第1回キャリアビジョンセミナー

【モデレーター】
竹内 健  Ken Takeuchi
東京大学 工学部 電子工学科 准教授
東京大学大学院工学系研究科修士修了、スタンフォード大学ビジネススクール卒(Class of 2003)

【パネリスト】
鎌田 祐一 Yuichi Kamata
株式会社 リクルート 事業開発室 
(業種・業界:人材・情報サービス)
早稲田大学理工学研究科(物理専攻・理学修士)修了、UCLA Anderson School卒(Class of 2003)

五宝 健治 Kenji Goho
ユニゾン・キャピタル株式会社 アソシエイト 
(業種・業界:プライベートエクイティ投資)
慶応義塾大学理工学部機械工学科(院卒)、Insead MBA Programme 卒(2004 September)

佐近 康隆 Yasutaka Sakon
株式会社 医療情報総合研究所 サービス統括部長
(業種・業界:医療・医薬品)
東京大学大学院工学系研究科修士修了、ミシガン大学ビジネススクール卒(Class of 2004) 

森 一晃 Kazuaki Mori
住友商事株式会社 部長付 兼)SC Green Energy Tech Inc. 取締役
(業種・業界:総合商社、新エネ技術ベンチャー投資)
北海道大学工学部機械工学科卒業、Wharton School, University of Pennsylvania卒(Class of 2002)

本年早春よりスタートした「キャリアビジョンセミナーシリーズ」の記念すべき第1回セミナーが、2月17日(日) にアゴス・ジャパンにて開催されました。本シリーズは、学生や若手社会人の方々に、各分野で活躍する留学経験者たちの生の声を聞いて、自分のキャリア・人生についてより深く考えてもらう機会を提供するものです。

第1回セミナーの切り口は、ずばり「理工系出身者のキャリア」。理工系出身で欧米のトップビジネススクール卒業という共通のバックグラウンドを持ち、現在各方面で活躍する5名の方々をお迎えし、自らのキャリアの軌跡や人生のビジョン、価値観について、ざっくばらんに語り合っていただきました。会場は25名の理工系の学生と社会人でほぼ満席。ゲストも聴衆も理工系という「理工系づくし」の中、ユーモアと本音たっぷりのディスカッションに、会場は最初から最後まで熱気に包まれました。 


モデレーターとパネリストがこれまでに歩んで来られたキャリアパスは、5名5様です。
竹内氏: 大手電機メーカー(研究員)→MBA留学(社費)→大手電機メーカー(マーケティング)→大学教員
鎌田氏: 外資系戦略コンサルティング会社(コンサルタント)→MBA留学(私費) →投資ファンド会社→事業会社
五宝氏: 大手電機メーカー(研究→企画)→MBA留学(社費)→大手電機メーカー(企画)→投資ファンド会社
佐近氏: 大手IT企業(エンジニア)→MBA留学(社費)→大手IT企業(コンサルタント)→オーストラリアのITベンチャー(CTO)→医療情報ベンチャー
森氏: 大手総合商社(事業開発)→MBA留学(社費)→大手総合商社(事業開発、新エネルギーベンチャー投資)
 
それぞれの自己紹介の後、竹内氏の司会でディスカッションがスタートしました。(カッコ内は発言者です。下記、敬称略。)

■ なぜ理工系の大学・大学院に進んだのか?
・(森)小さい頃からパイロットになりたかったから、大学でも自然と理工系の学科に進んだ。
・(佐近)もともと数学や物理が好き。ITで世の中を変えることに興味を持つようになり、世の中のシステム全てに要素技術として含まれている計数工学を大学での専攻に選んだ。
・(五宝)理工系科目が好きだから自然の流れだった。機械工学という専門を選んだのは、ロジカルな思考、モデリングが好きだったから。
  ・(鎌田)物理が好きだったから。大学院には「専門的にやるなら行くものだ」と思って進んだ。もう一つの理由として、大学院生が行ける交換留学プログラムがあったのも魅力だった。

■ 最初の就職はどのようにして選んだのか?
・(森) 就職活動を始めて、会社に対する学生の見方と社会人の見方にギャップが大きいことを認識した。そこで、実際にどういう会社か見てないと実態がわからないと思い、証券、銀行、商社、メーカー等々120社くらいと面接して絞っていった。
・(佐近)銀行や総研などを受けたが、ITを使って世の中を変えたい、e-business的なことをやりたいと思って、ITの重要性を理解してくれる外資系のコンピューター会社に就職した。
  ・(五宝)12歳まで米国で育ち、日本企業がいい企業にも関わらず海外で負けているのを勿体ないと感じていた。そこで、日本企業の国際競争力をアップすることに貢献したいと思うようになり、就職先として、日本で強い存在感がありながらも海外では知名度がやや劣る大手電機メーカーを選んだ。 
  ・(鎌田)大学のときに大前研一の本を読み、面白い考え方をする人だなぁ、コンサルティングという仕事は理系にも向いているなぁと感じた。どういう生き方をしたいのかと考えたときに、会社の都合で左右される生き方より、自分で一本立ちしたいと思った。そこで、コンサルタントという職業を選んだ。今にして思えば、竹内先生のようにエンジニアで一本立ちする道もあったかもしれないが。

■ 理工系出身者の強みとは?
・(森)物事の「なんで?」を分析するのが理工系。相対比較して、納得できる理由を探して決める。
・(鎌田)数字を使う能力、組み立てる能力は理工系の強み。
・(五宝)文系の多い経営、企画、ベンチャーキャピタルといった分野では、理工系は意外性を持って接してもらえる。自分という人間に興味を持ってもらえやすい。
・(佐近)技術の話になってもびびらないでいられる。例え100%はわからなくても知ったような顔で話をしたり、的確な質問をしたりできる。それができるかできないかの差はビジネスの場では大きい。
・(森)仕事で実際に扱うことは、大学の専門と全く異なっていることが多いが、図面を見てもびびらないとか、わかってそうだとかいった期待をチームメンバーから自然に持たれる。そういう期待は、逆にメンバーやクライアントへの説得材料として使うことができる。ある程度の知ったかぶりのできることは強み。

■ 理工系出身者の弱みとは?これまで理工系出身者として苦労した経験は?
・(森)理系は社会性が乏しいとよく言われるが、自分の印象を相手に残すということはどの分野でも必要な素養だと思う。
・(五宝)理屈を考えられる頭を持っていても、それを相手に伝えるコミュニケーション能力、プレゼン能力がなければ意味がない。  
  ・(佐近)感性や直感といったことは苦手と一般的には思われがち。エンジニアによくあるのが、「この技術の良さがなんでこの人にはわからないんだろう?」と自分の思い入れが強すぎること。
   ・(森)議論を喧嘩ととらえがち。人と交わり、議論交わすことを心地いいと感じるようになるべき。 
・(鎌田)数字やロジックで説明できるのは世の中の事象の半分でしかなく、例えば世の中の動きや人の気持ちは説明しきれない。そういう部分を打破するのに非常に苦労した。

■ なぜMBA留学をしたのか?
・(鎌田)MBA留学した先輩が「楽しかった!」と心から言うのを聞いて、自分もそういう経験をしたくなった。
・(五宝)ビジネスの世界でやっていくために経済学を学ぶことは必須だと思った。また、仕事で出会うMBAを持つ人たちは独特のターミノロジーを使ってコミュニケーションをとっていて、自分もそれを知りたいと思った。
・(佐近)技術をビジネス展開して社会へインパクトを与えるためのスキルを身に付けたかった。
・(森)留学の数年前に担当した案件で、技術レベルと経営のレベルがマッチしていないがために出資していた会社が倒産した。その理由がその時の自分はわからず、技術やマーケティングなどを体系的に学びたいと思った。また出資の時に使われるターミノロジーがわからず苦労した。自分に足りない部分を身に付けるためにMBA留学を選んだ。
・(森)他の企業を覗いてみたかった。自分にプラスアルファの差別化の要素を加えたかった。
・(竹内)研究開発畑にいたが、だんだんエンジニア以外の人と仕事をする機会が増えて、ビジネスのスキルの必要性を痛切に感じるようになった。  

■ MBA留学で何を得たか?
・(鎌田)スキルとしては、ベーシックな経営ツールと、英語。それよりも、人生の選択肢をいつも持つライフスタイルを実際見て、人生の豊かさが違うと、カルチャーショックを感じた。
・(五宝)そこで出会った人。価値観。文化。勉強に専念する時間。自分のことについていろいろ考える時間。
・(佐近)人づて。世の中の事象がわかるようになったこと。ターミノロジー。留学中は全ての要素が楽しく思えた。自分のキャリアにおいて「何とかなる」という自信がついた。MBAというスペックがなければ声が掛からないような仕事もオポチュニティとして現れるようになった。
・(鎌田)付け加えだけど、ファイナンスを体系的に学ぶことができた。それまでは、専門家はマーケットを説明し尽くせるのかと思っていたけど、「なーんだ、みんなわからずに意見を言っているだけなんだ」とわかってほっとした。 

■ 人生の時期として、いつごろMBAへ行くべきだと思う? 
・(五宝)独身のうちに行った方が効率的だと思う。もちろん家族がいるからこその良さもあるが、勉強やネットワーキングと家庭との両立は大変。特にネットワーキングパーティーに気分的に行きづらい。
・(竹内)一方、日本ではありえない家族付けの時間を過ごせたので、それはとてもいい機会だった。
・(森)アメリカ人は大卒後3~4年でMBAに来る。30歳を過ぎて入った自分はそこで世代間ギャップを感じることが多かった。早めに留学した方が感動や吸収する部分が大きいように思う。
・(佐近)自分は独身で30歳ちょっと前で留学したが、それでも「遅い」と感じた。
・(五宝)日本のことを知ってから行かないとダメだと思う。留学先では日本の代表として見られる。そこで何も発信しないとダメ人間だと思われる。日本では絶対こないような質問が来るので、その際に正解を知らなくても自分なりの考えをアピールできるレベルに自分が到達してから留学するべき。
・(鎌田)社会人経験4~5年の頃は世の中の動きや考え方にいろいろな疑問が出てくる時期。疑問を沢山持って行かないと、学べるものも少ない。ただ、人生は皆それぞれタイミングというものがあり、実際、留学に行けるタイミングはそれほど多くない。だからチャンスがある時に行くのがいいと思う。

■ キャリアビジョンは持っていたのか?これまでどうやって仕事を選んできたのか?
・(森)MBAの同級生30名のうち、留学前の会社に今も残っている人は3名しかいない。とは言え、皆転職しようと決めてMBAに行ったわけではない。キャリア上、壁に当たったら軌道を修正すればいいのだと思う。一本のパスなんてあるわけがない。やりたいことがわかっていれば、どんな方法でもそこへ行ける。ただし、上から言われたことをやってばかりいると、単なる便利屋さんになってしまう。声を挙げて自分のやりたいことを周囲に伝えていくことは、自分にとっても非常に大事だった。
・(佐近)専門性もオポチュニティも両方持つことが重要だ。ただ、「本当にそれが全オポチュニティなのか?」と自問することは大切で、その判断のためにアンテナを常に張っておくべき。それとともに、情報発信できるようなレベルに自分がなること。ただし、結局、発信できるのは自分の専門分野なので、そこをしっかりやらないと、ということになる。ある分野でとことんやって成功して、そこでまだ自分が100%満足できなければそこがキャリアチェンジの時期、というスタンスでいればいいのではないか。 
  ・(五宝)キャリアを考えるのではなく、人生を考えるのだと思う。「自分は何をやりたいのか」の手段としてキャリアがある。目の前には何本も道があって、自分は160度くらいの角度の範囲内で前へ進んでいればいいと思う。それでも前へ進んでいることに変わりはないのだから。心の片隅に自分のやりたいことを常に置いておき、アンテナをはって、チャンスが来たらそれをつかむ。ただし、チャンスをつかむためのオプションは常に持っておくことは重要だ。
・(鎌田)「その場その場で道を決めていったら、このキャリアにつながった」という感じで、キャリアビジョンなんて持ったことがなかった。この時代は10年、20年のビジョンなんて描けない世の中。昔あったハシゴはもう存在しないし、その代わりになるものもない。キャリアビジョンを描くのは無理だし意味がないと思う。要は、どういうことを喜びにして人生を描くか、という人生のビジョンが大切。自分にとっては、学生時代の実験で結果が得られたときの喜びと、今の仕事でプロジェクトを成功させた時に感じる喜びは全く同じだ。  
・(鎌田)考え方の核を持つことが大切。その核を軸として、いろいろな経験をしてキャリアを決めていくべきだ。自分のことを知るには世の中のことを知らなきゃと思う。学生の頃いろいろなアルバイトを経験して、一番面白かったのは警備の現場の仕事。毎回いろんな現場に行く仕事が自分の性に合っていると思い、研究室に閉じこもる道は選ばなかった。 

質疑応答では、参加者から活発に手が挙がりました。MBA留学に関する質問が多く、参加者の関心の高さが伺えました。ディスカッションの締めくくりに、モデレーターとパネリストから参加者へ力強いメッセージが送られました。

・(森)いろいろなことを実際にやって経験してみてほしい。 
・(佐近)できることをとことんやり、オポチュニティを広げていってほしい。 
・(五宝)人生をどう過ごしたいのか?そのために自分がどういう人間なのかを考え、いろいろな人とコミュニケーションしてほしい。 
・(鎌田)高橋俊介氏が「『いいキャリア』はないが、『満足できるキャリア』はある」と言っている。その通りだと思う。そのようなキャリア観を持ってほしい。 
・(竹内)理工系は好きでないことをやっているといつか破綻が来る。好きなことをやってほしい。

最後に、当校会長の横山の下記のコメントにより、イベントは幕を閉じました。

「いつか世界を舞台に活躍しようと思っているならば、意識しておくとよいのは、“自分が生む違い”を意識しながら、動き、発信すること。そして、日本では、“誰が(Who)”、“何を(What)”が会話の主役になることが多いが、欧米の会話や議論では“なぜ(Why)”、“どうやって(How)”を伝えることが大切になる。 そして、理系・文系に関係なく、人生(キャリア)において、リーダーシップをとり、意思決定をしてゆく上で、“分析・判断・決断”の3要素が重要。その中で、理系的思考回路は“分析・判断”の訓練を積んでいる面においてアドバンテージ。それを踏まえたうえでの“決断”は、ある程度の経験を積んでからできるようになっていくものなので、若いうちは“思ったら動く”、自分から仕掛けていくことが大切。失敗を恐れずに、“分析・判断”をどんどん行い、動き、発信してゆくことを意識して欲しい。最後に、アゴス・ジャパンのミッションは、皆さんが世界の舞台で活躍してくれることで実現するので、ぜひ頑張ってください。」

笑いや突っ込みも度々混ざる活発なディスカッションに、参加者全員がぐっと聞き入り、あっという間の2時間半でした。5名の方々の深い洞察に、「理工系」という枠を超えて、人生、生き方、働く、学ぶといったことについて、多くのことを考えさせられました。最後に、モデレーターの竹内先生には、準備段階からこのセミナーのテーマや内容について、様々な視点からのアドバイスをいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

以上、「理工系学生のためのキャリアデザインセミナー」のレポートでした。開催にご協力いただいた皆様、ご参加くださった皆様、本当にありがとうございました。