数クラスでディスカッションを行いながら、ライティング力を鍛えていくクラスなので、学期末には期末試験ではなくファイナルペーパーという論文課題が出ています。テーマは「学期で習ったものなんでも」なので、僕は国際政治経済という分野について考えてみることにしました。この分野は、国家間の政治と世界経済がどのように結びついているのかをひも解いていくのが主なテーマなのですが、その中で簡単に噛み砕いてしまうと自分は「国家間の政治・力関係が経済を引っ張っていく」というリアリズムと呼ばれる学派の立場から国際政治経済を分析しました。

その論文の中で実際に例として用いたのが、日本の戦後の経済成長です。ちなみに国際政治経済の論文をたくさん洗っていると、日本の経済成長や世界経済の中での立場などが論文の中に頻繁に登場します。特に80年代90年代の論文には必ず登場します。その中で読んだのが、日本は1950年当時の比較優位を維持するのではなくて、自ら産業を成長させ重工業の主要な生産国になったという視点です。この比較優位というのも秋学期のミクロ経済で習った発想なのですが、簡単に言うと何かするときあきらめなければいけないものが他者より小さい場合、それをすると他者に比べて優位であるという考え方で、グローバル経済について話すときによく用いられます。その当時の日本の比較優位といえば、繊維業などの労働集約産業です。それを国の保護によって変えていったという例というわけです。

ちょっと脱線してしまいましたが、授業の中で日本の例が出てくることは結構あって、特に政治学の授業とかだと、アメリカの視点から色々な日本の側面を見ることができるのでとても面白いです。確かに現代社会の中で日本の動向が伝えられるのは政治的側面で言うと残念ながら少ないですが、僕は個人的に言うと文化のパワーを期待しています。今回の論文では力による政治をフォーカスとするリアリズムに基づいて書いていますが、自分の中ではやっぱり文化で魅了させられるような国が、この成熟した世界には増えていく必要があると感じています。ヨーロッパの国々なんかはそのいい例だと思います。政治や経済といった力の競争の世界で中心とならずとも、文化で世界に魅力を放つことができるような存在になるポテンシャルが日本にはあるし、現に今回ふれたようにそれが既に始まってきていると感じました。国際政治を学んでいく中で、そんなことがふと頭の中を横切る大学1年生の春でした。（とはいえ、なんとなんと自分の同級生が日本ではすでに2年生になっていることに大きな衝撃を受けます…）


というわけで、今回はちょっと趣向を変えて留学レポートをお届けしました。
いよいよ（というかようやく僕も）大学1年生としての生活が残りわずかとなりました。期末試験ももうすぐそこまで迫ってきています…
5月号は春学期後半で感じた様々なこと、またウィリアム・アンド・メアリー大学のビジネス大学院に在籍中の日本人の方の協力でビジネススクール（MBA）の授業を見学させていただいたので、その経験などを詳しくお伝えできればと思っています！

では、次回は日本から（！！！）お伝えします！

◇ 2015年3月 春学期の様子

3月号です！
寒さも和らぎ、少しずつ春の足音が聞こえてきています。
最高気温も20度まで上がる日が徐々に増えてきました。
が！それと同時に、やっぱり避けては通れない春の風物詩が僕を苦しめようとしています…
というわけで、今回は春学期前半の出来事などを主に紹介していきたいと思います！


○花粉
これに関してはやはり日本だけではないようです。
周りの先輩からウィリアムズバーグにも花粉があるとは聞いていたのですが、僕はもともとスギ花粉だけで、どうやら杉は日本原産なので、こっちでは大丈夫かと思っていました。しかし、暖かい日には朝起きた時から鼻がむずむずして、たまに目もかゆくなります。噂によると、ウィリアムズバーグはアメリカの建国発祥の地のようなものなので、全米各地から様々な木が贈られてきていて、そういった木がいろんな花粉を一斉にばら撒くため、特に花粉がひどいそうです。アメリカ人も今まで花粉症じゃなくてもここにきて花粉症になることが多いと聞きました。しかも、こっちではよほど深刻な感染症でもない限り(そもそもそんな人は外を歩かないと思いますが)マスクをしないので、誤解されないためにもマスクは避けたいです。正直、アメリカに来れば毎年の花粉症から逃れられるんじゃないのかとひそかに期待していた部分もあるので、ちょっと残念ですが、日本から持ってきていた薬でなんとか耐えしのいでいきたいと思います。


○Charter Day
話しは戻りまして、2月の上旬の出来事です。
毎年、2月8日には時の英国王、ウィリアム3世とメアリー2世が、英国の植民地であるバージニアに大学を創立する勅を出した日としてCharter Day Ceremonyが行われます。今年は8日が日曜日だったため、式典は6日に行われました。簡単に言うと創立記念日です。 1693年2月8日にウィリアム・アンド・メアリー大学が誕生したということで、今年で322歳になりました！ちなみに1693年というのは、日本で言うと元禄6年になります。松尾芭蕉が奥の細道の旅を終えて4年後です。アメリカで唯一Charter(勅許)によって創立した大学ということで、学生みんなが誇りに思っています。以下が実際の勅書の抜粋です。

William and Mary, by the grace of God, of England, Scotland, France, and Ireland, King and Queen, Defenders of the Faith, and so forth. To all to whom these our present letters shall come, greeting.

Forasmuch as our well-beloved and trusty subjects, constituting the General Assembly of our Colony of Virginia, have had it in their minds, and have proposed to themselves, .... and establish a certain place of universal study, or perpetual College of Divinity, Philosophy, Languages, and other good Arts and Sciences, .....

..... That when the said college shall be erected, made, founded, and established, it shall be called and denominated forever, The College of William and Mary in Virginia; ....

In testimony whereof, we have caused these our letters to be made patent. Witness ourselves, at Westminster, the eighth day of February, in the fourth year of our reign.

実際の式典では大学の学長を始め、学部長などが中世ヨーロッパのようなガウンを着て壇上に上がりました。そして、現在の総長（Chancellor）であり、ロバート・ゲーツ元国防長官のスピーチもありました。1965年に大学を卒業し、ブッシュ政権・オバマ政権の時に国防長官を務めた方です。こうして、伝統ある大学で遠い昔の卒業生たちに思いを馳せながら大学の誕生日をお祝いできるのはとても素晴らしいことだと思います。また、伝統を大切にしながらも、それに固執して硬くならず、楽しく面白く大学の伝統を楽しむ、そんな校風がとてもウィリアム・アンド・メアリーのいいところです。


○WMIDMUN
2月の下旬には11月号でご紹介した国際関係クラブの活動の一環である、WMIDMUN、William and Mary Middle School Model United Nations(ウミドムン)の運営にスタッフとして携わりました。今回はクラブが主催する中学生模擬国連大会です。11月にスタッフとして携わった、高校生大会WMHSMUNなどなんでも略しちゃうので、話していてどっちがどっちだかわからなくなってしまうことがあります… 今回担当する会議は、国連アジア太平洋経済社会委員会です。主に会議監督、議長のサポートとして、日本の模擬国連で書記官に相当するポジションを行いました。アジア太平洋の、食糧問題、自然災害への対応、人口減少などについて議論をするため、日本の福島原発なども話題に上りました。基本的に、Novice Committeeといって、模擬国連の初心者が多く集まる会議なので、ゆっくり丁寧にルール
を説明しながら会議が進められました。それでも、模擬国連は慣れていなくてもスピーチなどを通して、相手に効果的に主張を伝えることをしっかり心得ている参加者が本当に多かったです。また、交渉の場面でも周りをまとめて引っ張っていく生徒、色々なところに行って交渉をする生徒など、それぞれが目的をもって活躍していたところがとても印象的でした。特にこの会議ではアジア太平洋の大きな国から小さな島国までさまざまな国の「大使」として行動しなければいけないので、中学生という早い段階から、自分が今まで聞いたこともなかったような国の人の立場になって国際問題を真剣に議論するというのはとても貴重な経験だと感じました。


○春休み
3月の第二週目は前後の週末も含めまるまる9日間の春休みでした！
秋学期は4日間の秋休みと、5日間の感謝祭休みとでわかれていたのですが、今回はガツンと長期休暇を取ることができました。そこで、僕は長らく楽しみにしていたワシントンDCへ行ってきました。秋休みにも2日間だけDCに滞在していたのですが、限られた時間の中で目玉中の目玉だけを見て終わってしまったので、今回はガッツリDCを堪能しました。
アメリカの首都であるワシントンDCは大学から車で3時間ほどのところにあります。この近さがウィリアム・アンド・メアリーの良さだったりもします。国際関係に限らず政治系に強い大学なので、DCにはDC Officeと呼ばれる小さなキャンパス（事務所）があって、1セメスターや長期休暇時にDCで授業を取ることも出来ます。また、Charter Dayにゲーツ元国防長官が総長として毎年出席しているように、卒業生のネットワークもとても強いという風に聞いています。
また、DCにはスミソニアン博物館群といってアメリカの中心となる大規模な博物館が数多く集まっています。しかもほぼすべてが無料なので、とてもお得に時間を過ごすことも出来ます。というわけで、今回はひたすら博物館に通い詰め、博物館だけでも11か所、その他にも色々なアメリカの政治の中心地をめぐることができました。中でもとても印象に残っているいくつかをご紹介したいと思います。

a.　ニュージアム
ニュースのミュージアムということで、ニュージアムといわれています。博物館正面には権利章典（The Bill of Rights）とよばれる国民の権利を規定したアメリカ合衆国憲法修正第1条から10条までの中の言論、宗教、集会の自由などを保証する第1条が大きく書かれていています。アメリカ政治学の授業で国民の権利について習ったばかりだったので、とても新鮮でした！
実際の展示内容としては、歴史的瞬間を捉えるという意味での「報道」を、歴史を変えた出来事と共に紹介していてとても興味深かったです。実物のベルリンの壁の一部や、歴史的ニュースを報道した新聞の一面などが1600年代の物から現代の物まで展示されています。こうして、実際に歴史上の出来事に触れた本物の新聞記事を前にすると、歴史というものが決して過去の関係ないものなのではなくて、自分に直接つながっているものであり、また実際にまだ頭の中に鮮明に記憶されている4年前の東日本大震災を伝える新聞記事が同じように並べられているのを目にすることで、これも歴史の一つとなって未来につながっていくと感じ、改めて歴史の本質を見た気がしました。

b.　印刷局（Bureau of Engraving and Printing）
簡単に言うと紙幣を印刷しているところです。それだけなんですが、新鮮でいろいろ勉強することができます。印刷しているところを見学できるツアー自体は無料なのですが、3月から8月までは混雑するため、8時配布開始の整理券を手に入れなければいけません。工場では、5ドル、20ドル、100ドル紙幣がどんどん印刷されているところを見ることができたのでとても面白かったです。最初は紙幣16枚で1つの大きな紙に印刷されていて、それが後で一つ一つに裁断されていくのですが、印刷の途中の部分でまだ色が完全についていないものや、中央の肖像だけ入っていないものなど、色々なステップの紙幣は普段見ることができないので、こういう過程を見ることで、今まで何気なく使っていたお金に対して新たな視点を持つことができました。
ちなみに、ツアーガイドの人に聞いてみたところ、100ドル札は一枚作るときに11セントかかり、1セント玉は1セント以上かかるそうです。そのことについてマクロ経済の教授と話したところ、どうやら、100ドルとして世に出回る紙幣を印刷することで、政府は99.89ドルの収入があり、それは国の収入になっているそうです。マクロ経済で習っている概念と日常生活がつながった一瞬でもありました。

c.　日本について考える
博物館を訪れる中で日本に関する紹介があると、どうしても敏感に反応します。特に、国立航空宇宙博物館に展示されている零戦をはじめとした日本の戦闘機や、美術館で紹介されている日本美術などは特に興味がわきます。来月号で詳しく話そうと思っているのですが、ベタな話ではありますが、やはり異国の地にいると自分の母国についてどう考えられているのか、どのように紹介されているのかがとても気になるし、意識させられます。特に、今まで太平洋戦争で日本軍が使用した戦闘機などはみる機会がなかったので、様々なことを考えさせられました。アメリカの知識と財産が詰まった博物館群で日本について考えることができたのは、いい経験だったと思います。


○Academic Advising
春休みが終わると、いよいよ今学期も折り返し地点です。中間試験やらライティング課題やらに追われているとあっという間に期末試験がやってきて、早くもアメリカでの大学生活1年目が終わろうとしています。1月号の今学期の目標でも書きましたが、どうしても目先の課題などで一杯いっぱいになってしまうとあっという間に日々が過ぎてしまいます。一日一日を振り返って大切に過ごしていけるように心がけたいです。

さて、そういうことで早くも秋学期の授業登録が迫ってきています。1年生の場合は、必ずAcademic Advisorと呼ばれる教授と授業登録の前にミーティングを行い、一般教養課程（GERと呼ばれています）などの要件を順調に満たして行けているかなどを話し合います。ウィリアム・アンド・メアリー大学では全生徒にAcademic Advisorが割り当てられます。専攻を宣言するのは、たいてい2年生の春学期なので、それまではPre-Major Advisorが付き、専攻を宣言する際に自分で専攻を希望する学科の教授にお願いしてMajor Advisorに付いてもらいます。今は、まだ専攻を宣言していない段階なので、Pre-Major Advisorに色々サポートをしてもらっています。こうして、8月のオリエンテーション時、10月の春学期履修登録時、3月の秋学期履修登録時の計3回は最低でもアドバイザーの教授と会わなければいけないことになっています。

Pre-Major Advisorの場合は、自分が考えている専攻の分野の教授ではなく、ランダムに割り当てられていて(入学前に専攻希望調査のようなものはありますが、たいてい2年を終えるまでに専攻したい科目が変わることが大いにあり得るので)、僕のアドバイザーは美術史学科の教授です。メールでアポイントメントを取り、ミーティングへ向かいました。約束の時間に教授と会い、当日は暖かかったということで外を散歩しながら2人で話し合いました。ちゃんと名前も覚えていてくれて、最近どう？とか、何か困っていることある？などとても親切にいろいろ聞いてくれます。こちらとしても、何か大学でどうすればいいかわからない時に一番身近な存在がPre-Major Advisorなので、漠然とした疑問や不安なども色々話すことができます。

正直、自分が希望する専攻についてよく知っている教授を割り当てる仕組みではないので、細かい履修要件の話などをすることは出来ないのが不便な点ではありますが、アドバイザーがよく知る国際関係学だったら国際関係学の教授に連絡を取ってくれて、詳しい専攻の話を聞くことだってできます。また、全然自分が専攻に考えていなかった学科の教授といろいろ話をすることで、一年の時から限られた分野の教授とだけ交流があるよりも、視野が広がることは確かだと思います。何より、僕のアドバイザーはとても親身になってくれるので、ありがたいです。


というわけで、春学期前半の様子をお届けしました！
日本では桜も咲き始め、新たなスタートの時期でしょうか？僕も気持ちを新たにして残り1か月半、有意義に過ごしていきたいと思います！
ではまた来月！

◇ 2015年2月 新たなスタート

2月号です！
こちらバージニア州ウィリアムズバーグは、たいへん寒い日々が続いております。
では、今月号は春学期の授業の様子をメインにお伝えしていこうと思います！

○寒い冬
基本的に、福島県と同緯度なので自分が生まれ育った東京の気候ととても似ていて、夏は蒸し暑く、冬は乾燥していて寒いという感じなのですが、ここ数日は本当に寒いです！！2月の後半は、最高気温は3度前後、最低気温は-5度前後が通常でした。中には、最低気温が一気に-10度以上まで落ちたこともあったので、びっくりでした。華氏にするとだいたい30度前後なので、その数字だけを見て摂氏30度の温かい世界を想像しながらモチベーションを保っています。
また、今学期が始まってから雪も5,6回降りました。特に2月の最後の2週間はひどくて、Winter Storm Warning, 暴風雪警報が2回出て、それぞれ20センチほど積もりました。雪が積もると、大学は休校になって、図書館、ジム、学食の一部が閉鎖されてしまいます。だいたい休校の連絡は前日の夕方一斉メールで送られてくるのですが、その瞬間、全学生が歓喜に沸いて図書館でもどこでも大騒ぎになります。
休校日には、みんなでキャンパスの中心である雪に覆われたSunken Gardenと呼ばれる芝生の広場で雪合戦をしたり、キャンパス内の芝生の斜面でビニール袋を使ってそり滑りをしたりします。また、中には高さ2メートルを優に超す雪像をいくつも作る強者もいて、みんな写真を撮ったりしていました。それでもニューイングランドほどはひどくなくて、あくまで東京より少し寒い+雪が積もるという感じなので、東海岸の中ではとても過ごしやすい方だと思います。

○科目紹介
では、今学期の授業を紹介していきたいと思います。
今学期、僕は17単位5科目とっています。標準的な履修数がだいたい14単位4科目ぐらいなのですが、基本的に18単位までは申請せずに履修することができるので、せっかくだからいろいろ勉強したいと思い通常より一科目多く取ることにしたのですが、やはり課題や試験が多くめちゃめちゃきついです…

a.　FREN102: Elementary French II
秋学期に引き続き、フランス語第2弾です。
教授も授業スタイルも教科書も引き続き変わりません。
冬休み中、日本の本屋さんでフランス語の本を色々パラパラ見ていたら、FREN101の4か月だけで、フランス語検定5級のレベルをすでに網羅していることを発見したのですが、今学期もバンバン進んでいっています。一度習った単語などをしっかり覚えてから前に進まないと後で苦労してきます。そして、文法などもどんどん複雑なルールを覚えていくので、最近は言語学習での積み重ねの大切さを痛感しています。ただ、5年ほど前にフランスで買ったドラえもんの漫画を少しずつ読めるようになってきたりするのに気づくと、今まで何のことかさっぱりわからなかった音の羅列が、しっかり意味を持って自分の耳に訴えてくるというのはとても新鮮で、もっとフランス語を勉強していきたいというモチベーションにつながります。

フランス語の授業はいつも手書きでノートを取っています。といっても、他の教科と違い板書はほとんどないため、授業でやった練習の答えを書いたりすることが多く、メモみたいな感じになっています。そして、フランス語はアルファベット以外にもアクセント記号が付き、独特のキーボードが存在します。ちなみに、毎回単元テストの前に行われる試験対策講座で、この間TAがいとも簡単に記号付のアルファベットをタイプしていたので、気になって聞いてみたら、カナダ・フランス語のキーボードが分かりやすくて簡単だということを教えてもらいました。ちなみに、francais(フランス語)のCは「の場所になったりします。どうやらフランスのフランス語キーボードになると、さらに普通のアルファベットの位置も変わってきてしまうので、カナダ・フランス語のキーボードを紹介してくれたそうです。ずっと昔から気になっていたので、これで一つ謎が解けました！
そして、早速ここで習ったことがその後出された100語程度の作文課題で活かされました。
お題は、
En utilisant les temps du passe (passe-compose, imparfait) racontez un evenement de votre enfance ou vous avez appris une lecon sur la vie.
(意訳：2種類の過去形を使い分けながら、小さいころに人生の教訓となった出来事について話してください。)
やはり、今までは短文しか書いたことがなかったので、しっかりストーリー性を持たせながら起承転結書くのはなかなか難しかったです。分からない単語や表現もたくさんあるので、辞書を引き引き作文しました。ただ、こうして実際にならった単語や文法のルールを駆使して書くことで習ったことが自分自身のフランス語として体に取り込まれるような気がして、いい経験になったと思います。

b.　ECON102: Principles of Macroeconomics
マクロ経済入門のクラスです。先学期はミクロ経済を学んだおかげで、世の中を見る目が大きく変わりました。今学期はマクロ性経済を学ぶことで、世間のニュースがもっと主体的にわかるようにしていきたいと思っています。
先学期同様、130人ぐらいのクラスで、教授はドイツ出身なので少しなまりがありますが、もう何学期も同じ授業をやり続けているので、カリキュラムが完璧に整理されていてもはや達人です。(ジョークも毎学期同じタイミングで、同じことを言っているそうです：本人談)
事前にパワーポイントをオンラインシステムに載せてくれるので、ある程度予習をすることができます。ノートは手書きでパワーポイントに書いてあること、そして教授が新たに説明することなどを書いていますが、ほとんど大事なことはパワーポイントに書いてくれているので、特に問題はないです。ただ、先学期のミクロ経済と違って、グラフとかがないので正直パソコンでタイプしてもよかったかもしれません。

ミクロ経済では、家計や企業といったミクロの視点から経済を見ていくため、主に経済学的な物の考え方や実際に効率的に経済活動を行う上で何が大切なのかという点について主に学ぶことができたと思います。そうした考え方はとても普遍的で日常生活にも多くいかされることができます。一方、マクロ経済ではもっと実社会に即した形で、GDPとは何なのか、失業率とは何なのか、という様に、世間でよく聞かれる経済に関することを一つ一つひも解いていく様子があります。こういった知識は冒頭にも書いたように、ニュースで出てくるけどなんとなくわからない言葉を知ることで、自分で情報を理解し、活かすことができる力がつくと思います。実際、授業でもニュースで出てくる経済学的なトピックは果たして正しい分析なのか議論したりする時間もあります。例えば、授業でGDPのコンセプトを理解する際、ハーバード大学の資産がヨルダンのGDPと同じくらいという主旨の記事が出てきました。しかし、おおざっぱにいうとGDPというのは一年間の収入であって(flow measure)、資産というのは今までの貯めた物(stock measure)なので、それらを比較することは出来ないという風になります。こうした、実際の経済の話題に授業で習った知識を活かすことで、より学びが深まっていっています。

c.　PHYS176 Introductory Astronomy
天文学の入門クラスです。小学生のころから結構天文学が好きだったのですが、IB(国際バカロレア)の物理の授業で天体物理学を勉強して以来、結構はまってしまいました。太陽系や銀河系、恒星、そして現代宇宙理論などについて、天文学全般を幅広く学びます。計算も多少ありますが、そこまで数学的要素は少ないです。これ以上レベルが高いクラスの場合は、事前に物理入門のクラスを2つ取らなければならない本格的な物なので、とりあえずこの4か月でみっちり念願の天文学を勉強していきたいと思います。 入門クラスなので、160人ぐらい講義に学生がいます。教授はポーランド出身なので、なまりが少しきついですが、パワーポイントのスライドもしっかりしていてわかりやすいです。最初の授業で教授が、「このクラスで暗記したりすることは将来どういう形で役に立つのかはわからない、でもいつか役に立つ時までしっかり覚えておくことができたら、素敵だよね。」といっていたのがとても印象的です。確かに、地球の直径が何キロだとかそういうことは覚えていても使う場面は少ないかもしれませんが、宇宙に関して勉強している以上、星空の見方や何でそういう動き方をするのとかといったことを知っているのはもしかしたら(遭難したときとかに…)役に立つかもしれませんし、それ以上に自分が生きているこの世の中がどのようにできているのか知っていることに何の損はないと思います。ただ夜空を見上げるよりも、何千万年前の光を見ているかと思うと、なんだか素敵な気分になるかもしれません。
そんなロマンチックなことを考えながら、今日も地球の内部構造やら光の特性やらを覚えていきたいと思います。

d.　GOVT201: Introduction to American Politics
入門アメリカ政治学の授業です。このクラスは特に僕が予定している国際関係学の履修用件に入っているわけでも、10月号でご紹介したGER (General Education Requirement、一般教養課程)の要件を満たすわけでもない、完全に自分の意志で履修しようと思った科目です。このクラスを取ろうと思った動機は、単にアメリカに住んでいて、国際関係学(要は政治経済系)を専攻に考えているので、自分が今いる国の政治について知っておこうじゃないか、というものです。また、単に国内政治のクラスとだけ見れば、政治学の授業としては普遍的な重要性があるので、今後国際関係学を専攻にした場合、そして向こう3年半アメリカで生きていくうえで大いに活かすことができると思います。
授業は35人という比較的少人数のクラスで、教授と学生のやり取りもとても活発なクラスです。このクラスではパワーポイントに大量の文章が小さく書かれているので、それを書き写しつつ教授の話を聞くため、タイプで行っています。ノートパソコンを持ち運ぶのは骨が折れるので、iPadとワイヤレスキーボードのコンビを活用しています。また、クラスに35人しかいないので、教授もみんなのタイプ具合を見ながら授業を進めてくれるので、ちょうどいいです。いままですべて手書きでやってきたので、「人生初デジタルノートのクラス」です。
ただ、このクラスは外国人が初めてアメリカ政治の仕組みを知るためのクラスではなくて、政治学としてアメリカの政治を学ぶアメリカ人向けのクラスなので、みんなが高校までの18年かけて自然と身に着けてきた国内政治に関する知識を一切持っていない自分にとっては非常に不利な状態です。

唐突ですが、そもそも政治学って何を勉強する学問なのでしょうか？
模擬国連をやっていた経験から、国際関係学に興味を持ち、それを専攻にするなら必然的に政治学を勉強するのだなと思っていたわけですが、政治の仕組みだけを知るなら簡単に一人でできるわけで、じゃあそれ以外に何を勉強するのか、冬休み中ずっと考えていました。休みの間、アメリカ政治や国際政治の入門書をいろいろ読んでみても、なかなか答えが出ませんでした。
高校の時にお世話になったアメリカ人の経済の先生は、
Politics is the study of who gets what, when and how.　とおっしゃっていました。これは実際アメリカ政治学の授業でも登場した有名な定義で、一番シンプルかつ包括的に政治学を表現しています。まさにSimple is the best. そんな中、1か月ちょっと政治学を勉強していて、なんとなく答えが導き出せてきています。授業では、「なぜ人々は統治機構が必要なのか？」というような全般的な政治について学ぶところから入り、アメリカ政治の成立過程、アメリカ政治の根本的な理念などを学んでいます。こうしたことから、政治学とは人間が集団の中でどう動くのか、なぜそう動くのか、どうやったらうまくまとめられるか、を解明しようという学問という風な自分なりの解釈が生まれてきています。今のところ、自分でもなかなか楽しんでいて、人間のネガティブな本質をどう抑制して統率を図っていくかなどといった政治哲学はとても興味深いです。
また、最近よく感じるようになったのは、アメリカの「州」の本質です。独立時に13の州(邦)がどのように一つの国家として独立し、運営され、また合衆国憲法がどのように成立したのかを学んでいくと、各邦がそれぞれ独自の社会を築き、自治を強く望み連邦政府の権限をできるだけ小さくしたがっていたことを知り、日本人の想像以上にそれぞれの州がState、国として成立していたのかを強く感じました。例えば、イギリスが最初に建設した植民地であるバージニアと、イギリスから逃れてきて新天地を建設しようとバージニアを目指し航海しながらも全く違うところにたどり着いてしまったマサチューセッツでは、そもそも植民地の成立過程も人々の目的も違います。このように、成立過程も、目的も、住んでいる人々も、人口も、面積も、産業も違うstatesが、それぞれの利害を抱えながらまとまろうと決意し、失敗を繰り返しながら最終的に現在の連邦制に至っているのはなかなか感慨深いです。
我がトーマス・ジェファーソン先輩によって書かれた独立宣言が1776年に発表され、その翌年には連合規約（The Articles of Confederation）という憲法の元となるものが合意されたのですが、これを見るとやはり現在の国連憲章みたいで、それぞれの邦も国家のような駆け引きがあったことが分かります。日本人としては、都道府県という地方自治体が身近な例なので、どうしても少し州のシステムについて知っているとしても、それプラス教育制度や税制などを各州が決められるだけというイメージになりますが、それ以上に根本的な州としての独立意識があるんだな、と強く感じました。
こうして、ただ住んでいるだけではなくて、歴史や政治など、世の中の仕組みをもっともっと知ることで有意義な生活をすることができると思います。

e.　GOVT150W: Freshman Seminar Introduction to International Politics このクラスは、フレッシュマンセミナーと呼ばれる1年生が秋学期か春学期どちらかで必ず取らなければいけないカリキュラムです。クラスの人数は15人前後と非常に少人数のクラスで、ディスカッションをベースとしながら教授が様々なことを教えてくれます。たいていどの学科にもフレッシュマンセミナーがあって、その中でも国際関係学を専攻に考えているので、国際政治学のフレッシュマンセミナーを取ることにしました。
フレッシュマンセミナーには、150と150Wというのがあって、150のほうは高校または大学ですでにライティング専用のクラスを取っている人向け、150Wはフレッシュマンセミナー＋ライティングの要素も含まれています。大学生活で必ずといってもいいくらい遭遇する「書く」ということについて1年生のうちに大学レベルのライティングをみっちり学んでもらおうという仕組みになっています。
授業内容としては、国際政治学の入門クラスで、教科書ではなく、pdfで毎回3,4本の論文を読んで授業に参加します。学期中7つのライティング課題が課せられるので、とても大変になってくると思います。特に最後のFinal Paperに関しては、3000語(日本語でだいたい8000字)のいわゆる学術論文を書かなければいけません。
教授は、とても明るくはつらつとしています。すごい元気で、面白いです。ウィリアム・アンド・メアリー大学を卒業後、大学院に行き、ワシントンDCの10以上の政府機関で仕事をしたのち、母校で国際政治の教授をしているという凄腕です。毎日研究室に愛犬のフレンチブルドックを連れてきているので、オフィスアワーの時に教授に会いに行くたびに癒されます。「この4か月で大学院レベルの論文を書けるようにしてあげるから、しっかりついてきなさい♪」的な感じで意気込んでいます。

もともと僕が国際関係学を専攻にしたいと思うようになったのは、模擬国連を通して、様々な歴史的背景、経済的背景、などの知識を自分の頭のあらゆる引出しから引っ張り出してきて意見を形成することがとても面白いと思ったからです。そしてちょっと似ているのですが、国際関係学は政治学、歴史、経済、法律などを横断的にまんべんなく勉強することができることがとても魅力的でした。しかし、冬休みに政治学について悩んだように、学問としての国際関係学については全く無知であり、内容を知らずして興味があると言っていたことに気づきました。
でも、今は1か月学んだことから国際政治学/国際関係学に興味があるという様に言うことができるようになりました。
僕は、もともと何か出来事などにパターンを見出したりして分析するのがとても好きでした。これは、僕の理系科目が好きな理由とも関係していると思います。国際関係学の根幹には、リアリズム、リベラリズムなどといった理論が大きく存在していて、そうした理論が国家、人類がどのように行動するか、そのパターンを見出して歴史的事実を説明しようとしています。こうして、パターンを見出してから過去の出来事や未来に起こりそうな出来事を予想するのがこの学問だと考えると、自分がもともと好きだったパターンからの分析とマッチしていることを発見しました。

5科目のクラス紹介だけでこれだけ長くなってしまいました。
皆さんに紹介したい新たな学びがすでに1か月でこれだけあるということなわけですが、その裏返しには大量の課題が存在します。特に2月の第3週は本当につらくて、17単位の恐怖を体感した形になりました…
ちなみに、3月の第2週は春休みです！ちょうど疲れ果てて燃料切れになりそうな矢先の休暇なので、ありがたいです。リフレッシュした後、また一所懸命がんばっていきたいと思います。
今回お伝えできなかった出来事なども色々あるので、3月号でお伝えしていければと思います。
ではまた来月！

◇ 2015年1月 学期を終えて見つかった自分

2015年になりました！
今年もしっかり毎月更新していきたいと思っているので、どうぞ「石川裕伊登のWilliam and Mary留学レポート」をよろしくお願い致します！
今年は、色々な意味で節目の年です。個人的には、二十歳になるということで、ますます多くのことを学び成長していきたいなと思っています。
1月も下旬になり、実はすでにウィリアム・アンド・メアリーに帰ってきていて、授業も徐々に始まってきました。授業紹介は来月号とし、今回は12月でのウィリアム・アンド・メアリーでの生活から、冬休みまでの出来事について書いていきたいと思います。

○今学期の抱負
まず、今学期自分は何を目指して4か月アメリカで学んでいきたいか、ということを話しておきます。今学期は、「目先のことにとらわれず、長いスパンでやるべきことを考える」ことを目指していきたいと思っています。というのも、先学期は授業もしっかりついていけたし、積極的にイベントなどにも参加して、学業面でも生活面でも自分の満足する充実感を得られることができました。ただ、どうしても目先の宿題に理由をつけて、もっと先のことまで考えが回らなくて大事なことを見落としてしまったことがあったと思います。与えられた、やらなきゃいけない課題や宿題をやることは簡単です。でも、それだけに時間を使ってしまうのではなく、もっとアンテナを張って自分の選択肢をどんどん広げていきたいと思います。ちょっと抽象的ですが、これを今学期の目標としたいです。

○怒涛の期末試験
さて時間を戻しまして、12月の上旬に行われた秋学期を締めくくるフィナーレ、Final Exams、期末試験についてお話しします。
4か月みっちり学んできたことのまとめテストですから、みんな必死で試験勉強をします。とはいえ、試験ですべてが決まるわけではないのがアメリカの大学なので、たいてい期末試験は最終成績の25%から30%くらいしか占めていません。では、何が大変なのかというとなんと各教科の期末試験がそれぞれ3時間ずつあります！2週間の試験期間でそれぞれが履修する4~6教科の試験がぽつんぽつんと行われます。そのため、試験勉強をする時間はたっぷりあるとはいえ、3時間もある試験では大量の問題が課せられることも考えられるので、勉強しなければいけないことが山ほどあります。

そんな、ストレスがどんどん積もってきそうな試験期間ですが、大学側のサポートも結構あります。勉強に対するサポートで言えば、試験期間中の平日は大学図書館が普段は午前2時閉館のところ、24時間営業になります。それでもちゃんと金曜と土曜には午後8時に閉館します。週末ぐらいのんびりしなよ、というメッセージなのでしょう。
一方、なんとかストレスを解消してもらおうということで、試験期間中図書館では毎日無料のミニ・ヨガ教室をやっていたり、子犬と戯れようというイベントを開催したり、色々大学側も懸命です。試験初日前夜、図書館で無料のダンキン・ドーナッツフェアを開催していたのでそのためだけで図書館に行ったら、すべて2分でなくなってしまいました…残念。

ちなみに、僕は自分の部屋で勉強する派です。秋学期がスタートした当初は、典型的な学生のイメージであった図書館での勉強を体験してみたりして、それなりに楽しかったのですが、静かなところじゃないと勉強できないタイプで高校までずっと家のリビングで勉強してきたので、やっぱり周りの人が気になるというのと、だんだん寒くなって図書館まで自転車で行きたくなくなってきたなんていう怠けた理由もあったりします。しかし、期末試験期間中は図書館が芋洗い状態でみんながこぞって勉強に行くので、部屋で集中できるのならそれがベストなんだと思います。

○日本での生活
そんな、怒涛の試験も終わりまして、日本に帰ることができました！今回初めて4か月もの間アメリカで生活をしたのちの帰国で、今まで当たり前に思っていた「日本」というホームがどのような違和感と共に自分の目に映るかとても楽しみにしていました。いわゆる、逆カルチャーショックっていうやつです。
しかし、なぜか自分は日本の文化について特に何か違和感を覚えることもなく、また自分が日本の秩序の中でアメリカ的な行動を自然にとるということもほとんどありませんでした。

なぜなのか？

いろいろ理由はあると思うのですが、19年間日本で暮らしていたのと、たった4か月アメリカに行っていたのとでは全然期間が違うということが大前提にあると思います。たださらに、僕の場合は中学から6年間国際バカロレア(IB) クラスで、外国人教員と多く接し英語で授業を受けながらも、さらに同じ頻度で日本人とコミュニケーションをとっていたことから、自分の中で「日本語モード」と「英語モード」が徐々に区別されながら同時に形成する時間が十分にあった事が言えると思います。日本語と英語、日本とアメリカにおいてはコミュニケーションの形態が大きく異なると感じます。例えば、個人的な印象としてアメリカでの英語によるコミュニケーションでは初対面でも比較的フレンドリーに言葉のやり取りが多く行われるのに対し、日本でのコミュニケーションはよりフォーマルで落ち着いた感じがあります。確かに、人それぞれではあると思いますが、長年小さいときから海外で育った人は日本のコミュニケーションになれず苦労するということも実際IBクラスにいた周りの帰国子女生が口にしていました。これは、コミュニケーションだけにとどまらず価値観や文化についても言えることです。自分の場合は、言語の発達段階から両方の環境でコミュニケーションを同時に取ることができたことによって、それぞれの言語に対してある意味「使い分け」ができるようになったのだと感じました。こうしたことを考えると、人間の成長と形成において言語はすごい影響力を持っているのだと感じ、今後言語学の授業も取って、もっと深く学んでみたくなりました。

○冬休みの過ごし方
1か月ある冬休み、たいていみんな4か月の生活に疲れ果てて実家でのんびりすることが多いです。僕も、おおかた日本でおいしい食べ物をたらふく食べて、年末年始のテレビを見て、家族でのんびり過ごしました。ウィリアム・アンド・メアリーには、ワシントンDCにオフィスがあるので、2週間のW&M Washington Winter Seminarというプログラムで単位をもらう学生も中にはいます。そんな中、僕はのんびりしている以外にも、いくつか活動をしていました。

a. 模擬国連
自分の母校である、玉川学園高等部が文部科学省よりスーパーグローバルハイスクール(SGH) に認定されたことを受け、過去３回行ってきた模擬国連会議が２月に多くの高校を招きSGH企画として大々的に行われることになりました。高校時代、全日本高校生模擬国連大会に参加したり、自分でミニ会議を企画したりしたこともあり、少し僕もメンターとして準備に携わらせてもらいました。

模擬国連は、参加者が各国の大使となり実際の国連会議の議事進行を模したスタイルで様々な国際問題に対して解決策などを交渉を経て作成し、決議として会議の最後に発表するのが主な内容なのですが、こうした活動を経て様々なことを学ぶことができます。 自分の意見ではなく、一国の代表としてその国の実際の立場を中心に歴史的背景、経済状況などを考えながら難しい問題に取り組むことで、様々な視点があること、つまり「正義はいつも一つじゃない」ことに気づかされます。例えば、僕が全日本大会で北朝鮮大使として核問題について議論し、北朝鮮に最も国益となる方針を考えながら他国と交渉する中で、自分自身、そして日本人として普段触れている核問題とは全く異なる方向からこの問題に取り組む必要がありました。今、自分が得ている情報は本当に正しいのだろうか。違った見方もできるのではないだろうか。ただ単純に情報を疑って批判するのではなくて、自分の常識、固定概念を完全に取っ払ってから情報をもう一度見つめなおすと、より視野が広がって新しい発見があることが本当に多いです。

模擬国連は参加者として会議に参加するだけでなく、運営側に回るのもとても楽しいです。模擬国連に限らずですが、高校の最後の２年間ぐらいはたくさんのイベントを企画し、運営する立場にいることができたので、そういった仕事が大好きになりました。普段、クリエイティビティ―に乏しい僕ですが、イベントの企画となると多くのアイデアが浮かんできます。実際にそのイベントが終わったときの達成感の心地よさが再び大変な作業へと導きます。
今こうしてSGHのような素晴らしいバックアップの元、大きな模擬国連会議を企画運営できる高校生がうらやましくなりました。ただ、うらやましがっているばかりでは何にもなりません。アメリカの大学には自分から何かをやろうとすると、もしくは自分がやりたいことをやっている他の誰かを全力で探せば、やりたいことを実現できる環境が整っていると思います。最初の抱負にも書きましたが、どうしても目先の課題に追われてうやむやにしてしまうことが多いと思うので、僕もウィリアム・アンド・メアリー大学で色々企画したりして行動を取っていきたいです。
b. 国際バカロレア(IB) の利点
模擬国連のほかにも、母校でアメリカの大学での体験について話す機会をいただくことができました。 まず一回目は、インターナショナルスクールではない普通の高校(一条校)でIBのカリキュラムを導入している学校の高校生同士でIBの卒業試験やその後の進路などに関する情報を共有しようということで高校生たちが立ち上げたIB Community Japan (IBCJ)のワークショップにて、IBでの学びが現在の大学生活にどのように活かされているかについて自分の母校の後輩や他のIB校の生徒へ話しました。インターナショナルスクールとは異なり、日本の高等学校卒業証明書がもらえる以上、IBのカリキュラムとプラスで文部科学省の学習指導要領に則った形でやらなければいけない状況が日本の高校では起こってきます。そういった環境を共有するコミュニティーで交流が深まることで、より日本におけるIBの普及やさらには海外進学に関してみんなの関心が広まることを期待しています。
二回目は、大学のAdmission Officeが運営するプログラムで、冬休みに実家に帰った際、母校に大学説明会をしてもらおうというHome for the Holidays Programでのことです。Admission Officeから事前にワークショップを受け、学校の魅力や受験について話します。ワークショップに参加するのは州内に住んでいる人が多かったですが、留学生も何人かいてそれぞれ母国の高校に宣伝していました。実際に母校を訪れて発表をした時も、みんなが気になることは今これだけ大変な思いをして卒業試験に向けて頑張っているけど、実際将来にどう役に立つのかということでした。というわけで、自分なりにIBがどう活かされているか、実質的な受験での活用法と抽象的なスキルとしての活用法について話したいと思います。
アメリカの大学に受験する場合、卒業試験を経た最終成績は受験の際あまり考慮されず、あくまで数ある要素の一つにすぎません。一方、イギリスやカナダの大学へ受験する際は、最終成績の点数が大学側の求める基準を超えていたら、多くの場合そのまま合格につながります。ただアメリカの大学も、IBが普通のカリキュラムより大変で多くのことが要求されることをよく知っていますし、アメリカの高校生が多く受験するAdvanced Placement (AP) と呼ばれる大学レベルのカリキュラムと同じようなとらえられ方をしています。現に、大学入学後IBで履修したいくつかの科目では単位が認められ、大学での入門クラスが免除になることもあります。そのため、他の英語圏大学と比べるとIB入試というような明確な優遇はありませんが、総合的な力を持った生徒として入試選考中に認められることへつながります。

実際に、IBのカリキュラムは非常に大変なことで有名です。大学に入った後も、IBをやっていたと話した瞬間にお互いのIBでの苦労話が尽きることなくでてきて、一瞬で友達になることができます。それくらい、それぞれ厳しい戦いをくぐりぬけて生き残った勇者的な感情が生まれ、同胞感に包まれます。
それだけ大変な理由は、エッセーやレポートがコンスタントにバンバン来ることや、卒業論文といった形で (Extended Essayといいます)、日々の課題をこなしながら4000語の論文を書かなければいけないことが大きいです。こうした点から、高校時代からタイムマネージメントの訓練がなされてきたと思います。
また最も大事だと思うのは、「IBで得た考え方」です。IBでは、すべての知識を主体的に習得することが望まれています。暗記は重要な要素とみなされていません(理系科目では、卒業試験の時に公式集を渡されます)。これは日本の課程やアメリカのAPとも大きく異なる点です。一方で、根本的に理解しているか、そしてそれが社会に対してどのような影響を与えているのか、というところを重視しています。例えば、IBのユニークな点である「知の理論、Theory of Knowledge」という科目では、「知る」をテーマに、「アイデンティティーはどのような知識から得られるのか。」「美術と科学において知識とはどのように異なるのか。」などといった、一生答えが出ずに考える人になってしまうような問いに対して自分なりの答えを論理的に説明していきます。暗記が苦手だということも少しありますが、個人的にはとても大好きな学び方で、実生活でも何かしら疑問に直面した時に、応用できるのはこうしてIBで得た考え方だと思います。これは、先月号に書いた通り大学での学びともがっしり繋がっていて、IBで得た「探求精神」や「分析能力」のおかげで、「考え方を学ぶ」授業展開にスムーズに入っていくことができたのだと思います。
6年間IBクラスで英語『で』勉強をすることができたのは言うまでもなく大きな利点です。これがなかったら海外大学進学という選択肢はなかったかもしれません。ただ、IBのいいところはそこではなくて、根本的なスキルを身に着けさせてくれたことだと思っています。
1か月の冬休みではのんびりもし、自分の今までを振り返ることもでき、充実した日々を過ごせたと思っています。さっそくおいしい日本食とあったかいお風呂が恋しくなってきている今日この頃ですが、1年生の春学期もしっかり頑張っていきたいと思います！
皆様、今年も宜しくお願い致します！！

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◇ 2014年12月 考え方を学ぶ

12月号です！
現在、一時帰国中です！念願のおいしい日本のご飯をたらふく食べてのんびりしています。
今回は、最初の学期を終えて感じたことを中心に振り返っていきたいと思います。

○勉強の様子
アメリカの大学は忙しい、勉強量が半端じゃない、といいますが、じゃあ実際どんな感じの学習スタイルなのか、ということを少し紹介したいと思います。

a. ノート取り
基本的に今学期履修している科目は入門クラスがメインなので、講義ベースの授業スタイルです。毎回の授業ではパワーポイントを用いて教授が話していくので、パワーポイントに書かれていることと教授が話すこと両方をノートにメモしていく必要がありますが、教授が話すことに特に注意を払ってノートを取るようにしています。たいてい重要なことはパワーポイントに書いてあることが多いですが、たまに図だけを出してそのプロセスなどをすべて口頭で説明することも結構あるので、注意が必要なのです。歴史の授業では、基本的にパワーポイントはあくまで地図やグラフなどを載せているだけのサポート材料のため、教授が話していることを漏らさないように必死にメモしていかなければいけません。どの教科も、授業後にはオンラインシステムにパワーポイントを載せてくれます。
ノート取りに関する意外な発見は、アメリカでは多くの人が黒や青ペンオンリーでノートを取っていくということです。日本人がよくやるように、重要単語を赤ペンで書いたり、見出しを色ペンで書いたりするという概念がほとんどありません。実際教科書や参考書でも、たいてい文章は全部黒で書かれています。とにかく記録をするのに必死な授業のノートはともかく、試験対策のまとめノート的な物にもほとんど色は使わないです。
ノートを取るデバイスについて言うと、経済などグラフの多い科目では状況が変わりますが、大体6割ぐらいの人がパソコンでノートを取っています。その中でもマックの量が本当に多いです。一方、自分は手書き派です。昔から手書きノートでいかに美しく構成していくか、ということばっかり考えて勉強してきたので、やっぱり紙のほうがいいです。確かに、途中でパワーポイントのすべての項目を書けなかったりすることがあるので、そういうときはパワーポイントの内容を飛ばしておいて、後で空けておいたスペースに書いてノートを補強させます。これは、授業後の復習にもなるので、意外に役に立っています(けがの功名ってやつです)。

b. 教授と学生
ウィリアム・アンド・メアリー大学の授業は、教授がただひたすら情報を流す「講義」というよりも、わかりやすく伝える「プレゼン」であるという印象があります。いかに効果的に相手に伝えるか、いかに情報を頭にすんなり入れてもらえるかということを本当に考えている授業スタイルなので、授業中に周りの席の人と意見を交換させる時間を取ったり、実際に体を動かして何かの仕組みを理解するためのアクティビティーを行ったりすることもあります。こうしたコンテンツを通して、毎回の授業一つひとつがプレゼンだということを感じます。また、情報を受け取る学生たちのほうもただただ授業を聞いているだけではなく、普通に授業中に手を挙げて質問をして主体的に授業に関わっています。こうしたやり取りからも新たな意見や情報を形成することができるので、さらに発展した話に進んでいくこともよくあります。
今学期取ったクラスのほとんどはいわゆる大人数の授業なので、特に教授と一対一で話す時間がたくさんあるわけではないのですが、それでも教授ができるだけ学生と接点を築こうとしているところを随所に感じました。例えば、ミクロ経済の教授は授業が始まる前に席に着いて準備をしている学生のところをまわり、学期の最初のころであれば名前を聞いたり、「最近どう？」と話しかけに来たりしていました。100人以上いるクラスのため、授業態度や参加度などは成績に反映されないので、名前を憶えてチェックしているわけでは決してなく、単純に人として知りたい、関わりたいと思ってくれているのだなと感じ、なんだか感動してしまいました。事実、多くの学生がきっとそれを感じたのでしょう。学期最後の授業が終わったときには、自然と拍手喝さいが起こりました。また、中間試験や期末試験の前には復習セッションを開いてくれる教授も多いです。平日の夜や土曜日にTAではなく教授が直々に参加し、学んだ内容について各々が持っている質問に答えてくれます。正直僕は大学に実際に入るまで、オフィスアワーのシステムなどは知っていてもこうした形で教授と深くかかわることができると思っていなかったので、この経験は大きな感動となりました。

○「考え方」を学ぶ
a. 知識の積み上げ
今学期多くのことを学びましたが、それがすべて最終的には「考え方を学ぶ」という点にたどり着きます。生物の教授も経済の教授も今学期最後の授業で異口同音に「このクラスで習った知識、考え方を身に着けて適切な場面でしっかり使えるようになってほしい」と言っていました。確かに、きっとこの授業で覚えた具体的な炭素の循環の過程や新口動物と旧口動物の発生の違いなどの知識を大学卒業後使うことはほぼ無いと思います。ただ、そうした情報を知ったうえで得た視点は今後いつまでも活かされていくと思います。
こんなたとえが理に適っていると思います。公園のすべり台の上からよりも高い展望台や高層ビルからのほうが遠くまで周囲をよく見ることができるように、読んだ本や学んだ知識をどんどん積み上げていけば、より高いところから世界を見渡すことができます。高くなれば、それだけ視野が広がるということ。そして、そこから見る広い景色はきっと忘れないでしょう。さらに言えば、その積み上げた知識にフックをつけてみたり、手すりをつけてみたりして自分が登れるように自分なりの知識にしておかなければいけません。つまり、この4か月間、論文や教科書を読む、みんなで内容を議論する、テストなどを通して習ったコンセプトを自ら説明できるようになる、体を使ってアクティビティーを行うなどの活動からそれを実現することができました。
それを実感できるのは、学期を終えた今、明らかに4か月前と見えている世界が変わっているからです。経済の授業で習ったOpportunity Cost（機会費用、あきらめるコスト）という考え方、つね日頃の生活で大いに応用できます。ちょっと変な例を出すと、「翌日に大きな試験を控えている日曜日、年に一度しかないイベントが夜開催されることになった。さてどうする？」という局面（実体験に基づく）では、同じ一時間を勉強に使うかイベント参加に使うか意思決定するうえで、一日中勉強してきた所で追加の一時間の価値が比較的少ないというDiminishing Marginal Utility（限界効用の逓減、すでに量が多いと新たに得られるメリットが減っていくこと）の考え方、さらに年に一度しかないイベントをあきらめるコスト（Opportunity Cost）がとても大きいという考え方をもとに、イベントに参加するという意思決定の根拠（もしくは口実）が成立します。こんなこと以外にも、最初に述べたように得た知識によって世の中の仕組みがもっとよく分かるようになったり、情報をもとに自分で判断を下すことが少しずつできるようになったりして世界を見る目が変わってきたと実感します。
さらに、どの教科でも感じるのは高校の時に比べて大学での学びは「本物」に触れる機会が格段に増えたことです。例えば、論文などのPrimary Sourcesを読むということは高校時代当然ながらありませんでした。誰かがそういったPrimary Sourcesをもとに処理したSecondary Sourcesからの知識をもとに学んでいた一方、現在では生物でも歴史でも研究結果を直接的に示す論文などが顔を出すようになりました。こうしたことは、まずは自らが知識を吸収したのち、考え、分析し、整理し、新たな何かを作り出す能力を養うことができなければなしえない事です。そのため、こうした作業を通し「考える能力」を鍛えることを優先事項としているのだと気づきました。

b. 歴史家になって考える
世界史は今学期で一番大変な教科でした。その一方、得たものが最も多かった授業なので、別枠で歴史の授業から学んだことを振り返ってみたいと思います。特に、最初のほうはリーディングのあまりの多さに本当に困ってしまいました。10月号でも少しご紹介しましたが、毎週コンスタントに100ページくらいのリーディングが課されます。論文の時もあれば、小説の時もあり、教科書のような本の時もあり内容もジャンルも様々なので、色々な立場から歴史を切り込んでいっている感じです。
例えば、「奴隷と隷属の歴史」について学ぶ週では、大西洋の奴隷貿易とナチスの大量虐殺を比較検討した論文を読んだり、「戦争」について学ぶ週ではアメリカへ渡ってきたヨーロッパ人がアメリカ先住民との戦いの際、従来の戦法をやめ、相手に合わせた戦い方をしたというところから、常に交流のあった旧世界と交流のなかった新世界との文化、思想の伝播の違いについての論文を読んだりしました。史実を学ぶだけではなく、なぜそれが起こったのかを学ぶことは割と一般的だとは思うのですが、さらにそもそもなぜそうした出来事につながる状況が生まれたのか、というところを環境や人々の思想の変化を通して知ることで、なぜ・どのようにこうした現代社会が形成されていったのかを実際に感じることができます。

また、毎週3時間ある授業のうち1コマの10人ちょっとの少人数で行われるディスカッションの授業では、実際に読んだ文献について話し合っていきます。あらすじはもちろん、それよりも小説なら舞台の文化的背景や歴史的背景、論文なら筆者の立場やその根拠の妥当性などについて議論を交わしていきます。みんなを仕切る歴史専攻の大学院生であるTAはあくまでガイド役として様々な論点を投げかけていきます。そして、面白いのは必ず授業の最後で今回読んだ教材がグローバル史を理解するのに役に立ったか話し合うところです。普段出されたリーディング課題についてなぜこの教材だったかを考えることはほぼないので、こうしたCritical Thinkingを通して与えられた情報をより自分の糧にしていくことができるのだと思います。このようなところから、大量に課されるリーディング課題は細かな史実を覚えることが目的なのではなく、「歴史家になったつもりで文献、さらには歴史を検証する」能力を身に着けることが目的だと気づきました。こうした訓練を続けることで、今後発展的な歴史の授業で深い分析を自分でできるようになるということです。
実際に得た知識を自分のものとして活用する場が、ペーパーと呼ばれる論文課題です。今学期中に歴史のペーパーは2つあって、どちらもディスカッション用に課されたリーディングに関するものです。そしてもう一つ期末試験で事前に与えられていた論題をもとに試験中に小論文を書き上げます。IB(国際バカロレア)の時も、アメリカ大学受験の時も多くのエッセーを書く機会がありましたが、やはり大学でのエッセーとなると少し構えてしまう場面もあります。授業に向けて読んだ後、だいたい2週間でそのリーディングに関するペーパーが締切なので、何といってもスピードが今までと全然違います。ただ、ウィリアム・アンド・メアリー大学にはWriting Resource Centerという無料でペーパー執筆のサポートを受けられるところがあります。内容の構想から実際の校正まで様々な場面に対応してくれる頼もしい存在です。 期末試験でのエッセーの論題は、
“In its simplest sense globalization refers to the widening, deepening and speeding up of global interconnectedness.”
Using this definition of globalization, describe and explain the history of globalization between 1500 and 2000, with special attention to the different forms that globalization took at different times, the reasons why globalization took place, and the consequences of globalization.
というものでした。 あまりに大きなテーマに何を論点として主張を展開していけばいいのか分からず困惑しつつ、ディスカッションを担当しているTAにアポイントを取って構想の相談に乗ってもらうことにしました。すると、「歴史は、最初から自分の主題を考えて情報を集めるのではなくて、様々な史実や情報をもとに自分なりの解釈を加えていく。それを今回の課題でみんなに鍛えてほしいんだ。」といわれ、ものすごく納得してしまいました。それと同時に、なぜこの4か月間年号や人名を暗記するのではなくて、これだけ本を読み、ディスカッションの授業で分析してきたのかが、はっきりわかりました。
この世界史の授業では、「歴史家として歴史をどう扱うか」を訓練することを目的としているんだと思います。そのため、今回の課題のように様々な情報から自分なりの総括を見出す、言葉を変えると歴史の解釈を自分で形成するということを行うのでしょう。 ちなみに自分は、産業革命以前の多極的な世界秩序（Polycentric）における貿易、産業革命以降の植民地主義的な展開、そして戦後の移民や環境問題においてのグローバル化の役割という3つの点を通して、グローバル化が最近の出来事ではないということと、様々な時代に巻き起こったグローバル化の動きがどのように現代社会に強い影響を与えているか、について論じました。こうして、この4か月学んできたことを活かしながら総括をすることで、そもそも歴史って何なのだろうか？というところに少し踏み込めたような感じがしました。

というわけで、今回はこの秋学期ウィリアム・アンド・メアリー大学で学ぶことのできたことについて振り返らせていただきました。
では、1月号も宜しくお願いします！

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◇ 2014年11月 いつでもどこでも学びがある生活

11月号です！
バージニア州ウィリアムズバーグの秋もすっかり深まり、朝は氷点下になることもしばしばです。
キャンパスの紅葉も見事で、一面黄色と赤に彩られていました。

さて、今月号はキャンパスでの生活など学業面以外のことについて振り返ってみたいと思います。

○慣れ
人間の慣れとは、本当に恐ろしいものです。
3か月が経ち、あっという間であったような、ものすごく長かったような不思議な感覚を持っています。少なくとも、ウィリアム・アンド・メアリーでの学生生活はむしろ当たり前になってきて、渡米当初はすべてが新しくて「非日常」であったはずの日々が「日常」に変わっていきました。目に見える物理的なことで言えば、車が右側を走っている、様々な人種の人がいる、周りがみんな英語で会話をしている。短期留学は何度も経験していても、海外に住んだことがなかった僕にとって、異国の地で生活するというのは何とも言えない違和感の連続です。ただ小さいことですが、今ではすっかり人とすれ違う時もとっさに右側によけたり、たまに英語でブツブツ独り言を言っていたりと、無意識のうちにアメリカの基準に適応しつつあるのも事実です。こんなことを一人で考える時間があるのも、海外留学だからこそだったりするかもしれません。

○クラブ紹介

ガラッと話題を変えまして、僕の所属しているクラブ活動(Extracurricular Activities) について紹介していきたいと思います！

a.Japanese Culture Association
いかんせん日本人がいないので、Japanese Student Association(日本人学生会)は存在しません。ただ、日本語を勉強している人、日本文化が好きな人は大勢いるので、Japanese Culture Association(JCA) も人気な団体です。日本生まれ、日本育ちの学部生がいなくとも、アメリカ生まれの日系人の学生や、日本の大学から1年間交換留学で来ている学生も結構います。毎週火曜日の夕方にミーティングを行い、折り紙を作ったり、日本的な遊びをしたりして、日本文化について理解を深めていきます。

JCAの活動として行われた大きな活動が、毎年恒例で10月下旬に行われる “Aki Matsuri” です。日本のお祭りを模して、焼きそば、たこ焼き、餃子、おにぎり、クレープなどの食べ物や、ヨーヨー釣りといったゲームコーナーまで設けた結構本格的なイベントです。イベント前日の仕込みでは、みんなでワイワイ当日販売する食べ物を作りました。餃子包みとおにぎりを担当したのですが、餃子を包むのは何年振りか？というぐらいやっていなかったので、ほとんどみんなの手本になることは出来ませんでした…でも、みんなでこうして夜まで日本料理を作って翌日に備えたのは大変でしたが、いい思い出です。
そして当日！午前11時にイベントを開始し、お昼ごろにはご飯を目当てにお客さんも続々とやってきました。自分は日本から持ってきた浴衣を着て、焼きそばの販売などに携わりました。JCAの有志によるソーラン節や妖怪体操第一(←情報伝播が早い！！)などのダンス、そして少林寺拳法や剣道などの武道のパフォーマンスも行われました。まだまだ日本のお祭りとしては今後進化させていくべきところもありましたが、それよりも日本人がほとんどいないにもかかわらず、毎年毎年ウィリアム・アンド・メアリーでこのような立派なお祭りが行われていたことに感動です。本当に日本文化が好きで、このイベントのために何時間も時間を割いて準備をしている姿になんだか感謝の気持ちでいっぱいになりました。来年は、今回経験したことを糧に自分もJCAにどんどん貢献していければと思います。まずは夏休みに本場日本の夏祭りを現地調査せねば！！

さて、ウィリアム・アンド・メアリー大学において日本文化を伝える活動の中で忘れてはいけないのは、「日本語ハウス」の存在です。大学にはSpecial Interests Housingといって、普通の寮ではなくて、何か特定の興味を共有する人たちが集まって生活することのできる寮が存在します。例えば、環境問題に興味のある人たちが住むEcoHouse、そして今回紹介したいのが、外国の文化に興味のある人たちが住むLanguage Housesです。フランス語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、アラビア語、中国語、そして日本語それぞれがフロアを持っていて、この日本語のフロアのことを「日本語ハウス、J House」と呼ぶわけです。ここでは、毎年日本の大学院で日本語教授法を学んだ方がチューターとして共に住み、毎週映画鑑賞会や、料理教室を開催してくれています。僕もちょっと日本が恋しくなった時などに、J Houseに遊びに行ったりするのでとてもありがたい存在になっています。確かに、ウィリアム・アンド・メアリーは州立大学のため、出身地の多様性という面では他の私立大学に比べると少ないです。ただ、こうした言語ハウスや留学生を担当する部署の主催する豊富なイベントなどによって、大学の国際性が保たれています。

b.International Relations Club (IR Club)
国際関係学に非常に強いウィリアム・アンド・メアリーでは、IR Clubもとても大規模なものです。メンバー数は200人をゆうに超えていると思われます。話によると100年近く続いている団体なので、卒業生ネットワークもすごくて、こないだは国連のインターンの話がIR Clubに向けてきたりもしていました。主な活動は模擬国連(MUN=各国の国連大使になりきって国連会議を模すディベート的な活動)です。毎年中学生、高校生、大学生の3つの模擬国連大会を主催する全米でも数少ない大学のため、非常に盛んにおこなわれています。もともと、僕も高校時代日本で模擬国連を行っていたのもあって、国際関係学に興味がわきました。日本とは結構会議スタイルが違うのでまだまだ分からないことだらけですが、今後は他大学の学生会議にも参加してみようと思っているところです。

その第一歩として、先日大学で行われた高校生模擬国連大会(the William and Mary High School Model United Nations Conference, WMHSMUN=ウムズムン…IR Clubではなんでも略しちゃいます)の運営スタッフを担当しました。1400人(大学の一学年弱に相当！！)の高校生が大学に集まったので、学食はてんやわんやです。僕が担当したのはサイバー犯罪に対する会議で会議監督と議長を補佐する仕事です。高校生とはいえど、それぞれが「大使」になり切って、サイバー犯罪に対する国際的な協力法を次々とまとめあげ、決議案を作成していっているところを見ると、普段からディスカッションなどを通して、自分の意見/自国の主張を効果的に相手に伝え、合意に持ち込むことに慣れていることの強みを感じました。

c.Swim Club
勉強ばかりであまり動きもせず、運動不足になりがちな大学生活、ちゃんとスポーツもしているんです。高校時代まで水泳をやっていたのもあって、こちらに来てもSwim Clubに所属することにしました。Varsityと呼ばれる体育会ではなく、いわゆるサークルのようなクラブ・スポーツなのですが、それでも週5回練習が開催されていて、自分の都合に合わせて2回以上参加するルールになっています。練習も結構ガッツリしていて僕はHard, Medium, Easyの3レベルに分かれているうちのMediumで練習しているのですが、毎回練習後はくったくたになっていまいます。Hardで練習している人たちは、ムキムキで高校時代はトップ選手として活躍していたような人たちなので、まだまだそこに食らいついていくことができていません。
ちなみに、日米で水泳の練習にも多少違いがあって、最初は戸惑いました。まず、大きいのはプールが25メートルではなくて25ヤードだということです。パッと見ではさすがにあんまり変わらないのですが、泳いでると、もう壁か！と思ったり、泳いでいるタイムが全然違ったりします。もうすっかりヤードになれてしまった（というかこれがメートルかのように考えるようになってしまった）ので、日本で実際の25メートルプールで泳いだ時の違和感は大きいと思います。こうして文化の違いから生まれる度量衡が人間の感覚にどのような影響を及ぼすのだろうか？などと長距離を泳いでるときに考えてしまって、何周泳いだかわからなくなってしまうこともあります。ちょっと脱線しますが、ここ最近の「気温が零下になる」という感覚、個人的には大きな節目を感じるのですが、華氏を使用するアメリカ人にとっては摂氏4度であろうがマイナス1度であろうが同じ華氏30度台なので当然ながら、特に何の壁も感じないようです。そんなことを考えると、生まれ育った文化的背景に基づく感覚って面白いななんて思います。話を水泳に戻して、その他にも練習内容の言い方も日本語と英語では違って面白いです。例えば、「50メートルを6本」という場合、英語では “Six 50s” という風になるので、最初は650ヤードのことかと思ってしまいました。ただただ水泳を楽しむだけではなくて、その土地独特の特徴を楽しむのもまたいい経験です。

○秋休み
さて、時期が少し戻ってしまいますが、10月中旬にはFall Breakと呼ばれる4日間のお休みがありました。周りの人たちがみんな続々と実家へ帰っていく中、自分はワシントンDCとフィラデルフィアへ行ってきました。
a.Washington, DC
大学の生徒会がバス会社と交渉して、キャンパスからDCまでのバスを往復40ドルというなんとも格安シャトルを手配してくれました。授業の終わる日にさっそくバスが出発し、ウィリアムズバーグから3時間半ぐらいかけて夜にDCに到着します。DCへ観光に行く学生だけではなく、DC周辺（Northern Virginia =NoVAと呼ばれています）に住んでいる学生が多く乗り込んでいるので、みんなウキウキ顔を隠せずにいました。やっぱり、いくら同じ州の大学に行っていたとしても、実家に帰るのは待ちきれないようです。
翌日は、アメリカ政治の中心、合衆国議事堂や議会図書館、国立公文書館などを見学しました。公文書館では独立宣言の原本を見ることもできました。それぞれの建物が、豪華絢爛な装飾が施されていると同時に、観光名所としてしっかりと整備されていることが印象的です。議事堂では最初に「自由」や「民主主義」を謳ったすごいかっこいいビデオが上映されて、それからガイドの方が意外な逸話や建物の特徴など細かな部分まで丁寧に案内してくれます。こうした部分からも、「世界をリードするアメリカ合衆国」としての誇りを存分に表現し、世界中からの観光客を魅了するパワーを感じました。

b.Philadelphia
DCで2泊した後、ペンシルバニア州の州都、フィラデルフィアまではアメリカの主要な鉄道、Amtrakを利用して2時間ほどかけて行きました。独立後、ニューヨークにあった首都が一時的にフィラデルフィアに移転されたということから、アメリカ建国においての中心的な都市でもあります。
やはりフィラデルフィアでもとくに独立宣言が署名されたということで有名なIndependence Hall(独立記念館)は世界遺産にもなっていて、多くの観光客が集まっていました。ツアーでは、建物内の部屋を詳細なエピソードと共に一つ一つ紹介してくれます。中でも、独立宣言を中心となって執筆したウィリアム・アンド・メアリー大学卒業生、我らのトーマスジェファーソン先輩が話に何度も登場したので、大学のロゴ入りのリュックを背負った後輩である僕は、一人で誇らしい気持ちになっていました。そのほかにも、フィラデルフィア美術館やLiberty Bell、ペンシルバニア大学などフィラデルフィアの名所を観光することができました。DCと比べて街並みに壮大さはありませんが、古いレンガ造りの建物も多く、全体的に落ち着いた雰囲気がとても気に入りました！

c.秋休みを終えて
やはり、なんといってもアメリカの歴史を体感することができたのはとてもいい経験となりました。もともとウィリアムズバーグという植民地時代のアメリカを色濃く残す町で暮らしているわけではありますが、実際の政治舞台となったDCやフィラデルフィアを訪れることで、さらに今住んでいるアメリカという国の歴史を知ることができました。そして、何もかもスケールが大きくて世界中の人々を引きつけるその存在感は圧巻でした。 それと同時に、アメリカの特徴として感じたのは「多様性」です。 一番わかりやすいのは、世界中から観光や仕事、僕のように教育を目的として非常に多くの人々を集めています。それだけ皆が惹かれる中身があるということでもあります。それだけなく、アメリカ内部でもそれぞれの人が自分なりのスタイルで生きています。例えば、一つ印象に残っているのが、フィラデルフィアで訪れたフランクリン博物館でのこと。日曜日ということで、多くの家族連れが来ている中、黒いスーツと帽子をかぶった家族連れを何組か見かけました。ユダヤ教徒の人たちです。今まで、知識としては知っていても、現実の中でこうして直接目にすることはなかったのでとても新鮮でもあり、アメリカの多様性を感じる場面でもありました。フィラデルフィアは、クエーカー教徒に人たちが建てた町なので、その教会もいくつか目にしました。また、これだけの高層ビルが立ち並んだ都会であるフィラデルフィアの郊外には、現代文明から隔離して自然の力だけで生活を営もうとする町も存在します。そして、町の中心部には、漢字の看板にあふれた中華街も存在します。こうした、様々な考え方が共存する世界がアメリカの特徴だと体感しました。その一方で、多様であるが故の、棲み分け、格差が存在するのも事実です。町の中にもきれいな通りのすぐ近くには全然雰囲気の違う貧困地域があったり…日本とは大きく異なる側面を持っています。この秋休みでは、普段大学内で生活するだけではわからない、アメリカという国についてさらに理解を深めることができました。

というわけで、今回はウィリアム・アンド・メアリー大学での生活、アメリカで生活する中で感じたことなどを、ご紹介させていただきました。勉強だけが留学ではありません。自分の慣れ親しんだ環境から遠く離れた場所で一人生活するだけでも多くの学びや気づきがあります。そんなことを再確認させられる3か月でした。そうこうするうちに、12月も近づき日本への帰国もあと3週間ぐらいです！毎日毎日そのことが頭から離れず、ニヤニヤしてしまいます。しかし！その前に、怒涛の期末試験があるので、しっかり勉強していい冬休みを迎えられればと思います。

ではまた来月！