皆さん、こんにちは。アゴス・ジャパンの佐々木です。
皆さんも新聞記事などで、世界の大学ランキングをご覧になったことがあると思います。ランキングの種類によって順位は異なるものの、日本では一流とされている大学でも世界が相手となるとなかなか上位に食い込めていない状況です。でも、なぜこんなに差がついているのか不思議に思われたことはありませんでしょうか・・・?
ランキングは、新聞社・雑誌社・第三者機関などそれぞれが持つ独自の指標(論文引用数や学生一人当たりの教員比率など)によって算出されていますが、そもそも日本の大学には何が足りていないのでしょうか。
今回は、そんな海外の大学と日本の大学の違いを掘り下げるにあたり、日米の大学の収支格差という興味深いテーマに焦点を当ててみたいと思います。
まずは、日本の大学の収入の中で一番大きな割合を占めるものは何だかご存知でしょうか? 皆さんの想像に容易いと思いますが、入学金や授業料などの学生からの納付金です。早稲田大学で約61%(*1)、明治大学で約53.8%(*2)といったように、この学生からの納付金によって過半数以上が占められています。
では、米国に目を向けるとどうでしょう。ハーバード大学で19%(*3)、スタンフォード大で16%(*4)とかなりの差があります。早稲田大学の初年度納入金は130 ~180万円程度(学部によって異なる)ですが、それに比べてハーバード大は500万円弱と高額です。約3倍の授業料となると相当額の収入があるはずですが、全体に占める割合はわずか2割弱程度。これは一体どういうことなのでしょうか。
実は、米国の大学では、授業料以外の大きな収入の柱が存在しているのです。参考までに、スタンフォード大の収入の内訳例を(*4)見ると、下記のような形になっています。
・寄付金 (21%)
・企業などから研究開発投資 (17%)
・授業料 (16%)
・運用益 (4%)
このように寄付金や企業からの研究開発投資、運用益などが日本の大学とは違って大きな割合を占めていることが見てとれます。スタンフォードの年間収入はUS$5.5 billion(*4)ですので、ざっと換算すると6,000億円以上。その2割となると1,200億円ほどが寄付金として入ってくる計算です。私自身がStanford在学中にも、「The Stanford Challenge」と呼ばれる寄付金集めのキャンペーンが展開されていましたが、こちらも最終的には目標額43億ドルに対して62億ドルも集まったという話を聞き、当時唖然とした覚えがあります・・・。米国の大学がこれだけ寄付金を集められるのは、寄付金に対する税制優遇や寄付金文化の違いといった背景もありますが、寄付金集め専門のスタッフを雇うなど、大学側が本気で取り組んでいるその努力姿勢も決して見逃すことはできません。事実、私の元にも、寄付金依頼が本当によくマメに送られてきます・・・(笑)。
また、着目すべきは、企業などからの研究開発投資の多さです。先日の日本経済新聞に、日本企業は、日本の大学ではなく海外の大学へ投資する割合が高いという記事が掲載されていました(*5)。文科省の調べでは、2014年に日本企業が日本の大学に出資した研究22,700件のうち、65.8%が300万円未満の小粒案件。それに対して海外の大学への出資は平均1,100万円だったとのことです。日本企業は「海外の大学のほうが研究成果にこだわり、結果を出す可能性が高い」と、その費用対効果を冷静に見極めているようです。その研究成果としての特許収入を日米の大学で比較すると、日本では京都大学がトップで3億5,700万円ですが、アメリカトップのノースウェスタン大学は397億円とその差は桁違いです。
こんなところからも日本の大学が、大きく水をあけられている印象が拭えません。
今回は、日米の大学で、収入の内訳がどのように異なるのか、という点に焦点を当ててみました。もちろん、単に収入の差だけでその大学の優劣がランク付けされるわけではありません。但し、収入が増えれば大学の価値を高めるための様々な投資が可能となり、その結果として大学ランキングの順位に与える影響は少なくない、ということなのです。
次回は、そんな収入がどのように使われているのかをお話していきたいと思います。
<Reference>
*1 早稲田大学2015年度決算書より
*2 明治大学2015年度決算より
*3 Harvard Financial Report Fiscal Year 2014より
*4 Stanford Facts 2015より
*5 日経新聞朝刊記事「進まぬ日の丸産学連携」(2016年5月23日)より