ハーバード大学院 公共政策/MBA dual/joint degree在校生が語る留学の意義

去る2009年8月4日(火)に、ハーバード大学院の中でも、ケネディスクール(公共政策学)とビジネススクールの両プログラムで学ぶ(dual degree)の在校生である、桑島 浩彰(くわじま ひろあき)氏をお迎えし、ハーバードの魅力、公共政策学、MBAの魅力をたっぷり語っていただきました。
まずは、当校のコンサルタントである岡田より、Joint degreeについての説明でセミナーがスタートしました。以下抜粋です。


Dual/Joint degreeについて

岡田(以下、岡):まずは桑島さんが在籍をされているdual degreeというプログラムに関して説明した後、ご本人にお話いただきたいと思います。

Dual degreeやJoint degreeとは、2つの異なる分野でも相互に関連性があり両方の分野の知識を深めることで専門性を高めることが出来るプログラムです。本日のパネリストの桑島さんが在籍されているハーバードには、ビジネススクールから見た形では4つプログラムがあります。「Kennedy」「Law school」「Medical」「Dental medicine」と関わりが強いものを一定の期間で学べるようになっています。 出願の仕方は、学校によって違いますが、ハーバードの場合はビジネススクールとケネディスクールの両方のjoint programに出願し、合格が必要になります。学校によっては、両方から合格を貰わないとこういったプログラムの参加を認められないところ、どちらか一方から合格をもらってから、もう片方に出願しなさいというようなパターンもあります。

Dual degreeもしくはJoint degreeと呼ばれるものは、2つのプログラムに参加し人の倍やるという事から、とても大変というイメージを持たれる方が多いようですが、どのくらいの期間がかかるかというと、このビジネススクールとKennedyのDual degreeでは3年間で終了するプログラムになっています。 カリキュラムは、両方の全てを取るというより、単位を減らした形でアレンジされた授業を取るという形で勉強できるしくみになっています。ただし、必ずインターンシップをビジネスサイド、ポリティカルサイド両方でやらなければならないというように規定があります。

ではここから先、実際に学ばれている方の視線から、桑島さんが体験されている留学生活について、また外から見た日本、日本から見た外について語って頂きたいと思います。

◆ビジネススクール/Kennedyスクールのdual degreeを目差したきっかけ

桑島(以下、桑):くわじまひろあきと申します。
留学して3年間のプログラムのうち2年経ちました。留学前は総合商社におりまして、途上国ビジネス、具体的に言うとコーヒー豆のトレーディングしていました。主にアフリカ、南米で買い付けを行い、ヨーロッパや日本で販売をするという仕事でした。この仕事に4年間携わり、その後私費休職と言う形で、ハーバードビジネススクールに2007年に合格しました。当時はKennedyについては漠然としか考えていませんでしたが、合格後にたまたまHBSとKennedyのDual Degree出身の方に出会い、9月に入学したあとに急遽受験を考え始めました。その後、短い受験準備期間で出願をしたのですが、無事合格をいただき、結局一年間ビジネススクールを終えた後の昨年9月、KennedyのMPAプログラムのほうへ入学した次第です。

サマーインターンに関しては、去年の夏はビジネススクールの典型的なもので提携の投資銀行とコンサルティング会社でインターンをしました。今年はポリティカルサイドだったのですが1ヶ月間、今度衆議院選挙もあるということで、民主党のKennedyスクールのOBのオフィスに手伝いに入り、選挙活動をしました。また1週間でしたが、米日財団の日米リーダーシッププログラムという国際会議のプログラムに参加し、東京に戻ってきたところです。

岡:コーヒービジネスからビジネススクールに、ということを伺ったのですが、ビジネススクールに行かれようと思ったきっかけ、さらにパブリックセクターに興味をお持ちになったきっかけを詳しく教えていただけますか。

桑:私は、学生時代からビジネススクールに興味がありました。経営を考えて行く上で、まずは社会に出て、最初の2~3年は日本のビジネスのあり方や商習慣などを吸収する時期だと思っていました。ですが、2~3年目にかけて、自分はこのままでいいのかという思いが強くなり、そこから本格的にMBAについての勉強を始め、留学準備に入りました。

続いて、パブリックセクターに興味を持った理由ですが、世の中の事象、今回の金融危機などがいい例だと思いますが、実際に規制をする側から見て、どうしたら防げたかなど、政策担当者から見るというか、規制する側とされる側、両方の視点から見たいという思いに駆られたのが理由の一つです。 さらには、将来のキャリアとして、日本の政治に危機感を感じ、これを変えていかなければならないという強い思いを持っています。もっと具体的に言えば、日本の政治に関わって行きたいという気持ちもあって、Kennedyスクールに興味を持ちました。Kennedyスクールには、霞ヶ関からいらっしゃる方も多いのですが、私の場合は少しアプローチが違い、アメリカの外交手法や、宗教問題にも興味は持っていましたので、今後20-30年必要になってくるような知識の土台を作るためにKennedyスクールを選んだという形ですね。

◆求められる人材像とは

岡:少し出願準備というテクニカルなお話を伺います。
ビジネススクールとKennedyの両方に合格されたという、ご自分の強みはどのような点にあったと思われますか?

桑:出願戦略というと、リーダーシップであるとかそういうことを考えると思いますが、私の場合、まず、ビジネススクールを受ける人間としては比較的ユニークなバックグラウンドだったのではないかと思います。出願者には外資系金融機関やコンサルティングと言ったバックボーンを持つ方が多くいらっしゃり、商社の方ももちろんいますが、とにかくその人たちとは差別化をしなければいけないと考えました。私は途上国ビジネスをしてきたということで、差別化を意識し、できるだけ途上国の立場に立ってwin&winの関係を築きながらビジネスをしてきたというエッセイを書くことを心掛けました。私はアフリカの担当だったのですが、エチオピアやケニアなど出張に行く機会も多く、日本とアフリカにはどうしてこのような経済的な差が生まれたのかなどを考える機会が数多くあったと思います。もちろん、商社ですから利益をあげなければならない。でも会社が利益をあげるだけでなく、現地と農民にも利益を出すようにするにはどうすればよいかを常に考え、それを実践するようにしていました。

ハーバードというのはリーダーを育てるところと言われていますが、現地の途上国の農家のスタッフのモチベーションを上げると同時に、そこからどのようにビジネスを作って行くかという経験がハーバードの求める人材と合致すると感じ、そこで差別化が出来るなと思いましたので、エッセイには積極的に書きました。実際ハーバードは、投資銀行の方やコンサルティング会社で戦略を作っていた方、マーケティング出身の方など多様性はあるのですが、その中でも比較的ユニークな経験をしてきたんだなと実感しました。

岡:続いて、Kennedyスクールという公共政策分野で、先ほどお伝えいただいたユニークな観点をどのように出されたのか、またどんなことを意識して出願されたのかを教えていただけますか。

桑: KennedyのエッセイはHBSと一緒で、リーダーシップ性やキャリアゴールを明確にアピールする必要がありますが、違いがあるとすれば、一つは政府の政策について提案し、その是非について論じなさいというような問いがあることです。私の場合は、エチオピア政府の方とよく話をする機会があったのですが、ある時期スターバックスがエチオピアのコーヒー豆の商標を侵害していると、エチオピア政府が国際的なNGOと共にネガティブなキャンペーンをしていたことがありました。私はスタバとも政府とも商売をしていたので、このネガティブなキャンペーンには疑問を持っていました。このままでは、プライベートセクターがコーヒーを買おうとしなくなるのではと。政府としては、商標権のプレミアムをエチオピアに還流させようとしたのですが、私ならこういうアプローチはしないと思いました。国のコーヒー豆をいかに売るかということを政府として政策を考える一方、買う側、つまりビジネスサイドとしてどう見るかということもあわせて考えました。この経験を通じて、政府としてこういう政策をとったら良いとか、自分の考えを書いてアピールをした形です。

◆留学生活について  ビジネススクール・ケネディスクールの違い・共通点とは

岡:ビジネス・政策面といったそれぞれの視点からの見方が出来る人材が求められている印象ですね。続いては、実際の留学生活について、伺ってみたいと思います。ハーバードは「世界に通用するリーダーを育成しよう」というプログラムだと言われますが、1年目がHBSで、2年目はKennedyにいらっしゃったということで、それぞれの共通する部分、異なる部分をお教えください。

桑:共通点は、世界に通用するリーダーというか、とにかく世界中から学生がきますので、究極的にはそれぞれの国に帰って、力を発揮するという、リーダーを育てるという点です。ビジネススクールは、パブリックセクターで活躍する人ではなく大企業のCEOですとか、会社を引っ張って行く人ですね。スペシャリストでなくゼネラリストを育てようという感じです。Kennedyスクールは国際機関とか政府など、プライベートセクターがカバーできない部分で活躍する人を育てて行こうとしています。ある意味パブリックセクターというのは金銭的なインセンティブだけでは動かないという部分がありますので、たとえば地球温暖化など金銭的なものだけでは解決できない問題にチャレンジできる人材を育てて行こうという雰囲気を感じます。 どちらも同じ「リーダーを育てよう」なのですが、どういうリーダーを育てるかというポリシーが明確に違うわけです。

実際のところ、共通点より相違点のほうが多いように感じます。ビジネススクールでは、CEOとしてどれだけ利益を最大化できるかという部分がメインで、卒業後にどれだけcompetitiveなれるのかという部分にフォーカスを当てざるをえないシステムというか、設計になっています。Kennedyではそのような事を、数量的に考えることはしません。今、地球上にこういう問題があり、その問題の解決できる人材を育てようという感じです。

また、年齢やバックグラウンドという意味でも、Kennedyスクールのほうが多様性はあると思います。ビジネススクールのほうは、エグゼクティグプログラムもありますが、通常のMBAプログラムの学生とは交流があまりありません。一方、Kennedyスクールでは、最低7年の職歴が求められるミッドキャリアプログラムのシニアの方や、大学を卒業してすぐの比較的若い方など多様な年齢層の方が同じ教室で授業を取ります。そういう意味でKennedyスクールの授業に刺激を感じることもありました。ビジネススクールは平均年齢が若くなる傾向にあります。学生平均が26歳くらいだと思うのですが、これはMITなどと比べても非常に若いと思います。ビジネススクールは、職業的には多様性があるのですが、年齢層的には比較的レンジは狭いです。

岡:授業のことを詳しく聞いてみようと思います。
ハーバードと言えばケースメソッド中心で大変というイメージがありますが、ご自身の経験をお教えください。

桑:私は、帰国子女ではなく26年間日本に住んで、初めて住んだ外国がボストンでした。しかも、ハーバードというアメリカ人でも大変な場所に入ってしまい、非常に苦労しました。ビジネススクールはすべての授業がケースメソッドです。そして、Kennedyはどちらかと言えばレクチャーがメインですね。レクチャーを聴いて、とにかく100ページ200ページ読んで、授業の最後にレポート20枚くらい提出というような形が普通です。Kennedyのほうは伝統的な普通の大学の講義のような印象です。

ビジネススクールはケーススタディがメインというお話しをしましたが、コンペティティブな面が多いということは否めません。発言が成績評価の半分を占めていて、且つ、相対評価ですので、クラスの下10%とか最下位の成績を取ると、退学させるかどうかという成績審査委員会というとこに飛ばされるという非常に怖い制度があります。アメリカ人学生も含め、1年間はこれに悩まされます。そうはなりたくないから、毎回発言をしたいと。日本人の場合、2回に1回は発言しないと厳しいので、しようと努力するのですが、何しろ90人も生徒がいるので難しいんです。流れとして、教授が教えるというよりは質問を投げかけて、それに対してどう思うかをすごいスピードで授業の流れを読みながら人と違う発言をしなければならない、授業は80分なんですが、ずっと他の人の意見を聞いて、違う意見を的確なタイミングで発言しなければならない、且つ教授からも当ててもらわなければなりません。まず前日にケースを完全に読み込み、自分が発言できるポイントを考えるのですが、自分が言いたいことを先に言われてしまったりすると、その先発言できることをひたすら考えながら授業を過ごすことになってしまいます。

日本人は授業で発言するということ自体に慣れていませんので、最初の3ヶ月くらいはとにかく大変でした。具体的には、週13ケースがあり、月水金が3ケースあります。ちなみにケースはハーバードビジネスパブリッシングというところでpdfファイルが一冊6ドルくらいでオンラインでも買えるようになっているので、興味がある方は調べてみると、様子がわかると思います。楽天・スイカ・新生銀行のケースなど日本人になじみの深いものもたくさんあります。

ビジネススクールでの一日のスケジュールは、毎朝7時半からスタディグループというのが一時間あるので、6時45分~50分頃に起床しまして、7時半に登校、スタディグループでディスカッションをして、8時40分から授業、午前中2ケースというのがだいたい午前中の流れです。昼食のときも次の午後の授業について考えます。この授業が2時40分に終わり、疲れきって帰った後1時間半くらい寝て、起きて夕食までまたケースを一本読み、夕食を食べてまたケースを一本読みます。もし自分に経験のないケースがあった場合、同級生の部屋に行ってポイントを聞いたりします。夜11時くらいに帰ったあともう一本ケースを読んで翌日のスタディグループ用にポイントをまとめてメールを送るのですが、それが終わるのが2時半くらい。そしてもう一度ケースを読み返して、だいたい3時くらいに寝て次の日はまた7時前に起きると・・・。最初の9ヶ月はそんな感じでした。週末もケースを読み続ける感じです。2年目になるとだいぶ楽になるのですが、最初の1年は評判のごとく、かなり非常に勉強しなければいけない状況でした。

Kennedyは、発言というのは少ないので、とにかくちゃんとした物が書ければ良いというということで、出来るかぎり読んでいくという感じです。またKennedyの場合、学部の授業が取れたり、MITの授業を取ったり、国際関係の授業を受けたりとか、オプションが多いですね。 ある一日の例をご紹介しますと、8時くらいに起床して、9時からイスラム教の授業でイスラム原理主義の歴史について学び、イラク戦争へのアプローチを考える授業を聞きます。その後、Kennedyに戻ってフードポリシーの授業を受け、ネスレがインドでどのような牛乳ビジネスをしたかということを学び、そのあとMITに行って、日本政治の授業を聞き、またKennedyに戻って、サハラ地域のリーダーシップの授業を聞くと・・・。20時に帰宅して、次の日の予習をしたりペーパーを書いたりする感じです。Kennedyのほうが自分でスケジュールをコントロールできる感じだと思います。

岡:両方伺っているとKennedyも相当タフな感じですね。ビジネススクールとKennedyの両方を経験して、毎日ハードな生活の中で学んだことを教えていただけますか。

桑:まず勉強のアプローチが非常に違うのですが、実際に起こったことを聞いて、ケースを考え、結末は言わないという、主人公の意思決定の場面をあなたならどうするか、を考える訓練をするのがケースメソッドの授業です。何かを学んで書くことで新しい発見をするというより、実践練習として、課目ごとに直面するであろう問題を取り出して、実戦的且つ、いろんな立場の視点に立って意思決定の訓練をする形です。実際に経験できないことを経験出来るものなので、辛いプロセスではあるのですが、多くのことを学んだと思います。また生徒それぞれの国籍も違いますし、90人もいますし、強制的に発言するプレッシャーを与えられる中で、アプローチを考えたりなど、クラスメートから学ぶ部分もとても多いです。ビジネス教育という意味で、これ以上のものは無いなと思いました。

ケネディの授業アプローチをお話する前に、私が、なんでKennedyに行ったかをお話します。以前から、日本人で世界に通用するリーダーが、特に外交、政治、国際機関といったところには、出てきづらい環境に在るなと感じていまして、自分としてビジョンを持ち自分の意見を主張できるようになりたいという気持ちが強くありました。例えばオバマさんと、議論が出来るのか、彼の持つ問題は何で、日本としてこういう貢献が出来るという提案が出来るのかと。それが出来るような人間になりたいと思った次第です。自分が何をしなければいけないか、政策の意思決定のプロセスはどうなっているのか。私の興味は、パブリックというよりポリティカルな部分が強いですが、Kennedyでは自分の興味に合わせた授業を取ることができます。そういう意味でKennedyスクールはフレキシビリティが高く自分にあっていたと思います。

授業の中には、Kennedyとビジネススクールとの合同授業もあります。成功例を分析したり、クラシックな理論を学ぶクラスもあります。来る学生も多様性があるし授業にも多様性があると思います。もちろんビジネススクールもですが、比べるとKennedyのほうが、より広いニーズに応えている面もあると思います。

◆Dual degreeの魅力

私はDual degreeで劇的に視野が広がったと思います。ビジネススクールでは出会えない人に会えましたし、もちろん逆もあって、ケネディだけではで会えない人にも出会えたことも。それぞれの立場で出会えたことが大きいと思います。

岡:Dual degreeの効果についてお話いただきましたが、もう少し踏み込んで伺いたいと思います。、2年/3年間の学習期間の違いはどんな事があるでしょうか?そもそもアメリカに住むという違いもあると思いますが、Dual degreeにして良かった点や自分の変化、物事の考え方の変化などについてお聞かせいただけますでしょうか。

桑:まず、問題意識として、今回の金融危機や地球温暖化など、世界的にパブリック・プライベート両方の視点から問題にアプローチすることが増えてきていると思います。そもそも、日本的な考え方で言えば、大学4年、大学院3年行って勉強して, 勉強期間が長い印象を受けると思うのですが、これだけ世の中の問題が複雑化する中で、これからの時代、必要な高等教育期間は延びてきていると思います。3年も学ぶのは長いと言われますが、私はそうは思いません。ようやくここに来て、ハーバードもJoint degreeに力を入れようとしているのはそういうことの表れなのではないかと思います。 今はまだ非常に人数は少ないですが、これから増えて行くのではないかなと思います。 これは体験するまでわからなかったのですが、こういう教育は必要だなと思うようになりました。

また、2年間と3年間の違いで一番大きいのは、自分のことを考えることのできる時間が持てることだと思います。ビジネススクールはとにかく忙しいんですね。夏休みなども、本来、自分の価値観を知るという時間だと思っているのですが、ビジネススクールはインターンなどであっという間に終わるんです。本当に、2年間は一瞬で終わります。 そういった中で、今年の夏は比較的、そもそも自分は何なんだろうという、アイデンティティを考える時間ができました。3年間にして、余裕というほどではないのですが、時間を自分のために使えたことが大きいです。 これだけ複雑化する世の中で、Kennedyは理想を追求しようとしていますので、言葉は青臭い感じですが、自分の方向性とかキャリアについて、日本としてどうしていくべきなんだろうと、ゆっくり考える時間が出来たのは良かったです。2年間だと逆に集中して出来たりもするのでしょうが、ゆっくり出来ることで、また違ってくると思います。

◆アメリカから見た日本 日本人として考えること

岡:これからあと1年間留学生活がありますが、留学前と今、桑島さんにとって、一番変わったもの、日本やアメリカについての見方の違いについてなど、お聞かせいただけますでしょうか。

桑:私の留学は、社会で学べることがあってから、それを踏み込んで学ぶために留学したということに絡んだ話になりますが、商社での数年間というものは、人間関係やビジネス、セールスのしくみなどの現実を学び、そして、上司を含め、グループの中で他人を知るということ、私は海外との接点がありましたので日本から見た外の世界、というものを学びました。それを数年間やって、留学して海外に出た今、日本て何なんだということを考えています。 海外に出て、比較対照を持つことで日本を見られるようになったというは大きな収穫だと思います。例えばアメリカのホワイトハウスでの意思決定方法を学んだら、今度は日本の場合はどうなんだという比較をしながら学ぶということです。 そして、会社に入ったらまずは他人を知るというプロセスでしたが、留学をしたら今度は自分を知るということになると思います。グループワークはありますが、会社とは違いますので、自分の殻を割るというプロセスがあります。また、アメリカの大学院の魅力は「今は大変だけど、みんなで考えて理想を追求して行こう」という環境にあると思います。日本にいると、自分の考えが上司に反論されてしまい、なかなか理想を追求することが出来ないこともあると思うんですね。留学期間というのは、自由に理想を追求できる時間という言い方もできると思います。

続いて、日本人としてアメリカに住むということについてですが、80年代90年代と違って、日本が注目されることは圧倒的に減ったと思います。日本としても、バブルの後始末に時間がかかり、ソ連の崩壊やら、仕組みの変化があったと思いますが、それに対して日本として新しいアイデンティティを出すというプロセスに時間がかかってしまったと思うんですね。 今は徐々に日本人として新たなあり方を少しずつ模索しているのが表に出始めて段階ではないかと思いますが、過去20年、日本はひたすら悩み続けていたように思います。もちろん日本人としての主張はありますが、全体的にはアメリカ人から見ても日本は何を考えているのか分からないと感じられていることが多いように思います。ビジネススクールでも日本関連のケースは減ってきているのですが、例えばカルロス・ゴーンが日産を立て直したケースがありまして、日本の特異な職場環境の中での彼の異文化のマネジメントといった視点で、日本が語られたりするわけです。日本人として情報を発信しなければいけないと思って、授業中に発言を試みたりしたのですが、なかなか理解されにくいもどかしさを感じました。

アメリカから見た日本というものは、ネガティブな面、ポジティブな面の両方がありますが、非常に危機的な状況である中で、日本人個人としての危機感をもっと持っていかなければならないと感じています。アメリカから見ていると日本人は、日本の中でなんとかやっていけばいいや、世界に出なくてもいいやと意識をもっているように感じてしまいますが、もし本当にそうであれば国際社会の中ではある意味特殊だと感じます。 必ずしも、喧伝されるほど中国人や韓国人の留学生が増えているとは思わなかったんですが、彼らは英語もうまいし、研究者は多いと感じました。今、中国が発展しているから、中国に目が行くというのもあるんですが、中国側からの非常にアグレッシブなアプローチもあるんですね。日本人一人一人の能力は高いと思いますし、決して引けをとるものでもないと思うのですが、単に自信を失っているだけだと思います。もう一度自信を取り戻して、どんどん発信していけばいいのではないかと思います。

◆今後の抱負とメッセージ

岡:最後に、今年3年目が残っていらっしゃいますが、今後の抱負と皆さんにメッセージをお願いします。

桑:抱負ですが、ハーバードでは伝統的に2年生が1年生に送るメッセージがあります。テクニカルな部分もあるんですが、そのメッセージの根幹は「すぐに使えるスキルを学ぶことも大事だが、それ以上に一生涯を通じての学びが在るLong Shelf Lifeの授業を重視するべきである。」というものです。それを受けて、人間の歴史というものに立ち返り、どうしたら日本に限らずこれからの世界の為に活かして行けるかということを、自分自身の中で、世界的に貧富の差も激しくなる中で、どうしたら社会全体として幸せになれるか、そのようなことを考えて行きたいです。たとえばビジネスヒストリーという授業がありまして、過去200年のグローバリゼーションの流れとそれに呼応した起業家の歴史とか、また去年のティーチングアワードを「現代金融システムの構築」という授業がとったのですが、やはり、世界を変えてゆくターニングポイントや、そのときどきのアプローチを考えてみたいなと。 もうちょっとテクニカルな部分では、日本の地方の疲弊を強く感じていて、それを変えたいなと思っているので、政治経済といった部分で勉強したい。また東アジアなどの安全保障についてなども勉強したいと思っています。

皆様へコメント。
これから、日本は終わる、と考えてる人が多いんですが、終わると思えば終わるし、よくなると思えばよくなると思います。アメリカ人のように、日本の強みというものを考えて、日本の歴史を紐解いてみると、明治維新とか、戦後の発展とか、チャレンジのなかでそれぞれビジョンをもって問題を克服してきた強みがあると思います。相当な無理難題に対して、普通出来ないよね、という意見の中で、引っ張ってきたリーダーがいる、というのが日本の強みと思うんです。昔も、今と同じように困難だったのです。共通するものは海外に出てたってことなんです。戦後何もないから外国に行ったとか、外国人はどう感じるか、どうやったら売れるかを考えてたわけです。果敢に企業家としてチャレンジしてきた人がいます。海外から全て学べるわけではありませんが、みんなで海外に行って、アプローチを考えて行くということが出来たら、日本が変わるし、希望が持てると思います。 そのためにも、Joint degreeというものは、非常に良いと思います。

パネリストプロフィール:
桑島 浩彰(くわじま ひろあき)氏
Harvard Kennedy School/Harvard Business School dual degreeプログラムに2007年から留学