日本語に訳さない「with」(その1)– by 加藤

私が日本の大学2年生だった頃のお話です。

私がいた都市(国内)に、ある日、カナダからカルガリー・スタンピード・ショーバンドの一行がやってきました。メンバーはカナダの高校生や大学生、総勢約110名でした。

彼らは昼間に一日市内観光をバス数台で楽しみ、夜には、コンサートホールで自ら演奏会を行うというスケジュールでした。その日中の市内観光の際に、「にわか通訳ガイド」として駆り出されたのが、私たちESS(英語部)のメンバーたちでした。それぞれの観光バスには、バスガイドが一名と、その通訳として私たち学生が一名ずつ随行することになりました。つまり、バスガイドさんが日本語で観光案内していることを、私たちボランティアがマイクをもう一本持ってすべて英語に訳すという仕事です。

当時の私の英語力は決して高いとは言えず、冷や汗をかきながら、ガイドさんの説明の中でも特に大事そうな部分だけをまとめて英語に訳してはお茶を濁していました。バスがいよいよ最後の観光スポットに到着しました。ガイドさんが、「もうこのバスには戻ってきませんので、持ち物はすべてお持ちください」と言いましたので、私はたぶん次のような英語にしたのだろうと思います:

This is our final destination. Please *bring all your belongings.

上記の*の部分は間違いです。乗客たちはちょっと「?」のような反応でした。

そこで、近くに座っていた金髪で青い目の美人カナダ人女子高生が私に、

「『Take everything with you.』って言えばいいのよ♪」と親切に助け船を出してくれました。

すぐさま、私はマイクを通じて言い直したことは言うまでもありません。バスの乗客であるカナダ人たちは全員自分たちの荷物を無事持っていってくれて、ほっとしたものです。。。

それにしても、なんとも簡単な英単語(中学生レベル)の羅列にしかすぎない、「Take everything with you.」の一言だけで簡単に片が付くんだということが分かり、心地よいショックと感動を受けたのを、今でも鮮明に覚えています。

(※「その2」に続く。1週間後にアップ予定です。)

日本語に訳さない「on」(その2)– by 加藤

(※以下は、前回の私のブログ記事である『日本語に訳さない「on」 (その1)』の続き(完結編)です。)

さて、以前もこのブログに登場しましたが、私の米国大学院留学中の親友にStevenという米国人男性がいました。

この彼が、可愛い恋人に振られたばかりのころは、涙目(ホントに!)で次のように言っていました:

She dumped me.

「彼女は僕を(まるでゴミでも捨てるかのように)振ったんだ。」

dumpは「(ゴミなど不要なもの)を捨てる」が原義です。ダンプカーが不要な土砂を捨てているところをイメージしてみてください。「恋人を振る」という意味もあります。どちらにしろ、結構強烈(!)な表現ですね。

それから3,4カ月が経過して、大分気持ちも落ち着いてきたころには、もうちょっとマイルドな表現に変わりました:

(4)  She walked out on me.

「彼女は僕を見捨てた。(→ 彼女は僕を振ったんだ。)」

walk out onというイディオムで「(人)を見捨てる(= desert)、(人)の元を去る」という意味を載せている辞書もあります。プイっと怒って出ていく場面をイメージすると良いでしょう。どちらにしろこのonも、前回のブログ記事の例文(2),(3)と同様に、

「[不利益] 《口語》 (人)に向けられて、(人)の不利になるように」

の意味ですね。

以上のSteven(このブログでは2回目の登場)のこのお話も実話です。

「日本語に訳さない『on』」のお話でした。