MBA留学の意義と価値

去る4月 19 日(土)、MBA留学の意義と価値と題したイベントを開催いたしました。 当日は、当校社長の本多によるファシリテートの元、Cristina氏の基調講演でスタートしました。

「水泳選手としての経験から得たものとは?」

Cristina氏は、元世界レベルの水泳競技選手で、アメリカ代表として2回オリンピックに出場、メダル獲得経験があります(1回目は1996年のアトランタオリンピック(4x200m フリースタイル リレー)で金メダル、2回目は2000年のシドニーオリンピック(200m 個人メドレー)で銅メダルを獲得されました)。そんな輝かしい成績を残した彼女も、そこに至る迄の道は楽なものではありませんでした。

スピーチは彼女のこんな一言で始まりました。 「自分のオリンピック水泳選手としての経験から、人生で成功するための3つのTipsがあると思っています。それは、「パッションをもつこと」、「ゴールを設定すること」、「失敗を克服すること」です。

― パッション -

3歳で水泳を始めたCristina氏は、小さいころから「水」に特別な親近感を感じていました。彼女がまだ赤ちゃんだった頃、彼女が泣き出すとお母さんは彼女を手近な水に触れさせました。そうすると彼女が泣き止んだからです。

そんな水が大好きな彼女は、ご両親は全く水泳とは関係なかったにも関わらず、小さい頃から地元の水泳チームに所属し選手として泳いでいました。そして12歳の時、彼女のその後の運命を変える出来事が・・・オリンピックコーチであるJohn氏が地元の水泳チームを訪れ、Cristina氏の泳ぎに目を留めたのです。

― ゴール設定 -

若干12歳にして、Cristina氏はオリンピックチームに入りました。練習初日、彼女はとても緊張し、John氏から隠れるようにして泳いだそうです。そんな彼女に対してJohn氏はわざと名前を呼び間違えて声をかけ、彼女がそれを指摘するとこう言いました。

「君の名前がCindyだろうがCristinaだろうが、今の君なら僕には関係ないよ。君が結果を出したら名前を覚えるさ。君は小さな池の大きな魚のままでいたいのかい、Cindy?」

12歳の少女につきつけられたこのコーチの言葉は、「自分にとって水泳は何なのか」ということを彼女に考えさせました。自問自答を繰り返した結果、「自分はやっぱり水泳が大好きで、コーチからも認められたい」ことを自覚した彼女は、ここで初めて「オリンピック」という明確なゴールを意識したのです。

― 失敗、そして克服 -

それからというものオリンピックに向け全力で練習し、高校を卒業した18歳でアトランタオリンピックに出場するチャンスを獲得しましたが、喜びもつかの間、その興奮とプレッシャーから、Cristina氏はオリンピック直前の2週間のキャンプで7kgも体重を落としてしまいました。

アメリカ地元開催という状況も、彼女のプレッシャーをさらに重くしました。最初のレースの時、アメリカ国旗のついた帽子を被った彼女が入場すると、地元の2万人の観客は会場を揺るがすほどの歓声を送って彼女を迎えたのです。

プレッシャーに押しつぶされてしまったレースの結果は惨敗・・・そして結果を出せなかった彼女を、2万人の観客は冷たい沈黙で迎えました。

続く第2レースも同じような結果に終わってしまった彼女は、もう水泳をやめてしまおうかと思うほど落ち込んだそうです。そんな弱気な自分を叱咤し、最後のレースに向かう前日、彼女は何故自分がいままで結果を出せなかったのかについて考えました。

「落ち着いて考える過程で、自分の水泳に対するパッションと、厳しい練習を重ねてきた自分の泳ぎに対する自信を取り戻しました。また、自分は自分と周囲からのプレッシャーのあまり縮こまってしまい、オリンピックという場を楽しんでいないことに気づいたのです。」

自分を信じ、瞬間、瞬間を楽しむことを決意した彼女は、最後の女子自由形リレーレースに向かいながら意識的に笑顔をつくり、観客の歓声を楽しみ、オリンピックで泳げることを楽しもうと頭を切り替えました。

第三泳者のCristina氏が泳ぎ始めた時、アメリカチームは2位。「Cristina氏は今大会では全くいい結果をだせていません」とネガティブなコメントを付けていたテレビの解説者も、彼女がぐいぐいと追い上げ、とうとう1位の泳者を追い抜くに至っては、180度態度を変え大絶賛。そして、そのままアメリカチームは1位でゴールし金メダルを獲得したのです。

その時の金メダルを手に、彼女はこう締めくくりました。 「パッションを持つことは大事。それをどう伸ばしていくかはゴール設定次第。私の場合、コーチのJohnがそれを非常にうまく導いてくれた。そして、いくらパッションを持っていても失敗は避けて通れない。大事なのはいかに失敗を乗り越えるか。パッションがあり、目的があれば乗り越えられない失敗はないはず。みなさんも頑張ってください。」

「水泳選手からビジネスリーダーへの転身について」

競技選手としての多忙な生活の一方で、Cristina氏は2000年にコロンビア大学心理学部をディーンズリストの一人として卒業。 2001年に水泳選手を引退後は、ビジネスパーソンとしてのキャリアを模索し、5年間で5つの仕事を経験しました。そしてMBA進学を決意し、INSEADに入学、2007年卒業。現在はEFで北京オリンピックキャンペーンのプロジェクトマネージャとして活躍されています。

多くのトップアスリート達は、選手生活終了後、コメンテーターやコーチという仕事を選びます。Cristina氏は、なぜ、MBAを取得し、ビジネスの世界へ飛び込んだのでしょうか?彼女は、以下のように答えました。

「水泳引退後の5年間に5つの仕事を経験し、その中にはコーチという仕事も経験しましたが、自分が本当にしたいことではなかったことに気付いたのです。自分に何度も問いかけ、その中で見えた自分が本当にしたいこととは、”泳ぐこと”と”自分の会社を持つこと”でした。」

その夢を実現させるために進学したINSEAD MBA。そのキャリア担当者から「無駄な時間を過ごしたわね」と言われた5年間のキャリアも、彼女にとってはそうではありませんでした。

「その時に、『自分がしたいと思ったこと』を実践することは、今の自分に至るための非常に重要なステップでした。私にとっては5年間のキャリアは全て必要・必然であり、無駄な時間では全くありません。そして、他人がどう判断しようが、どんな過去でもそれを自分の強みとして捉えることは重要なことだと思います。」

試行錯誤を重ねながら現在に至ったCristina氏。彼女はどうやって自分が本当にしたいことを見つけたのでしょうか。

「自分はキャリアに迷う時はいつも、「好きなこと」「得意なこと」「きらいなこと」「得意でないこと」をそれぞれ書き出し、整理します。書き出すことで、自分の中の「はてな?」な部分がクリアになり、また、目標が具体的に見えてくるので、モチベーションもあがります。」

「また、人に自分の考えを話すことも重要です。アイデアは口に出すことによって磨きがかかり、より現実に近づけることができると思います。そこからの思いがけないネットワークも広がります。自分が実現したいことは積極的に人に話してみてください。」

「でも何より大事なのは、自分にもっともっと関心をもって、自分と対話し、本心を見つめること。これが本当に一番大事です。」

INSEADではMBAを取得した60%~70%の学生は、元々のキャリアゴールと違ったキャリアへ進み、8ヶ月以内に、最初の仕事をやめて転職しているそうです。その理由をCristina氏はこう分析しました。

「MBAを取得中は常に忙しく、コンサルティングやI Bankが一番、という周囲の雰囲気に流されてしまいがちになります。自分の本心と対話せず、雰囲気に流され就職した人が、卒業後初めて本心と向き合い、自分の本当にやりたいことに気づいて転職するのだと思います。」

「Pay a lot of attention to yourself」

これが、自分が求めるキャリア、そして自分の求める人生を送るための重要なカギになるようです。

英語での講演にも関わらず、とてもゆっくり話をしていただけたので、わかりやすく、また、心理学を専攻されていたこともあるのでしょうか、とても、人間の根本的な弱さやその克服方法についても触れていただきました。

Cristina氏のとても優しい、そして芯のある基調講演に、この場を借りてお礼申し上げます。 本当にありがとうございました

基調講演者 Cristina Teuscher氏
MBA INSEAD, 2007卒
BA Psychology, 2000, Columbia University卒
水泳選手として、2回連続オリンピック出場。
金メダル(1996年)と銅メダル(2000年)を獲得。
元オリンピック記録保持者
現EF北京オリンピックプロジェクトマネージャー  >>EFの詳細 

第2部は、当校会長である横山による進行の元、以下2名のMBA ホルダーの方々に留学体験談とMBA留学の意義をお話いただきました。

1人目は平谷 浩三氏、三井不動産株式会社から企業派遣でMBAを取得され、現在も同社で勤務の傍ら、労働組合の委員長もされています。大阪生まれの大阪育ち、英語嫌いで理科系に進み、不動産会社に就職されたという経歴の持ち主です。

MBA取得を決意されたきっかけは、入社4~5年目の際に、① 自らが蛸壺化していると感じたこと、②仕事のチームメンバーでMBAホルダーに出会い、MBAに漠然とした憧れを抱いたこと、③ 1999~2000年当時の不動産投資市場に、その当時資金力があった外資系が参入し始めて“グローバルスタンダード”という言葉で言われた“アメリカンスタンダード”が導入され始めた時期であり、今後の不動産投資市場を考える際にも米国で学ぶことが必要と感じたこと、がきっかけだったそうです。

2人目のパネリストの菅野 香織氏は、以前は電力会社で新規事業を担当していらっしゃいましたが、事業開発に必要な経営スキルに関する知識が足りず、結果として事業開発プロジェクトが成功しなかったことも多かったため、その解決策としてマネジメントを勉強したいという気持ちになり、会社派遣でMBA留学準備を進めていたそうです。その後、諸事情により会社を辞め、私費でMBA留学されました。現在は、KPMGで4年目になられます。

■MBA準備プロセスについて

菅(菅野氏) 平(平谷氏) 横(当校会長 横山)

菅:限られた時間で準備を進めなければならず物凄く辛かったですが、アゴス・ジャパンの受講生やコンサルタント、インストラクターを含め、たくさんの人的ネットワークを築けたことがとても有意義でした。

平:社費で行ったので、「今年しかない」というプレッシャーが相当強かったです。TOEFL(R)TESTやGMAT(R)のようなテクニック的なことと、今後やりたいことや、今までやってきたことの棚卸しが出来たことも有意義だったと記憶しています。予備校選びとしては、自らの相性の良い学校を、パートナーにして、自分で納得できるプロセスを踏んで行かれればよいと思います。そのパートナーは当然ですが、あまり多くない方がよいと思います。

横:「難しい、でも、できる」のがMBA留学準備。また、準備は高校野球ではなくて、プロ野球と同じ。高校野球は一回も負けることを許されないが、プロ野球は1回負けても次がある。ということは、メンタルが一番大事だということ。3日悩むんだったら、すぐ連絡ください!といつも受講生には言っています。

◇タイムマネージメントについて
平:計画通りには行かないことが当たり前だと思います。最後は、私の場合を含めて「気合」で乗り切る方が多かったと思います。時間どおりにいかなくても悩まないで、前に進むしかないのです。1ヶ月はずれても大丈夫な計画を立てるのが、精神衛生上の観点からもよいと思います。

◇学校選びについて
平:学校選択はそれぞれの価値観によるところが大きいので、あくまでも個人的な多少乱暴な意見ですが、就職活動をすることが第一義にとらえないのであれば、どの学校を選択してもそれほど大差はなく、どこにいっても有意義に感じられるのではないでしょうか。私の他校の友人は全員自らの学校に満足していました。プログラム、人数、生活環境等の観点で、自分の価値観に従って選んでください。

菅:自分はentrepreneurship(起業)に興味があったので、プログラム重視で受験校を選定しました。そして、キャンパスビジットで在校生、教授などに会い、「この学校に行きたい!」と思ったUCLAを最終的に選びました。皆さんにもそう思える学校を探し、行って頂きたいと思っています。

■MBAの意義について

平:まず、日本人留学生として出来ることを見せていかなければと思いました。その視点でClass、Team Contributionは勿論のことですが、それ以外に以下のことを行ないました。① サマーインターンとして戦略コンサルティングファームのニューヨークオフィスで働いたこと。コンサルというと、コミュニケーションがより一層重要なので、大きなチャレンジでとても大変でしたが、少なくとも、周囲に迷惑をかけずに乗り切れたことは、大きな成果でした。② 大学でJapan Tripを実施したこと。従前学校からのスポンサーシップがあったのですが、Class of 2002対象者のJapan Tripへは学校からのスポンサーがなくなり、オフィシャルなカリキュラムではなくなってしまいました。(=参加しても単位もつかない。)それでも、日本人留学生の有志で、単位がつかず負担も増加するが、日本を理解してもらうために一層魅力あるものにしてやろうという気持ちで準備を進めました。結果、スポンサーも数社見つけることができ、翌年オフィシャルなカリキュラムに復活させることが出来ました。 また、留学期間の2年間は、日常の会社業務からは解放された全て自分のために使える時間であり、自分は今まで何をしてきて、今後何をしたいのか、どのような人生にしたいのか、等をじっくりと考える時間が持てることができたこともとても有意義でした。

菅:卒業してみて、ビジネススクールとは知識を得る場というよりも、トレーニングの場であったことを実感しています。知識よりも、そこで叩き込まれたフレームワークを利用した課題への取り組み方や物事の考え方が、実務で自然に活用できるからです。留学前は、クラブ活動、イベント参加、海・・・等、2年間でやりたいことを山ほど考えていましたが、結果としては、勉強に追われ、やりたいことの全ては出来ませんでした。残念なことだとは思いますが、留学の主目的を勉強としていたため、後悔はしていません。

◇リーダーシップ、チームワークについて
平:「現場の仕事をよく理解した上でのリーダーシップ」を教えてくれるのがMITと思っております。自分はMITのリーダーシップの考え方が比較的好きで、是非、自分の“頭”と”心”で現場を理解していきたいと考えています。

菅:UCLAは”チームワーク”を大切にする学校です。相談すれば、教授やクラスメイトからアドミッションまで、みなさんサポートしてくれました。チームワークとは、TeamがWork(Function)するという意味だと思っています。学校も、学生に対するサポート体制が整っており、何かあったらすぐに相談できる環境はとても大切でした。

◇MBAの前後で変わったこと
菅:物事の重要性を定量的・定性的に考え、優先順位をまず考えてから行動するようになったことが大きいと思います。以前は、何に対しても自分が頑張らなきゃと片意地をはっていたところがありますが、ビジネススクールの期間を通じて、限られた時間の中で、全てが中途半端にならないようにプライオリティをつけられるようになりました。 また、チームワークに対しての考えも、「他人を信頼し、適切な役割分担を行い、各自がその役割を果たすことが最高の結果を出す。」という考えに変わりました。また、留学中は、勉強以外にあまり時間を割けず、コミュニティに貢献できませんでしたが、卒業後は、UCLA全体の(extentionを含む)同窓生の会の副会長をしていて、月1回はイベントを開いています。昨日も、20人ぐらいでワインテイスティングイベントを実施しました。留学後にもネットワークを広げられることは、留学の効果だと思いますし、コミュニティに貢献できることをうれしく思います。

◇社費の留学生の方へ
平: 社費でMBAに行かれる方・目指す方にお伝えしたいことがあります。MBAを社費で取得して、会社に戻ってきて「会社がやりたいことをさせてくれない」と言う人がいますが、それを「できるようにすることを期待されて」社費留学した訳なので、言ってはいけない言葉だと思っています。少なくとも、自分が選ばれたということは、選ばれなかった誰かがいること、それなりの覚悟をして社費に応募して欲しいです。もしも、MBA後の独立や転職を前提として留学を考えているなら、社費は辞退して欲しいと私は思います。

◇就職活動について
菅:自分は、今振り返ると、勢いで会社を辞めたような部分があるのですが、ある人から「留学資金と就職先は目処をつけてから、会社をやめなさい」とアドバイスを頂いたことに、とても感謝しています。MBAについては、日本市場は比較的恵まれていると思います。MBAホルダーというだけで話を聞いてくれる会社は多くなりますし、そこでどうアピールできるか次第です。ただし、業界によっては、MBAというものが何の意味も持たないことももちろんありますので、自分の進みたい業界に注意する必要があります。最後に、情報は多いに越したことはないので、色々な人の話を聞いたり、調べたりすることは勿論大事です。

◇現在の目標を聴かせてください
平:チームがワークするには、チームメイトが「やりたい!」と思うことが大事なので、この人が言うのだからやってみようと思わせるリーダーになることが今の目標です。仕事を通じて出会う人は、実に様々な考え方を持っています。そんな中で、「周囲がワークするために、何をしないでおくか」を考えるのも大事だと思っています。言い換えれば、いかに他人が自発的にやれる環境をつくれるかということでもあります。

菅:留学前から興味を持っている、事業開発にはこれからも関わっていきたいし、リスクマネジメントができる経営者があまりいないので、その分野で、貢献していきたいと考えています。また、これからはライフ・ワークバランスも大事にしていきたいです。

◇母校の一言アピール
菅:UCLAは人が温かいし、勉強の体制も整っています。でも、価値観は人それぞれなので、自分の価値観で学校を選んで欲しいと思います。留学準備には、「ずうずうしいぐらい」の積極性をもって、チャンスを生かして欲しいです。

平:MITは1学年300人程度の少数制なので、クラスメイトの中で知らない人はいないぐらいです。そこがいいところだと思っています。また、エンジニアリング関係のリソースがすごいところと、ボストンという町は、寒いけれど、とてもキレイな街です。最後は自分の価値観で選んでください。ここにきている皆様は、MBAを考え始めた状況ということですが、MBAということを現時点の有力な選択肢に入れることができているという点で、既にチャンスを掴んでいる、ある意味“ラッキー”な方々かと思います。是非、自分の信じることをやりきってください。

最後は、会長横山による